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第一章

31.ジェニのプレゼントだから強力すぎても仕方ない

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 取り出したイヤーカフを光にかざして眺めていると、ノックの音が聞こえグロリアが返事をする前にドアが開いた。

「飯、持ってきたよ~」

 能天気仲間のセティがトレーを抱えて元気よく入ってきた。

「セティ、おはよう」

 イヤーカフをドレッサーに置いて振り返ったグロリアは、セティにもポーチが見えていないらしいと気付いて感心した。

(元神様にも見えないなら、いつでもどこでも絶対大丈夫だね)

「おはよう。今日は珍しく三つ編みにしてるんだね」

「うん、おかしいかな?」

「女の子の髪型とかよく分かんないけど良いんじゃないかな?」

 普段はハーフアップにしているが、今日はストレートの髪とウェーブのかかった髪が混在しているので後ろで一本の三つ編みにせざるを得なかった。

(髪をきっちり結ってしまうと、益々ぼんやりに見えちゃうんだよなぁ)

 アップにしてしまうと肌の白さが強調され、薄い色味の目に薄ピンクの唇がぼやっと滲んでいるように見える。

(地味なシルバーブロンドでもあった方が、少しは存在感が増えている気がしてたんだけど⋯⋯あんまり変わんないのかも)

 鏡に映っていた姿を思い出してため息をついた。


「あったかいうちにどうぞ~」

 机に料理を置いて給仕の真似をして頭を下げたセティが一瞬固まった後、恐る恐るドレッサーの方を向いて悲鳴を上げた。

「ぎゃあっ!! な、な、な! そっ、そっ」

 45度に腰を曲げた姿勢のまま、じわじわとドアの方に後退りして行くセティの目はドレッサーに釘付けになったまま。

「どうしたの?」

「そ、それどうしたの? ってか、ロキだよね。そんなもん持ってくるのってロキくらいだよね」

「あ、うん。昨夜借りた? 貰った? みたいな」

 グロリアがドレッサーの上に置いていたイヤーカフを手に乗せると、セティが『ひいっ!』と悲鳴を上げた。

「か、借りたにした方が良いかなぁ。いや、グロリアくらい能天気なら大丈夫か。今も平気だし」

「このイヤーカフって普通と違うの?」

「⋯⋯ロキが持ってた物に普通なんて絶対にあり得ないよ。
ロキはさ、昔からドヴェルグのとこに行ってはあれこれ作らせてたんだ。
あ、ドヴェルグって小人の妖精族でスヴァルトアールヴの一種だから結構タチが悪い奴らね。
天才的な鍛冶師でさ、神々が持っている武器や財宝のほとんどは奴等が作ったんだけど、それを作らせたのがロキなわけ。
オーディンの『グングニル』に、トールの『ミョルニル』
携帯できる船の『スキーズブラズニル』や、猪の『グッリンブルスティやヒルディスヴィーニ』
まあ、他にもいっぱいあって数え切れないくらいなんだけど、神々に渡したもの以外にも色々持ってるんじゃないかって言われてたんだ。
グロリアが持ってる指輪もそのイヤーカフも間違いなくドヴェルグの作品だね」

 セティは羨ましくはないらしく身体が後ろに反り返り、少しでも離れようとしているように見えた。


「効果って見たら分かるの?」

「そりゃ分かるさ、これでも元司法神だもん。例の指輪は強力な防御で、山が落ちてきても擦り傷ひとつしないんじゃないかな。
んで、そのイヤーカフは⋯⋯その⋯⋯グロリアが望んだらいつでもロキを呼び出せる。って、どんだけ執着してんだよ。信じらんない」

「望むってどうやって?」

「うーん、『来い』とか? 『会いたい』でもいいし」

「まるで、召喚するみたい」

「そ、まさにその通りでっす! フェンリル達3匹も呼べば来るよ」

「すご! そんな物、なくしたら大変じゃない」

「グロリアを所有者登録してあるみたいだから大丈夫だよ。なくしたら戻ってくるし、他の奴が使ったらイヤーカフから反撃されるな。
なんかもう⋯⋯ロキが神々に渡した神器がしょぼく思えてきた」

 漸くセティが怯えている理由が分かった。もしイヤーカフに触れていた時にロキ達のことを考えたら反撃されるからという事だろう。

(あんなに怯えるくらい反撃されるってことね)

「ピアスもあるんだけど、それも見てくれる?」

「ひいっ! ど、どうしよう。見たくない、でも見といた方が⋯⋯いや、もう心臓がもたないかも⋯⋯でも、突然目の前に出てくるより心の準備しとける?」

 セティの脳内会議がダダ漏れになっていた。



「は、離れて。そうだ、うんと遠目で確認しよう」

 部屋の隅までピュッと移動したセティが直立不動で壁に張り付いた。

「どど、どうじょ」

(あ、噛んだ)

 イヤーカフをポーチに片付けてからピアスを取り出して掌に乗せた。

「コレなんだけど」

「今どこから出し⋯⋯いや、気にしない。僕はなんにも見てないからね!
そ、そのピアス⋯⋯ ドヴェルグの作った通信機じゃん! も~、どうなってんの、信じらんないよ」

「そんなに驚かなくても、通信用の魔導具なら今世にもあるよね」

 通信機ならそれ程怯える必要はないのではないかと首を傾げたグロリアに向かって、セティがブンブンと首を振った。

「そいつは、どこにいようが相手が誰だろうが通信できるし、話してる相手のとこに転移もできる。イヤーカフとピアスは2つセットの魔導具だよ」

「えーっと、相手が持ってなくても話せるし会えるって事?」

 現在出回っている物は双方が通信機を持った上で、あらかじめ相手の魔力を登録しておかなければ使えないし、勿論転移など出来ない。

「強制的に相手の脳内に声を届けるし、向こうの声も聞こえる。僕の知る限りじゃあそんなものが作れるドヴェルグはもういない筈だよ」

「⋯⋯ふーん、キラキラさんと話してる時みたいな感じかな。頭の中で考えていた事が全部相手にダダ漏れになっていた、アレ」

「そう、神は相手に心を読まれないよう防御してるけど、人間はそんなことできないから簡単に読めるんだ」

「えーっと、神様の心の声⋯⋯読めたよ?」

「へ?」



「ヘズさんだっけ? 頭の中でクソ女って呼んだりヘルヘイムに落としてやるって言ってたりしてたのが聞こえてた」

「⋯⋯えーっとですね。その時ピアスはお持ちではなかったと」

 動揺し過ぎてセティの話し方が敬語になったり元に戻ったりとおかしくなっている。

「うん」

「⋯⋯僕の心の声も聞こえてたり?」

「そう言えばあの時以外では聞こえたことないなぁ」


「⋯⋯つまり、不完全な最強かつ最悪の能力保持者ってこと? 発動条件は不明で父様達の防御でさえあっさり破った?
たかが人間にそんな悪質で不敬なことをする奴がいるなんて聞いた事ないしあり得ない。
はっ! もしかしてグロリアは神に敵対する存在とか? だとしたら父様の慈悲で授けられた加護なんて取り上げなくちゃ!
ルーン魔術の勉強を禁止させる方法は⋯⋯ブツブツ⋯⋯そんな危険な人間にあんな魔導具を持たせたらヤバすぎじゃん。
あー、だからロキみたいな最低野郎と親しいって事?
それよりも、今後いつ何時心の声を暴かれるかが一番の問題だよ~」

 独り言にしては大き過ぎる声で呟きダダ漏れしまくっている間抜けなセティは、心の声を暴かなくてもバレている事にまだ気づいていない。

(まあ、分かってたけどね。心の声が聞こえたってだけでここまで言うのって凄くない? それにしても、セティってパニックになるといつもこうなるよね~。素直なのかお間抜けなのか、元司法神として大丈夫なのか心配になるレベルだよ)

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