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第一章
20.命名、キラキラへっぽこ神
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グロリアの目標は生活費を稼げるくらいになってこの家を出る事。
ルーン魔術は失われた魔術と言われているが、調べてみると占い師や呪術師の中のごく少数がルーン魔術や占いを行っているのが分かった。
(占い師と呪術師かぁ⋯⋯それっぽい雰囲気で『あなたの未来は⋯⋯』とか、『願いを叶えて差し上げましょう』とか言うのかなあ。うーん、私にはちょっと無理かも。
それよりも売られてる護符の種類や金額を調べて⋯⋯それを作って生活できるってなるのがベストだよね)
そう思って期待していたのだが⋯⋯。
グロリアが勉強しているのは古フサルクと呼ばれる25文字のルーン文字を使うもので、今世にいる占い師と呪術師が使っているのは新フサルクと呼ばれる文字数の違うものやアルファベットを使うものだった。
懸命に勉強しているグロリアが護符を作ることができるようになっても、それらは販売や公表ができないものが多いらしい。
『護符で生活費を稼ぐとしたら、古フサルクと新フサルクの違いをどうやって誤魔化すのかが最大の問題になる。
古フサルクの研究者の目に留まったら拉致監禁されるのは間違い無いぜ?』
『新フサルクの勉強も並行してやればいいって事?』
『できると思うか?』
『うっ! 無理』
古フサルクだけでも手を焼いている今、新フサルクに手を出したら混乱するだけな気がした。
(中途半端な知識は危険すぎるし、新旧の違いを覚えるって想像しただけで眩暈がしそうだよ。古フサルクだけでも1個の文字に意味がいっぱいあって組み合わせると意味が変わって⋯⋯もう、マジ泣きそうなのに。
人生を楽にさせるプレゼントって言ってたはずなのに、キラキラへっぽこ神って改名してやるからね!)
グロリアが妥協案として考えつく事ができたのは、他の者達の作る護符とあまり差のない威力で見た目も違和感を感じさせない護符を考案することくらい⋯⋯あまりにも高等技術すぎて現実味がない。
(このままの護符だと魔女だって言われて迫害される可能性があるとか⋯⋯それは困る。地味でいいから天寿をまっとうしたいもんね)
『失われたのは古フサルクを使ったルーン魔術、ソイツは他のとは比べ物にならん威力があるんだ。書き損じも含めて管理はしっかりしとけよ』
ジェニが言う横で3匹とセティも頷いていた。部屋でグロリアが勉強している時、何気なく覗き込んだセティが顔を引き攣らせて飛び上がったのを見た事がある。
(アレはヤバいものだったって事よね。しばらくセティが近寄らなくなったから、集中して勉強ができたんだっけ)
食と住以外にはそれ程与えてもらっていない今の生活はグロリアにとって都合がいい。普通の貴族令嬢なら考えなくてはならない『ノブレスオブリュージュ』のランクが下がるから。
(一応お世話になった分何かお返しをしようとは思ってるけどね)
明日は朝から王立図書館に行って媒体に使う石の情報収集と、今も使われているルーン占いや魔術について調べるつもりでいる。
明日の荷物を確認したグロリアは早々に寝支度を済ませてベッドに潜り込むと、鞄の中で『ゲニウスの本(ゲニウスに貰った本の意味)』と名付けられた古書が静かにぼんやりと光を放った。
翌日、玄関先でジェイソンを見つけたグロリアが声をかけた。
「ジェイソン、今日羊皮紙を買いたいのだけど、お父様にお聞きしてくれるかしら?」
「⋯⋯はい」
無表情で踵を返したジェイソンの後ろ姿に『こっちは忙しいんだぞ、前もって聞いとけよ』と書かれるようになったのはいつの頃からだろう。
以前はそう思われるのが当然だと思っていたのよねぇと苦笑いを浮かべたグロリアは小さな溜息を飲み込んだ。
暫く玄関ホールで待っているとジェイソンが戻ってきた。
「あまり量が多くなければ良いそうです。それから上質で高価な物はお控えください」
「分かったわ、忙しいのに聞いてきてくれてありがとう」
グロリアの笑顔とお礼の言葉にギョッとしたように目を見開いたジェイソンは、ゴホンと咳払いした後で数枚の銀貨をグロリアの手に乗せた。
「行ってきます、帰りは夕方になるのでいつも通り辻馬車を拾うわね」
「お待ち下さい。旦那様からのご指示で、今日から従者をつけます。今後はお一人では出歩かれませんように」
「そうなの? 分かったわ。帰りは辻馬車で良いのよね?」
「はい、何時に帰られるかかわからないのでは馬車の準備ができませんので」
にっこりと笑ったグロリアが元気よく玄関のドアを開けて外に出た。
グロリアが乗る馬車の横には口を尖らせて腕を組んだセティが待っていた。
「今日はセティが一緒に行くのね」
「侍女もつけずに王都をウロウロするのは外聞が悪いそうで、侍女の代わりに僕が行けと言われました」
グロリアの後に続いてセティが乗り馬車が動きはじめると大袈裟なため息が一つ。
しばらく知らん顔をしていたが、あからさまに不満そうな顔をしたままのセティに申し訳なくなったグロリアがポケットから飴を取り出した。
「お礼に⋯⋯ジェニから貰った特別製」
「⋯⋯何で僕が下男なんですかね、下男って超忙しいんですよ。しかも今度はメイド役ですしねえ」
「女装する?」
グロリア会心のギャグはセティの一睨みで不発に終わった。
「トールじゃあるまいし」
(トール、トール、トール? どっかで聞いたような)
グロリアが首を傾げているとセティが投げやりな口調で答えてくれた。
「トールは戦神とか雷神とか言われてる最強の脳筋。自分の武器を盗まれた時それを取り戻す為だけに女装したヤバい奴です。ヨルムガンドと戦いましたね」
「あっ、そうだ。確かヨルムガンドと相打ちになった神で、珍しく良い人⋯⋯良い神様っぽい」
下男は使用人奉公をはじめたばかりの少年や臨時雇いの農夫がなり、雑用全般を一手に引き受ける。掃除や皿洗いが主な仕事だが厩舎から呼ばれて手伝うこともある。高名な司法神のセティには雑巾を持って屋敷を走り回る生活は我慢ならないのだろう。
大きなそぶりで肩をすくめたセティの横にジェニが突然現れた。
ルーン魔術は失われた魔術と言われているが、調べてみると占い師や呪術師の中のごく少数がルーン魔術や占いを行っているのが分かった。
(占い師と呪術師かぁ⋯⋯それっぽい雰囲気で『あなたの未来は⋯⋯』とか、『願いを叶えて差し上げましょう』とか言うのかなあ。うーん、私にはちょっと無理かも。
それよりも売られてる護符の種類や金額を調べて⋯⋯それを作って生活できるってなるのがベストだよね)
そう思って期待していたのだが⋯⋯。
グロリアが勉強しているのは古フサルクと呼ばれる25文字のルーン文字を使うもので、今世にいる占い師と呪術師が使っているのは新フサルクと呼ばれる文字数の違うものやアルファベットを使うものだった。
懸命に勉強しているグロリアが護符を作ることができるようになっても、それらは販売や公表ができないものが多いらしい。
『護符で生活費を稼ぐとしたら、古フサルクと新フサルクの違いをどうやって誤魔化すのかが最大の問題になる。
古フサルクの研究者の目に留まったら拉致監禁されるのは間違い無いぜ?』
『新フサルクの勉強も並行してやればいいって事?』
『できると思うか?』
『うっ! 無理』
古フサルクだけでも手を焼いている今、新フサルクに手を出したら混乱するだけな気がした。
(中途半端な知識は危険すぎるし、新旧の違いを覚えるって想像しただけで眩暈がしそうだよ。古フサルクだけでも1個の文字に意味がいっぱいあって組み合わせると意味が変わって⋯⋯もう、マジ泣きそうなのに。
人生を楽にさせるプレゼントって言ってたはずなのに、キラキラへっぽこ神って改名してやるからね!)
グロリアが妥協案として考えつく事ができたのは、他の者達の作る護符とあまり差のない威力で見た目も違和感を感じさせない護符を考案することくらい⋯⋯あまりにも高等技術すぎて現実味がない。
(このままの護符だと魔女だって言われて迫害される可能性があるとか⋯⋯それは困る。地味でいいから天寿をまっとうしたいもんね)
『失われたのは古フサルクを使ったルーン魔術、ソイツは他のとは比べ物にならん威力があるんだ。書き損じも含めて管理はしっかりしとけよ』
ジェニが言う横で3匹とセティも頷いていた。部屋でグロリアが勉強している時、何気なく覗き込んだセティが顔を引き攣らせて飛び上がったのを見た事がある。
(アレはヤバいものだったって事よね。しばらくセティが近寄らなくなったから、集中して勉強ができたんだっけ)
食と住以外にはそれ程与えてもらっていない今の生活はグロリアにとって都合がいい。普通の貴族令嬢なら考えなくてはならない『ノブレスオブリュージュ』のランクが下がるから。
(一応お世話になった分何かお返しをしようとは思ってるけどね)
明日は朝から王立図書館に行って媒体に使う石の情報収集と、今も使われているルーン占いや魔術について調べるつもりでいる。
明日の荷物を確認したグロリアは早々に寝支度を済ませてベッドに潜り込むと、鞄の中で『ゲニウスの本(ゲニウスに貰った本の意味)』と名付けられた古書が静かにぼんやりと光を放った。
翌日、玄関先でジェイソンを見つけたグロリアが声をかけた。
「ジェイソン、今日羊皮紙を買いたいのだけど、お父様にお聞きしてくれるかしら?」
「⋯⋯はい」
無表情で踵を返したジェイソンの後ろ姿に『こっちは忙しいんだぞ、前もって聞いとけよ』と書かれるようになったのはいつの頃からだろう。
以前はそう思われるのが当然だと思っていたのよねぇと苦笑いを浮かべたグロリアは小さな溜息を飲み込んだ。
暫く玄関ホールで待っているとジェイソンが戻ってきた。
「あまり量が多くなければ良いそうです。それから上質で高価な物はお控えください」
「分かったわ、忙しいのに聞いてきてくれてありがとう」
グロリアの笑顔とお礼の言葉にギョッとしたように目を見開いたジェイソンは、ゴホンと咳払いした後で数枚の銀貨をグロリアの手に乗せた。
「行ってきます、帰りは夕方になるのでいつも通り辻馬車を拾うわね」
「お待ち下さい。旦那様からのご指示で、今日から従者をつけます。今後はお一人では出歩かれませんように」
「そうなの? 分かったわ。帰りは辻馬車で良いのよね?」
「はい、何時に帰られるかかわからないのでは馬車の準備ができませんので」
にっこりと笑ったグロリアが元気よく玄関のドアを開けて外に出た。
グロリアが乗る馬車の横には口を尖らせて腕を組んだセティが待っていた。
「今日はセティが一緒に行くのね」
「侍女もつけずに王都をウロウロするのは外聞が悪いそうで、侍女の代わりに僕が行けと言われました」
グロリアの後に続いてセティが乗り馬車が動きはじめると大袈裟なため息が一つ。
しばらく知らん顔をしていたが、あからさまに不満そうな顔をしたままのセティに申し訳なくなったグロリアがポケットから飴を取り出した。
「お礼に⋯⋯ジェニから貰った特別製」
「⋯⋯何で僕が下男なんですかね、下男って超忙しいんですよ。しかも今度はメイド役ですしねえ」
「女装する?」
グロリア会心のギャグはセティの一睨みで不発に終わった。
「トールじゃあるまいし」
(トール、トール、トール? どっかで聞いたような)
グロリアが首を傾げているとセティが投げやりな口調で答えてくれた。
「トールは戦神とか雷神とか言われてる最強の脳筋。自分の武器を盗まれた時それを取り戻す為だけに女装したヤバい奴です。ヨルムガンドと戦いましたね」
「あっ、そうだ。確かヨルムガンドと相打ちになった神で、珍しく良い人⋯⋯良い神様っぽい」
下男は使用人奉公をはじめたばかりの少年や臨時雇いの農夫がなり、雑用全般を一手に引き受ける。掃除や皿洗いが主な仕事だが厩舎から呼ばれて手伝うこともある。高名な司法神のセティには雑巾を持って屋敷を走り回る生活は我慢ならないのだろう。
大きなそぶりで肩をすくめたセティの横にジェニが突然現れた。
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