前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第一章

18.脳内成長期はいつか来るはず

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「あ、あう。それは⋯⋯」

「母ちゃんのプレゼントで息子が罪のない人間を攻撃したって父ちゃんに教えたら、母ちゃんめっさ叱られんだろうなぁ。あー、かわいそー。
嫁と息子のやらかしを聞いた父ちゃんからキラキラが減るかもなー」

「ごめ、ごめんなさい!! 父様には言わないで」

「なら~、文句言わずに~どうするんだぁ?」

「⋯⋯はい、働きます」

「はい? あー、なんかよく聞こえんかったわ。もっかい言ってくんね?」

「⋯⋯はた、働かせて下さい」

 力なく倒れ伏したフォルセティの上からニマニマ笑うジェニが漸く足を退けた。

「ジェニ、それじゃあまるでヤ○ザとか取り立て屋みたいだよ。協力してくださいって普通に頼もうよ」

「ついさっき魔法で攻撃された奴が、なに呑気なこと言ってんだよ。指輪が発動してなけりゃ死んでたんだぜ?」

「や、やっぱし? さっきのは大袈裟に言ったつもりだったんだけど」

 漸く指輪の秘密を知ったグロリア。

「大マジで」

「⋯⋯⋯⋯ちびっ子! 今度『オイタ』したらタダじゃおかないわよ! えっと、えっと⋯⋯お尻ぺんぺんの刑だからね!!」

【わあ、懐かし~。僕も昔言われたよ!】

【グロリアのぺんぺんは痛くねえんだよ。俺っちは平気な顔してんのに、グロリアが涙浮かべててさ。その顔見るのが辛かったもんねえ】

【脳内成長期が早く来ると良いがのう】




 この日からフォルセティは『セティ』と言う名前の下男として雇われることになった。

 セティは仕事をしながらグロリアの家族や使用人達の動向を真面目にチェックし、ジェニとグロリアに報告してくれる。

 ヴァンがグロリアの側にいても家族は全く気付かず使用人達も普段通りだが、身近に仲間が増えるのは心強い。

 勉強が順調なのは非常に協力的な『本』がどこに書いてあるかわからない事があると、勝手にパラパラとページが捲れてくれるから。

(凄い、Wikiなんとかさんみたい)



 人間界で暮らすのは初めてだと言うセティは元司法神として色々な事が気になるらしい。

「なあ、今日も3人で出かけたんだよ、家族を一人だけ放置とかおかしくない?」

「これでも魔法が使えない人の中では高待遇なの。それに、あの人達は家族じゃなくて家主? 大家さん? だからこのままでいいの」


「なあ、魔力を譲渡するって⋯⋯本人の許可なく勝手に決めるのっておかしくない?」

「そういう世界らしいよ」


「なあ、見た目8歳の少女が一人で辻馬車に乗るのっておかしくない?」

「問題は起きてないからいいんじゃないかな。近くにヴァンがいてくれるし」



 グロリアの毎日は非常に単純で、自分の事は自分でやり食事が食べたければ食堂に行く。

「行かなかったら持ってくるの?」

「ううん、行かなかったらなしだよ」

 家庭教師が週に2回来るようになったが、貴族のマナーと学園の入学試験対策の勉強があるのみ。それ以外のフリータイムは部屋に篭ってルーン魔術の勉強をしたり、王立図書館に行ったりしている。

 家庭内で透明人間化しているグロリアはせっせとルーン魔術の勉強に精を出し、ジェニがくれた赤いインクの出る特殊なペンを使って一文字の護符タリスマンを練習していた。

「正確に書くのだけじゃダメなのよね~、術を発動させる為にはこ⋯⋯」

「下手くそだなぁ」

 ぶつぶつと独り言を言うグロリアの後ろからセティが顔を覗かせた。

「セティ、煩い。気が散るからあっち行ってて」




 フノーラの誕生日パーティーの2ヶ月後、久しぶりにシグルドがやって来た。

「お久しぶりです」

「⋯⋯はぁ、相変わらずぼんやりした顔だなぁ。こんなのが僕の婚約者になるとか、恥ずかしくて外を歩けなくなりそうだよ」

 不快感を顔に出さないように気をつけながらカーテシーをしたグロリアだったが、シグルドの一言で眉間に皺を寄せた。

(何この人! 挨拶もなしにディスってきた。流石、飛偉梠の生まれ変わりだよ)


 その後、侯爵家と自分の自慢話を滔々と喋り続けるシグルドはグロリアの方を向いてさえいなかった。

「うちはさぁ⋯⋯」
「僕は君なんかと違って⋯⋯」

 自慢話が底をついたらしく⋯⋯。

「なんで目の前にいるのがフノーラ嬢じゃないんだろう」

(そりゃ、アンタの魔力がしょぼいからでしょ)

「我が侯爵家ならフノーラ嬢の方がよっぽど相応しいのに」

(侯爵家に相応しくてもアンタには相応しくないって思われてるんだよ!)

「父上に話してみようかなぁ。婚約者はフノーラ嬢にして⋯⋯お前は下働きで雇ってやれば十分だろ?」

 ニヤニヤと下品に笑うシグルドはソファにふんぞり返って足を組んでいるが小物感満載過ぎて全然似合っていない。

(疲れる⋯⋯ルーン魔術の勉強の方がよっぽど楽、フノーラがそんなに気になるんならそっちに行っちゃえば?
嫌いな人が側にこなくなるバインドルーンとか考えよう)

 延々と続く自慢を聞き流しながらグロリアが別のことを考えているとシグルドからダメ出しが入った。

「ちゃんと僕の話聞いてるの?」

(さっきも同じこと言ってたって知ってまーす)

「勿論です。剣術は奥が深いのだと興味深く聞いておりました」

「それならいいんけど、この程度のことも理解できてないんだったら話にならないからね」

(5歳児でも理解できるわよ、そんな話なんて)

「はい」


 興味のない話に対してちょうど良いタイミングを見計らって相槌を打つのは大変だと勉強したグロリアだった。

 初めて会った時は父親の横でとても礼儀正しく挨拶したシグルドだったが、予想通り大人の前でだけ猫をかぶっていたのが判明した。

(ほんとに、飛偉梠の時と性格変わってないなぁ。自分大好き人間で勝手な奴。自慢話だって超嘘臭いし)

 苦行の2時間を過ごしてシグルドを見送った時には『二度と来るな、ボケ!』と、心の中で叫んだ。
 部屋に戻っても何もする元気もなくベッドに倒れ込んだ。

【あれくらいのこと、本人に言えば良かろうに】

「そうはいかないから面倒なのよ」

 弱気な口調で呟いたグロリアはチラリとヴァンの様子を窺った。

【⋯⋯駄目じゃ】

「えー、ほらヨレヨレに疲れてて可哀想だと思うでしょ~」

【イオルかマーナを呼べば良かろう】

「それはそれ、これはこれって⋯⋯ねっ?」

【⋯⋯はぁ、我にそのような事を強請るのはグロリアくらいじゃ】

 ヴァンが諦めたのがわかったグロリアはベッドから飛び起きてヴァンにしがみついた。

「はあ、癒される~。モフモフっとしてるけどこの辺はちょっと硬くて⋯⋯そ、ここ! ここがフワフワでたまんないの~。あーもー、幸せ~」

 身を捩るヴァンに覆い被さるようにしてモフモフを堪能するグロリア。

【ぐっ! く、くすぐ⋯⋯も、もう終いじゃ。よっ、よせ! そこは無理、くすぐったい⋯⋯ぎゃはっ】



「最強魔獣のへそ天⋯⋯マジすげぇ」

 いつの間にかやってきていたセティが床を転げ回るグロリアとヴァンを見て目を丸くした。

「人によっちゃフェンリルは神獣だって言うってのに、それが⋯⋯形無しだね」



 その日の夜、食事の最中に珍しく父親が話しかけてきた。

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