前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第一章

13.真面な人や尊敬できそうな神に会いたい今日この頃

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 パラパラと本を捲りながら暗い顔でため息をついたグロリアの背中をジェニが叩いた。

「そんな暗い顔すんなって。ルーン魔術のマニアもこっちに転生して来ててな、ソイツが記憶を取り戻せばグロリアと同じ古フサルクが理解できるようになる。
どうにもならなきゃ奴に声をかけてくるし。
あ、それと護符を試す時ルーン杖ってのがいるんだけどよ。とりあえずこれを使っとけ」

(奴に会うまでは平和だったとかなるかもだから、出来れば奴には関わらねえ方がいいっちゃ良いんだけど⋯⋯)

 ジェニがグロリアに押しつけたのはダガーを倍くらいの長さにしたような不思議な剣。装飾は少なく青い色をした全体と柄に埋め込まれた金とエメラルドが鈍く光っている。

「⋯⋯光る剣ってヤバそう。これってジェニの大切な物でしょ?」

「あー、いやあ。そいつの持ち主が忘れてったのを拾ったんだよな~。んで、取りに来るまで預かってる感じ? 自分で作れるようになるまで使っときゃいいよ。剣の名前はホヴズな」

「ええ! も、持ち主いるなら勝手に使っちゃダメじゃん」

「いいって、そいつはこの剣のこと忘れてやんの。だから、今持ってってやっても分かんねえもん」

「⋯⋯今度は忘れん坊の神様かぁ。名前までついてる剣なんてかなり特別な物だよね。それを忘れちゃうとか」

 パサリとテーブルに本を置いたグロリアは『はぁ』と溜息をついて空を見上げた。

「真面な人とか『素晴らしい!』って言って尊敬できる神様に会いたいなあ」



 大きな鹿肉を食べ終えたイオルはドリアンを取り出しかけてヴァンとマーナからダメ出しを喰らっていた。

【(イジワル~! 鼻をつまんで食べたら美味しいのにぃ)⋯⋯ヘイムダルはね、すっご~く無愛想なんだけどぉ、ルーンの事になるとお喋りが止まんないから面倒なんだよね~。超しつこいの】

「⋯⋯⋯⋯もしかしてそのヘイムダルって人か神様がジェニの言ってたルーン魔術マニア?」

【そだよー、ホヴズの持ち主だしねー。俺っちさぁ、アイツ超苦手ぇ。近くで内緒話もできないし、特技が見張りなんだもん!】

 甘党のマーナは口の周りをクリームだらけにしたまま不穏な言葉を口にした。

(ヘイムダルって無口で無愛想なルーンオタクで、耳聡い警備員か諜報専門のスパイ⋯⋯ぜーったい会いたくない人のトップ3くらいに入るかも)

【ジェニの宿敵の一柱じゃのぉ】

「えーっ、別に敵じゃねえし? めんどくさい奴だとは思ってるけどよお、話しかけてこなきゃいい奴だと思ってるぜ」

(それ、ウザいって思ってると言うか、嫌ってるって事だよね!)

 聞けば聞くほど独学が魅力的に思えてきたグロリアは両手の中にあるホヴズをそっとテーブルの端に置いた。

(ヘイムダル関連の物とは関わらない方が良さそう)



 ジェニと3匹が話すヘイムダルの逸話を聞きながらふとテーブルの上の本を見たグロリアは勢いよく立ち上がった。

(な、なに、なに、なに! 厚さが変わってる?⋯⋯ええっ? な、なんで!?
いやいやいやいや、私は何も見てない、ほ、本は膨れたりしないもん⋯⋯これ以上の新情報は無理!!)

 青褪めて後退りしたグロリアはしゃがみ込んで頭を抱えた。

(大丈夫、大丈夫。幻覚か勘違いで、元々このサイズだった⋯⋯⋯⋯サイズ⋯⋯あーもー無理だよお)

 抱え込んだ頭をふり一人でアワアワとするグロリアを見ても、何が起きたのか分からないジェニと3匹はキョトンとした顔で首を傾げた。

 ガバッと立ち上がったグロリアはジェニの後ろに回り込み指をガシッと掴んで、元の3倍くらいまで膨らんだ本をツンツンと突かせた。

「ひえっ! ち、縮んだぁ!!」

「関心を向けろってか? 自己顕示欲の塊のクソ野郎らしい魔術だな」

「大きくなったり縮んだりしたのにジェニ達は驚かないの?
こ、この本ってあとどのくらい⋯⋯今みたいな⋯⋯ヘン、ヘンテコなことが起きるか知ってる?」

「いや、知らねえな。今まではただの古い本にしか見えんかったし、俺が開いてもバラバラの文字があるだけで文章として読めるとこは殆どなかったんだ。
多分、本がグロリアを認めたって事じゃね?」

【古フルサクと呼ばれる失われしルーン文字を使って書かれておる。それを読み解く資質のある者にしか、本当の姿は見せんと言う事であろうな】

「そ、そうなんですね。いやぁ、ドキドキです。いつ何が起きるかわからないって事なら、素人が管理するのは遠慮させていただいた方が良さそうですねぇ。
い、今まで通りジェニに預けておこうかな~。んで勉強しにここに来れば⋯⋯おお、名案じゃないですか!!」

「こーとーわーるー! グロリアがルーン魔術の勉強してる間に俺もやることがある」

【お昼寝!】

【お夕寝!】

【朝寝じゃな】

 悲壮な顔のグロリアがジェニの両肩をガシッと掴んだ。

「ジェニ~、もしも、もしも部屋で突然ピカってなったら本の存在が家族とか使用人にバレちゃうかもよ! ドカーンとかパリーンとか凄いのがくるかも!
それにフノーラが見つけたら『欲しい』って持ってっちゃうかも! ねっ、それはすっごく問題でしょ?」

 顔を引き攣らせたグロリアはグラグラとジェニを揺すりながら涙目で懇願した。

「お、お願い! こういう不可思議なのって苦手で、昔から幽霊とかラップ現象とかそう言うのってホント弱いの。突然膨らむとか空に浮かぶ? ほ、本が踊り出したら失神しちゃうよぉ」

 揺さぶられすぎて頭がクラクラしはじめたジェニは手を掴んでグロリアの動きを止めた。

「フノーラ以外は皆モブだから本は目の前にあっても見えんはず。フノーラはなぁ、うーん、どうすっかなぁ?」

 慌てふためくグロリアの横で呑気に背伸びをするジェニ。

「フ、フノーラって関係者なの? はっ、あの美少女っぷりは⋯⋯まさか、フレイヤがこんな身近にいた!?」

「ぶぶー、ハズレだが惜しい!! フノーラはフレイヤの娘。だから気をつけた方がいいのは確かなんだよな⋯⋯キラキラが見張ってたんだが奴は結構ボケてっからなぁ。
既にフノスフノーラを見逃してるし~、もうこれはお仕置き確定案件だよな~」

「だ、ダメダメじゃん。ボケてる神様が監視役とか」

「ヘズに⋯⋯いや、待てよ。フォルセティがいたな」

【キラキラの息子か、彼奴なら良いやもしれんな】

【クソ真面目だしねっ!】

【あの子、イオルより父ちゃんラブ凄いもん。ヘマした父ちゃんの尻拭いだって言えば、馬車馬のように働くよ】

「後で行ってくる、奴はえーっと⋯⋯⋯⋯おお、母ちゃんナンナのとこか。なら、ついでにヘラに土産でも買ってくか」

 空を見上げたジェニがニヤッと笑った。

(ヘラがいるのって空の上なの? うーん、よく分かんない)

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