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第一章

12.セイズは間違いなく樹里用

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「セイズって何? そんなにすごいものなの?」

「簡単に言えば、薬でトランス状態になってから詠唱と祈りなんかを使って先祖の霊やら精霊やらと通じる方法だな。未来予知から敵の殲滅・願望成就まで何でもありの結構エグい呪術で、予言者や巫女が使ってた。
結構エロい手法満載だからグロリアには禁止な」

「エ、エロいの? う、うわぁ。樹里の特技にはピッタリ⋯⋯ってか、だから樹里ってあんな見境なく男漁りしてたのかな。
まあ、どっちにしても私には絶対無理って分かった」

 ヘラっと笑って下を向いたジェニは『コイツは初めて会った時から色気のカケラもねえもん』と口を滑らせ、にっこり微笑んだグロリアに足を思い切り踏まれた。

「いってえ!!」

 涙目でグロリアを睨んだジェニは『暴力反対!』と呟きながら自分が座っている椅子をグロリアから遠ざけた。

「ヴァン神族の中でもセイズ使いの第一人者だったフレイヤはヴォルヴァって呼ばれる巫女達の指導者でもあったんだ。
アース神族のオーディンにセイズを教えたのもフレイヤだしな」

 フレイヤは神の世界であるアースガルズで、ヴォルヴァは人の世界であるミズガルズで予言者の役柄を演じたとジェニが話した。

(⋯⋯えーっと、つまり予言者のトップがフレイヤ。んで、その世界の頂点のオーディンはフレイヤの弟子って事? なんか益々フレイヤには太刀打ちできない気がしてきた)

 ガックリと肩を落としたグロリアが足元に現れたヴァンの背中を撫でながら大きな溜息をつくと、いつもは自分からじゃれついてこないヴァンがグロリアの膝に前足を乗せ尻尾をパフパフと揺らした。

「ヴァン、ありがと。(怖いけど⋯⋯怖がってちゃダメなんだよね。うー、辛い)」



「ラグナロク以降のクソビッチフレイヤはセイズのセの字も思い出せてないから心配はいらねえって。
今じゃ魔力量も使える魔法もしょぼすぎる癖に過去の栄光に引き摺られてるただのビッチだから」

「でもさぁ、それって思い出したらヤバいって事だよね」

「そこは大丈夫、キラキラバルドルがその記憶をフレイヤから奪ったから。
ババアになるまで頑張ってもミミズも呼べねえ」

「フレイヤの魅力と色気でフラフラっと協力する人とかいそう」

「神はキラキラバルドルが、妖精はフレイって奴が監視してる。スヴァルタアールヴって言う悪い子ちゃんの妖精は特に厳重に監視されてるから心配すんなって」

 この辺りで見かける妖精達は皆良い妖精のリョースアールヴだけだと聞いたグロリアはホッと胸を撫で下ろした。



 情報過多でクラクラしはじめたグロリアの目の前に美味しそうな料理が突然現れた。

「わあ、びっくりした~! ジェニってこんな事もできるんだ」

「能あるジェニはメシを隠すってな。忘れん坊のグロリアがよーやく、やっと、遂に、とうとう思い出したから遠慮する必要がなくなったんでーす」

「忘れててごめんなさい?」

「疑問系か? ヴァン達も喜んでるし。よし、許す!」



 熱が引いたばかりのグロリアの胃に優しい料理から食べ応えのある料理までがテーブル一杯に並ぶと、美味しそうな匂いに釣られた3匹が駆け戻ってきた。

【ごっはん~、俺っちは甘いの!】

【僕は鹿肉限定! 後、ドリアンちょーだい】

【我は血の滴る肉で】


 テーブルにないおやつや食材を希望する3匹をスルーしてグロリアとジェニがスプーンを手にすると、『ちぇっ』と舌打ちした3匹は自分で欲しい物をどこかから取り出した。

(あー、持ってるんだ。便利だなぁ)

 暖かい日差しの中で食べる湯気の上がる料理と気心の知れた仲間達にグロリアの食欲が爆上がりし、おかわりのお粥までペロリと平らげてしまった。

「すごくお腹空いてたみたい」

「アレを読むのには魔力がいるからそのせいかもな。慣れてくればそれほど腹は減らんはずだから頑張れよ」

【頑張って結界覚えてね~】

「イオル、結界なんて無茶言い過ぎだよぉ」

【俺っちは転移が先だと思うぞ】

「いやいや、マーナ。この国で転移ができる人なんてジェニと君達しか聞いた事ないし」

【初めは無理をせず、護符を作るが良かろう】

「ううっ、やっぱりヴァンが一番頼りになりそう」

【うむ、防御の護符ができれば我が攻撃で試してやろうではないか】

「違った。ヴァンもハード過ぎる」



 和気藹々とお喋りしながらルーン魔術談義に花を咲かせた。ジェニは当然だが3匹もかなりルーン魔術に詳しく、夕方近くなる頃にはグロリアもルーン魔術がどんなものなのかイメージができるようになってきた。

 当面の目標としてはジェニに貰った特殊なペンで紙にルーン文字を刻み正確な護符を作れるようになる事。それができるようになったら石に刻む練習をする事にした。


・周囲からの協力を望むなら《エオー》
・仲間からの助けを導く《エオロー》
・運命を味方につける《ペオース》
・やる気や元気を与える《シゲル》


 一人と3匹がグロリアのために選んだのはこの4種類で、勉強が進んだら自分で選ぶ事にした。


「水を象徴する《ラーグ》を使いこなせたら水属性の魔法使いみたいに水が出せるようになるぞ」

【喉が渇いた時、超便利なんだよ】

【僕は水遊びした~い】


【実力を発揮し勝利を望むなら《ティール》じゃな】

「ヴァン、その名前はアイツを思い出してムカつくからなしだ」

【俺っち知ってる! ジェニの鬼門は『テュール』だよね~】


「グロリアの場合、死と再生の《ユル》が必要だな」

 マーナのツッコミをスルーしたジェニが物騒な言葉を口にした。

「縁起悪すぎ⋯⋯でも、残念な事に合ってるかも」

 樹里が男の前では絶対にしない、ニヤニヤとバカにしたように笑う下品な顔が頭に浮かんだ。



「ルーン魔術の呪文は『スターヴ(樽板、柱)』と呼ばれるシンボルで構成されていて、ルーン文字が添えられているんだ。
それか魔法円だな。それを書けるようになったら完璧!」

(そこまでできるかなあ)

 6歳から2年間『役立たず』だと言われ続けたグロリアは自己肯定感が最低まで落ちている。聞けば聞くほど奥の深いルーン魔術に腰が引けてきた。

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