上 下
7 / 248
第一章

6.思い出した前世

しおりを挟む
「んで、どこまで思い出した?」

 3匹を引き連れてグロリアとジェニは庭のガゼボに向かった。昼前の庭は気持ちの良い暖かさで、花の中から妖精が顔を出し空を飛ぶエルフがグロリアに向かって手を振っている。

「前世の名前は霧森花梨。この間会ったシグルドは更科飛偉梠って言うレイプ犯だから手を触った途端気持ち悪くなったのは当然で、ここはいわゆる異世界」

「いや異世界ってのは微妙に違うかな。グロリアはファミリーツリーって知ってるか?」

「えっと、家系図だっけ?」

「そう。ファミリーツリーってのは王の家系図を1本の木をモチーフに描かれたことからはじまったんだが、この世界はそこから途中ではみ出した枝葉の一本って感じだな。
グロリアが花梨として生きていた世界と此処は大本は同じだがちょっとした事があって、別の次元と繋がっちまった。んで、別世界みたいになったって言ったら分かるか?」

 ジェニは空に大きな木の幻影を描きながら説明してくれた。『ちょっとした事』についてジェニは語らなかったのでグロリアには分からないが、今いる世界の成り立ちはよく分かった。


「何となく分かったかも。だから似たとこと全然違うとこがあるのね」

「そう言う事だな」

 前世では魔力や魔法は存在しなかったが、今世にあるような食べ物や馬車などは前世にも存在していた時代があった。

「いずれこの国にも電気や飛行機が発明されるのかな?」

「うーん、魔法がこのまま廃れずにいたらないかもな」

 あんな風にと言いながらジェニが指差したのは、空を飛ぶエルフを追いかけるフェンリルの姿。

「天翔るってやつ?⋯⋯かっこいい」

 グロリアがフェンリルを褒めたからか空中や海上を走れる靴をどこからともなく取り出したジェニは、子供のようなドヤ顔をして転移もできると自慢してきた。


「花梨の前世で流行ってた異世界物とは結構違うかもな」

「うん、ロキ達は前世の神話に出てきたもの。神話の神様や人達はここには住んでいるって事?」

「ごく一部がな。別の場所に生まれ変わってるやつもいりゃあ、生まれ変わらなかった奴もいる」

「どうして?」

「本人の意思だったり、それしか選べなかったり⋯⋯色々だな、ふふん」

 何を思い出したのか分からないがジェニの顔が物凄い悪人顔になった。

 不思議そうに首を傾げたグロリアの頭をジェニがポンポンと叩いた。

「ふっふっふ、最高の出来事をちょい思い出したぜ」

「え~、悪巧みを思い出した感じに見えたけど?」

「そうとも言うなぁ。俺の一番ムカつく奴が今どこにいるのか思い出して⋯⋯ふはは」

【オーディンだよねっ! 僕らを酷い目に合わせた奴】

【彼奴は復活できなんだ事を恨んでおる】

【ざまぁっ】

 離れたところで走り回っているのに聞こえていたらしい。

「なんだか、神様達の深~い闇を感じるなぁ」

「俺は神じゃねえぜ。生粋の巨人族だったし、今は正真正銘の人間」

 ロキだとバレたジェニは遠慮する必要がなくなったと思ったのか、どこからともなくテーブルに紅茶やケーキを出した。


「前世が巨人族で今世は人間?」

「そう言う事。前世が花梨で今世がグロリアなのとおんなじだな」

 種族まで変わるのは随分違うと思ったが、細かいことを気にしても仕方ないとグロリアは湯気のたつ紅茶に口をつけた。

 蝶を追いかけるのが好きなマーナガルムが『俺っちの~』と言いながら飛び回り、花に顔を突っ込んで妖精を驚かすのがお気に入りのイオルヨルムガンドが『ぼ、僕の鼻が』と言いながら花粉だらけになってクシャミをした。ヴァンはフサフサとした尻尾をハタハタと動かして『我は虫は好かん』と言いつつ追い払い、悠々と昼寝を決め込もうとしていた。



 いつもと変わらない長閑な景色を見ながら肝心なことを口に出来ないグロリアはジェニから目線を逸らしたままお菓子を手に取った。

 エルフが放った矢をガルムが躱すと、ヨルムガンドが巨大化してエルフを丸呑みした。少し離れた場所で欠伸をしていたフェンリルがヨルムガンドの背後から攻撃を仕掛けるとエルフ達が口から飛び出した。

(いつ見ても凄い危険な遊び方に見えるんだけど⋯⋯楽しそうなのよね)


「私が前世で知ってた話では、エルフって人型で背が高いってなってた気がする」

「この世界のエルフは小妖精とか良い子のリョースアールヴと言われてるな。悪い子のデックアールヴはドヴェルグドワーフなんかが有名」


「ドヴェルグはこの世界でも鍛冶屋さん?」

「ああ、会える奴は限られてるが今でもトンカンやってるぜ。魔法が使える奴でもそう簡単には会えねえ、ってか見えねえってやつだな。奴らに会えりゃ魔導具なんてショボいもんを開発する必要はなくなる」

 妖精が見えているグロリアにはドヴェルグも見えると言われたが、情報量が多すぎて妖精の世界の蘊蓄は遠慮することにした。



「グロリアは自分の能力を知ってるか?」

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

黙示録戦争後に残された世界でたった一人冷凍睡眠から蘇ったオレが超科学のチート人工知能の超美女とともに文芸復興を目指す物語。

あっちゅまん
ファンタジー
黙示録の最終戦争は実際に起きてしまった……そして、人類は一度滅亡した。 だが、もう一度世界は創生され、新しい魔法文明が栄えた世界となっていた。 ところが、そんな中、冷凍睡眠されていたオレはなんと蘇生されてしまったのだ。 オレを目覚めさせた超絶ボディの超科学の人工頭脳の超美女と、オレの飼っていた粘菌が超進化したメイドと、同じく飼っていたペットの超進化したフクロウの紳士と、コレクションのフィギュアが生命を宿した双子の女子高生アンドロイドとともに、魔力がないのに元の世界の科学力を使って、マンガ・アニメを蘇らせ、この世界でも流行させるために頑張る話。 そして、そのついでに、街をどんどん発展させて建国して、いつのまにか世界にめちゃくちゃ影響力のある存在になっていく物語です。 【黙示録戦争後に残された世界観及び設定集】も別にアップしています。 よければ参考にしてください。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

実力を隠して勇者パーティーの荷物持ちをしていた【聖剣コレクター】の俺は貧弱勇者に【追放】されるがせっかくなので、のんびり暮らそうと思います

jester
ファンタジー
ノエル・ハーヴィン……16才、勇者パーティー所属の荷物持ちにして隠れ【聖剣コレクター】である彼は周りには隠しているものの、魔法や奇跡を使えない代わりにこの世のありとあらゆる剣の潜在能力を最大まで引き出し、また自由に扱えるといった唯一無二のスキル【ツルギノオウ】を持っていた。ある日、実力を隠しているために役立たずと勇者パーティーを追放されてしまうノエルだったが、追放という形なら国王に目を付けられずに夢だった冒険者ができると喜んで承諾する。実は聖剣の力を使い勇者達を助けていたがノエルが抜けた穴は大きく、勇者達は徐々に没落していく事となる。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...