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第一章
2.ジェニと3匹はグロリアのお友達
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ジェニと呼ばれている少年の名前はゲニウス・L・ドールスファケレ。隣国カルマール王国の公爵家次男で、3匹のペットを飼っている。『こいつらは犬と猫だ!』と言い続けているジェニだが、動物好きには狼とピューマの子供に見える。
白銀の犬はヴァン、黒い犬のマーナ、太った茶猫はイオル。グロリアだけは本人(3匹)から『俺達は狼と蛇』だと教えてもらっている。
グロリアとの出会い⋯⋯。
当時4歳だったジェニは『めっちゃ暇なんですけど~』と言いながらぐでんとベンチに寝っ転がり、3匹が好き勝手に庭を走り回るのを横目に見ていた。そんな長閑な昼下がりに⋯⋯。
ガサゴソと不穏な音がしはじめたかと思うと、垣根の下から白い塊が現れた。小さくて丸いそれはひょこっと立ち上がりポテポテと歩きはじめ、番犬・番猫に向かって突進して行った。
普段はジェニ以外を寄せ付けず威嚇の唸り声を上げてばかりの3匹が何故か吠えもせずに、白い塊⋯⋯グロリアに向けて千切れんばかりに尻尾を振っている。
(こいつら、一体どうしたって言うんだ? 今のこいつに尻尾を振るなんて⋯⋯)
彼等の前にしゃがみ込んだグロリアは目を輝かせジェニを見上げた。
『⋯⋯『おおかみしゃん』かっくいーね。おたべりもしゅっごくじょうじゅね!』
『⋯⋯はあ?』
『おなまえもおちえてくれてあっとうね。《てんにう》と《がぅむ》ねー』
言葉を話しはじめるのが遅かった上にサ行が特に苦手なグロリアの言葉は一つ下の妹より幼い。絶句したジェニは今にも腹を見せそうな3匹を睨みつけた。
(テメェらぁ、口を閉じとくくらいできねえのかよ!)
慌ててしゃがみ込んだジェニが眉間に皺を寄せてヴァンの首を掴んで人差し指を突きつけた。
「お、お前らは威厳とか品位とかどこに落っことしたんだよ!」
【別に良いではないか! あ、我の名はフェンリルだと訂正を頼むぞ】
【癒し~! この子ってば間抜けすぎて堪んないよぉ。それから、俺っちはガルムな】
楽しげにふふんと鼻を鳴らすフェンリルと相貌を崩したガルム。
『もようちれいねぇ。あっ、ちあう⋯⋯ニョロニョロちてる~。⋯⋯しょっかぁ、おちえてくえてあっとうね。
ねえ、《おうむにゃんにゃん》ってなーに?』
【なんかさぁ、幻術効かないらしーよー。僕、鳥じゃないしー。ヨルムガンドって言いにくい?】
すっとぼけた顔でテヘっと笑ったヨルムガンドは本当に腹を見せてグロリアにわしゃわしゃされはじめた。
眉間に皺を寄せプルプルと怒りに身体を震わせたジェニが脳内で叫んだ。
(貴様らぁ⋯⋯今日のおやつ抜きだからなー!)
そんなこんなで身バレした3匹はお察しの通り、フェンリル&ガルム&ヨルムガンド。
動物と話せて嬉しいとなんの疑問も持たず手を叩いているグロリアに、公言するなと言い聞かせるのに四苦八苦したジェニだった。
『ぜーったい、ないしょな』
『なんでー?』
『なんでも!!』
その時の2人は4歳だったが、本当はそれは2回目の出会い。
(ここまでなんも覚えてないとは⋯⋯あーもー、手間がかかってくっそめんどくせえ)
それ以来グロリアと3匹は大の仲良しになり、時間を見つけてはジェニの屋敷の庭で遊んでいる。
目的に近づく為にグロリアの住む屋敷の隣に引っ越してきたジェニだが、こんな事態は予定していなかった。
(初めて会った時もポヤポヤしちゃいたが、ますます酷くなってないか?)
この空気の読めないかなりお馬⋯⋯間抜け⋯⋯呑気な少女の名前はグロリア・C・シビュレー。
シビュレー伯爵家の長女で、その頃は両親にそこそこ可愛がられ妹との仲も特筆するような事もなく⋯⋯平々凡々、特に不自由のない生活を送っていた。
花に向かって話し込み空を見上げて二ヘラと笑う若干怪しい性質を持ってはいたが、それ以外に特記するものもないモブの中のモブ。キング・オブ・モブな少女。
白い肌に銀色に光るシルバーブロンドと薄茶の瞳。いつの間にか景色と同化するほど存在感がないという珍しい特性を持つグロリアの後ろを姿を消した3匹がついて歩く。
3匹の本当の姿が見えるのは本人達以外にはジェニとグロリアのみ。はたから見ればポテポテと他人の家を闊歩しながら、何もない空間を指差し動物と会話する幼児という非常に怪しい構図。
しょうがねえと言いつつ敷地の中が見えないように幻術をかけたジェニも少しずつグロリアに絆されていたのだろう。
地面に指を突き刺したまま固まり⋯⋯池に葉っぱを浮かべてモゴモゴと呟き⋯⋯奇怪な行動をするグロリアが面白くて仕方ない3匹に比べ、『予定が狂った』と文句を言い続けるジェニはグロリアを遠目から見てはため息をついていた。
(こいつには俺の協力者になってもらう予定だったのに⋯⋯まさか、綺麗さっぱり忘れてるとは)
花の中にいるのを見つけた不思議な生き物は妖精で、空を飛ぶちっちゃいものがエルフだとグロリアに教えてくれたのはお喋り好きのヨルムガンド改めイオルだった。
【お嬢、それはねー、この国で言う妖精って奴だよー】
『ようしぇい⋯⋯それなーに? おいちい?』
【食えん! よ、妖精をくうなよー。僕も美味しくないからねー】
『えりゅふってトリしゃん?』
【似たとこもあるが、別の生き物じゃな。因みに食えん】
それ以来、グロリアは暇さえあれば3匹に会いに行き何やらモソモソと会話していた。それを遠くから冷ややかな目で見つめるジェニ。
『なあ、お前らいつも何話してんの?』
『ひみちゅ♡』
【【【秘密!】】】
性格が正反対のグロリアとジェニが漸く仲良くなったのは6歳。3匹が豪快にやらかした。
3匹が『退屈だ~』と言い出した時嫌な予感がしたがジェニが止める間もなく、
【暇つぶしだあ~】
と叫んで屋敷を飛び出した3匹は教会を襲撃した。
礼拝堂で暴れ回るヴァン達を真っ青な顔で追いかけるジェニを見たグロリアは大笑いして大声で叫んだ。
『おすわりーっ!!』
ピタッと止まった3匹とジェニに向けてドヤ顔でサムズアップしたグロリアが一言。
『犬と猫ならこれでしょ?』
倒れた蝋燭の火を吹き消し粉々になった椅子を立て直し、祭壇を必死で守ろうとしながら叫んでいた司祭や助祭が吹き出したのは言うまでもない。
この物語はそんなおとぼけグロリアがシグルド・O・フレイズマル侯爵家嫡男と出会うところから動きはじめる。
白銀の犬はヴァン、黒い犬のマーナ、太った茶猫はイオル。グロリアだけは本人(3匹)から『俺達は狼と蛇』だと教えてもらっている。
グロリアとの出会い⋯⋯。
当時4歳だったジェニは『めっちゃ暇なんですけど~』と言いながらぐでんとベンチに寝っ転がり、3匹が好き勝手に庭を走り回るのを横目に見ていた。そんな長閑な昼下がりに⋯⋯。
ガサゴソと不穏な音がしはじめたかと思うと、垣根の下から白い塊が現れた。小さくて丸いそれはひょこっと立ち上がりポテポテと歩きはじめ、番犬・番猫に向かって突進して行った。
普段はジェニ以外を寄せ付けず威嚇の唸り声を上げてばかりの3匹が何故か吠えもせずに、白い塊⋯⋯グロリアに向けて千切れんばかりに尻尾を振っている。
(こいつら、一体どうしたって言うんだ? 今のこいつに尻尾を振るなんて⋯⋯)
彼等の前にしゃがみ込んだグロリアは目を輝かせジェニを見上げた。
『⋯⋯『おおかみしゃん』かっくいーね。おたべりもしゅっごくじょうじゅね!』
『⋯⋯はあ?』
『おなまえもおちえてくれてあっとうね。《てんにう》と《がぅむ》ねー』
言葉を話しはじめるのが遅かった上にサ行が特に苦手なグロリアの言葉は一つ下の妹より幼い。絶句したジェニは今にも腹を見せそうな3匹を睨みつけた。
(テメェらぁ、口を閉じとくくらいできねえのかよ!)
慌ててしゃがみ込んだジェニが眉間に皺を寄せてヴァンの首を掴んで人差し指を突きつけた。
「お、お前らは威厳とか品位とかどこに落っことしたんだよ!」
【別に良いではないか! あ、我の名はフェンリルだと訂正を頼むぞ】
【癒し~! この子ってば間抜けすぎて堪んないよぉ。それから、俺っちはガルムな】
楽しげにふふんと鼻を鳴らすフェンリルと相貌を崩したガルム。
『もようちれいねぇ。あっ、ちあう⋯⋯ニョロニョロちてる~。⋯⋯しょっかぁ、おちえてくえてあっとうね。
ねえ、《おうむにゃんにゃん》ってなーに?』
【なんかさぁ、幻術効かないらしーよー。僕、鳥じゃないしー。ヨルムガンドって言いにくい?】
すっとぼけた顔でテヘっと笑ったヨルムガンドは本当に腹を見せてグロリアにわしゃわしゃされはじめた。
眉間に皺を寄せプルプルと怒りに身体を震わせたジェニが脳内で叫んだ。
(貴様らぁ⋯⋯今日のおやつ抜きだからなー!)
そんなこんなで身バレした3匹はお察しの通り、フェンリル&ガルム&ヨルムガンド。
動物と話せて嬉しいとなんの疑問も持たず手を叩いているグロリアに、公言するなと言い聞かせるのに四苦八苦したジェニだった。
『ぜーったい、ないしょな』
『なんでー?』
『なんでも!!』
その時の2人は4歳だったが、本当はそれは2回目の出会い。
(ここまでなんも覚えてないとは⋯⋯あーもー、手間がかかってくっそめんどくせえ)
それ以来グロリアと3匹は大の仲良しになり、時間を見つけてはジェニの屋敷の庭で遊んでいる。
目的に近づく為にグロリアの住む屋敷の隣に引っ越してきたジェニだが、こんな事態は予定していなかった。
(初めて会った時もポヤポヤしちゃいたが、ますます酷くなってないか?)
この空気の読めないかなりお馬⋯⋯間抜け⋯⋯呑気な少女の名前はグロリア・C・シビュレー。
シビュレー伯爵家の長女で、その頃は両親にそこそこ可愛がられ妹との仲も特筆するような事もなく⋯⋯平々凡々、特に不自由のない生活を送っていた。
花に向かって話し込み空を見上げて二ヘラと笑う若干怪しい性質を持ってはいたが、それ以外に特記するものもないモブの中のモブ。キング・オブ・モブな少女。
白い肌に銀色に光るシルバーブロンドと薄茶の瞳。いつの間にか景色と同化するほど存在感がないという珍しい特性を持つグロリアの後ろを姿を消した3匹がついて歩く。
3匹の本当の姿が見えるのは本人達以外にはジェニとグロリアのみ。はたから見ればポテポテと他人の家を闊歩しながら、何もない空間を指差し動物と会話する幼児という非常に怪しい構図。
しょうがねえと言いつつ敷地の中が見えないように幻術をかけたジェニも少しずつグロリアに絆されていたのだろう。
地面に指を突き刺したまま固まり⋯⋯池に葉っぱを浮かべてモゴモゴと呟き⋯⋯奇怪な行動をするグロリアが面白くて仕方ない3匹に比べ、『予定が狂った』と文句を言い続けるジェニはグロリアを遠目から見てはため息をついていた。
(こいつには俺の協力者になってもらう予定だったのに⋯⋯まさか、綺麗さっぱり忘れてるとは)
花の中にいるのを見つけた不思議な生き物は妖精で、空を飛ぶちっちゃいものがエルフだとグロリアに教えてくれたのはお喋り好きのヨルムガンド改めイオルだった。
【お嬢、それはねー、この国で言う妖精って奴だよー】
『ようしぇい⋯⋯それなーに? おいちい?』
【食えん! よ、妖精をくうなよー。僕も美味しくないからねー】
『えりゅふってトリしゃん?』
【似たとこもあるが、別の生き物じゃな。因みに食えん】
それ以来、グロリアは暇さえあれば3匹に会いに行き何やらモソモソと会話していた。それを遠くから冷ややかな目で見つめるジェニ。
『なあ、お前らいつも何話してんの?』
『ひみちゅ♡』
【【【秘密!】】】
性格が正反対のグロリアとジェニが漸く仲良くなったのは6歳。3匹が豪快にやらかした。
3匹が『退屈だ~』と言い出した時嫌な予感がしたがジェニが止める間もなく、
【暇つぶしだあ~】
と叫んで屋敷を飛び出した3匹は教会を襲撃した。
礼拝堂で暴れ回るヴァン達を真っ青な顔で追いかけるジェニを見たグロリアは大笑いして大声で叫んだ。
『おすわりーっ!!』
ピタッと止まった3匹とジェニに向けてドヤ顔でサムズアップしたグロリアが一言。
『犬と猫ならこれでしょ?』
倒れた蝋燭の火を吹き消し粉々になった椅子を立て直し、祭壇を必死で守ろうとしながら叫んでいた司祭や助祭が吹き出したのは言うまでもない。
この物語はそんなおとぼけグロリアがシグルド・O・フレイズマル侯爵家嫡男と出会うところから動きはじめる。
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