上 下
3 / 248
第一章

2.ジェニと3匹はグロリアのお友達

しおりを挟む
 ジェニと呼ばれている少年の名前はゲニウス・L・ドールスファケレ。隣国カルマール王国の公爵家次男で、3匹のペットを飼っている。『こいつらは犬と猫だ!』と言い続けているジェニだが、動物好きには狼とピューマの子供に見える。

 白銀の犬はヴァン、黒い犬のマーナ、太った茶猫はイオル。グロリアだけは本人(3匹)から『俺達は狼と蛇』だと教えてもらっている。




 グロリアとの出会い⋯⋯。

 当時4歳だったジェニは『めっちゃ暇なんですけど~』と言いながらぐでんとベンチに寝っ転がり、3匹が好き勝手に庭を走り回るのを横目に見ていた。そんな長閑な昼下がりに⋯⋯。

 ガサゴソと不穏な音がしはじめたかと思うと、垣根の下から白い塊が現れた。小さくて丸いそれはひょこっと立ち上がりポテポテと歩きはじめ、番犬・番猫に向かって突進して行った。

 普段はジェニ以外を寄せ付けず威嚇の唸り声を上げてばかりの3匹が何故か吠えもせずに、白い塊⋯⋯グロリアに向けて千切れんばかりに尻尾を振っている。

(こいつら、一体どうしたって言うんだ? 今のこいつに尻尾を振るなんて⋯⋯)


 彼等の前にしゃがみ込んだグロリアは目を輝かせジェニを見上げた。

『⋯⋯『おおかみしゃん』かっくいーね。おたべりもしゅっごくじょうじゅね!』

『⋯⋯はあ?』

『おなまえもおちえてくれてあっとうありがとうね。《てんにう》と《がぅむ》ねー』

 言葉を話しはじめるのが遅かった上にサ行が特に苦手なグロリアの言葉は一つ下の妹より幼い。絶句したジェニは今にも腹を見せそうな3匹を睨みつけた。

(テメェらぁ、口を閉じとくくらいできねえのかよ!)

 慌ててしゃがみ込んだジェニが眉間に皺を寄せてヴァンの首を掴んで人差し指を突きつけた。

「お、お前らは威厳とか品位とかどこに落っことしたんだよ!」

【別に良いではないか! あ、我の名はフェンリルだと訂正を頼むぞ】

【癒し~! この子ってば間抜けすぎて堪んないよぉ。それから、俺っちはガムな】

 楽しげにふふんと鼻を鳴らすフェンリルと相貌を崩したガルム。


『もようちれいねぇ。あっ、ちあう違う⋯⋯ニョロニョロちてる~。⋯⋯しょっかぁ、おちえてくえてあっとうありがとうね。
ねえ、《おうむにゃんにゃん》ってなーに?』

【なんかさぁ、幻術効かないらしーよー。僕、鳥じゃないしー。ヨルムガンドって言いにくい?】

 すっとぼけた顔でテヘっと笑ったヨルムガンドは本当に腹を見せてグロリアにわしゃわしゃされはじめた。

 眉間に皺を寄せプルプルと怒りに身体を震わせたジェニが脳内で叫んだ。

(貴様らぁ⋯⋯今日のおやつ抜きだからなー!)



 そんなこんなで身バレした3匹はお察しの通り、フェンリル&ガルム&ヨルムガンド。

 動物と話せて嬉しいとなんの疑問も持たず手を叩いているグロリアに、公言するなと言い聞かせるのに四苦八苦したジェニだった。

『ぜーったい、ないしょな』

『なんでー?』

『なんでも!!』



 その時の2人は4歳だったが、本当はそれは2回目の出会い。

(ここまでなんも覚えてないとは⋯⋯あーもー、手間がかかってくっそめんどくせえ)

 それ以来グロリアと3匹は大の仲良しになり、時間を見つけてはジェニの屋敷の庭で遊んでいる。

 目的に近づく為にグロリアの住む屋敷の隣に引っ越してきたジェニだが、こんな事態は予定していなかった。

(初めて会った時もポヤポヤしちゃいたが、ますます酷くなってないか?)


 この空気の読めないかなりお馬⋯⋯間抜け⋯⋯呑気な少女の名前はグロリア・C・シビュレー。

 シビュレー伯爵家の長女で、その頃は両親にそこそこ可愛がられ妹との仲も特筆するような事もなく⋯⋯平々凡々、特に不自由のない生活を送っていた。

 花に向かって話し込み空を見上げて二ヘラと笑う若干怪しい性質を持ってはいたが、それ以外に特記するものもないモブの中のモブ。キング・オブ・モブな少女。

 白い肌に銀色に光るシルバーブロンドと薄茶の瞳。いつの間にか景色と同化するほど存在感がないという珍しい特性を持つグロリアの後ろを姿を消した3匹がついて歩く。
 3匹の本当の姿が見えるのは本人達以外にはジェニとグロリアのみ。はたから見ればポテポテと他人の家を闊歩しながら、何もない空間を指差し動物と会話する幼児という非常に怪しい構図。

 しょうがねえと言いつつ敷地の中が見えないように幻術をかけたジェニも少しずつグロリアに絆されていたのだろう。


 地面に指を突き刺したまま固まり⋯⋯池に葉っぱを浮かべてモゴモゴと呟き⋯⋯奇怪な行動をするグロリアが面白くて仕方ない3匹に比べ、『予定が狂った』と文句を言い続けるジェニはグロリアを遠目から見てはため息をついていた。

(こいつには俺の協力者になってもらう予定だったのに⋯⋯まさか、綺麗さっぱり忘れてるとは)


 花の中にいるのを見つけた不思議な生き物は妖精で、空を飛ぶちっちゃいものがエルフだとグロリアに教えてくれたのはお喋り好きのヨルムガンド改めイオルだった。

【お嬢、それはねー、この国で言う妖精って奴だよー】

『ようしぇい⋯⋯それなーに? おいちい?』

【食えん! よ、妖精をくうなよー。僕も美味しくないからねー】


『えりゅふってトリしゃん?』

【似たとこもあるが、別の生き物じゃな。因みに食えん】



 それ以来、グロリアは暇さえあれば3匹に会いに行き何やらモソモソと会話していた。それを遠くから冷ややかな目で見つめるジェニ。

『なあ、お前らいつも何話してんの?』

『ひみちゅ♡』

【【【秘密!】】】




 性格が正反対のグロリアとジェニが漸く仲良くなったのは6歳。3匹が豪快にやらかした。

 3匹が『退屈だ~』と言い出した時嫌な予感がしたがジェニが止める間もなく、

【暇つぶしだあ~】

と叫んで屋敷を飛び出した3匹は教会を襲撃した。

 礼拝堂で暴れ回るヴァン達を真っ青な顔で追いかけるジェニを見たグロリアは大笑いして大声で叫んだ。

『おすわりーっ!!』

 ピタッと止まった3匹とジェニに向けてドヤ顔でサムズアップしたグロリアが一言。

『犬と猫ならこれでしょ?』


 倒れた蝋燭の火を吹き消し粉々になった椅子を立て直し、祭壇を必死で守ろうとしながら叫んでいた司祭や助祭が吹き出したのは言うまでもない。

 この物語はそんなおとぼけグロリアがシグルド・O・フレイズマル侯爵家嫡男と出会うところから動きはじめる。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

黙示録戦争後に残された世界でたった一人冷凍睡眠から蘇ったオレが超科学のチート人工知能の超美女とともに文芸復興を目指す物語。

あっちゅまん
ファンタジー
黙示録の最終戦争は実際に起きてしまった……そして、人類は一度滅亡した。 だが、もう一度世界は創生され、新しい魔法文明が栄えた世界となっていた。 ところが、そんな中、冷凍睡眠されていたオレはなんと蘇生されてしまったのだ。 オレを目覚めさせた超絶ボディの超科学の人工頭脳の超美女と、オレの飼っていた粘菌が超進化したメイドと、同じく飼っていたペットの超進化したフクロウの紳士と、コレクションのフィギュアが生命を宿した双子の女子高生アンドロイドとともに、魔力がないのに元の世界の科学力を使って、マンガ・アニメを蘇らせ、この世界でも流行させるために頑張る話。 そして、そのついでに、街をどんどん発展させて建国して、いつのまにか世界にめちゃくちゃ影響力のある存在になっていく物語です。 【黙示録戦争後に残された世界観及び設定集】も別にアップしています。 よければ参考にしてください。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

実力を隠して勇者パーティーの荷物持ちをしていた【聖剣コレクター】の俺は貧弱勇者に【追放】されるがせっかくなので、のんびり暮らそうと思います

jester
ファンタジー
ノエル・ハーヴィン……16才、勇者パーティー所属の荷物持ちにして隠れ【聖剣コレクター】である彼は周りには隠しているものの、魔法や奇跡を使えない代わりにこの世のありとあらゆる剣の潜在能力を最大まで引き出し、また自由に扱えるといった唯一無二のスキル【ツルギノオウ】を持っていた。ある日、実力を隠しているために役立たずと勇者パーティーを追放されてしまうノエルだったが、追放という形なら国王に目を付けられずに夢だった冒険者ができると喜んで承諾する。実は聖剣の力を使い勇者達を助けていたがノエルが抜けた穴は大きく、勇者達は徐々に没落していく事となる。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...