【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

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第五章

23.天秤はバランスを取る

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「元はビルワーツ侯爵家に籍を置いておりましたので、関係があると思われる方もおられますでしょう。ですが、わたくしがここにおります最大の理由は、11年前4カ国が合同でビルワーツを手に入れる為に仕組んだ作戦についての罪を暴く為でございます。
ニール・ビルワーツを誑かし、公国王アメリア様の殺害を計画。それと同時に連合王国は侵略戦争の前準備として、公国に違法薬物を蔓延させようとしました。

クレベルン王国と帝国は、他国を巻き込み6カ国同盟で公国を鎖国させようとしました。運良く失敗に終わりはしましたが、その作戦についても多くの国々に公表致しました。
現ビルワーツ当主アメリア様の夫ニール・ビルワーツを利用し、ビルワーツの財を私物化しようとした4カ国を、これ以上野放しにするわけには参りません」

「俺達がいなくなったら、この国がどうなるか⋯⋯王家の者がいない王国など⋯⋯」

「王家の血など流れておられませんのに、王家の者だなどと戯言としか聞こえません。王国である必要性などカケラもございませんが⋯⋯マクベス先王とキャロライン元王太子妃が大切にお育てになられ、真に国を思う忠臣に守られたタイラー第一王子殿下がおられます⋯⋯セドリック、ジェラルド、お願いします」

 エレーナの斜め後ろに控えていたセドリックとジェラルドが、隠蔽魔法を解除すると、タイラーとネルズ公爵の姿が現れた。

「先王が王太子に望まれた、王家の血を引く正当なる王位継承者、タイラー第一王子殿下であらせられます」



 貴族達がタイラーに向かって頭を下げるのを見たランドルフとエドワードが叫んだ。

「貴様、何しにここへ来た!」

「出ていけ、ここは貴様の来るところじゃない」

「あなたのような方と血が繋がっている事を心から残念に思いますが、マクベス先王と母上キャロラインの遺志を継ぎ、この国の立て直しに尽力したいと思います」

「な! なんだと⋯⋯今更、貴様にできる事など」

「先代のネルズ公爵や現当主のお陰で、政務について学び続けることができました。もちろん、足りないところはあるでしょう。ですが、酒に溺れ執務室に足を向けないランドルフ殿や、サインすら真面にできないエドワードよりも、やれる事はある。
先ずは腐敗した官僚の洗い出しと、議会の正常化に着手したいと思っています」

「じゃあ、わたくしの婚約者はタイラー殿下になるのね!」

 とんでもない発言が飛び出した。ソフィーには違法薬物の使用疑惑がかかっているのだが⋯⋯。

「謹んで辞退致します。既に婚約の儀は終わり、エドワードの正式な婚約者になっている。資格もなく王宮で贅沢三昧していたご令嬢達には、国庫への返済からはじめていただかねばなりません。ソフィー嬢は犯罪の幇助罪や薬物使用による罪が適用される見込みですし。何よりソフィー嬢のような下劣な品性の女性は好みません。複数の恋人がおられるようですし」

 どうやらソフィーが王太子妃になった暁には、新たな托卵騒動が起きるところだったらしい。

 アルムヘイル、托卵王国に改名の危機だった?





「国王不在によりわたしが摂政となる事をここに宣言します、異論のある者は今すぐ申し立てなさい」

 頭を下げていた貴族達がさらに深く頭を下げ、他国から来ていた招待客が拍手しはじめた。

「ふざけるな、何が摂政だ! そんな事が許されると思っているのか! 衛兵、その反逆者を捕えろ、切って捨てよ!!」

「お黙りなさいませ、動けばタダでは済みませんわ」

 タイラーの周りに結界と魔法障壁が重ねて張られ、セドリックとジェラルドが戦闘体制に入った。

「ランドルフ殿、大概にせよ。たかが3人だと侮っておるようだが⋯⋯弱り切って腐り果てたアルムヘイルが、我が国の魔導士に勝てると思わぬ方がよろしかろう。
タイラー殿を傷つける事など夢のまた夢。往生際が肝心だと心得よ」




 タイラーの初仕事は⋯⋯。

「皆の者、頭を上げて良い。まずは皇帝陛下、帝国としてのご返答をお聞かせ願いたい」

「⋯⋯ケネス第二皇子は蟄居謹慎の上、全ての罪を公にした後処罰致す。二度と口を開けぬように。余は一年の後、退位し皇太子にその座を譲る。一年の間に帝国の罪を暴き、正ししき罰を与えると約束しよう。
ケネスがエロイーズやランドルフに送っていたと同額を、タイラー殿が治めるアルムヘイル王国へ援助すると約束する。復活させたエロイーズの皇位継承権は再度剥奪し、エロイーズ・ランドルフ・エドワードへの処罰に、帝国は口を出さぬと改めてここで確約致す」

「兄上! 私を見捨てるおつもりか!」

「お兄様、助けて下さいませ!」

「約束を違えられませんよう。偽りがカケラでも見つかれば、以前のような泣き寝入りはしないとお伝えしておきます。
エロイーズ・ランドルフ・ジュリエッタ・エドワードは平民となり地下牢へ幽閉。如何なることが起きようと、罪の軽減や恩赦は行われん。逃亡を企てたり、手助けしようとする者がいた場合、即座に斬首せよ。
全ての罪を公にした後、マクベス先王の死に使用された毒物にて刑を執行。民のためには公で行わねばなるまい⋯⋯毒がその身を滅ぼす前に、公開にて火炙りとする。戦禍に倒れた兵士や民の気持ちを知る良い機会となるであろう。
ソフィー・ライエン並びにエロイーズ達に加担し、国を傾けた者も相応の処分が下されると覚悟せよ。
次に、クレベルン国王にお聞きしたい。ご返答は如何に」

「ハントリー侯爵は奪爵の上、斬首が相当であろう」

「ご自身に責はないと申されますか?」

「⋯⋯全てハントリーが致した事、世は何も知らなんだ」

「少なくとも、ランドルフの王位簒奪で国軍を動かされたのは、議会の決定が降りたはず。議長である陛下の裁定がなかったとは思われません。王の決断なく国軍が動いたと申されるのですか?」

「そ、それは⋯⋯」

「ハントリー侯爵の勝手を放置していた? 何も知らぬと申されますか? 集め終わっている証拠を全て明らかに致しましょう」

「⋯⋯辞める! 国王を降りる、それで良かろう!」

「連合王国国王並びにセルビアス族長クームラ殿如何なされますか?」

「11年前のことなどわしは知らん! クームラと公妾ダニアの責任じゃ」

「では、最近の犯罪についてなら覚えているでしょう。クラリスをここに呼んでくれるかい。セドリック、頼む」



 ほんの一瞬セドリックの姿が消えた気がした後、両手を拘束されたクラリスとライナスを連れたアレックスが現れた。

「おわ! 何ここ⋯⋯人がいっぱい⋯⋯わぁ」

 恐ろしさよりも興味の方が勝ったらしい。クラリスが口を半開きにして天井を見上げている。

「あれ、知ってる。シャンデレラって言うんでしょ。すごく綺麗!」

 シャンデリアだ⋯⋯とツッコミを入れる人はいない。クラリスの隣のライナスは床に座り込み、不貞腐れた顔でわざとらしい溜め息をついた。

「アレックス、これ外してよ! みんなが見てるじゃん。ねえ、お願い⋯⋯みんな綺麗なドレスで、超羨ましい」

 アレックスに飛びついたクラリスがアレックスを見上げて『お願い』と言った途端、手枷が鈍く点滅した。

「これが『魅了魔法もどき』です。本来の魔法とは違いますが、かけられた相手は通常の魅了魔法をかけられた時と同じ状態になります」

 見たこともないほど冷ややかな目つきのアレックスが、クラリスから距離をとりながら、周りに聞こえるように説明した。

「元々魔法を使えなかったクラリス⋯⋯本名ターニャに魔法属性を植え付けたのは、セルビアスの族長であり、呪術師のクームラに依頼された流れの魔女です。魔女の名前は『戦禍の魔女』
ターニャが使えるようになったのは、例えて言うなら人間の使う魔法と呪術の中間とも言えるものだと、別の魔女から聞きました。
一般的な魔法とも呪術とも違いますので、鑑定では出てこない非常に厄介な術です。手枷で発動を抑えていますので、ここにおられる方に影響が出る事はありません」

「さて、セルビアス族長クームラ殿、これに対する返答は?」

「知らん知らん知らん! こんな女など知らんわい! 流れの魔女とやらに騙されたんだろう。勝手にわしの名を使うなど、許してはおけん」

「では、自白魔法を使いましょう。各国でも犯罪者の取り調べでの使用は認められていますので、問題ないと思います」

 淡々と話すアレックスは、常に冷静で理論的に話す父親のラルフとよく似ていた。

(そうか⋯⋯これが血の繋がりってことなのね)

 エリオットからレイモンドやセレナに似たところがあると言われた時は、イメージがわかず曖昧に笑って誤魔化したが、少しだけ意味がわかった気がした。

(わたくしとアメリア様も似たところがあるのかしら⋯⋯)



「ま、魔法など信用できるものか! 自白魔法に見せかけて、おかしなことをするに違いない。わしを犯人に無理やり仕立て上げるためにな」

「その理論が通用するなら、犯罪者が全員喜ぶだろうな」

 自白魔法を使用した自白は、裁判の証言としても認められている。そのお陰で冤罪がなくなり、裁判自体も短縮された。











「いやはや、人間は相も変わらず、面倒だねえ」

 天井と床のちょうど真ん中くらいに浮かんでいるのは、クラリスの使う『魅了もどき』について教えてくれた魔女。

 紫の髪に緑のメッシュが入った奇抜な髪。青のローブと白い猫革で縁取られた黒い子羊の帽子。パールのネックレスと大きなポーチが付いた太いベルト。子牛の皮の靴と猫の皮の手袋。

 魔女が真鍮の糸巻棒を振るたびに、握りについた12個の宝石が光の筋を残して輝いた。

「アタシは『黎明の魔女』まあ、原初の魔女ってやつだね。セルビアスにいる魔女達とは違うから、間違わないでおくれよ。
あの子達は人間が迫害した、白魔女と呼ばれる民間の治療師や占い師の子孫。
で、問題の『戦禍の魔女』はアタシ達の仲間ではあったけど、争いやら揉め事が好きな、落ちこぼれのはみ出し者でね。なにより好きな金を貰って大好きな実験ができるって、そこの骸骨みたいな男⋯⋯クームラに誘われたんだよ。
塔から出られない、お偉いお方の願い叶える為⋯⋯だとさ。
魔法より呪術が凄いって言わせたいからって、魔女に頼んでちゃ本末転倒だよ。アタシらの使う魔法と人間が使う魔法は、全くの別物。もちろん呪術とも違ってる。
『戦禍の魔女』はアタシが罰を与えた」

 魔女の手に現れたのは小さなガラスの小瓶に入った『戦禍の魔女』

 ぐったりとガラスにもたれかかって、虚な目をしている。

「この魔女⋯⋯この女はもうなんの術も使えず、消えていくだけ。これが魔女の禁忌を侵した者の末路さ。
ターニャの命はあと僅かだ。ターニャの命が燃え尽きた時、そこにいるクームラとクームラに頼んだ女にその代償が降りかかる。
覚えておおき。本当の魔女の魔法は何よりも力があるが、対価が途轍もなく大きいってね」

 魔女に支払う対価とは⋯⋯恐れをなしたクームラが膝をついた。

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