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第五章

14.覚悟、ビルワーツと同じは良くないからね

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 思わぬカミングアウトをしたエレーナだったが、その後もローラ達はいつもと変わらず⋯⋯。

(いつかは話さなければと思っていたけど、受け入れてくださるなんて思いもしなかった。昔もループした人がいたって、エリオット様が教えてくださらなかったら、多分理解してはもらえなかったと思う。
ルーナ様と初めて出会ってから、オルシーニ家の人達に助けられてばかりで⋯⋯クラリスの事、なんとかしなくては。これ以上の迷惑はかけられないわ)

 クラリスが騒ぎを起こしても、ヘスターが愚かな行動をとっても、できれば関わりたくないと思っていた。ローラやアレックス達への関心がなくなりますようにと願うばかりで、積極的に何かしようなど思いもしなかったし、ターニャクラリスが魔法学園にきた理由やその先を、本気で考えようとしていなかった気がする。

 話し合いの場にはいるけれど極力口は出さない。たまたまなんてありえないけれど、関わるのは怖すぎる。

(過去が追いかけてきたんじゃない、わたくしが変えてしまった歴史が、元の歴史に戻ろうとしているわけがない⋯⋯消えたはず、変わったはずだと思いたかったから。
でも、わたくしがした事はビルワーツの詰めの甘さと同じで、中途半端に終わらせただけ。だから、過去が追いかけてきたんだわ)

 自分ならアルムヘイルの王宮に攻撃用魔導具を持って乗り込む⋯⋯偉そうに言い放ったくせにと、エレーナは苦笑いを浮かべた。

(やりはじめた事は最後まで⋯⋯よね)







 月曜日、決意を新たにしたエレーナはローラやアレックスと3人で馬車に乗り込んだ。

「ねえねえ、普通に学園に向かってるのって、なんか変じゃない?」

「学生だから当たり前だろ? ローラの勉強嫌いめ」

「もー、そうじゃなくてー」


 週末前にエレーナとエリオットから聞いた話は、ローラの中で消化中⋯⋯消化しきれていなかった。

「こんなに呑気にしてていいのかって事だよ~」

「それ以外に、今はできる事がないからね。俺達には学園でやらなきゃいけない事がある、勉強以外にも」

 準成人になってから『私』と言うようになっていたアレックスが、今朝から『俺』に戻ったのは大きな心境の変化があったのだろう。

「監視ね! クソデスとヘボターを見張るの」

「それもあるし、アイザック第二王子殿下もお守りしなくちゃ」

「うん、側近が下手こいたって何をしたのかちょっと楽しみ~。アイザックも王宮で暮らせばいいのに。そしたらミリアのちっちゃい頃の話とか教えてあげられるしね」

 ミリアが大好きなローラの本心は、ミリアが転移でこっそり帰って来た時に会いたいから。

 留学中のミリアはアイザックの婚約者だが、アイザックが魔法を学ぶ間オーレリアで一緒に過ごす事よりも、シェイラードを知る為の留学を選んだ⋯⋯と言うのが表向きの理由。



 アイザックの母は伯爵家出身の側妃だったが、母が生きていた頃からアイザックは離宮の片隅でひっそりと生きてきた。

 父王や兄である第一王子とは仲が良く、王妃も常に気を配り会いに来てくれる。離宮に住んでいるのは、王位に興味はないと貴族達に知らせる為で、アイザックにとってはかなり居心地の良い暮らしだった。


『アイザック殿下が発現者!? すぐにご挨拶に行かねば』

 それなのに⋯⋯魔力と魔法属性検査直後に、瞬く間に自称第二王子派が出来上がってしまった。

 それに反発したのは定番通り⋯⋯王妃の産んだ第一王子が、王太子間違いなしだと安心していた、自称第一王子派の者達。

『魔法が使える程度で、何を偉そうに!』



『王位につくのは第一王子殿下! 発現者など国のために尽くせばいいのだ』

『国外に出してはならん! オーレリアから教育者に来ていただこう。王太子教育もはじめねば』

 第一王子の為に、力だけ利用すればいいと考える第一王子派と、自分達の手駒として、アイザックを絶対に逃せないと言う第二王子派が、アイザック本人や王家の意向を無視して盛り上がってしまった。

 両派閥の一致した意見は⋯⋯。

『オーレリアの魔導士に匹敵する力は利用価値が高い』

 違いはアイザックの利用方法だけ。第一王子派は駒として使い潰したい、第二王子派は王に祭り上げたい。

 彼等が勝手に盛り上がる中、アイザックはこっそりとエリオットに手紙を出した⋯⋯王位に興味のない自分はオーレリアで魔法を学び、できる事なら魔導士として生きていきたいと。

 それをきっかけに、エリオットとアイザックが手紙のやり取りをはじめたが、それを目敏く見つけたミリアが⋯⋯何を思ったのか⋯⋯こっそりとアイザックに会いに行くようになってしまった。

 ミリアとアイザックの間には、次第に愛が芽生えたようで⋯⋯。

 シェイラードで発現者が出ると、12歳でオーレリアに留学するのが一般的だが、魔法は学ばせたいが国に戻ってこなくなっては一大事だ⋯⋯と言う貴族達のせいで、いつまで経ってもアイザックの留学が叶わない。


『お祖父様、このままではアイザックは魔法の勉強ができません。わたくしがシェイラードに行きます。所謂人質ですわ! わたくしが転移魔法を使えるとバレなければいいのです』


 紆余曲折の末、アイザックがオーレリアに留学すると同時に、ミリアがシェイラードに留学すると決まった。

 シェイラードの貴族達は『国王の孫が国にいれば、アイザック王子は必ず帰ってくるはず』だと、ミリアを丁重にもてなしているそう。

 ミリアの作戦勝ち。




 エレーナ達が乗った馬車は、エリオットが使う特殊仕様のタウンコーチで、いつもの馬車よりやや細めの4人掛けのもの。

 正面の高い位置に御者用のシートがあるタイプで、後方には従僕用のランブルシートが備わっている。御者の隣に1人とランブルシートに2人の護衛が乗り、警戒体制はマックス。もちろん、キャビンそのものにも防御系の魔法がフル装備されている。

「わたくしの予想が外れてるかもしれないし、まだ危険かどうかも分からないのに⋯⋯ここまで厳重にしなくても良いと思うんだけど」

 これから毎日付き合わされる護衛達に申し訳ない。

「仕方ないよ、これじゃなきゃ学園には行かせないって、陛下達が仰るんだから。俺もこの方がいいと思ってるしね」

 座席の下には剣や魔導具が積み込まれ、いつでも戦闘オーケーの完全武装で、もちろんエレーナ達3人は魔導具をフル装備。

 結界・転移・リフレクト・状態異常や毒無効・通信、位置情報が送られる魔導具まで身につけている。エリオットとレイチェルが喧々囂々けんけんごうごう騒ぎ立てて集められた魔導具達で、その中のいくつかは製造が秘匿された国王とその一家専用の物もある。



 その後ろに続いているのは、セドリックとジェラルドが乗っているもう一台の馬車。

 街でよく見かける2人掛けの屋根のないバルーシュで、後方に折りたたみ式の幌がついている。御者席は前方の高い位置に配され、御者の横に護衛が乗っているのが見えた。

「オープンタイプって寒そうだよね~」

「ええ、今はまだいいけど⋯⋯それに、学園に着いたら騒ぎにならないかしら」

 ジェラルド達がバルーシュを選んだのは、いざという時すぐに飛び出せるからで、気分はすっかり戦闘モードに入っている。

「いやー、王宮に泊まり込むとは思わなかったね。しかも、これからずっととか、超びっくりだよ~。ジェラルドの執着ヤバいじゃん」



 週末、エリオットを含めた7人で話し合いをした後、ジェラルドが王宮に部屋が欲しいと言い出した。

『陛下! 俺を王宮に泊めてください』

『却下だ、飢えた狼を生まれたての子羊の近くに行かせるわけにはいかん』

『では、セドリックもつけます』

『ますます却下だな。セドリックが真っ黒腹黒に変身したら手に負えん』

『では、アレックスもオマケで』

『却下だ、狼を増やしてどうする。狼同士の戦いを知ってるか? 縄張りを侵害する狼はな、相手が死ぬまで攻撃するんだ。それにお前、人が怖くないだろ?』

 狼の死亡原因のうち50%は狼同士の戦いによると言われている。人を襲う可能性があるのは、狂犬病にかかった狼や人を恐れなくなった狼⋯⋯閑話休題。

『無期限でエレーナの部屋の隣を希望します。アレックスとセドリックの3人で、エレーナの部屋を囲みます。あと、バルコニーはなしか、隣の部屋のバルコニーと繋がってる部屋⋯⋯あ、これは俺の魔法で繋げれば良いか』

『お前⋯⋯却下だと言うとるだろうが! 王宮内に不審な動きがあったら、俺かレイチェルの部屋に移動させる!』

『荷物、取ってきますね~。セドリック、行くぞ~。陛下、陛下の部屋は⋯⋯却下だ!』

『あのバカ、聞いちゃおらん。はぁ⋯⋯3バカの部屋の手配をしてやれ、ほっとくとエレーナの部屋の前に、3人分の毛布を並べそうだからな』





 学園の正門近くにある馬車回しに着くと、エレーナの予想通り生徒達が騒ぎはじめた。

「セドリック様とジェラルド様がバルーシュでいらっしゃったわ」
「あのお二人の事だから、また何かはじめられたのかも」
「お顔が見えやすくて⋯⋯」
「記録の魔導具どこ⋯⋯急がなくちゃ、最高のショットが⋯⋯」

 バルーシュから降りるセドリックとジェラルドを囲んだ生徒達が、一斉に口を開いた。

「何かありましたの?」

「いや、ちょっとした気分転換ってやつ」

 アレックスを先頭にローラとエレーナが馬車から降りると、騒ぎはますます大きくなっていった。

「これ、逆効果だよね」

「あいつらが目立ちすぎなんだよ。こんなに生徒が集まったら、不審者を見逃してしまうじゃないか。話し合いが必要だな」


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