92 / 135
第五章
06.芽が出て膨らんで、花が咲いたら⋯⋯
しおりを挟む
「相変わらずエレーナらぶだねえ。気持ちが届いてないのはウケるけど」
「うるせえ、まだまだ努力中。俺は頑張る、やればできる子。継続は力なりってね」
初めてエレーナに会った時からジェラルドは散々アピールしているが、エレーナに全く届いていないのは誰もが知っている。
セドリックは少し前から諦めたようで、ジェラルドを応援している気配がある。アレックスが婚約者を決めないのは多分まだ諦めていないからかも。
(アレックスはもう18なんだから、エレーナの事は諦めてくれないかなあ)
同じ王宮に暮らしているのはアレックスにとって有利に働いているが、戸籍上は叔母と甥になるのは不利のはず。
オルシーニ公爵家の嫡男との婚約はエレーナが『荷が重い』と言って断るだろうと言う希望的観測もある。
(そうじゃなくても、エレーナが結婚するまでは諦めない。俺はセドリックがいるから、無理に結婚する必要はないし。いくらでも待てる⋯⋯じいちゃんとばあちゃんになるまででも待てるもんな!)
気の短いジェラルドは気の長い計画を立てていた。
ヘスターの浮気(か心変わり)でやさぐれているローラにとって、ジェラルドの熱愛はちょっと羨ましい。
(ヘスターは全然ジェラルドみたいじゃなかったもんなあ。もしかして単なる幼馴染の延長だったのかも)
なんとかジェラルドを自分のクラスに帰らせて午前の授業を終わらせたが、授業の終わりと共にジェラルドが現れた。
「もうきたの? 早くない?」
「プリン奢るのやめようかなあ」
「あ、ずるいぞ! それは別の話じゃん」
ローラとジェラルドがプリンバトルをしている所にヘスターがやって来た。
「ローラ、ちょっといいかな?」
「よくないぞ~、俺はローラの護衛No.3で、エレーナの護衛No.1だからな。ヘスターとエレーナ達の接近禁止を指示されてるんだ」
「なんだよそれ! エレーナは関係ないし、ローラとは婚約してるんだぞ、接近禁止とかありえ「る! ほらほら、あそこを見ろよ『クソデス』が待ってるぞ。『ヘボター、早く来て~』ってな」
ジェラルドが指差した教室の後方の出入り口から、クラリスが顔を覗かせて小さく手を振っていた。
『よし! 勇気を出さなきゃ』
そんな声が聞こえた気がするクラリスの嘘臭い仕草に、ポーッとなっているのはヘスターのみ。男子生徒は危険回避だとばかりに教室の隅に逃げ、女子生徒も固まってクラリスの様子を伺っていた。
呆れ返っている生徒達の冷笑を応援する笑顔だと勘違いしたのか『ありがとう』と言いながら、少し顔を赤らめて教室に入ってきたクラリスが、ヘスターの腕にしがみついた。
「ヘスター、待ってたんだよ? あの、ジェラルド・キャンベル先輩ですよね。私、クラリ「ローラ、エレーナ行こうぜ。席取りを頼んどいたから食堂でセドリックが待ってる」」
どさくさに紛れてエレーナの手を掴んだジェラルドが、ローラの背を押しながら歩きはじめた。
「ローラ、話があるってば!」
「じゃあ、私達も一緒に行こう。ヘスターがローラと話してる間、私はジェラルド様と一緒にお喋りしてるから」
「ヘスターと話すことなんて何もない。婚約破棄するってお父様からグレンヴィル家に申し入れしてるから、さっさとサインしてよね。
そこの編入生さん、私はとっくにヘスターとは縁を切ったから。勘違いしておかしな噂を流したら訴えるからね」
ローラはクラス中に聞こえるように大きな声で『婚約破棄』を突きつけた。
「そんな大声で⋯⋯ヘスターが可哀想だわ。ジェラルド様もそう思いますよね。そういう話は別室とかでするものだわ」
「こういう事は早めに広めとかないと勘違いする奴が出てくるからな。ヘスターなら意味がわかるよな。『蕾くん』には分かんねえかな? 『お花畑』ならもう、脳みそスッカスカだし。さて、無駄な時間は終了! 飯だ飯だ!」
ジェラルドがローラやエレーナを連れて教室を出ると、関わりになりたくない生徒達が慌てて逃げ出し、教室に残ったのはヘスターとクラリスだけ。
「Aクラスも感じ悪~い。Cクラスのみんなもなんだか感じ悪くて馴染めないの。でもでも、上級生には優しそうな人がいるもんね。ジェラルド様はこの教室にいたから生徒会役員って事でしょ? アレックス様は生徒会長だし、ヘスターって生徒会に入ってないの?」
「⋯⋯生徒会は成績優秀者ばかりだから、俺なんて成績が悪すぎて入れないよ」
ヘスターはAクラスの中でも底辺をさすらっている。何度かBクラス落ちしかけたが、補習を受けたり再テストを受けてAクラスにしがみついているのが現状。
(それでもAクラスには変わりない。ローラだってAクラスの中では底辺だし)
「そっか、でもAクラスでグレンヴィル侯爵家の後継者なんだから、生徒会に入ってくださいって言ったら、入れてくれるんじゃないかなあ。私のいた学校では生徒会なんてなかったから興味があるの。あとで行ってみようね」
(生徒会に興味? 嘘つけ! アレックスやジェラルドに興味だろ? 俺は『蕾』でも『お花畑』でもない。学園に慣れるまで手伝ってあげてるだけだから⋯⋯困ってる人を助けてるだけなのに、ローラが大袈裟す⋯⋯)
「ねえ、お願い⋯⋯いいでしょ?」
「う⋯⋯うん、お嬢様のお⋯⋯お願いだも⋯⋯んな」
クラリスに下からじっと見つめられると、願いを叶えるのが正しいと思え、心が温かくなっていった。
「クラリスって可愛いと思う? あ、今日のシチュー美味しい」
「うーん、人によるんじゃないかな。ムニエルはイマイチかな。チキンにしておけば良かった」
「クラリスは間違いなく『ヒロイン』だろ? 近くにいて分かんなかった? あ、チキン取るなよ、あーもー」
「鑑定したけど⋯⋯魅了はなかった。ヘスターは弱い魅了状態になってたけどな。うん、やっぱこの食堂のチキンは最高だよな~。ハーブの配合に秘密があるって言ってた」
「弱い魅了であそこまでなるの? うわぁ、魅了って怖いねえ。はう! プリン様最強」
「この後、学園長に報告しておく。ヘスターは取り敢えず休学で、魔導塔の研究室送りだね。キャロットケーキの生クリーム添えもいける。エレーナも食べてごらんよ」
「で、エレーナは吐く気になった? クラリスが昔の知り合いだったり?」
「⋯⋯ 他人の空似や思い違いだとは思えないくらい似てるから、多分知ってる人だと思う。でも、学園で会ったのがたまたまなのか、目的があって来たのか分からないから、ちょっと悩んでる」
ループ前に何度も会ったあの顔は忘れられない。
(魔法が使えるようになったのよね⋯⋯アルムヘイルには魔法が使える人なんていなかったはずだし)
「あの女は魔導塔で魔法を調べ直しされるはずだな」
ヘスターが魅了にかかってるなら相手はクラリスしかいないはずだが、クラリスが魅了を使えなかった場合は、グレンヴィル侯爵家や関係者も調査される。
「げ! もしかしたら私とかも調べられるって事? 魔導塔なんて怖すぎだよ~」
魔導塔は変わり者⋯⋯研究者の集まりと言われている。強力な魔法や上位魔法が使えるよりも、新たな魔法を考案したい魔導士や、失われた魔法を復活させたい魔導士が集まり、寝食を忘れて怪しい研究に没頭している。
魔法学園時代に研究室を貰い、なんらかの成果を上げた者が学園の推薦を受けて入塔する。
現在、学園内で最も魔導塔に近いのは、セドリックとジェラルドだと言われているが、本人達は『好き勝手できなくなるから、絶対に嫌だ』と拒否している。
「婚約者だから可能性はあるけど、3ヶ月も会ってなかったんだから、聞き取り調査で終わるんじゃないか?」
「それなら⋯⋯魔導塔の奴に目をつけられたら研究材料にされちゃうもん。夜な夜な叫び声が聞こえるとか、身体の一部だけが捨てられてるとか⋯⋯むりむり。私は5体満足で新しい恋を探すんだからね!」
女は切り替えが早い⋯⋯レイチェルやライラの言葉を思い出したアレックスが苦笑いを浮かべた。
「クラリスは結果次第では退学だけど⋯⋯あの女の背後関係はどこが調べるんだ? ベラム男爵なんて聞いたこともないよな。辺境の男爵家なんて情報がなさすぎるだろ?」
「今のままなら学園が調査するんじゃないかな。グレンヴィル卿が申し立てすれば、国が調査に乗り出すことになると思う」
ラルフから少し話を聞かされているアレックスが答えた。
『クラリスが編入試験に合格したという事は、魅了が使えたとしても簡単には証明できない方法があるのかもしれん。そうなればグレンヴィル侯爵家は被疑者不明として、被害届を司法省に提出するはずだ。
学園内で絶対にローラを守れ。そばにいるエレーナも流れ弾に当たるかも⋯⋯クラリスがお前やジェラルドを狙いはじめたら、エレーナは確実に被弾する。十分に気をつけろ』
「グレンヴィル卿が学生時代の友人とどこの夜会で会ったのかも知りたい。グレンヴィル侯爵家を狙ったのか偶然なのか。司法省なら調べるはずだから、エレーナはそれを待つのが一番安全だと思う」
一番の策略家、セドリックの提案にエレーナは小さく頷いた。
(目立つのは得策じゃないもの。クラリスは『ヒロイン』確定みたいだし、アレックス達を狙っていた。わたくしが動き回れば、つけこむ隙にされてしまう)
「あ、きたきた。一丁前にエスコートしてる。似合わね~」
食堂の入り口に背を向けて座っているローラが、ジェラルドの言葉で振り返りかけて、アレックスに止められた。
「反応したら『ヒロイン』を喜ばせるだけだから。わざわざ舞台を作ってやる事はないよ」
定番の『睨まれた、怖~い』を封じておくと、ヒロインは次のステップの『陰に連れてかれて叩かれたの~』を発生させにくくなる。
歴代の『タイプ・ヒロイン』のやらかしは毎回同じような流れを進んでいく為、このような抵抗策が上級生から伝えられる。
「お、絡みにきたぞ。ローラ、笑顔!」
「うるせえ、まだまだ努力中。俺は頑張る、やればできる子。継続は力なりってね」
初めてエレーナに会った時からジェラルドは散々アピールしているが、エレーナに全く届いていないのは誰もが知っている。
セドリックは少し前から諦めたようで、ジェラルドを応援している気配がある。アレックスが婚約者を決めないのは多分まだ諦めていないからかも。
(アレックスはもう18なんだから、エレーナの事は諦めてくれないかなあ)
同じ王宮に暮らしているのはアレックスにとって有利に働いているが、戸籍上は叔母と甥になるのは不利のはず。
オルシーニ公爵家の嫡男との婚約はエレーナが『荷が重い』と言って断るだろうと言う希望的観測もある。
(そうじゃなくても、エレーナが結婚するまでは諦めない。俺はセドリックがいるから、無理に結婚する必要はないし。いくらでも待てる⋯⋯じいちゃんとばあちゃんになるまででも待てるもんな!)
気の短いジェラルドは気の長い計画を立てていた。
ヘスターの浮気(か心変わり)でやさぐれているローラにとって、ジェラルドの熱愛はちょっと羨ましい。
(ヘスターは全然ジェラルドみたいじゃなかったもんなあ。もしかして単なる幼馴染の延長だったのかも)
なんとかジェラルドを自分のクラスに帰らせて午前の授業を終わらせたが、授業の終わりと共にジェラルドが現れた。
「もうきたの? 早くない?」
「プリン奢るのやめようかなあ」
「あ、ずるいぞ! それは別の話じゃん」
ローラとジェラルドがプリンバトルをしている所にヘスターがやって来た。
「ローラ、ちょっといいかな?」
「よくないぞ~、俺はローラの護衛No.3で、エレーナの護衛No.1だからな。ヘスターとエレーナ達の接近禁止を指示されてるんだ」
「なんだよそれ! エレーナは関係ないし、ローラとは婚約してるんだぞ、接近禁止とかありえ「る! ほらほら、あそこを見ろよ『クソデス』が待ってるぞ。『ヘボター、早く来て~』ってな」
ジェラルドが指差した教室の後方の出入り口から、クラリスが顔を覗かせて小さく手を振っていた。
『よし! 勇気を出さなきゃ』
そんな声が聞こえた気がするクラリスの嘘臭い仕草に、ポーッとなっているのはヘスターのみ。男子生徒は危険回避だとばかりに教室の隅に逃げ、女子生徒も固まってクラリスの様子を伺っていた。
呆れ返っている生徒達の冷笑を応援する笑顔だと勘違いしたのか『ありがとう』と言いながら、少し顔を赤らめて教室に入ってきたクラリスが、ヘスターの腕にしがみついた。
「ヘスター、待ってたんだよ? あの、ジェラルド・キャンベル先輩ですよね。私、クラリ「ローラ、エレーナ行こうぜ。席取りを頼んどいたから食堂でセドリックが待ってる」」
どさくさに紛れてエレーナの手を掴んだジェラルドが、ローラの背を押しながら歩きはじめた。
「ローラ、話があるってば!」
「じゃあ、私達も一緒に行こう。ヘスターがローラと話してる間、私はジェラルド様と一緒にお喋りしてるから」
「ヘスターと話すことなんて何もない。婚約破棄するってお父様からグレンヴィル家に申し入れしてるから、さっさとサインしてよね。
そこの編入生さん、私はとっくにヘスターとは縁を切ったから。勘違いしておかしな噂を流したら訴えるからね」
ローラはクラス中に聞こえるように大きな声で『婚約破棄』を突きつけた。
「そんな大声で⋯⋯ヘスターが可哀想だわ。ジェラルド様もそう思いますよね。そういう話は別室とかでするものだわ」
「こういう事は早めに広めとかないと勘違いする奴が出てくるからな。ヘスターなら意味がわかるよな。『蕾くん』には分かんねえかな? 『お花畑』ならもう、脳みそスッカスカだし。さて、無駄な時間は終了! 飯だ飯だ!」
ジェラルドがローラやエレーナを連れて教室を出ると、関わりになりたくない生徒達が慌てて逃げ出し、教室に残ったのはヘスターとクラリスだけ。
「Aクラスも感じ悪~い。Cクラスのみんなもなんだか感じ悪くて馴染めないの。でもでも、上級生には優しそうな人がいるもんね。ジェラルド様はこの教室にいたから生徒会役員って事でしょ? アレックス様は生徒会長だし、ヘスターって生徒会に入ってないの?」
「⋯⋯生徒会は成績優秀者ばかりだから、俺なんて成績が悪すぎて入れないよ」
ヘスターはAクラスの中でも底辺をさすらっている。何度かBクラス落ちしかけたが、補習を受けたり再テストを受けてAクラスにしがみついているのが現状。
(それでもAクラスには変わりない。ローラだってAクラスの中では底辺だし)
「そっか、でもAクラスでグレンヴィル侯爵家の後継者なんだから、生徒会に入ってくださいって言ったら、入れてくれるんじゃないかなあ。私のいた学校では生徒会なんてなかったから興味があるの。あとで行ってみようね」
(生徒会に興味? 嘘つけ! アレックスやジェラルドに興味だろ? 俺は『蕾』でも『お花畑』でもない。学園に慣れるまで手伝ってあげてるだけだから⋯⋯困ってる人を助けてるだけなのに、ローラが大袈裟す⋯⋯)
「ねえ、お願い⋯⋯いいでしょ?」
「う⋯⋯うん、お嬢様のお⋯⋯お願いだも⋯⋯んな」
クラリスに下からじっと見つめられると、願いを叶えるのが正しいと思え、心が温かくなっていった。
「クラリスって可愛いと思う? あ、今日のシチュー美味しい」
「うーん、人によるんじゃないかな。ムニエルはイマイチかな。チキンにしておけば良かった」
「クラリスは間違いなく『ヒロイン』だろ? 近くにいて分かんなかった? あ、チキン取るなよ、あーもー」
「鑑定したけど⋯⋯魅了はなかった。ヘスターは弱い魅了状態になってたけどな。うん、やっぱこの食堂のチキンは最高だよな~。ハーブの配合に秘密があるって言ってた」
「弱い魅了であそこまでなるの? うわぁ、魅了って怖いねえ。はう! プリン様最強」
「この後、学園長に報告しておく。ヘスターは取り敢えず休学で、魔導塔の研究室送りだね。キャロットケーキの生クリーム添えもいける。エレーナも食べてごらんよ」
「で、エレーナは吐く気になった? クラリスが昔の知り合いだったり?」
「⋯⋯ 他人の空似や思い違いだとは思えないくらい似てるから、多分知ってる人だと思う。でも、学園で会ったのがたまたまなのか、目的があって来たのか分からないから、ちょっと悩んでる」
ループ前に何度も会ったあの顔は忘れられない。
(魔法が使えるようになったのよね⋯⋯アルムヘイルには魔法が使える人なんていなかったはずだし)
「あの女は魔導塔で魔法を調べ直しされるはずだな」
ヘスターが魅了にかかってるなら相手はクラリスしかいないはずだが、クラリスが魅了を使えなかった場合は、グレンヴィル侯爵家や関係者も調査される。
「げ! もしかしたら私とかも調べられるって事? 魔導塔なんて怖すぎだよ~」
魔導塔は変わり者⋯⋯研究者の集まりと言われている。強力な魔法や上位魔法が使えるよりも、新たな魔法を考案したい魔導士や、失われた魔法を復活させたい魔導士が集まり、寝食を忘れて怪しい研究に没頭している。
魔法学園時代に研究室を貰い、なんらかの成果を上げた者が学園の推薦を受けて入塔する。
現在、学園内で最も魔導塔に近いのは、セドリックとジェラルドだと言われているが、本人達は『好き勝手できなくなるから、絶対に嫌だ』と拒否している。
「婚約者だから可能性はあるけど、3ヶ月も会ってなかったんだから、聞き取り調査で終わるんじゃないか?」
「それなら⋯⋯魔導塔の奴に目をつけられたら研究材料にされちゃうもん。夜な夜な叫び声が聞こえるとか、身体の一部だけが捨てられてるとか⋯⋯むりむり。私は5体満足で新しい恋を探すんだからね!」
女は切り替えが早い⋯⋯レイチェルやライラの言葉を思い出したアレックスが苦笑いを浮かべた。
「クラリスは結果次第では退学だけど⋯⋯あの女の背後関係はどこが調べるんだ? ベラム男爵なんて聞いたこともないよな。辺境の男爵家なんて情報がなさすぎるだろ?」
「今のままなら学園が調査するんじゃないかな。グレンヴィル卿が申し立てすれば、国が調査に乗り出すことになると思う」
ラルフから少し話を聞かされているアレックスが答えた。
『クラリスが編入試験に合格したという事は、魅了が使えたとしても簡単には証明できない方法があるのかもしれん。そうなればグレンヴィル侯爵家は被疑者不明として、被害届を司法省に提出するはずだ。
学園内で絶対にローラを守れ。そばにいるエレーナも流れ弾に当たるかも⋯⋯クラリスがお前やジェラルドを狙いはじめたら、エレーナは確実に被弾する。十分に気をつけろ』
「グレンヴィル卿が学生時代の友人とどこの夜会で会ったのかも知りたい。グレンヴィル侯爵家を狙ったのか偶然なのか。司法省なら調べるはずだから、エレーナはそれを待つのが一番安全だと思う」
一番の策略家、セドリックの提案にエレーナは小さく頷いた。
(目立つのは得策じゃないもの。クラリスは『ヒロイン』確定みたいだし、アレックス達を狙っていた。わたくしが動き回れば、つけこむ隙にされてしまう)
「あ、きたきた。一丁前にエスコートしてる。似合わね~」
食堂の入り口に背を向けて座っているローラが、ジェラルドの言葉で振り返りかけて、アレックスに止められた。
「反応したら『ヒロイン』を喜ばせるだけだから。わざわざ舞台を作ってやる事はないよ」
定番の『睨まれた、怖~い』を封じておくと、ヒロインは次のステップの『陰に連れてかれて叩かれたの~』を発生させにくくなる。
歴代の『タイプ・ヒロイン』のやらかしは毎回同じような流れを進んでいく為、このような抵抗策が上級生から伝えられる。
「お、絡みにきたぞ。ローラ、笑顔!」
22
お気に入りに追加
1,109
あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと
淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品)
※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。
原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。
よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。
王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。
どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。
家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。
1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。
2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる)
3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。
4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。
5.お父様と弟の問題を解決する。
それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc.
リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。
ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう?
たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。
これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。
【注意点】
恋愛要素は弱め。
設定はかなりゆるめに作っています。
1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。
2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた
向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。
聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。
暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!?
一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話
彩伊
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。
しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。
彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。
............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。
招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。
送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。
そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。
『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』
一日一話
14話完結
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる