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第四章

42.この喋り方はすっご〜く疲れます

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「は! 親に向けて金食い「うーん、ミセス・ブラッツだったかなあ。ジャラジャラっておとがしてたしぃ」

「ブラッツが俺様の悪口を言うわけないだろ! あの女は俺様のお陰で侯爵家に雇⋯⋯兎に角、口を閉じてろ! 馬鹿げた事を言う教師や使用人はクビにしてやる。帰ったらお前はしっかりと躾けてやるからな」

「そうかぁ、ミセス・ブラッツって、おとうさまのおかげで、こうしゃくけ侯爵家で、はたらけるようになったのね。おとうさまとなかよしさんなのに、『おうりょう横領』するなんて⋯⋯ひどいひとねえ。
わあ! エレーナは、そういう『おはなし』をよんだことがあります! わるいことをするために、『ふくしんのぶか腹心の部下』とか『てした手下』をおうちにつれてくるのです。
ミセス・ブラッツは『おうりょう』してるってジェイクがいってたから、わるいひとでしょう? それなら、おとうさまもわるいひとなんですか?
そのあとは、えーっと、おとうさまもつかまって、しらべられちゃうんですね。えーっと、なんだっけ⋯⋯『しょうこいんめつ証拠隠滅』させないように? ろうにいれられちゃうなら『もうふ』をとどけてあげますね!
エレーナにはよくわからなくて、せんせいにいみをおしえてもらいました! うふふ、おべんきょうはたのしいです」

(ふう、疲れた⋯⋯この話し方は、二度としたくないわ。でもまあ、このくらい煽れば十分かしら。ジョーンズがニール様をこのまま拘束しようと思ってくれれば良いのだけど)



「ミセス・ブラッツが横領⋯⋯バ、バカな事を! アイツはアメリアの看病にきたはず。そうだよな⋯⋯⋯⋯おい、ジョーンズなんとか言え! アメリアは本当に仕事に復帰したのか? だったら、ブラッツは侯爵家に帰って来もせずに、ここで何をしているんだ?」

 落馬事故の事はブラッツから伝わっていても、その後の情報をニールは知らないはず。宮殿からの知らせでは、落馬事故が起きたが生命はとりとめた⋯⋯と言う話だけだったので、怪我の状態などは不明だった。

 ニールの最大の関心が現在のアメリアの容態なら、ブラッツと連絡が取れないまま数日を過ごし、結果を知りたくてたまらないはず。宮殿に来れば何か情報が仕入れられるかもしれないし、少なくともブラッツと会えるはずだと考えていたに違いない。

 それがダメでも、ジョーンズから情報を引き出せば⋯⋯と考えていたはずなのだから。

 侯爵家に立ち入りを禁止されているニールでは、ブラッツの部屋をエレーナ達が調べたことに気付けない。ニールの世話は外部の何も知らない者に一任し、侯爵家内で起きている事を知らせないようにしていたのだから、こっそり耳打ちしてくれる者もいないはず。

(ルーナやジェイクはニールと話もしていないはずだし、使用人達は外出を禁じられているんだもの)



「なんとなんと! ニールがあの横領女ブラッツを侯爵家に引き入れたのか! それは問題だぞ~。侯爵家に対してなんの権利も持たないはずの婿が、責任ある家政婦長の雇用に関与していた。しかも、そいつは侯爵家の後継者を虐待した中心人物で、後継者の予算を全て横領した犯人⋯⋯雇い入れた経緯から雇用中の状況まで、詳しく聞いてみないとなるまいなあ。
横領に関与していないとしても責任問題になるのは間違いない。ニールが横領に関与していないかどうか、ニールの親族も含めて、徹底的に調べてなくてはならんだろうなあ。少なくとも無罪にはなりえんし、これは現当主アメリアへの裏切り行為と捉えても差し支えあるまい。
ジョーンズ。お前もそう思うだろう?」

「確かに、そうなりますね。ニール殿には詳しくお話をお聞「待て待て! 待って下さい。た、確かに雇用に口を⋯⋯侯爵家の家政婦長に応募するよう勧めはしましたが、それだけで犯罪者扱いは酷すぎます! 雇われた後、ブラッツが何をしていたのか、俺は何も知らないんですからね。雇われた後、ブラッツが何をしていたのか知らないのに、責任問題とか理不尽です! 他国の王が口を出すなんて、越権行為ではありませんか!?」

「では、侯爵家の運営について、ジェイク共々任されている私が口を出すのは問題ないでしょう。ニール殿はご存知ないと思われますが、書類上は侯爵家執事を兼任しておりますので」

 執事に任命されたジェイクはまだ半人前だと思われていた為、ジョーンズは相談役のような立場で足りない知識を教えたり、判断に迷った時の補佐役に徹していたが⋯⋯。

「ニール殿は母屋への立ち入りを禁止されていますから、恐らくブラッツの方から離れに出向いたのでしょう。その時、どのような話をされていたのか、じっくりと聞かせていただかなくてはなりません。このまま宮殿内の客室に滞在していただきます」

(流石エリオット陛下ね。『アメリア様への裏切り行為』の一言で、ジョーンズにスイッチが入ったみたい)

「は? いや、そんな暇は⋯⋯突然ここに呼んでおいて帰さないとか。家に帰って荷物を取ってこないと、着の身着のままで飛んで来たんだから一度帰って「問題ございません。必要なものがあれば、すぐにご準備致します」」

 追い詰められたニールはまた爪を噛みはじめ、テーブルの上の書類に目を向けた。



「ブラッツが侯爵家に帰って来てない事を知っていたのですね? しかもブラッツが宮殿に来た事もご存知なら、『何をしていたか知らない』は通用しません」

「え、それは⋯⋯たまたま馬車が出るのを見かけたからで、急いで宮殿へ行くよう御者に指示をしていたからそうだろうと思っただけで⋯⋯。俺もちょうど出かけようとしていたからな」

「その説明では、ブラッツが帰っていないのを知っていた理由にはなりませんね」

「おとうさまは、どうしておかあさまが『けがをした』と、しってるのですか?」

「え? 俺はそんな事は言ってない」

「いえ、確かに言っていたわ。怪我で動けないままなんじゃなければ⋯⋯ってはっきりとね。それに、ブラッツがアメリアの看病をしてるとも。ニールがブラッツに指示を出したのか、ブラッツが言い出したのか⋯⋯どちらであっても、二人が親密に連絡を取り合ってるのは間違いないわね」

 レイチェルの参戦でますます追い詰められたニールは少しずつ身体を前に倒し、爪を噛みながら目線はテーブルに向いている気がする。

(何をしたいのかしら⋯⋯書類の内容を見たがっているとか?)



 ブラッツは横領犯として確定できるだけの証拠を見つけたが、ニールを確実に追い詰めるほどの証拠を見つけ切れているとは言えない。ブラッツの部屋から帳簿類を発掘してからほんの数日では、残念ながら調べきれていない物の方が多い。

 ブラッツが横領していたのは気付かなかった。娘の予算を増やしてやろうとしていただけで、その気持ちを悪用された⋯⋯と、ニールに切り抜けられたら、ビルワーツの甘さがニールをまた野放しにするかもしれない。

(そのせいでニール様に付き纏われるのだけは、阻止しなくては。アルムヘイルへわたくしを送った理由は分からないけれど、ニール様の力を削いでおけば未来は確実に変わるはず)



 ニールの登場で話がストップしているが、侯爵家を離れられるのは確実になり、数日後には離籍⋯⋯親権の取り上げの手続きも完了するはずだが⋯⋯。

 今週中に終わりそうだと言う裁判で、虐待は使用人が行ったとされてしまえば、親権を奪う為に提示できる理由は『放置』しかない。貴族家では幼い子供を使用人に任せるのは当たり前の事で、それが少し度が過ぎただけだと言い逃れる事もできる。

 アメリアに対しては直接虐待を行った使用人達の管理不足なども『養育義務を怠った』と問えるが、ニールは親権以外の権利を奪われているのを理由に『屋敷に入れないから知らなかった』『使用人には口を出せなかった』などと言い出し、親権の一部取り上げで良いとなるかもしれない。

(ビルワーツとわたくしの関わりがなくなれば、利用価値はないと思ってくれるかもしれないけれど、今度はオーレリアかオルシーニ公爵家との縁を利用しようと擦り寄ってくるかもしれないわ。
仮に親権の一部取り消しとなっても、ニール様の犯罪が証明されていれば、親権の全部取り消しに変えられるはず。横領したのは娘の予算ですもの、養育に問題ありとできるはずだわ)



 魔法大国オーレリアとの縁を望む国は多いが、成功している国は少ない。

 オーレリアは10年ごとに行われる選挙で最も強い魔導士が国王となる選挙制君主国家。エリオットは現オーレリア国王だが、オルシーニ公爵家当主でもある。

 魔導士としての力・オーレリアの国力や魔導士達・オルシーニ家の権力や財力。ニールや野心家達が欲しがりそうなものがいくつも思い浮かぶ。

(わたくしを助けようと思ってくださるオルシーニ家の方々や、オーレリアに迷惑をかけないよう最善を尽くさなくては)

 ニールとの縁を残さない為には、ニールはアメリアにとって害にしかならないとジョーンズ達に気付かせ、ニールの罪を確実に暴かせる。

 何も持たないニールにはエレーナをアルムヘイルへ送り込む事も、オーレリアに手を出す事もできなくなるのだから。



「さてと、俺達の話は終わってるから、帰るとするか。ジョーンズ、ニールやブラッツの件は徹底的に調べろよ。中途半端に終わらせたり温情をかけたりしたと判断した場合、オルシーニ公爵家としてそれなりの制裁を考えんとならなくなる。いや、オーレリア国王として公国は『信用に値せず』と判断せざるをえない事案だな。
次に会うのは裁判所になるだろうが、くだらん事を言って無駄な時間をかけるのはやめておけ」

「オルシーニ陛下? 裁判所とは⋯⋯まさか親権を取り上げるつもりじゃないですよね!? エレーナは俺の大切な一人娘です。屋敷に足を踏み入れるなとアメリアに言われたから会えませんでしたが、取り上げるなんて。
俺はこの国で⋯⋯侯爵家で酷い扱いをされているんです。エレーナを連れて行くと言うなら、俺も一緒に行きます。そうすれば、大切な娘との時間が作れるようになる!」

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