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第四章
35.ループ前とは違う道を
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「だったら、先ずは後見人になりましょう。数ヶ月様子を見て、お互いに納得できたら養子になるというのが良いんじゃないかしら」
「そうだな。それが一番いいかもしれん。先ずはオーレリアや俺達に慣れてもらわんとな。では、悪の巣窟に行くとするか」
ニヤリと笑って立ち上がったエリオットが、ごく自然にレイチェルに手を差し伸べた。
(なんだろう、これが仲良しって事かしら。わざとらしさとかがなくて⋯⋯まるで高名な画家の作品を見てるみたい)
ループ前には様々な絵画を見てきたが、困窮した貴族が税の代わりに持ち込んだ美術品を鑑定する為ばかりだった。
美しい筆使いや高度な陰影の手法は、値段に直結するから覚えた。有名な画家の作なのか贋作なのか、それを見分ける方法と凡その価格。
それを見極めてから専門家を呼ばなければ罵倒され、食事を抜かれるから覚えただけ。そのせいなのか絵画や彫刻などの美術品を見ても、どの程度の値打ちがあるかが頭に浮かぶだけで、美しさについてはよく分からない。
彫刻の材質・年代・テーマ・保存状態等々も査定する為の基本情報として覚えておかなければ、無理矢理連れて行かれた貴族の屋敷で大変な目に遭う。
値の付かない品に高い値段をつける貴族に騙されれば、その責任は全てエレーナが引き受けなくてはならないし、あやふやな理由で断れば、恫喝されるだけでなく暴力を振るわれる。
(王妃になっても態度は変わらなかったものね。でも、そのお陰で美術品の目利きは少し出来るようになったし。今世で役に立つとは思えないけど、今見た光景は絵画のように『美しい』って思えたわ)
「父ちゃんと母ちゃんってさ、極悪熊が美魔女を誑かそうとしてるようにしか見えないんだよね~。まさに美女と野獣!」
ルーナの意見は違うらしい。エリオットに頭を撫でられかけたルーナが、小さくなってエレーナの陰に隠れるのが面白すぎて、思わず吹き出しかけたエレーナは両手で口を押さえて俯いた。
「向こうには弁護士を送り込んでるから、離籍の話ははじまってるはず。ジョーンズ達の血管が何本切れているか⋯⋯いやぁ、すっごい楽しみだな!」
「話が難航するのは間違いないもんね~。どこまで粘ってるのか、何を言い出してるのか、超楽しみなんだけど~」
レイチェルも同意見らしく何も言わずに笑っている。手間をかけさせてしまう申し訳なさでエレーナが背中を丸めていると、レイチェルが肩を手を置いて顔を覗き込んだ。
「わたくし達に挨拶をしてくれた時のように、背を伸ばして堂々となさい。エレーナちゃんが離籍したいと望むのは正しい事なんだから、胸を張って捨ててやりなさい。
甘ったれのアメリアもお馬鹿な陰湿ニールも、エレーナの人生には必要ないって言ってやらなくてはね」
そう⋯⋯宮殿にはニールが呼ばれている可能性がある。
「この数日のエレーナの偉業はルーナから聞いたぞ。奴等はこれからエレーナの真価を思い知って、真っ青になるに違いない。思いっきり叩きのめしてやれ。いざという時は俺が控えてるからな」
「あら、わたくし達もおりますわ。くだらない事を言い募るなら氷漬けにしてやるつもりよ」
「わぉ、母ちゃんが本気になったら宮殿が丸ごと凍りつくじゃん。因みに父ちゃんがやったら燃え尽きる。アタシはあんまり役に立たないけど、転移は得意だから逃げるのは任せて!」
(オーレリアの国王は最も強い魔導士が選ばれるんだった。お二方ともそれだけのお力があるって事⋯⋯魔法ってすごすぎるわ)
一度だけ目にした巨大な宮殿を氷漬けや燃え尽くす力⋯⋯エレーナには想像もできなかったが、勇気をもらえたのは間違いない。
「宮殿へ向かいます。馬車の準備を」
侯爵家で一番大きな馬車を仕立てるようにエレーナが指示を出すと、部屋の外で待機していた侍女が心配そうに首を傾げた。
「畏まりました。ミセス・メイベルはまだ戻っておられませんので、わたくしがお供させていただきます」
「いいえ、供は不要です」
馬車の準備ができたと知らせに来た侍女は、エレーナやルーナと一緒にエリオットとレイチェルがいるのに気付いて真っ青になった。
「お越しとは存じませんで、大変失礼を致しました」
「構わん。転移で来てそのまま娘と話し込んでいたのでな。さて、宮殿に向かうとするか」
ギリギリまでエリオット達の存在を知らせなかったのは、使用人の誰かが宮殿に知らせに走るのを回避する為。ニールの手先が屋敷内にいるのも間違いないと睨んでいる。
ミセス・ブラッツは拘束されていると言っても、その子飼いの使用人達は屋敷から出るのを禁止しているだけで、野放しのままと言っても良い状態。
「あれ程大掛かりな横領をしでかしているなら、屋敷内に手伝っていた者がいないとは考えられん。それなのに使用人達をそのままにしているなど、オーレリアではありえん話だ」
「その辺にもビルワーツの甘えが出ていますわ。自分達は全てを制圧できる実力があると思っているのでしょう」
ビルワーツの財を狙う者達に一度も引けを取らなかった過去が自信となり、領地を守り抜いた侯爵家への過大な自尊心を育てた。
現状を調査する間、使用人達にある程度の自由を与える事も仕事をさせる事も問題ない⋯⋯自分達なら管理できる。
あのビルワーツ侯爵家の前当主に認められていた、優秀な使用人なのだから。
(上手の手から水が漏る⋯⋯過信は禁物なのに)
「どこの誰よりも裕福で武力も天下一品だと自惚れてるから、犯罪を犯した使用人如きどうとでもなると思ってるんだろうな」
「そのような気持ちがあるから、ニールなどと言う愚物を放置しているのですわ。あのような男など、さっさと切り捨ててしまえばよいのに」
「あれはあれで役に立っていたんだ。アメリアへの縁談の申し込みを減らす程度にはな」
「バカバカしい。それよりも害の方が大きいと思いますわ」
(アメリア様は興味がなかっただけじゃないかしら。不要だからとクローゼットの奥に押し込んだまま忘れている小物とか、着なくなって屋根裏部屋に片付けている古いドレスと同じ。
目に入らなければ気にもならないって)
意識のないアメリアが何を思いどう考えているのか分からないが、エレーナは離籍出来さえすればどうでもいいと思っている。
誰が考えてもニールが恨みの気持ちを募らせているのは分かるのに、それを放置していたのはアメリアの意思なのだから。
(そのせいでループ前は酷い目にあった⋯⋯。ニール様が何故わたくしをアルムヘイルの王宮に送ったのか分からないままだけれど、今世で起こらないのなら忘れてしまいましょう。
本当に離籍できるのなら、今後は何が起きようとわたくしには関係なくなるから)
まだ確定ではない。公国が何を言い出すのか、それによってエリオット達がどう考えるのか⋯⋯馬車の僅かな振動が自分の足の下に少しずつ罅を入れているようで、身体が芯まで冷たくなっていく。
(これは最初で最後のチャンスだと思う。ここで失敗したら未来は変えられない気がするわ)
エレーナはふと、アメリアの遺言状を思い出した。1通目の遺言状に『エレーナの親権』について何も記載されていなかったのは知っている。
(2通目にはわたくしの事を何か書いてくださっていたのかしら⋯⋯⋯⋯考えても仕方ない事だわ。何も書かれていないって、分かりきってるじゃない)
溜め息を飲み込んだエレーナは、カーテンの隙間からそっと外を覗き、無事に離籍できれば2度と見ることがない街の景色を目に焼き付けた。
買い物客や仕事中の若者の笑顔、その陰にみずみずしい果物や野菜がチラチラと見え隠れしている。
晴れ渡った空には秋の雲が浮かび、遠くの山の木々が色付きはじめている。
(これがアメリア様達が守っておられるもの⋯⋯わたくしのいない世界)
エレーナの頬を一筋の涙が流れるのに気付かないまま、馬車は整備された道を進んで行く。
(わたくしは⋯⋯お母様と呼んでみたかったのかも)
緩やかな坂を登り宮殿が間近に見えると、見ないふりをしていたルーナがエレーナの肩を抱き、そっとハンカチを差し出した。
(あ、泣い⋯⋯いいえ、これはわたくしではないわ。泣いていたのはループ前のエレーナだけなの。だって、今世のわたくしは家族など求めないと決めたのだから、泣いていいのは既に生命を奪われたエレーナだけ。
わたくしは強くなると決めたのだから⋯⋯泣いたりなんかしないはず⋯⋯だから、泣いてるはずはないの)
涙を拭き背を伸ばしたエレーナはまっすぐに前を向いた。辛い思いをしたのはループ前のエレーナで、今のエレーナとは別の記憶、別の人間。
(わたくしは強くなる。今はルーナ様やジェイクがいる。ルーナ様のご両親もわたくしなんかの為に時間を割いて来てくださっている。
数時間と言えど国を統べる方が席を離れるのがどれほど大変か、身をもって知っているわ。これほどの恩義に報いることなんてできるのかしら)
宮殿の正面で馬車が停まり、ステップが準備されている気配がする。
「さあ、気合を入れていくか」
「父ちゃん、めちゃめちゃ楽しんでるでしょ」
「当然だろ。何しろこんな可愛い娘を貰いにいくんだからな。奴等のやったことは生涯許せんが、エレーナを連れて行けるきっかけを作ったことだけは、褒めてやっても良いかもな」
「エレーナちゃんを手放さないって言ったら、同盟を破棄してやりましょう。そのくらいのお仕置きはしてやらなくてはね」
気落ちしているように見えた、エレーナの気持ちを軽くする為の冗談だと分かっていても、顔が引き攣ってしまう。
(公国はオーレリアありきの国だもの。もしそんなことになったら、あっという間に他国に蹂躙されてしまうわ)
レイチェルの言葉が本気だったと知るまでに後数時間⋯⋯。
「そうだな。それが一番いいかもしれん。先ずはオーレリアや俺達に慣れてもらわんとな。では、悪の巣窟に行くとするか」
ニヤリと笑って立ち上がったエリオットが、ごく自然にレイチェルに手を差し伸べた。
(なんだろう、これが仲良しって事かしら。わざとらしさとかがなくて⋯⋯まるで高名な画家の作品を見てるみたい)
ループ前には様々な絵画を見てきたが、困窮した貴族が税の代わりに持ち込んだ美術品を鑑定する為ばかりだった。
美しい筆使いや高度な陰影の手法は、値段に直結するから覚えた。有名な画家の作なのか贋作なのか、それを見分ける方法と凡その価格。
それを見極めてから専門家を呼ばなければ罵倒され、食事を抜かれるから覚えただけ。そのせいなのか絵画や彫刻などの美術品を見ても、どの程度の値打ちがあるかが頭に浮かぶだけで、美しさについてはよく分からない。
彫刻の材質・年代・テーマ・保存状態等々も査定する為の基本情報として覚えておかなければ、無理矢理連れて行かれた貴族の屋敷で大変な目に遭う。
値の付かない品に高い値段をつける貴族に騙されれば、その責任は全てエレーナが引き受けなくてはならないし、あやふやな理由で断れば、恫喝されるだけでなく暴力を振るわれる。
(王妃になっても態度は変わらなかったものね。でも、そのお陰で美術品の目利きは少し出来るようになったし。今世で役に立つとは思えないけど、今見た光景は絵画のように『美しい』って思えたわ)
「父ちゃんと母ちゃんってさ、極悪熊が美魔女を誑かそうとしてるようにしか見えないんだよね~。まさに美女と野獣!」
ルーナの意見は違うらしい。エリオットに頭を撫でられかけたルーナが、小さくなってエレーナの陰に隠れるのが面白すぎて、思わず吹き出しかけたエレーナは両手で口を押さえて俯いた。
「向こうには弁護士を送り込んでるから、離籍の話ははじまってるはず。ジョーンズ達の血管が何本切れているか⋯⋯いやぁ、すっごい楽しみだな!」
「話が難航するのは間違いないもんね~。どこまで粘ってるのか、何を言い出してるのか、超楽しみなんだけど~」
レイチェルも同意見らしく何も言わずに笑っている。手間をかけさせてしまう申し訳なさでエレーナが背中を丸めていると、レイチェルが肩を手を置いて顔を覗き込んだ。
「わたくし達に挨拶をしてくれた時のように、背を伸ばして堂々となさい。エレーナちゃんが離籍したいと望むのは正しい事なんだから、胸を張って捨ててやりなさい。
甘ったれのアメリアもお馬鹿な陰湿ニールも、エレーナの人生には必要ないって言ってやらなくてはね」
そう⋯⋯宮殿にはニールが呼ばれている可能性がある。
「この数日のエレーナの偉業はルーナから聞いたぞ。奴等はこれからエレーナの真価を思い知って、真っ青になるに違いない。思いっきり叩きのめしてやれ。いざという時は俺が控えてるからな」
「あら、わたくし達もおりますわ。くだらない事を言い募るなら氷漬けにしてやるつもりよ」
「わぉ、母ちゃんが本気になったら宮殿が丸ごと凍りつくじゃん。因みに父ちゃんがやったら燃え尽きる。アタシはあんまり役に立たないけど、転移は得意だから逃げるのは任せて!」
(オーレリアの国王は最も強い魔導士が選ばれるんだった。お二方ともそれだけのお力があるって事⋯⋯魔法ってすごすぎるわ)
一度だけ目にした巨大な宮殿を氷漬けや燃え尽くす力⋯⋯エレーナには想像もできなかったが、勇気をもらえたのは間違いない。
「宮殿へ向かいます。馬車の準備を」
侯爵家で一番大きな馬車を仕立てるようにエレーナが指示を出すと、部屋の外で待機していた侍女が心配そうに首を傾げた。
「畏まりました。ミセス・メイベルはまだ戻っておられませんので、わたくしがお供させていただきます」
「いいえ、供は不要です」
馬車の準備ができたと知らせに来た侍女は、エレーナやルーナと一緒にエリオットとレイチェルがいるのに気付いて真っ青になった。
「お越しとは存じませんで、大変失礼を致しました」
「構わん。転移で来てそのまま娘と話し込んでいたのでな。さて、宮殿に向かうとするか」
ギリギリまでエリオット達の存在を知らせなかったのは、使用人の誰かが宮殿に知らせに走るのを回避する為。ニールの手先が屋敷内にいるのも間違いないと睨んでいる。
ミセス・ブラッツは拘束されていると言っても、その子飼いの使用人達は屋敷から出るのを禁止しているだけで、野放しのままと言っても良い状態。
「あれ程大掛かりな横領をしでかしているなら、屋敷内に手伝っていた者がいないとは考えられん。それなのに使用人達をそのままにしているなど、オーレリアではありえん話だ」
「その辺にもビルワーツの甘えが出ていますわ。自分達は全てを制圧できる実力があると思っているのでしょう」
ビルワーツの財を狙う者達に一度も引けを取らなかった過去が自信となり、領地を守り抜いた侯爵家への過大な自尊心を育てた。
現状を調査する間、使用人達にある程度の自由を与える事も仕事をさせる事も問題ない⋯⋯自分達なら管理できる。
あのビルワーツ侯爵家の前当主に認められていた、優秀な使用人なのだから。
(上手の手から水が漏る⋯⋯過信は禁物なのに)
「どこの誰よりも裕福で武力も天下一品だと自惚れてるから、犯罪を犯した使用人如きどうとでもなると思ってるんだろうな」
「そのような気持ちがあるから、ニールなどと言う愚物を放置しているのですわ。あのような男など、さっさと切り捨ててしまえばよいのに」
「あれはあれで役に立っていたんだ。アメリアへの縁談の申し込みを減らす程度にはな」
「バカバカしい。それよりも害の方が大きいと思いますわ」
(アメリア様は興味がなかっただけじゃないかしら。不要だからとクローゼットの奥に押し込んだまま忘れている小物とか、着なくなって屋根裏部屋に片付けている古いドレスと同じ。
目に入らなければ気にもならないって)
意識のないアメリアが何を思いどう考えているのか分からないが、エレーナは離籍出来さえすればどうでもいいと思っている。
誰が考えてもニールが恨みの気持ちを募らせているのは分かるのに、それを放置していたのはアメリアの意思なのだから。
(そのせいでループ前は酷い目にあった⋯⋯。ニール様が何故わたくしをアルムヘイルの王宮に送ったのか分からないままだけれど、今世で起こらないのなら忘れてしまいましょう。
本当に離籍できるのなら、今後は何が起きようとわたくしには関係なくなるから)
まだ確定ではない。公国が何を言い出すのか、それによってエリオット達がどう考えるのか⋯⋯馬車の僅かな振動が自分の足の下に少しずつ罅を入れているようで、身体が芯まで冷たくなっていく。
(これは最初で最後のチャンスだと思う。ここで失敗したら未来は変えられない気がするわ)
エレーナはふと、アメリアの遺言状を思い出した。1通目の遺言状に『エレーナの親権』について何も記載されていなかったのは知っている。
(2通目にはわたくしの事を何か書いてくださっていたのかしら⋯⋯⋯⋯考えても仕方ない事だわ。何も書かれていないって、分かりきってるじゃない)
溜め息を飲み込んだエレーナは、カーテンの隙間からそっと外を覗き、無事に離籍できれば2度と見ることがない街の景色を目に焼き付けた。
買い物客や仕事中の若者の笑顔、その陰にみずみずしい果物や野菜がチラチラと見え隠れしている。
晴れ渡った空には秋の雲が浮かび、遠くの山の木々が色付きはじめている。
(これがアメリア様達が守っておられるもの⋯⋯わたくしのいない世界)
エレーナの頬を一筋の涙が流れるのに気付かないまま、馬車は整備された道を進んで行く。
(わたくしは⋯⋯お母様と呼んでみたかったのかも)
緩やかな坂を登り宮殿が間近に見えると、見ないふりをしていたルーナがエレーナの肩を抱き、そっとハンカチを差し出した。
(あ、泣い⋯⋯いいえ、これはわたくしではないわ。泣いていたのはループ前のエレーナだけなの。だって、今世のわたくしは家族など求めないと決めたのだから、泣いていいのは既に生命を奪われたエレーナだけ。
わたくしは強くなると決めたのだから⋯⋯泣いたりなんかしないはず⋯⋯だから、泣いてるはずはないの)
涙を拭き背を伸ばしたエレーナはまっすぐに前を向いた。辛い思いをしたのはループ前のエレーナで、今のエレーナとは別の記憶、別の人間。
(わたくしは強くなる。今はルーナ様やジェイクがいる。ルーナ様のご両親もわたくしなんかの為に時間を割いて来てくださっている。
数時間と言えど国を統べる方が席を離れるのがどれほど大変か、身をもって知っているわ。これほどの恩義に報いることなんてできるのかしら)
宮殿の正面で馬車が停まり、ステップが準備されている気配がする。
「さあ、気合を入れていくか」
「父ちゃん、めちゃめちゃ楽しんでるでしょ」
「当然だろ。何しろこんな可愛い娘を貰いにいくんだからな。奴等のやったことは生涯許せんが、エレーナを連れて行けるきっかけを作ったことだけは、褒めてやっても良いかもな」
「エレーナちゃんを手放さないって言ったら、同盟を破棄してやりましょう。そのくらいのお仕置きはしてやらなくてはね」
気落ちしているように見えた、エレーナの気持ちを軽くする為の冗談だと分かっていても、顔が引き攣ってしまう。
(公国はオーレリアありきの国だもの。もしそんなことになったら、あっという間に他国に蹂躙されてしまうわ)
レイチェルの言葉が本気だったと知るまでに後数時間⋯⋯。
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