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第四章
30.エレーナ初の後悔と反省。軌道修正しなくては
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「アメリア様はまだお目覚めではありませんし、宮殿内の方々は今まで以上に忙しくなられているはず。セルビアスの動向や侯爵家内部の揉め事もありますし、そのような時に街の観光をするのは不適切だと思います」
問題が解決するまで公国に留まるつもりはないと断言したエレーナの前で、ミセス・メイベルが諦めの溜め息を飲み込んだ。
エレーナに悪意を向けない人はルーナやジェイクが初めてで、今ではそこにミセス・メイベルも含まれている。警戒心や不安の方が大きいが、彼らが向けてくる感情に気付くたびにほんの少しソワソワする。
(多分だけど、これが『嬉しい』って気持ちだと思うの。わたくしの言葉を言葉通りに聞いてくれて、揚げ足を取ったり罠に嵌めようとしたりしない。どうやって貶めるか、どうやればより傷つけられるかを考えてばかりの人達とは違う。だからついうっかり失敗したのだけど⋯⋯)
ループ前の記憶が戻ってから初めて心に余裕ができたのか、エレーナは宮殿から侯爵家に戻ってきた後の自分の行動を後悔していた。
(ルーナ様とジェイクのそばにいて綻びはじめた心が、ミセス・メイベルに侵略戦争について話している内に一気に緩んで⋯⋯話し過ぎた気がするわ)
アメリアの落馬事故を防ぐ為にマーカスに直談判したのは、人の死を知っていながら放置できないと思った気持ちもあるが、大半はループ前の地獄を回避する為だった。アメリアが落馬事故で亡くなれば、ループ前と同じ暴言暴力に塗れた日々がはじまる⋯⋯落馬事故をなくさなければと焦って頭をフル回転させた。
そこまでは正しかったと思っているが、それ以降の事⋯⋯侯爵家の使用人達の問題や横領、アメリアの容態でさえ他人事としか思えないのに、何日も侯爵家に留まりアレコレと手を出してしまったのは、完全に余計な事だった。
(完全ではなかったけれどアメリア様は死を回避する事はできたから、1日も早くお元気になられれば良いな⋯⋯とは思ってる。でも、回復されるまでの間に何かしらの協力を申し出るつもりはないのに、ここに居座っていたなんて)
ループ前にアルムヘイルの政務を一手に引き受けていた事を考えると、手伝える事はいくつも思いつくが、ループした事を話し理解してもらえない限り、見た目5歳の幼児が役に立つとは誰も思わない。
(冷たいかもしれないけれど、アメリア様は心身共に大人でいらっしゃるのだし、支えてくれる人達が大勢いらっしゃるのだから、赤の他人に等しいわたくしはただの疫病神。
最善は⋯⋯アメリア様を見舞った後、ルーナ様と共にオーレリアに行く事だったんだわ。縁を切ると決めているわたくしが、侯爵家の事に口を出すべきではなかったのに。
それに、あまり深入りしてはセルビアスに目をつけられてしまうかも)
横領については侯爵家の問題で、侵略戦争に関してはルーナかオーレリア国王に伝えて終わりにすれば良かった。
公国だけでなくビルワーツ侯爵家とも袂を分つと決めているのに、つい余計な差し出口をしてしまった。
ミセス・ブラッツの悪事を暴けば、少し溜飲が下がる気がして口を挟んだのが間違いのひとつ。侵略戦争の事を思い出して、流石に放っておけないと口を出したのがふたつめの間違い。
(たまたま運よくルーナ様やジェイクが味方をしてくれたから、調子に乗っていたのかも。その上、真面に話を聞いてくれそうなミセス・メイベルが来て⋯⋯。ループ前も後も真面に話をできる人なんていなかったから、ルーナ様達と話している間に、冷静に状況を把握することを忘れて舞い上がってたのね。
どちらもわたくしの手に負える問題ではないと分かっているのだから、なるべく早く手を引かなくては)
侯爵家に帰って来た時エレーナに必要だったのは、僅かな着替えとループ前の記録を記したノートだけだった。
(ここ数日でやってしまった事は兎も角として、引き際だけは見極めなくては。宮殿でジョーンズに疑われた時のようになるのだけはお断りだもの。もしわたくしが口を出したとセルビアスに知られたら、あっという間に毒殺されるかも。
ループ前はバルコニーから突き落とされて殺されたけれど、今度は天寿をまっとうしたいわ)
「侯爵家に残されている歴史書を読みました。鉱山で得た財で他国や他領から領地を守り、領民の為に時計塔・天文台・学校・図書館などをお作りになられた。近年は病院などの医療機関も充実していると書かれていました」
ビルワーツ侯爵家にあった歴史書から読み取れたのは、どこよりも安定した暮らしぶりと、素晴らしい偉業を成し遂げた歴代の当主の逸話ばかりだった。
(ループ前に読んだことのあるアルムヘイルの歴史書には、ビルワーツ侯爵家は『逆賊』『守銭奴』などと書かれていたから、主体が変わるとこんなに歴史は変わるのかって感心したわ)
「公国とオーレリアの同盟も両国にとって素晴らしい結果を残していますし、今後の発展も楽しみにしています(二度と足を踏み入れるつもりはないけれど)」
ミセス・メイベルとジェイクには侯爵家の問題に加えて、セルビアスの動向やジョーンズ対策も丸投げするつもりでいる。少し罪悪感はあるが他に話ができそうな人は思いつかないので、『運が悪かった』と諦めてもらおうと思っている。
「魔力を元にする魔法や魔導具で大国になったオーレリアが、化学にも目を向けたと知った時は驚きました。過去の栄光や固定の概念にとらわれず、良いものを積極的に取り入れるのはとても難しい事ですが⋯⋯公国も見習うべきだと愚考しております」
今まで愚直にアメリアに従い、エレーナを放置してきたミセス・メイベルの後悔が言葉の端々から垣間見える。
「知らないことばかりなので、向こうに行ったら機会を見つけて色々勉強したいと思っています」
魔法と魔導具は魔力を動力源として現象を生み出し、化学は物質相互間の反応を研究して組成を操る。それらの存在は知っていても殆ど知識のない事ばかりなので、エレーナは仕事を見つけ次第図書館に駆け込む気満々でいる。
「アメリア様はまだお目覚めになられないと聞きましたが、早く良くなられると良いですね」
アメリアは積極的な技術者の受け入れや、研究施設の充実に力を入れている。最先端医療の情報収集の為には、忙しい合間を縫ってでも直接出向き、医療設備を整え薬草研究にも余念がないと言う。
(アメリア様は毒に侵されたお母様の死を防ぐことがお出来になられなかったから⋯⋯その後悔が医学の発展に繋がっているのだと思うの。悲しい出来事だけど、国の為に役立っているのは間違いないわ)
「エレーナ様は本当に⋯⋯不思議なほど博識でいらっしゃいますね」
「それは⋯⋯質問があると言う事かしら?」
たかが5歳の幼児がどうやってその知識を身につけたのか⋯⋯疑問に思うのは当然だろう。今まで聞かなかったことの方が不思議だとさえ思う。
聞かれても話す気はないが、ジョーンズのような疑惑を持っているのなら、用心する為に少しでも早く知らなければならない。ミセス・メイベルにはミセス・ブラッツとの対戦の後は、ジョーンズを含めた官僚達の尻も叩いてもらわなければならないのだから。
(わたくしの知る限りでは、それができるのはミセス・メイベルだけ)
今はまだ薄氷を踏む思いで進みはじめたばかりで、ほんの少しの失敗が最悪の事態を引き起こす可能性がある。エレーナの親権を持つアメリアの意識は戻らず、もう一人の親権者であるニールはエレーナに対して悪意しか持っていないはず。
(ニール様が親権をかざして、わたくしの行動や扱いに口を挟むつもりになられたら、異議を唱えられる人はいない。そうなる前に逃げ出さなくてはね)
ルーナやオーレリア国王がエレーナを助けると言っているが、完全に信用してはいない。
(わたくしを助けたところで、ルーナ様にもオーレリアにもなんの得にもならないんだもの。それを忘れてはいけないわ)
損得勘定を抜きにして誰かを助けようとする人など、エレーナは見たことがない。
人を救う医師や神官達でさえ、高額の給与と恵まれた待遇がなければ指一本動かさない。貴族や商人は己の利益のためならば、人を陥れ他者から全てを奪い、平然と悪事をひけらかす。
エレーナは今まで、そんな人しか見たことがなかった。
(わたくしの扱いが公になったとしても、他国の方の意見や判断がどう扱われるのか。今更のように『公国の王女だ』とか言い出せば⋯⋯公国の出方次第では、同盟国としての関係に罅を入れることになりかねないわ。国王として王女として、一人の幼女よりも国を守るべき。そうなればあっさりと切り捨てられるのは当然の事だもの。
人の善意に初めて触れた程度で大局を見失ったのは、自分の甘さと愚かさだわ。もっと気を引き締めてかからなくては)
かなりの情報を話したミセス・メイベルが、元執事ジョーンズのように『エレーナの知識の元』を探ろうとしはじめたら、離籍どころか出国さえ難しくなるだろう。
ジョーンズの時はルーナの助けで運良く逃れられたが、ミセス・メイベルならジョーンズを国の重責を担う宰相として立ち塞がらせるかもしれない。
(そんな事になれば時間がかかりすぎるし、オーレリアから切り捨てられる。形だけの王女と言う立場が足枷になりそうね)
セルビアスの兵はいないのかもしれないが、既にあちこちに潜んでいるかもしれない。少なくとも、敵がいないと判明するまでは細心の注意をしていなくては、寝首を掻かれてしまいかねない。
疑心暗鬼は人の心を弱くし疑問は不信感を生み出す。エレーナは気を引き締めてミセス・メイベルに向き直った。
(もしお互いの目指す方向が違っているなら、ここでハッキリさせなくては⋯⋯わたくしの事なんてただの疫病神だと考えて、屋敷に閉じ込めていたのだから、今更興味を持たれても迷惑だとしか思えないわ。
ループ前のように侵略戦争の計画が進行していても、今なら回避できる。公国にとってはその事とアメリア様のご容態が最優先のはず)
問題が解決するまで公国に留まるつもりはないと断言したエレーナの前で、ミセス・メイベルが諦めの溜め息を飲み込んだ。
エレーナに悪意を向けない人はルーナやジェイクが初めてで、今ではそこにミセス・メイベルも含まれている。警戒心や不安の方が大きいが、彼らが向けてくる感情に気付くたびにほんの少しソワソワする。
(多分だけど、これが『嬉しい』って気持ちだと思うの。わたくしの言葉を言葉通りに聞いてくれて、揚げ足を取ったり罠に嵌めようとしたりしない。どうやって貶めるか、どうやればより傷つけられるかを考えてばかりの人達とは違う。だからついうっかり失敗したのだけど⋯⋯)
ループ前の記憶が戻ってから初めて心に余裕ができたのか、エレーナは宮殿から侯爵家に戻ってきた後の自分の行動を後悔していた。
(ルーナ様とジェイクのそばにいて綻びはじめた心が、ミセス・メイベルに侵略戦争について話している内に一気に緩んで⋯⋯話し過ぎた気がするわ)
アメリアの落馬事故を防ぐ為にマーカスに直談判したのは、人の死を知っていながら放置できないと思った気持ちもあるが、大半はループ前の地獄を回避する為だった。アメリアが落馬事故で亡くなれば、ループ前と同じ暴言暴力に塗れた日々がはじまる⋯⋯落馬事故をなくさなければと焦って頭をフル回転させた。
そこまでは正しかったと思っているが、それ以降の事⋯⋯侯爵家の使用人達の問題や横領、アメリアの容態でさえ他人事としか思えないのに、何日も侯爵家に留まりアレコレと手を出してしまったのは、完全に余計な事だった。
(完全ではなかったけれどアメリア様は死を回避する事はできたから、1日も早くお元気になられれば良いな⋯⋯とは思ってる。でも、回復されるまでの間に何かしらの協力を申し出るつもりはないのに、ここに居座っていたなんて)
ループ前にアルムヘイルの政務を一手に引き受けていた事を考えると、手伝える事はいくつも思いつくが、ループした事を話し理解してもらえない限り、見た目5歳の幼児が役に立つとは誰も思わない。
(冷たいかもしれないけれど、アメリア様は心身共に大人でいらっしゃるのだし、支えてくれる人達が大勢いらっしゃるのだから、赤の他人に等しいわたくしはただの疫病神。
最善は⋯⋯アメリア様を見舞った後、ルーナ様と共にオーレリアに行く事だったんだわ。縁を切ると決めているわたくしが、侯爵家の事に口を出すべきではなかったのに。
それに、あまり深入りしてはセルビアスに目をつけられてしまうかも)
横領については侯爵家の問題で、侵略戦争に関してはルーナかオーレリア国王に伝えて終わりにすれば良かった。
公国だけでなくビルワーツ侯爵家とも袂を分つと決めているのに、つい余計な差し出口をしてしまった。
ミセス・ブラッツの悪事を暴けば、少し溜飲が下がる気がして口を挟んだのが間違いのひとつ。侵略戦争の事を思い出して、流石に放っておけないと口を出したのがふたつめの間違い。
(たまたま運よくルーナ様やジェイクが味方をしてくれたから、調子に乗っていたのかも。その上、真面に話を聞いてくれそうなミセス・メイベルが来て⋯⋯。ループ前も後も真面に話をできる人なんていなかったから、ルーナ様達と話している間に、冷静に状況を把握することを忘れて舞い上がってたのね。
どちらもわたくしの手に負える問題ではないと分かっているのだから、なるべく早く手を引かなくては)
侯爵家に帰って来た時エレーナに必要だったのは、僅かな着替えとループ前の記録を記したノートだけだった。
(ここ数日でやってしまった事は兎も角として、引き際だけは見極めなくては。宮殿でジョーンズに疑われた時のようになるのだけはお断りだもの。もしわたくしが口を出したとセルビアスに知られたら、あっという間に毒殺されるかも。
ループ前はバルコニーから突き落とされて殺されたけれど、今度は天寿をまっとうしたいわ)
「侯爵家に残されている歴史書を読みました。鉱山で得た財で他国や他領から領地を守り、領民の為に時計塔・天文台・学校・図書館などをお作りになられた。近年は病院などの医療機関も充実していると書かれていました」
ビルワーツ侯爵家にあった歴史書から読み取れたのは、どこよりも安定した暮らしぶりと、素晴らしい偉業を成し遂げた歴代の当主の逸話ばかりだった。
(ループ前に読んだことのあるアルムヘイルの歴史書には、ビルワーツ侯爵家は『逆賊』『守銭奴』などと書かれていたから、主体が変わるとこんなに歴史は変わるのかって感心したわ)
「公国とオーレリアの同盟も両国にとって素晴らしい結果を残していますし、今後の発展も楽しみにしています(二度と足を踏み入れるつもりはないけれど)」
ミセス・メイベルとジェイクには侯爵家の問題に加えて、セルビアスの動向やジョーンズ対策も丸投げするつもりでいる。少し罪悪感はあるが他に話ができそうな人は思いつかないので、『運が悪かった』と諦めてもらおうと思っている。
「魔力を元にする魔法や魔導具で大国になったオーレリアが、化学にも目を向けたと知った時は驚きました。過去の栄光や固定の概念にとらわれず、良いものを積極的に取り入れるのはとても難しい事ですが⋯⋯公国も見習うべきだと愚考しております」
今まで愚直にアメリアに従い、エレーナを放置してきたミセス・メイベルの後悔が言葉の端々から垣間見える。
「知らないことばかりなので、向こうに行ったら機会を見つけて色々勉強したいと思っています」
魔法と魔導具は魔力を動力源として現象を生み出し、化学は物質相互間の反応を研究して組成を操る。それらの存在は知っていても殆ど知識のない事ばかりなので、エレーナは仕事を見つけ次第図書館に駆け込む気満々でいる。
「アメリア様はまだお目覚めになられないと聞きましたが、早く良くなられると良いですね」
アメリアは積極的な技術者の受け入れや、研究施設の充実に力を入れている。最先端医療の情報収集の為には、忙しい合間を縫ってでも直接出向き、医療設備を整え薬草研究にも余念がないと言う。
(アメリア様は毒に侵されたお母様の死を防ぐことがお出来になられなかったから⋯⋯その後悔が医学の発展に繋がっているのだと思うの。悲しい出来事だけど、国の為に役立っているのは間違いないわ)
「エレーナ様は本当に⋯⋯不思議なほど博識でいらっしゃいますね」
「それは⋯⋯質問があると言う事かしら?」
たかが5歳の幼児がどうやってその知識を身につけたのか⋯⋯疑問に思うのは当然だろう。今まで聞かなかったことの方が不思議だとさえ思う。
聞かれても話す気はないが、ジョーンズのような疑惑を持っているのなら、用心する為に少しでも早く知らなければならない。ミセス・メイベルにはミセス・ブラッツとの対戦の後は、ジョーンズを含めた官僚達の尻も叩いてもらわなければならないのだから。
(わたくしの知る限りでは、それができるのはミセス・メイベルだけ)
今はまだ薄氷を踏む思いで進みはじめたばかりで、ほんの少しの失敗が最悪の事態を引き起こす可能性がある。エレーナの親権を持つアメリアの意識は戻らず、もう一人の親権者であるニールはエレーナに対して悪意しか持っていないはず。
(ニール様が親権をかざして、わたくしの行動や扱いに口を挟むつもりになられたら、異議を唱えられる人はいない。そうなる前に逃げ出さなくてはね)
ルーナやオーレリア国王がエレーナを助けると言っているが、完全に信用してはいない。
(わたくしを助けたところで、ルーナ様にもオーレリアにもなんの得にもならないんだもの。それを忘れてはいけないわ)
損得勘定を抜きにして誰かを助けようとする人など、エレーナは見たことがない。
人を救う医師や神官達でさえ、高額の給与と恵まれた待遇がなければ指一本動かさない。貴族や商人は己の利益のためならば、人を陥れ他者から全てを奪い、平然と悪事をひけらかす。
エレーナは今まで、そんな人しか見たことがなかった。
(わたくしの扱いが公になったとしても、他国の方の意見や判断がどう扱われるのか。今更のように『公国の王女だ』とか言い出せば⋯⋯公国の出方次第では、同盟国としての関係に罅を入れることになりかねないわ。国王として王女として、一人の幼女よりも国を守るべき。そうなればあっさりと切り捨てられるのは当然の事だもの。
人の善意に初めて触れた程度で大局を見失ったのは、自分の甘さと愚かさだわ。もっと気を引き締めてかからなくては)
かなりの情報を話したミセス・メイベルが、元執事ジョーンズのように『エレーナの知識の元』を探ろうとしはじめたら、離籍どころか出国さえ難しくなるだろう。
ジョーンズの時はルーナの助けで運良く逃れられたが、ミセス・メイベルならジョーンズを国の重責を担う宰相として立ち塞がらせるかもしれない。
(そんな事になれば時間がかかりすぎるし、オーレリアから切り捨てられる。形だけの王女と言う立場が足枷になりそうね)
セルビアスの兵はいないのかもしれないが、既にあちこちに潜んでいるかもしれない。少なくとも、敵がいないと判明するまでは細心の注意をしていなくては、寝首を掻かれてしまいかねない。
疑心暗鬼は人の心を弱くし疑問は不信感を生み出す。エレーナは気を引き締めてミセス・メイベルに向き直った。
(もしお互いの目指す方向が違っているなら、ここでハッキリさせなくては⋯⋯わたくしの事なんてただの疫病神だと考えて、屋敷に閉じ込めていたのだから、今更興味を持たれても迷惑だとしか思えないわ。
ループ前のように侵略戦争の計画が進行していても、今なら回避できる。公国にとってはその事とアメリア様のご容態が最優先のはず)
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