【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

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第四章

27.覚悟を決めて前に進みます

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「ミセス・ブラッツに会うなら、話ししておきたい事があります」

 ジョーンズのように『なぜ知っている!?』と騒ぎ立てるだけで終わるかも知れないが、アメリアの落馬事故と連合王国の侵略戦争について話す事に決めた。

 ループ前のエレーナが知っていた事実と、ループ後に見つけた証拠、そこから推測した現状について。

(ミセス・メイベルの態度が変われば、この国からすぐに逃げ出すだけのこと。
わたくしでは宮殿内に手が出せないのだから、マーカス様やジョーンズ達に意見できる人が必要だけど、わたくしが投げた賽を拾うのも捨てるのも自由。ジョーンズは投げ捨てたけれど、ミセス・メイベルはどうするかしら)

 ジェイクに『ミセス・メイベルに話をしてみよう』と言われた時は、怯えの方が先に立ち尻込みをしたが、味方がルーナとジェイクだけでは間に合わないと分かっている。

 ルーナはこの国の内政に干渉出来ない他国の王女で、ジョーンズの甥であるジェイクは『まだまだ未熟』だと侮られている。

 ミセス・メイベルなら先々代の当主から今までずっと、侯爵家やアメリアに仕えてきた実績と信頼関係がある。マーカス達に意見する強さも持ち合わせていそうで、仲間にできれば解決の糸口が掴めるだろう。

(恐れているだけでは何も変わらないわ)



「かなり時間がかかる話なので、昼食後にしましょう。忙しいのは知っているけれど、公国やアメリア様の為に手伝ってもらいたいの。仕立て屋と商人が来るまでは、執務室におります」

 頭を下げたミセス・メイベルと手を振るルーナを部屋に残し、エレーナは山のように積まれた資料と格闘しはじめた。

(さあ、午後の分も終わらせておかなくては)

 えーっと、まだスピードアップする?





(仕立て屋や商人との話は、執務より断然疲れるわ)

 昼前に大量の商品を抱えてやってきた彼等は⋯⋯。

 侯爵家に相応しい素材を使い、熟練の職人に仕立てさせると言い続ける仕立て屋と、特別な品を持ってきたと言いながら、近々入手予定の高級品の詳細を並べ立てる商人。

 エレーナだけでなくルーナも商談相手になりそうだと踏んだのか、2人を交互に見ながら、高級品ばかりを勧めてくるようになり、エレーナの我慢が限界を迎えた。

「⋯⋯でして、お嬢様方のお使「ミセス・メイベル、わたくしの指示はちゃんと伝えてあったのかしら?」」

「申し訳ございません、話の行き違いがあったようでございます」

 話の途中で強引に割り込んだエレーナが、厳しい声で家政婦長を叱責する様子と、深く頭を下げたミセス・メイベルの態度に、仕立て屋と商人が商品を手にしたまま固まってしまった。

(相手は子供だから、美しい品を見れば飛びつくはず⋯⋯だよな)

(あのミセス・メイベルが主人に叱責されたみたいに⋯⋯5歳の幼児相手だよ?)

 ソファにちょこんと座るエレーナは足が床についておらず、頼りなさげに見えていた。着ているドレスは上質だが、急いで仕立て直しした気配のある、かなりシンプルな物。

 これなら、話に聞いていたよりも、大量購入間違いなしだと張り切っていたのだが⋯⋯。



「華美な物や高価な品は不要、仕立てに時間がかかるものよりも、既製品をサイズ直しする方向で考えていると伝えたはずです。
伝達ミスがあったのであれば、ミセス・メイベルの責任かしら?
不要な品の売却については、どうなっていますの?」

「あ、は、はい。お聞きしております。この後、商品を見せていただき、査定する予定でおります」

「では、わたくしは席を外します。ミセス・メイベルが選んで声をかけた方々ですから、先程のわたくしの言葉に合う商品のみを、勧めてくれると信じておりますわ。
相手の意向を理解した上で、それに沿って商談を進めるのは商売の基本ですもの。
ルーナ様、参りましょう」

 買う側の意思を無視した商談を続ける気なら、二度と取引はしないし、お前らを選んで呼んだミセス・メイベルが責任を問われるぞ⋯⋯と言う貴族ならではの脅し方。

(高位貴族や上流階級の夫人しかできない高等テクニック⋯⋯流石ですわ、エレーナ様。やはりこの方は只者ではございません)



 エレーナ達が部屋を出た後、ミセス・メイベルにがっつり説教された仕立て屋達は、平身低頭で謝罪を繰り返し、相場より安い値で取引を終わらせた。

 その後、売却希望の品が未使用の最高級品で、今流行りのものばかりだと気付いて青褪めた。

(これをいらないって⋯⋯贅沢は不要ってこと? 流石、ビルワーツ侯爵家の後継者)

(ビルワーツは贅沢するより領地に還元する方々だった。最近の噂で誤解してたよ)

 ミセス・メイベルが呼んだ仕立て屋達は、侯爵家と長年商売をしている者達だが、侯爵家についてあまり外聞の良くない噂が、流れているのを知っていた。

『高級嗜好のお嬢様らしい』

『最新流行やら、希少価値のある品を買い漁ってる』

『ニール様の愛人宅で暴れたから、家具やらドレスやら大量に弁償する羽目になったって』

(噂なんて当てにならんな)




 昼食後の執務室では⋯⋯。

 エレーナとルーナがソファに並んで座り、ミセス・メイベルにもソファに座るよう声をかけたが、頑なに首を横に振って話をはじめられない。

「長くかかる可能性があるんで、ミセス・メイベルを見上げ続けてたら、エレーナ様の首が痛くなってしまうっす」

 渋々ソファに浅く腰掛けたミセス・メイベルは、物凄く居心地が悪そうな顔をしているが、エレーナが気になったのは⋯⋯。

「ジェイクは軍の様子を探りに行っていたはずなのに、どうしてここにいるのかしら?」

「えーっと、そうなんすけどぉ。なんか虫の知らせ? 仲間外れにされそうな予感がして、ちょっと戻ってきたっす。
いくつか情報も仕入れてきましたしね」

 他の使用人がいないと、少しずつ素に戻るようになりはじめたジェイクは、エレーナの前に少し甘いお茶を置きながら、ヘラヘラと笑って誤魔化そうとしている。

「⋯⋯では、ここで休憩していた時間分の仕事を準備しておくわ。夜、頑張って仕上げておく事」

「ヒェッっ! それは、ごめんなさい! この数日寝不足なんすよ、エレーナ様の仕事が早すぎて⋯⋯今でも俺の担当分が、溜まりまくりなんすから」

 ミセス・メイベルの隣に座り込んで、エレーナと目線を合わせたジェイクが、パチンと両手を合わせた。

 横領の証拠とチェック済みの裏帳簿は、ダミー会社やゴーストカンパニーの調査も含めて、既にミセス・メイベルの手に渡っている。

 ジェイクのところに残っているのは、領地関連の仕事の中で長い間保留になっていたものばかり。農地の境界線の問題や、移住者と先住者の習慣の違いによるトラブル、一時凌ぎの手を打っただけの害獣問題。

「大丈夫、早く終わらせたいって本気で思えば、少しずつ早くなるわ。時間が足りなければどんどん早くなるし。
さて、時間が勿体ないから話をはじめましょう」

 エレーナの表情にほんの少し緊張が走り、ルーナとジェイクが背筋を伸ばした

(ミセス・メイベルのアメリア様や侯爵家に対する忠誠心は信じられる。後は、疑問を解決する為に時間をかけるよりも、行動する方が先だと理解してもらうこと)

「途中で疑問が出てくるはずだけれど、質問や抗議は話を聞いてからにしてください。
アメリア様の落馬事故を、わたくしが前もってマーカス様に知らせた事は知っているかしら?」

 今、宮殿内で一番大きな問題に触れたからだろう、緊張していたミセス・メイベルが頷き、少し身じろぎをした。



「起きる前は純粋な事故だと思っていたのだけれど、実際にはそうではなかったと知って色々考えたの。犯人は誰なのか、何が狙いなのか。
当初の予定通りに、アメリア様のお命が失われていたら、次の王にはマーカス様が選ばれる予定だった。公国内は混乱しつつも前に向かって新王と共に進んでいくけれど、アメリア様の逝去から数えて半年後、連合王国が侵略戦争を仕掛けてくるの」

 ミセス・メイベルが『ひっ!』と息を飲み込んだ音が聞こえた。セルビアスの作戦と連合王国の動き、公国内で起きる不審な騒動の数々をエレーナが話すたびに、ミセス・メイベルの顔色が悪くなっていく。

「オーレリアが参戦を表明した直後に、連合王国は侵攻を止めて兵を引き上げた。
侵略戦争をはじめた理由は、大国の魔導士を後ろ盾に、傲慢な政策を推し進める公国への警告だった、と言って世論を味方につけた」

 国内にいると聞こえてこないが、ビルワーツの財を妬まれ、オーレリアとの関係を羨ましがられている上に、3つの国と国交を断絶し、連合王国に対しては関税の引き上げ等を行った公国は、他国から評判が悪い。

「今回、ミセス・ブラッツがニール様と組んで横領していた件を調べていて⋯⋯分かったことを繋ぎ合わせてみたの。
ニール様がアメリア様の事故から侵略戦争までの絵図を描いていて、ミセス・ブラッツはそれを知っている可能性があると予測しています」

 判明した事実を並べ、その推理に至った理由を述べていく。アメリアと侯爵家へ恨みを持つ国々、セルビアスの呪術師はオーレリアの魔法士もうらやんだ⋯⋯。

 公妾ダニアが王をそそのかしたのは、自分より地位も美しさも格上のアメリアが気に入らなかったのか。

「ニール様は左団扇で暮らせると期待しておられましたが、全ての権利を失い離れに追いやられました。離婚よりその待遇を選ばれたのは、ニール様ご本人。自業自得でしたのに」

「ニール様が関わっているかどうかは、推測に過ぎません。目の前の証拠がそう見せているだけの可能性もありますから。
一番の問題は、連合王国が侵略戦争に踏み切るかどうかです。
ルーナ様はオーレリアのお母様経由で公妾ダニアについて、ジェイクには、軍内部にセルビアスの兵が紛れ込んでいないかを調べてもらっています」

「わたくしにお話しくださったのは⋯⋯」

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