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第二章 育ったお花から採れた種
15.キャロライン嬢は予想とは違う方向に爆走中
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(わお! メロン級⋯⋯めちゃデカいじゃん!)
「アルムヘイル王国の輝く太陽、マクベス国王陛下にご挨拶申し上げます。キャロライン・ネルズでございます。本日はお時間をいただき心よりお礼申し上げます」
優雅なカーテシーを見せたキャロラインは、思っていたよりは柔らかい雰囲気の、やや怜悧な美人タイプ。ダークブロンドを緩く結い上げ、ダイヤモンドとエメラルドの髪飾りを留め付けている。抜けるような白い肌と濃いブルーの大きな目は、他国から嫁いで来た母親似。
女性らしいスタイルを包むのは、小花模様を散らした捺染布のドレス。
マクベスが座るソファの向いに腰掛けたキャロラインは、臆した様子もなくマクベスを真っ直ぐに見つめた。マクベスの後ろには、眉間に皺を寄せたマーチャント宰相と侍従長が立ち、出入り口のすぐ横にはメロンに釘付けだったデクスターが立った。
今回の話はできるだけ人に知られたくない為、護衛は部屋の外だけ。メイドもお茶を淹れ次第部屋を出て行った。
「ランドルフの醜聞を知っており、その上で婚約者候補になりたいと申したと聞いておる、それは真か?」
「はい、正確には婚約者ではなく公妾を望んでおります。わたくしは一度嫁いだ身でございますし、年もかなり上でございますから、王太子妃には相応しくないと思っております」
「ふむ⋯⋯で、本心は?」
マクベスの質問に、不満そうな顔や困ったような顔をするか、媚びを売ってくるかと思ったが、キャロラインは嬉しそうに微笑んだ。
「実は、結婚は懲り懲りだと思っておりますの。特に王家と縁を結べば、余程のことがない限り離縁はできないですし。公妾であれば⋯⋯ある程度生活を保証されて、政務の一角を担うことができます。
大きく変わりつつあるこの国で、僅かばかりでも何かできることがあれば、これ以上の幸せはないと考えております」
「王太子が公妾を持つなどあり得ん。そこまでして王家と縁を結びたいなど、裏があるとしか思えんしな」
話は終わったとばかりにマクベスが顔を後ろに向けて⋯⋯。
「マーチャント宰相、後は任せる」
「はい、ではこ「お待ちください! わたくし、本気で王国を守りたいと思っておりますの。だって、王国が立ち直る事が、セレナ様とアメリア様をお守りすることになりますもの! 推しを守る為には王国に立ち直っていただくしかないのです。その為にはわたくし、なんでも致す所存でございます」
「へ? い、意味が分からん」
キャロラインの迫力に、マクベスが少し顔を引き攣らせてのけぞり、マーチャント宰相は眉間に皺を寄せた。
マクベスは暴虐妃のせいで、押しの強い女性には拒否反応が出るようになり、側に近付くのを許しているのは侍女長のみ。周りから忖度されている事に本人はまだ気付いていない。
「わたくし、セレナ様を崇拝しておりますの! あのお方こそわたくしの⋯⋯いえ、全世界の宝ですわ! プラチナブロンドの輝きは神の光を帯び、女神を超えた美しい顔には慈愛の微笑みを浮かべ、声に至っては誠実さと包容力を乗せた音を奏でますわ! 完璧なスタイルと優雅で心を蕩かす所作。
それなのに、領地では荷馬車を自ら操り救援物資を運ぶ、己を顧みる事なく領民をお守りになる。
優しさと強さを兼ね備え、智慧と慧眼でビルワーツ侯爵閣下とともに歩まれ⋯⋯女性として妻として貴族として、ありとあらゆる方向から完璧な⋯⋯上品で優雅、控えるべき時と前に出る時を完璧に知る知性と判断力、冷静な思考と決断力に加え統率力もお持ちで、それを家族と領民の為惜しみなく使っておられる。これが推さなくていられましょうか!!
アメリア様はそのセレナ様を強化したようなご令嬢だと聞き、いてもたってもいられなくなりましたの!
ですから、わたくしは王家とセレナ様の間に立つ、架け橋になりたいと思ったのです。王国が立ち直ればセレナ様の暮らしに陰は忍び寄りませんでしょう?
推しを崇め守り抜く! わたくしの使命であり、存在意義はそれのみに特化しておりますの! 推し活こそ生きるパワー、推し活が出来なければ、この世に生を受けた意味などございません!
わたくしがもっと早く産まれていれば、セレナ様と親しくなれていたかも。もう少し遅く産まれていれば、アメリア様と一緒に学園に通えていたかも⋯⋯。
それが悔しくてなりませんの!! セレナ様はわ⋯⋯「キャロライン! お前のその態度、セレナ様に言いつけるぞ!」」
「はっ! も、も、申し訳ありません。おじ様⋯⋯ごめんなさい。セレナ様には言わないでぇ」
テーブルに両手をついて前のめりになり、暑苦しい推しへの愛を熱弁していたキャサリンが『プシュ~』と音を立てたかの如く、小さく身体を丸めた。
(これがキーワードと言うやつか。なんだか可愛く見えるな⋯⋯猪突猛進だが根は真っ直ぐな気がするし。推し活はよく分からんが、セレナへの愛に全振りなのは凄く⋯⋯面白い。うん、珍種の生物を見つけたみたいな気分だな)
自分の良さは何一つアピールしない、キャロラインの型破りな熱弁に好感を持ったマクベスは、久しぶりに肩の力が抜けたような気がした。そう、何年振りか記憶にないほど久しぶりの⋯⋯。
「陛下の御前で⋯⋯大変失礼致しました。わたくしの愛が溢れて⋯⋯でもでも、セレナ様を崇拝している気持ちに間違いはございませんの。
セレナ様のようになるのは諦めております。崇高すぎてわたくしにのような矮小な者には無理だとわかっておりますから⋯⋯ただ、じっとしていられなくて。
陛下の恩為に誠心誠意働くと誓わせていただきます。ほんの僅かでも陛下の御代の礎になりたいと、心から願っておりますの」
「推し活の為?」
「はい!」
「プハッ⋯⋯なんとも素直な⋯⋯」
デクスターの質問と、キャロラインの返事がツボに入ったようで、マクベスが声を上げて笑い出した。
(ああ、そうか⋯⋯ほんの少し⋯⋯ほんの少しだけ、リディに似ている。ここまで強烈じゃなかったが、リディがキラキラした目で『一緒に国を立て直したいの』と言ってた時の目だ。
アメリアの純粋で真っ直ぐな目と、キャロラインの希望を語る輝く目。
くるくると変わる表情が⋯⋯リディ)
ネルズ公爵はマーチャント伯爵家の夜会で、セレナにカンタータの蘊蓄を語ってくれた紳士。穏やかな性格で前国王が逝去した後、王妃派に苦言を呈し領地に籠った貴族の一人。議員としての務めは果たすが特に発言する事もなく、表向きはいつも中立を保っていた。
スプルースに目をつけた祖先が、耐久性が低く害虫被害に遭いやすいが、軽くて軟らかいため加工しやすく防水性に優れているという特性を活かして、楽器や家具を領の特産にした。
数は多くないが質の良い製品が作られている。
キャロラインを帰らせて執務室に移動したマクベス達は、大臣達を呼び話し合いの様子を語って聞かせた。
キャロラインの奇妙奇天烈な行動理由に唖然とした大臣達は『推し活って何?』と首を傾げるばかり。
(そうなるよな~、あれは本人から聞かないとイメージ湧きにくいもんなぁ)
「王太子に公妾か⋯⋯皆はどう思う?」
「公妾を持ってはならないとは定められていませんが、公には愛人の一人という認識になるでしょう。いずれにしても、子ができた場合庶子になりますから、国にとっての利は薄いですな。
何よりも、盛大にやらかした王太子が公妾や愛人を持つ事が公表されれば、新たな醜聞にしかならんでしょう」
公妾や愛人自体に忌避感がある法務大臣は大の愛妻家で、浮気する者イコール犯罪者だと考えている。
「推し活にしか興味がないキャロライン嬢なら、呼び方がどっちでも気にしないような気がしますね。あの強烈さなら、ジュリエッタ嬢の抑止力になりそうだし」
キャロラインの目標はともかくとして、決意の固さと押しの強さは、姑息なジュリエッタを押さえ込むのには役に立つ。
歯に衣着せぬ物言いをしていても、貴族令嬢としての気品はそこそこ残されていたし、一意専心な態度には嫌味がない。
「公妾となると正式に予算が計上され国政への関与も許されますが、愛人ではそれらの権利は認められません」
「王太子に公妾を許すのは議会が難色を示すと思われますし、混乱や非難が沸き起こるだけの気が致します」
財務大臣と国務大臣は顔を見合わせて頷いた。
「膿を出している最中で新しい爆弾を投下するのだけは避けたい。避けたいがジュリエッタ対策には有効そうだ。恐らくメアリーにも使える」
「提案させていただいても宜しいでしょうか」
否定的な意見が多い中で侍従長が声を上げた。
「キャロライン嬢が公妾を望まれるのは『離婚できない・離婚しにくい』の一点でございました。であれば、婚姻契約書に追記事項として『子を成した後は離婚の自由を認める』などを加えれば良いのではないかと。
王太子妃となればランドルフ殿下達の抑止力になりえますし、その資質は十分におありでしょう。キャロライン嬢のストッパーをマーチャント宰相にお任せすれば、セレナ様を相談役としなくとも済みそうです」
「そ、それは⋯⋯しかし⋯⋯」
マーチャント宰相が顔を引き攣らせた。
「ネルズ公爵を引っ張り出せるのは大きいですな」
ネルズ公爵はいまだ静観を続けており、国政には一切口を出さないが、国内に大きな派閥を持っている。彼が動けば、現在消極的な態度をとっている議員達も動きが良くなるはず。
「初婚ではないとしても、ネルズ公爵家なら持参金や化粧料がないと言うことはないでしょう。国庫への負担は少なく、ランドルフ殿下達の手綱を握ってくださるなら、それだけで良縁と言えるかもしれません」
「世間にはなんと発表する? 議員達に理解させる方法も考えねばならん」
「アルムヘイル王国の輝く太陽、マクベス国王陛下にご挨拶申し上げます。キャロライン・ネルズでございます。本日はお時間をいただき心よりお礼申し上げます」
優雅なカーテシーを見せたキャロラインは、思っていたよりは柔らかい雰囲気の、やや怜悧な美人タイプ。ダークブロンドを緩く結い上げ、ダイヤモンドとエメラルドの髪飾りを留め付けている。抜けるような白い肌と濃いブルーの大きな目は、他国から嫁いで来た母親似。
女性らしいスタイルを包むのは、小花模様を散らした捺染布のドレス。
マクベスが座るソファの向いに腰掛けたキャロラインは、臆した様子もなくマクベスを真っ直ぐに見つめた。マクベスの後ろには、眉間に皺を寄せたマーチャント宰相と侍従長が立ち、出入り口のすぐ横にはメロンに釘付けだったデクスターが立った。
今回の話はできるだけ人に知られたくない為、護衛は部屋の外だけ。メイドもお茶を淹れ次第部屋を出て行った。
「ランドルフの醜聞を知っており、その上で婚約者候補になりたいと申したと聞いておる、それは真か?」
「はい、正確には婚約者ではなく公妾を望んでおります。わたくしは一度嫁いだ身でございますし、年もかなり上でございますから、王太子妃には相応しくないと思っております」
「ふむ⋯⋯で、本心は?」
マクベスの質問に、不満そうな顔や困ったような顔をするか、媚びを売ってくるかと思ったが、キャロラインは嬉しそうに微笑んだ。
「実は、結婚は懲り懲りだと思っておりますの。特に王家と縁を結べば、余程のことがない限り離縁はできないですし。公妾であれば⋯⋯ある程度生活を保証されて、政務の一角を担うことができます。
大きく変わりつつあるこの国で、僅かばかりでも何かできることがあれば、これ以上の幸せはないと考えております」
「王太子が公妾を持つなどあり得ん。そこまでして王家と縁を結びたいなど、裏があるとしか思えんしな」
話は終わったとばかりにマクベスが顔を後ろに向けて⋯⋯。
「マーチャント宰相、後は任せる」
「はい、ではこ「お待ちください! わたくし、本気で王国を守りたいと思っておりますの。だって、王国が立ち直る事が、セレナ様とアメリア様をお守りすることになりますもの! 推しを守る為には王国に立ち直っていただくしかないのです。その為にはわたくし、なんでも致す所存でございます」
「へ? い、意味が分からん」
キャロラインの迫力に、マクベスが少し顔を引き攣らせてのけぞり、マーチャント宰相は眉間に皺を寄せた。
マクベスは暴虐妃のせいで、押しの強い女性には拒否反応が出るようになり、側に近付くのを許しているのは侍女長のみ。周りから忖度されている事に本人はまだ気付いていない。
「わたくし、セレナ様を崇拝しておりますの! あのお方こそわたくしの⋯⋯いえ、全世界の宝ですわ! プラチナブロンドの輝きは神の光を帯び、女神を超えた美しい顔には慈愛の微笑みを浮かべ、声に至っては誠実さと包容力を乗せた音を奏でますわ! 完璧なスタイルと優雅で心を蕩かす所作。
それなのに、領地では荷馬車を自ら操り救援物資を運ぶ、己を顧みる事なく領民をお守りになる。
優しさと強さを兼ね備え、智慧と慧眼でビルワーツ侯爵閣下とともに歩まれ⋯⋯女性として妻として貴族として、ありとあらゆる方向から完璧な⋯⋯上品で優雅、控えるべき時と前に出る時を完璧に知る知性と判断力、冷静な思考と決断力に加え統率力もお持ちで、それを家族と領民の為惜しみなく使っておられる。これが推さなくていられましょうか!!
アメリア様はそのセレナ様を強化したようなご令嬢だと聞き、いてもたってもいられなくなりましたの!
ですから、わたくしは王家とセレナ様の間に立つ、架け橋になりたいと思ったのです。王国が立ち直ればセレナ様の暮らしに陰は忍び寄りませんでしょう?
推しを崇め守り抜く! わたくしの使命であり、存在意義はそれのみに特化しておりますの! 推し活こそ生きるパワー、推し活が出来なければ、この世に生を受けた意味などございません!
わたくしがもっと早く産まれていれば、セレナ様と親しくなれていたかも。もう少し遅く産まれていれば、アメリア様と一緒に学園に通えていたかも⋯⋯。
それが悔しくてなりませんの!! セレナ様はわ⋯⋯「キャロライン! お前のその態度、セレナ様に言いつけるぞ!」」
「はっ! も、も、申し訳ありません。おじ様⋯⋯ごめんなさい。セレナ様には言わないでぇ」
テーブルに両手をついて前のめりになり、暑苦しい推しへの愛を熱弁していたキャサリンが『プシュ~』と音を立てたかの如く、小さく身体を丸めた。
(これがキーワードと言うやつか。なんだか可愛く見えるな⋯⋯猪突猛進だが根は真っ直ぐな気がするし。推し活はよく分からんが、セレナへの愛に全振りなのは凄く⋯⋯面白い。うん、珍種の生物を見つけたみたいな気分だな)
自分の良さは何一つアピールしない、キャロラインの型破りな熱弁に好感を持ったマクベスは、久しぶりに肩の力が抜けたような気がした。そう、何年振りか記憶にないほど久しぶりの⋯⋯。
「陛下の御前で⋯⋯大変失礼致しました。わたくしの愛が溢れて⋯⋯でもでも、セレナ様を崇拝している気持ちに間違いはございませんの。
セレナ様のようになるのは諦めております。崇高すぎてわたくしにのような矮小な者には無理だとわかっておりますから⋯⋯ただ、じっとしていられなくて。
陛下の恩為に誠心誠意働くと誓わせていただきます。ほんの僅かでも陛下の御代の礎になりたいと、心から願っておりますの」
「推し活の為?」
「はい!」
「プハッ⋯⋯なんとも素直な⋯⋯」
デクスターの質問と、キャロラインの返事がツボに入ったようで、マクベスが声を上げて笑い出した。
(ああ、そうか⋯⋯ほんの少し⋯⋯ほんの少しだけ、リディに似ている。ここまで強烈じゃなかったが、リディがキラキラした目で『一緒に国を立て直したいの』と言ってた時の目だ。
アメリアの純粋で真っ直ぐな目と、キャロラインの希望を語る輝く目。
くるくると変わる表情が⋯⋯リディ)
ネルズ公爵はマーチャント伯爵家の夜会で、セレナにカンタータの蘊蓄を語ってくれた紳士。穏やかな性格で前国王が逝去した後、王妃派に苦言を呈し領地に籠った貴族の一人。議員としての務めは果たすが特に発言する事もなく、表向きはいつも中立を保っていた。
スプルースに目をつけた祖先が、耐久性が低く害虫被害に遭いやすいが、軽くて軟らかいため加工しやすく防水性に優れているという特性を活かして、楽器や家具を領の特産にした。
数は多くないが質の良い製品が作られている。
キャロラインを帰らせて執務室に移動したマクベス達は、大臣達を呼び話し合いの様子を語って聞かせた。
キャロラインの奇妙奇天烈な行動理由に唖然とした大臣達は『推し活って何?』と首を傾げるばかり。
(そうなるよな~、あれは本人から聞かないとイメージ湧きにくいもんなぁ)
「王太子に公妾か⋯⋯皆はどう思う?」
「公妾を持ってはならないとは定められていませんが、公には愛人の一人という認識になるでしょう。いずれにしても、子ができた場合庶子になりますから、国にとっての利は薄いですな。
何よりも、盛大にやらかした王太子が公妾や愛人を持つ事が公表されれば、新たな醜聞にしかならんでしょう」
公妾や愛人自体に忌避感がある法務大臣は大の愛妻家で、浮気する者イコール犯罪者だと考えている。
「推し活にしか興味がないキャロライン嬢なら、呼び方がどっちでも気にしないような気がしますね。あの強烈さなら、ジュリエッタ嬢の抑止力になりそうだし」
キャロラインの目標はともかくとして、決意の固さと押しの強さは、姑息なジュリエッタを押さえ込むのには役に立つ。
歯に衣着せぬ物言いをしていても、貴族令嬢としての気品はそこそこ残されていたし、一意専心な態度には嫌味がない。
「公妾となると正式に予算が計上され国政への関与も許されますが、愛人ではそれらの権利は認められません」
「王太子に公妾を許すのは議会が難色を示すと思われますし、混乱や非難が沸き起こるだけの気が致します」
財務大臣と国務大臣は顔を見合わせて頷いた。
「膿を出している最中で新しい爆弾を投下するのだけは避けたい。避けたいがジュリエッタ対策には有効そうだ。恐らくメアリーにも使える」
「提案させていただいても宜しいでしょうか」
否定的な意見が多い中で侍従長が声を上げた。
「キャロライン嬢が公妾を望まれるのは『離婚できない・離婚しにくい』の一点でございました。であれば、婚姻契約書に追記事項として『子を成した後は離婚の自由を認める』などを加えれば良いのではないかと。
王太子妃となればランドルフ殿下達の抑止力になりえますし、その資質は十分におありでしょう。キャロライン嬢のストッパーをマーチャント宰相にお任せすれば、セレナ様を相談役としなくとも済みそうです」
「そ、それは⋯⋯しかし⋯⋯」
マーチャント宰相が顔を引き攣らせた。
「ネルズ公爵を引っ張り出せるのは大きいですな」
ネルズ公爵はいまだ静観を続けており、国政には一切口を出さないが、国内に大きな派閥を持っている。彼が動けば、現在消極的な態度をとっている議員達も動きが良くなるはず。
「初婚ではないとしても、ネルズ公爵家なら持参金や化粧料がないと言うことはないでしょう。国庫への負担は少なく、ランドルフ殿下達の手綱を握ってくださるなら、それだけで良縁と言えるかもしれません」
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