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第二章 育ったお花から採れた種
08.我慢できなかった人達が参戦
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「兵を準備しているとすれば、玉座を狙っている証拠ではありませんか! 今まで通り我らにお任せくだれば、即座に大罪人の首を刎ね、ビルワーツ領を王領にしてご覧に入れます」
「確かに⋯⋯兵を連れてきたとすれば、謀反を計画していたと言われても仕方ありませんな」
「いや、領地から出てくる時の護衛として、数人連れているのは当たり前だぞ?」
「王都に入り込んで、既に計画が実行されているのかも知れませんぞ」
「愚か者め! ビルワーツが謀反を企てるならは、とうの昔にやっておるわ。かつての婚約破棄騒動の結末は覚えておるはず。侯爵領と侯爵の妹リディア嬢への仕打ち⋯⋯あれほどの目に遭いながらも矛を納めてくれた、ビルワーツ侯爵家の忠信を疑う者は前に出よ! 余が直々に引導を渡してくれる!!」
「矛を収めたと申されますが、ビルワーツはあの時多くの権利をもぎ取ったではありませんか! 内容は王国の臣下としてあり得ないものばかり。忠臣どころか、逆賊と罵られて当然だと誰もが思っております! 陛下との婚約破棄で利を得たのは、ビルワーツ侯爵家だったのは間違いありません」
宰相が大声で叫び、したり顔で頷く法務大臣を見てニヤリと口角を上げた。
(この流れで押せば、陛下など恐るるに足らん。この場を有耶無耶にして、エロイーズ王妃を部屋から出せば、俺様の勝ちだな。婚姻前契約書の追記なんぞ、適当に理由をつけて無効にしてやる)
「王都には我ら騎士団がおり、王宮には衛兵もおります! 長年に渡り国を守る為に、粉骨砕身で職務に励んでいた彼等より、田舎で悠々と暮らしていた奴等を信用すると申されるのであれば、黙って従う事などできません! 我が剣にかけて、騎士団の名誉を守り抜きますぞ!」
第一騎士団団長と第二騎士団団長が、腰に下げた剣に手をかけた。
王国騎士団が国を守っていると言っても、貧困故に他国から侵略される可能性はなく、衛兵は国としての体裁と、王妃達の自己満足の為に存在を許されていたようなもの。
団長クラスの者は、華美な武器や防具を身につけているが、殆どの団員は予算不足で武器や防具は古びた二級品ばかり。士気は低く訓練不足のないない尽くし。
ビルワーツ侯爵領は、隣国と接する辺境に位置しているため、自軍の所有を認められており兵の練度は折り紙つき。その上リディア嬢の一件以来警備を強化している。
城と街を警護するだけで、満足している騎士団とは雲泥の違いがあると、騎士団団長でさえ気付いていない。
「田舎で悠々と暮らしておると申すか? 其方は辺境の重要性と、ビルワーツ領を理解しておらぬようじゃのう。国を守る騎士団の団長が辺境を守る兵士の練度を知らぬとは⋯⋯よいか、よくよく考えてみよ。
我が国だけでなく、他国からも狙われておるビルワーツ領の鉱山は、隣国との国境近くに位置しておる。団長、これがどういう意味か説明してみよ」
「えっ、えーっと⋯⋯それは、輸出しやすいとか」
「恐れながら発言の許可を」
我慢できなくなったマーチャント伯爵が一歩前に出た。
「許す」
「外務大臣を務めている経験から申し上げます。ビルワーツ侯爵領と接している国は、ディクセン・トリアリア連合王国です。
詳細は省きますが、この国の最大の特徴は国王自由選挙⋯⋯ 国王を決定する選挙が行われる王政だという事です。貴族が投票を行い、最終的に召集議会によって承認された者が国王となる。選ばれた国王によって政策は大きく様変わりしますし、王の在位期間も大変短い。
ビルワーツ侯爵家では、その状況に合わせた対応が求められます。なにしろ武力重視の部族から王が選ばれた場合、『即侵略開始』となる場合があり気が抜けません。
そのような状況下でも一度も侵略を許さず、全て水際で押し留めておられるビルワーツ卿の手腕は素晴らしく、兵も強者揃い。
侯爵家の兵だけで帝国に勝てるなどとは申しませんが、皇帝に物申す勇気のない腑抜けではなく、戦いを望む事は国益を損なうと配慮され、矛を収められた。
契約内容も困窮する王国への配慮があったと思っております」
「選挙制で?」
「その度に政策が変わる可能性がある国なんて、怖すぎて交流できんぞ?」
他国の情勢に疎い者達は、マーチャント伯爵の言葉に驚きを隠せなかった。
「騎士団よりビルワーツの兵を信じているのではなく、王宮に一切足を向けなかったビルワーツならば、王妃一派に与する者はおらんはず。ただそれだけの事じゃ。
思うところがあるのは当然であるが、今回だけは目を瞑ってもらえぬか?」
騎士団全員に問題があるとは言わないが、目の前で抗議している団長達が率いる第一騎士団と、第二騎士団が王妃一派の実働部隊なのは有名な話。
マクベス国王の大きな一歩のためには、何としてでも彼等を蚊帳の外に置いておきたい。
「⋯⋯しかし、それでは団員達の気がおさまらんでしょう。陛下はご存知ないでしょうが、彼等はプライドを持ち日夜職務に励んでおります。ビルワーツの兵の方を信頼したと思われてしまえば、今後の指揮に関わります」
ちょこちょこと、臣下にあるまじき嫌味を間に挟む感じの悪い団長は、馬鹿にしたように少し顎をあげて太鼓腹が押し下げたズボンを揺すり上げながら、ここぞとばかりに言い募る。
「しかし、せっかく陛下がやる気を出されたのですから、我らとてお手伝いをせねばならんでしょう。陛下がどうしてもと言われるのならば⋯⋯ビルワーツの兵達の教育も兼ねて、団員達の手伝いをさせてやるのが良いかもしれませんなあ」
そもそも太鼓腹が、訓練不足だと知らしめているのに?
「お気遣いには感謝致しますが、陛下のご依頼はただの見張りのようですから、通常任務を放り出してまで、騎士団の方々の手を煩わせる必要はないと思われます。
それよりも、今回の一件が収まり次第我が領の兵達と模擬戦をしては如何ですかな? 当家の兵にとっても、良い経験となるかもしれません」
「ふむ、それは妙案じゃな。この件が片付いた後ならば、余も見学をしようではないか」
「⋯⋯陛下がそこまでお望みであれば、今回の事は大目に見るとしましょう。まあ、真面な試合になるとは思えませんが⋯⋯田舎で燻る兵の中に少しでも見どころのある者がいれば、入団試験を受けさせてあげても良いですぞ?」
「では、模擬試合と言わず勝ち抜き戦は如何でしょうか? ただの訓練よりもやる気が起きるように思いますし、優勝者に賞品など準備すれば益々盛り上がりそうですわね。
発案者の責任として、騎士の方にも喜んでいただけるような品を準備させていただきますわ」
団長の台詞に余程ムカついたのか、目を輝かせた侯爵夫人が参戦して話を広げていくと、団長の口角が嫌らしげに上がっていった。
「それは中々楽しそうだな。我らの実力をご覧に入れましょう」
「では、その話の続きは後日じゃ。侯爵家の兵は何人連れてきておる?」
「領地より連れて参りましたのは80名ほどでございますが、謀反を疑われぬよう殆どの者は王都の外で待機させております。急ぎ呼び出せるのは凡そ20名、その内女性兵士6名。それ以外の者達は、3時間程かかると思われます」
「ならばすぐに王宮を閉鎖せよ。20名の兵への指示は財務大臣とカイル・デクスター、其の方らに任せる。
王妃達は全ての事が終わるまで、客室での謹慎を申しつける。出入りする使用人の手荷物等は入退時に必ずチェックし、見張の兵と共に入室。使用人の名前・言動の全ての記録するのじゃ。抵抗する者は北の塔に幽閉、少しでも怪しげな様子をした者は問答無用で拘束して構わぬと、ビルワーツ侯爵家の兵に申し伝えよ。出入りする使用人と専属の侍女や従者への聞き取り調査と、与えられている部屋の確認。
後続の兵が到着するまでは、王宮への出入りは一切禁止とする。その後、何らかの理由で王宮を入退出せねばならぬと言う者がおれば、名前と理由及び時間、役職等を全て控えよ。持ち物の確認と身体検査を徹底的に行え」
「何もそこまで徹底される必要はないのではありませんか!? それではまるで罪人のようではありませんか!!」
「一時の感情で王妃殿下にそのような扱いをされるなど、後悔することになり兼ねませんぞ」
その通りだと言う声があちこちから上がり、マクベス国王が少し不安そうな顔で部屋の中を見回しはじめた。
「余は間違っておるのか? ちょうど良い機会じゃ。他にも宰相達と同じ意見の者がおれば教えてくれぬか」
マクベス国王の問いかけに、数人の貴族が前に進み出た。
「宰相・法務大臣・軍務大臣⋯⋯内務大臣もか。やはり王妃達に責を問うのは無謀なのかのう。長らく政務から遠ざかっておる余ではやはり⋯⋯ふむ、悩ましいのう」
「陛下が努力なされようというお気持ちになられたのは、良い兆候だと思いますが⋯⋯王妃や王太子殿下を軟禁したり、部屋を捜索するのは無謀ではないでしょうか。皇帝と王妃殿下の恩恵で立ち直ってきた国を、困窮させるおつもりだとしか思えません」
「そうかのう。帝国からの支援があっても国が立ち直っておるようには思えんのだが⋯⋯」
眉間に皺を寄せ考え込んだマクベス国王は、大きな溜め息を吐いて額に手を当てた。
その様子を見た家臣達は互いに顔を見合わせて頷き合い、マクベス国王の間違いを正し、王妃達を救い出さねばならないと熱弁を振るう。
(気の弱いお飾りの王の暴走など、たかが知れている。このまま押し切れば王妃の覚えも良くなり、帝国貴族になる道が近づいてくる!)
「確かに⋯⋯兵を連れてきたとすれば、謀反を計画していたと言われても仕方ありませんな」
「いや、領地から出てくる時の護衛として、数人連れているのは当たり前だぞ?」
「王都に入り込んで、既に計画が実行されているのかも知れませんぞ」
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「矛を収めたと申されますが、ビルワーツはあの時多くの権利をもぎ取ったではありませんか! 内容は王国の臣下としてあり得ないものばかり。忠臣どころか、逆賊と罵られて当然だと誰もが思っております! 陛下との婚約破棄で利を得たのは、ビルワーツ侯爵家だったのは間違いありません」
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団長クラスの者は、華美な武器や防具を身につけているが、殆どの団員は予算不足で武器や防具は古びた二級品ばかり。士気は低く訓練不足のないない尽くし。
ビルワーツ侯爵領は、隣国と接する辺境に位置しているため、自軍の所有を認められており兵の練度は折り紙つき。その上リディア嬢の一件以来警備を強化している。
城と街を警護するだけで、満足している騎士団とは雲泥の違いがあると、騎士団団長でさえ気付いていない。
「田舎で悠々と暮らしておると申すか? 其方は辺境の重要性と、ビルワーツ領を理解しておらぬようじゃのう。国を守る騎士団の団長が辺境を守る兵士の練度を知らぬとは⋯⋯よいか、よくよく考えてみよ。
我が国だけでなく、他国からも狙われておるビルワーツ領の鉱山は、隣国との国境近くに位置しておる。団長、これがどういう意味か説明してみよ」
「えっ、えーっと⋯⋯それは、輸出しやすいとか」
「恐れながら発言の許可を」
我慢できなくなったマーチャント伯爵が一歩前に出た。
「許す」
「外務大臣を務めている経験から申し上げます。ビルワーツ侯爵領と接している国は、ディクセン・トリアリア連合王国です。
詳細は省きますが、この国の最大の特徴は国王自由選挙⋯⋯ 国王を決定する選挙が行われる王政だという事です。貴族が投票を行い、最終的に召集議会によって承認された者が国王となる。選ばれた国王によって政策は大きく様変わりしますし、王の在位期間も大変短い。
ビルワーツ侯爵家では、その状況に合わせた対応が求められます。なにしろ武力重視の部族から王が選ばれた場合、『即侵略開始』となる場合があり気が抜けません。
そのような状況下でも一度も侵略を許さず、全て水際で押し留めておられるビルワーツ卿の手腕は素晴らしく、兵も強者揃い。
侯爵家の兵だけで帝国に勝てるなどとは申しませんが、皇帝に物申す勇気のない腑抜けではなく、戦いを望む事は国益を損なうと配慮され、矛を収められた。
契約内容も困窮する王国への配慮があったと思っております」
「選挙制で?」
「その度に政策が変わる可能性がある国なんて、怖すぎて交流できんぞ?」
他国の情勢に疎い者達は、マーチャント伯爵の言葉に驚きを隠せなかった。
「騎士団よりビルワーツの兵を信じているのではなく、王宮に一切足を向けなかったビルワーツならば、王妃一派に与する者はおらんはず。ただそれだけの事じゃ。
思うところがあるのは当然であるが、今回だけは目を瞑ってもらえぬか?」
騎士団全員に問題があるとは言わないが、目の前で抗議している団長達が率いる第一騎士団と、第二騎士団が王妃一派の実働部隊なのは有名な話。
マクベス国王の大きな一歩のためには、何としてでも彼等を蚊帳の外に置いておきたい。
「⋯⋯しかし、それでは団員達の気がおさまらんでしょう。陛下はご存知ないでしょうが、彼等はプライドを持ち日夜職務に励んでおります。ビルワーツの兵の方を信頼したと思われてしまえば、今後の指揮に関わります」
ちょこちょこと、臣下にあるまじき嫌味を間に挟む感じの悪い団長は、馬鹿にしたように少し顎をあげて太鼓腹が押し下げたズボンを揺すり上げながら、ここぞとばかりに言い募る。
「しかし、せっかく陛下がやる気を出されたのですから、我らとてお手伝いをせねばならんでしょう。陛下がどうしてもと言われるのならば⋯⋯ビルワーツの兵達の教育も兼ねて、団員達の手伝いをさせてやるのが良いかもしれませんなあ」
そもそも太鼓腹が、訓練不足だと知らしめているのに?
「お気遣いには感謝致しますが、陛下のご依頼はただの見張りのようですから、通常任務を放り出してまで、騎士団の方々の手を煩わせる必要はないと思われます。
それよりも、今回の一件が収まり次第我が領の兵達と模擬戦をしては如何ですかな? 当家の兵にとっても、良い経験となるかもしれません」
「ふむ、それは妙案じゃな。この件が片付いた後ならば、余も見学をしようではないか」
「⋯⋯陛下がそこまでお望みであれば、今回の事は大目に見るとしましょう。まあ、真面な試合になるとは思えませんが⋯⋯田舎で燻る兵の中に少しでも見どころのある者がいれば、入団試験を受けさせてあげても良いですぞ?」
「では、模擬試合と言わず勝ち抜き戦は如何でしょうか? ただの訓練よりもやる気が起きるように思いますし、優勝者に賞品など準備すれば益々盛り上がりそうですわね。
発案者の責任として、騎士の方にも喜んでいただけるような品を準備させていただきますわ」
団長の台詞に余程ムカついたのか、目を輝かせた侯爵夫人が参戦して話を広げていくと、団長の口角が嫌らしげに上がっていった。
「それは中々楽しそうだな。我らの実力をご覧に入れましょう」
「では、その話の続きは後日じゃ。侯爵家の兵は何人連れてきておる?」
「領地より連れて参りましたのは80名ほどでございますが、謀反を疑われぬよう殆どの者は王都の外で待機させております。急ぎ呼び出せるのは凡そ20名、その内女性兵士6名。それ以外の者達は、3時間程かかると思われます」
「ならばすぐに王宮を閉鎖せよ。20名の兵への指示は財務大臣とカイル・デクスター、其の方らに任せる。
王妃達は全ての事が終わるまで、客室での謹慎を申しつける。出入りする使用人の手荷物等は入退時に必ずチェックし、見張の兵と共に入室。使用人の名前・言動の全ての記録するのじゃ。抵抗する者は北の塔に幽閉、少しでも怪しげな様子をした者は問答無用で拘束して構わぬと、ビルワーツ侯爵家の兵に申し伝えよ。出入りする使用人と専属の侍女や従者への聞き取り調査と、与えられている部屋の確認。
後続の兵が到着するまでは、王宮への出入りは一切禁止とする。その後、何らかの理由で王宮を入退出せねばならぬと言う者がおれば、名前と理由及び時間、役職等を全て控えよ。持ち物の確認と身体検査を徹底的に行え」
「何もそこまで徹底される必要はないのではありませんか!? それではまるで罪人のようではありませんか!!」
「一時の感情で王妃殿下にそのような扱いをされるなど、後悔することになり兼ねませんぞ」
その通りだと言う声があちこちから上がり、マクベス国王が少し不安そうな顔で部屋の中を見回しはじめた。
「余は間違っておるのか? ちょうど良い機会じゃ。他にも宰相達と同じ意見の者がおれば教えてくれぬか」
マクベス国王の問いかけに、数人の貴族が前に進み出た。
「宰相・法務大臣・軍務大臣⋯⋯内務大臣もか。やはり王妃達に責を問うのは無謀なのかのう。長らく政務から遠ざかっておる余ではやはり⋯⋯ふむ、悩ましいのう」
「陛下が努力なされようというお気持ちになられたのは、良い兆候だと思いますが⋯⋯王妃や王太子殿下を軟禁したり、部屋を捜索するのは無謀ではないでしょうか。皇帝と王妃殿下の恩恵で立ち直ってきた国を、困窮させるおつもりだとしか思えません」
「そうかのう。帝国からの支援があっても国が立ち直っておるようには思えんのだが⋯⋯」
眉間に皺を寄せ考え込んだマクベス国王は、大きな溜め息を吐いて額に手を当てた。
その様子を見た家臣達は互いに顔を見合わせて頷き合い、マクベス国王の間違いを正し、王妃達を救い出さねばならないと熱弁を振るう。
(気の弱いお飾りの王の暴走など、たかが知れている。このまま押し切れば王妃の覚えも良くなり、帝国貴族になる道が近づいてくる!)
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