【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

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第二章 育ったお花から採れた種

10.とにかく金がない! 緊急事態継続中

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 エロイーズが北の塔に幽閉されたすぐ後、皇帝と皇太子の連名で手紙が届いた。

 ランドルフ王太子とビルワーツ侯爵令嬢の、婚約不成立に関わる件については、一切の関与を否定。

『王妃殿下の処遇について、いかなる処罰であろうと帝国は不干渉。帝国に送り返された場合は国境にて処分致す所存。帝国より派遣した者達についても同様とする。
尚、第二皇子は蟄居し皇位継承権剥奪となった』

 エロイーズ達は、逃げ出しても二度と祖国の土は踏めない。



 帝国から完全に見捨てられたと知ったエロイーズは癇癪を起こし、皇帝に連絡を入れろと騒ぎ立てた。

「王国のカスどもの話など信じないわ! わたくしはお父様が唯一愛しておられる第一皇女なのよ! さっさとここから出しなさい、わたくしをこんなところに閉じ込めるなんて、帝国が攻めてくるわよ!」

 謁見の間で拘束した者は全員が逮捕勾留され、証拠を突きつけられた時点で、取り調べに対し素直に応じるようになった。簡単に情報を口にし情状酌量を狙う者や、司法取引を狙う者が出はじめると、摘発数は一気に増大していった。

 王妃が保管していた35名分の契約書には、協力する内容と対価が記されており、ほぼ全員が帝国での授爵と宮廷での官職を望んでいた。

 エロイーズと宰相は斬首、王妃派の各大臣達は領地返還と褫爵の上、平民となり斬首。その他の者達も罪状に応じて斬首・禁錮・労働刑等となるが、侵した罪が多すぎ、確定するのはまだかなり先の話になる。



 逮捕された官僚や議員の代わりに、以前働いていた官僚たちが呼び戻された。彼等はエロイーズ達に解雇されたり閑職に追いやられ辞職した者達で、マクベス陛下に頭を下げられて真っ青になり震え出した。

 不眠不休で政務を行なっているマクベスは、王妃と距離を置いていた貴族の中から希望者を積極的に登用していき、人材不足を補おうと奮闘している。

 王宮官僚は前国王の時代に働いていた者と、学園を卒業したばかりの若者が、机を並べる異例の事態になったが、かつてないほど活気に溢れ議論が飛び交うようになった。



 ランドルフ王太子とメアリー王女の浪費は王妃が出費していたらしく、国庫に手をつける知恵がなかったお陰で、首の皮一枚繋がった状態。

「今までの行動が許されたなどと勘違いしてはならん。今後の言動によっては廃嫡や幽閉もありうる事を忘れず、自分の立場に相応しい行いを身につけるように」

「はい、よく分かっています」

「勿論ですわ」

 棒読みで返事をしたランドルフと、カーテシー擬をしたメアリーが全く反省していないのはバレバレで、マクベス国王の執務室を出た途端不満が吹き出した。

「なんであんなに偉そうなのかしら。お飾りの無能だったくせに」

「母上に冤罪を着せて舞い上がってるんだよ。はいはいって返事しておいたら気が済むって」

 ランドルフ達の横を書類の束を抱えた事務官が、小さく頭を下げながら通り過ぎた。

「今の奴見た? あたし達の横を通り過ぎるとか⋯⋯超ムカつく」

「最近はみんなそうじゃん。父上がみんなを集めてなんか言ったせいだってさ」



『人手不足の為、皆には無理をさせて申し訳ないと思うておる。できる限り早く状況を改善したいが、まだまだ時間がかかるであろう⋯⋯ 余も王太子達も過分な世話はいらぬ故、王族に敬意を払う時間があれば、少しでも休憩するように』

 移動中に王太子や王女と出会っても、足を止める必要はないと言われた彼等は、猫の手どころか鼠の手さえ借りたいくらい忙しい。

 不眠不休で目の下にクマを育て、仕事をしながらパンを齧るのが当たり前の彼等でも、無駄どころか邪魔にしかならないランドルフに、仕事を頼む気にはならない。

 私室に向かう階段を降りかけたランドルフ王太子の横に並んだメアリー王女が、下から登ってくる事務官に聞こえるように大声で⋯⋯。

「大体さあ、お父様に執務なんてできるわけないじゃない。書類が読めるかどうかだって怪しいと思わない?」

 書類を読みながら階段を登っていた事務官は、メアリー王女の言葉にギョッとして足を止めた。

「隣にいた奴に読んでもらってんじゃないの? ちょっと偉そうでガリ勉っぽかったもんな」

「ええー、なんか陰険そうでキモかったじゃん。お母様のそばにいた人達とは大違いだよ。あーあ、優秀な使用人はみーんないなくなったし、お母様と一緒に仕事をしてた人達はクビになったし⋯⋯買い物はできないし、持ってたアクセサリーは取り上げられたし。
その上勉強しろとか、マジわかんないんだけど。もしかしてさ、お父様のせいでこの国がなくなったら帝国に行ける?」

「帝国の王族かあ⋯⋯ジュリエッタと3人で旅行がてら行ってみる? 気に入ったらそのまま住んであげてもいいし」

「それいいかも! あ、でもお金がないじゃん」

「それが大丈夫なんだよねー、母上から『いざっていう時のお金』を預かってるんだ」

 階段を降りながら非常に危険な話をしているランドルフ達。本人達は小声で話しているつもりらしいが、天井の高いホールに響き渡り、近くを通りがかった補佐官が足を止めた。

「うっそお、最高じゃん! どこどこ、どこに隠してあるの?」

「離宮の地下室に隠し部屋があってさ、金庫の暗証番号は僕しか知らないんだ~」

 周りにいる使用人達の事など目に入らない二人は、平気な顔で言いたい放題言い続けているが⋯⋯陰から王太子達を見張っていた男が『地下室の隠し部屋、了解!』と心の中で呟き、マクベスの執務室に向かって走り出した。



 夜会から二ヶ月後、ジュリエッタ嬢が懐妊したと王宮医師から報告が上がった。

「ランドルフには子をなせないように薬を飲ませていたはずだが?」

「あの薬は副作用のない最も軽いものですので、低確率ですが妊娠の可能性があります。若しくは既に子ができていたか」

「低確率に打ち勝ったのか托卵か⋯⋯どちらなのか、知る方法があれば良いのだが」

「微妙なタイミングですね⋯⋯産まれたあとでしたら判別できるかもしれません。
魔法大国には鑑定魔法というものがあるそうで、魔力の質を見て親子鑑定できると聞いたことがあります。魔導具も販売されているそうですが⋯⋯鑑定を依頼するのも魔導具も、驚く程高額でして」

 托卵されたマクベスだけに願いは切実で、報告に来ている王宮医師の顔も暗い。



 今後の策を練るために、マクベスは新しく就任した宰相達を執務室に呼び出した。

「ビルワーツ侯爵家令嬢にお願いするしかないのでは? 謁見の間でのアメリア嬢は圧巻でした。アメリア嬢が王太子妃となってくださるならやっていけます。
ジュリエッタ嬢は権利を持たせず公妾にするか、愛妾にするしかないんじゃないでしょうか」

 言い出したのは側近に取り立てられたデクスターだが、マクベス国王がストップをかけた。

「却下だ。他国の王侯貴族や外交官を招いた夜会で、あのような騒ぎを引き起こしておきながら、平気な顔でビルワーツ侯爵令嬢に婚約を申し込めば『恥知らずの王国』と呼ばれかねん。ビルワーツ侯爵達も首を縦には振らんしな」

「しかしながら、ジュリエッタ嬢はダンビール子爵家の令嬢です。あの家は王太子の後ろ盾になるどころか、持参金に金貨一枚準備できそうにありません。化粧料は言わずもがなですし」

 持参金は親から娘への遺産相続の前払い金であり、管理を夫に任せることが多いが、所有権は娘(妻)本人。子供が無く夫が死亡したり、結婚が無効となった場合には妻に全て返還される。王家との縁組の場合、金貨と土地というのが一般的。

 化粧料も財産相続ではあるが、生存の間に限定して譲渡される財産。王家に嫁ぐ⋯⋯公務で必要となる物は予算から出されるがそれ以外は全て実費の為、王太子妃や王妃となると、日々の生活費はかなり高額になる。

 日々の暮らしに必要となる物以外に、専属の侍女や護衛の給与なども負担しなければならず、本人主催のお茶会や夜会の費用も自己負担。

 化粧料でそれらの支払いを行い、不足分は実家に頼んで化粧料を増額してもらうか、持参金から充当しなければならない。



「王太子妃となればそれなりに予算を組みますが、予算はあくまでも公務に必要な出費に使う物。ジュリエッタ嬢が王太子妃となられた場合、それら全てを国庫から捻出しなければなりません」

 因みに、エロイーズは帝国から送られてくる化粧料と、皇帝からの援助金だけでは足らず予算を流用し、その上で国庫にも手をつけていた。

「現状ではどうやりくりしても、そんな余裕はないとしか⋯⋯そうなってしまえばもうお手上げです。ビルワーツ卿のお陰で、首の皮一枚って感じです」

 ビルワーツ侯爵家の提案で、今回のエロイーズのやらかしでできた借金の返済は、王妃達が所有していた貴金属などの現物で賄い、不足分は貸付金に組み込んでもらえた。

『これだけ大量の物が出回ると、価格が暴落し市場が混乱するはずです。査定を行っていただければその価格で引き取り、当家への支払いの一部といたしましょう。当家は他国にいくつも伝手がありますから、様子を見ながら少しずつ売り払います』



「今回の一件で王家の借金はまた増えてしまいました。支払いが後何年かかるのか予想もつかない状況で、持参金のない方を王家に⋯⋯しかも将来の王妃とされるのは、赤字を増やすだけでなんのメリットもありません」

 元から心労で痩せ細っていた財務大臣は益々痩せてしまい、風が吹けば飛んでいきそうな見た目になっている。



「あの⋯⋯正直に申し上げて宜しいでしょうか?」

 少し離れた場所で話を聞いていた侍女長が小さく手を上げた。

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