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第一章 お花畑の作り方
04.予定を変更なんて絶対に却下だからね!
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「自分達は良くて僕はダメとか、父上は勝手すぎる! 僕が毎日どれほど頑張ってるか知ってるよね! それなのに、妃を押し付けるなんて絶対却下、却下却下却下」
頑張ってないじゃん⋯⋯なんて、真実を伝える人はここにいない。
どんな時でも僕に甘い母上なら、きっと助け舟を出してくれる⋯⋯そう信じているエドワードは、身を乗り出してジュリエッタを見つめた。
「母上なら分かってくれるよね!? 僕は母上みたいな素晴らしい方を、自分で見つけたいんだもん。父上と母上の歌劇や小説みたいな『真実の愛』を見つけて、皇帝になると決めてるって知ってるでしょ?」
「ああ、わたくしの可愛いエドワード⋯⋯貴方が素晴らしい王になるのは間違いないわ! でもね、それを叶える為にもビルワーツ侯爵家の資産が必要なのよ。このままではドレスも宝石もない⋯⋯哀れで惨めな生活を送らなくちゃいけなくなるの。
でも、貴方のほんの僅かな犠牲があればこの国は救われる。優秀なエドワードに頼るしかできない弱い母を許して⋯⋯お願い⋯⋯ううっ」
「母上! そんな⋯⋯泣かないで!」
自分達を題材にした歌劇の見過ぎで、年々ヒロイン化してきたジュリエッタは、台詞回しも堂に入り言葉に感情を乗せるのも上手くなった。嘘泣きなんて得意中の得意。
途中でダダ漏れになった欲望をうまく誤魔化して、エドワードの心を掴んだジュリエッタだが⋯⋯今回の役どころに衣装が合っていなかった。
国を救う為の資金が必要だと言いつつ、王妃の着ているドレスは最新流行の物。そのドレスが昨日仕立て上がったばかりなのは、エドワードも知っている。
(えーっと、ん? 哀れで惨めなって言ってるけど、昨日母上に呼び出されて見せていただいた新しいドレスだよね。買えてるじゃん)
胸元に散りばめた宝石だとか刺繍だとか。袖口や裾に使われているレースが、どれほど希少価値の高いものか⋯⋯延々と聞かされたのだから。
(自分のドレスや宝石の為に、ビルワーツ侯爵家の資産を狙ってる⋯⋯いやいや、母上に限ってそんなことはないはず)
「ザンダリス帝国が支援を止めなければ、このような事にはなっておらんのだ!⋯⋯それだけでも腹立たしいのに、執務を担っておった者や各地に送っておった技術者まで引き上げた。しみったれの現皇帝のせいで、何もかもが上手くいかん!! 何故、ワシがこんな思いをせねばならんのだ!
クレベルン王国は監視を送ってくるだけで、助けてくれもせんし、巫山戯るなぁ!」
ここ数年、大臣達は帝国とクレベルン王国に、何度も正式文書を送り届けているが、未開封の書状が戻ってきて、話を聞いてもらうことさえできないでいる。
『帝国とアルムヘイル王国の契約は既に履行済み』
『ランドルフ王とクレベルン王国との約束は守られておらず⋯⋯銅貨一枚、雑草一本でさえ支援の予定なし』
「帝国の支援なんて⋯⋯もう何年も前に打ち切られたって誰かが言ってたのに。喧嘩したのなら父上が謝ってあげて、皇帝と仲直りすれば良いじゃない。
皇帝って父上のえーっとなんだっけ⋯⋯家族じゃなくて⋯⋯親戚。親戚なんでしょ? なら、親戚は助け合うのが普通だって教えてあげてよ。
それに、今は父上が国王なんだから、子供に甘えないでなんとかしてくれなきゃ」
9歳にもなれば、お花畑さんでも相手の話の意味が多少は分かってくるし、(ほんの少し、カケラくらいは)国の状況も分かってくる部分もある。
しかし現実は⋯⋯帝国の支援がなくなってからというもの、失業者数は増加の一途を辿り、物の値段は上がる一方。税率は既に収入の5割に近付き、商人や伝手を持つ貴族が他国へ流れるのを止める術もない。
そんな状況になってもランドルフ王とジュリエッタ王妃の浪費は止まず、臣下の言葉など聞かずに贅沢三昧で暮らしている。
と言うよりも、二人揃って優雅な暮らしをしている状況が財政赤字を増やし続けている。
エドワードはそこまで分かっているわけではなく、食事の質は少し落ちているみたいだが、両親は今までと変わらず優雅に暮らしているので、料理長が変わったのかなと思っている程度。
王宮を歩いていると時々聞こえてくる『失業者・スラム・増税・属国』などは、心配性の使用人達が勝手に不安がっているだけ⋯⋯だと思い込んでいる。
『あんなに心配しなくても、僕がいるんだから大丈夫だって言って安心させてあげるべきか⋯⋯うーん、悩むところだな』
祖母のエロイーズと両親に『エドワード最高!』と持ち上げられ続け、政務など下々のやる事だと洗脳され、王家は存在そのものが国の宝だと聞き続けているエドワードは、非常に能天気に暮らしていた。
大臣達が、何故ここまでランドルフ達全員を放置しているのか⋯⋯。
『ランドルフ王もエドワード王太子も、帝国の血を持っておられる。もう少し待てば、帝国が助けてくれる⋯⋯』
『クレベルン王国はランドルフ王と共に王位簒奪までされた仲。じきに支援をはじめてくださるはず⋯⋯』
『帝国かクレベルン王国が助けてくれるまで、王家の機嫌を損ねるわけにはいかん!』
王宮内⋯⋯アルムヘイル王国内に蔓延るのは、働くより口を大きく開けて、棚ぼたを待つことを選んだ輩たちの妄想。
そうとは知らず、勝手放題を許されているのは『俺達、王家⋯⋯史上最強』だからだと信じ続けているお花畑ファミリー。
「わたくし達が婚約したり結婚した頃はね、それはそれは強力な後ろ盾があったの。でも今はそれがなくなってしまったから、仕方ないの⋯⋯」
「ビルワーツ侯爵家の資金力があれば国を建て直すなど容易い。詳しく調べたのだが、余の治世だけでなくエドワードの治世を支えるにも十分だと報告が上がっておる。
このままでは日々の生活でさえ儘ならぬ。ほんのちょっとした買い物でさえも文句を言われ、予算を減らされてばかりで⋯⋯。
エドワードは愛する母に我慢を強いてまで、我儘を貫きたいと申すのか?」
話を聞けば聞くほどエドワードの中に不信感が募っていく。
(もしかして自分達が自由に買い物したいから、僕に金持ちの娘を妃にしろって言ってる? いやいやいや、まさかそんな⋯⋯。
僕の両親は愛を貫き続ける、素晴らしい方達なんだ。優秀な家臣を率いて国を守りつつ愛を貫く理想の⋯⋯えーっと、なんだっけ。とにかく、父上達がいつも言ってるアレだよアレ)
エドワードが脳内会議をし続けている合間に、ヒソヒソと話しをしていたランドルフ達の声が聞こえてきた。
「エドワードくらい説得してよ⋯⋯ツケを精算しないと、次の注文は受けられないって言われたのに!」
(え? 何それ)
「わ、わ、分かってるって。もう少し、もう少し粘ればエドワードは諦めるはずだから」
「ビルワーツ侯爵家のエメラルド、絶対手に入れてくれるって約束したわよね!」
「勿論だよ! 僕は今まで何があろうとも、ジュリエッタとの約束だけは全部全部全部守ってきたよね? それにさ、僕だってエドワードを説き伏せないと、カタルーサに建設する予定の別荘が⋯⋯」
(エメラルドに別荘って⋯⋯国を建て直す為に政略結婚しろって言ってなかったっけ? ええっ、僕を騙そうとしてるって事?)
騙そうとしているのも気に入らないし、既に金の使い道を決めているのも気に入らない。
(どうしようかなぁ⋯⋯会ってみたら可愛いとかなら⋯⋯でもでも、肉食系のガツガツくる子は苦手なんだよなー。母上みたいに上品で優しい子じゃなきゃやだし。
それにしてもさあ⋯⋯僕の予定を変更してその子を妃にするんだよね?⋯⋯そうか! それなら、相手の持ってる金は全部僕のものだよね! 僕が我慢するんだから贅沢するのは僕だけでいいじゃん)
脳内お花畑のマザコンは、宇宙に届くほど高い自己肯定感を持ち、自分勝手な妄想を真実だと言い切れる自己中に育った。
「⋯⋯僕に我慢させるなら、相手の持参金とかは僕のものだから、自分でなんとかしようとしない父上達が使えなくてもいいよね?」
「な、何だと!? そんな我儘が許されると思ってるのか! 巫山戯るな!! 王太子としての責務を果たさんと言うなら、王命を出してやる!!」
ガツン⋯⋯ガチャン!
怒りで顔を真っ赤にしたランドルフ王が立ち上がり、目の前のコーヒーテーブルを蹴り上げたせいで、カップが床に飛び散った。
「きゃあ! お気に入りのカップがぁぁ!!」
「王命なんて冗談じゃない! 何故、そこまでしてこの僕が、この僕が知らない女と婚約しなきゃならないんだよ!?」
「ビルワーツ侯爵家の後ろ盾がなければ其方は王になれん。いや、王にはなれるやもしれんが、其方の治世は早々に破綻する。帝国の属国になるならまだしも、歴史ある国を滅亡に導いた愚王として名を残すことになる。貴様はそうなりたいのか!」
「国庫が空なら父上達が何とかすれば良いじゃないか! 僕が王になるまでに、なんとかしろよぉ!!」
「えーっと、エドワード落ち着いて⋯⋯ね? 大した事ない話なのよ。お飾りの妃にした後で、好きなだけ公妾や愛妾を選べばいいんだもの。
お父様にも昔、政略で結婚させられた相手がいたけど、死ぬまで無視して政務だけやらせたの。それと同じように扱えば、すっごく便利だと思わない?
それにね、ビルワーツの娘はすごく残念な娘だって話だから、文句なんて言わないと思うの。王太子妃にしてあげさえすれば、無視していても感謝してせっせと働くわ。
持参金の一部にエメラルド鉱山とかダイヤモンド鉱山を持って来させて、毎年の化粧料も増額させるとか。エロイーズ様だってそう仰るはず」
あ! エロイーズ生きてた!?
頑張ってないじゃん⋯⋯なんて、真実を伝える人はここにいない。
どんな時でも僕に甘い母上なら、きっと助け舟を出してくれる⋯⋯そう信じているエドワードは、身を乗り出してジュリエッタを見つめた。
「母上なら分かってくれるよね!? 僕は母上みたいな素晴らしい方を、自分で見つけたいんだもん。父上と母上の歌劇や小説みたいな『真実の愛』を見つけて、皇帝になると決めてるって知ってるでしょ?」
「ああ、わたくしの可愛いエドワード⋯⋯貴方が素晴らしい王になるのは間違いないわ! でもね、それを叶える為にもビルワーツ侯爵家の資産が必要なのよ。このままではドレスも宝石もない⋯⋯哀れで惨めな生活を送らなくちゃいけなくなるの。
でも、貴方のほんの僅かな犠牲があればこの国は救われる。優秀なエドワードに頼るしかできない弱い母を許して⋯⋯お願い⋯⋯ううっ」
「母上! そんな⋯⋯泣かないで!」
自分達を題材にした歌劇の見過ぎで、年々ヒロイン化してきたジュリエッタは、台詞回しも堂に入り言葉に感情を乗せるのも上手くなった。嘘泣きなんて得意中の得意。
途中でダダ漏れになった欲望をうまく誤魔化して、エドワードの心を掴んだジュリエッタだが⋯⋯今回の役どころに衣装が合っていなかった。
国を救う為の資金が必要だと言いつつ、王妃の着ているドレスは最新流行の物。そのドレスが昨日仕立て上がったばかりなのは、エドワードも知っている。
(えーっと、ん? 哀れで惨めなって言ってるけど、昨日母上に呼び出されて見せていただいた新しいドレスだよね。買えてるじゃん)
胸元に散りばめた宝石だとか刺繍だとか。袖口や裾に使われているレースが、どれほど希少価値の高いものか⋯⋯延々と聞かされたのだから。
(自分のドレスや宝石の為に、ビルワーツ侯爵家の資産を狙ってる⋯⋯いやいや、母上に限ってそんなことはないはず)
「ザンダリス帝国が支援を止めなければ、このような事にはなっておらんのだ!⋯⋯それだけでも腹立たしいのに、執務を担っておった者や各地に送っておった技術者まで引き上げた。しみったれの現皇帝のせいで、何もかもが上手くいかん!! 何故、ワシがこんな思いをせねばならんのだ!
クレベルン王国は監視を送ってくるだけで、助けてくれもせんし、巫山戯るなぁ!」
ここ数年、大臣達は帝国とクレベルン王国に、何度も正式文書を送り届けているが、未開封の書状が戻ってきて、話を聞いてもらうことさえできないでいる。
『帝国とアルムヘイル王国の契約は既に履行済み』
『ランドルフ王とクレベルン王国との約束は守られておらず⋯⋯銅貨一枚、雑草一本でさえ支援の予定なし』
「帝国の支援なんて⋯⋯もう何年も前に打ち切られたって誰かが言ってたのに。喧嘩したのなら父上が謝ってあげて、皇帝と仲直りすれば良いじゃない。
皇帝って父上のえーっとなんだっけ⋯⋯家族じゃなくて⋯⋯親戚。親戚なんでしょ? なら、親戚は助け合うのが普通だって教えてあげてよ。
それに、今は父上が国王なんだから、子供に甘えないでなんとかしてくれなきゃ」
9歳にもなれば、お花畑さんでも相手の話の意味が多少は分かってくるし、(ほんの少し、カケラくらいは)国の状況も分かってくる部分もある。
しかし現実は⋯⋯帝国の支援がなくなってからというもの、失業者数は増加の一途を辿り、物の値段は上がる一方。税率は既に収入の5割に近付き、商人や伝手を持つ貴族が他国へ流れるのを止める術もない。
そんな状況になってもランドルフ王とジュリエッタ王妃の浪費は止まず、臣下の言葉など聞かずに贅沢三昧で暮らしている。
と言うよりも、二人揃って優雅な暮らしをしている状況が財政赤字を増やし続けている。
エドワードはそこまで分かっているわけではなく、食事の質は少し落ちているみたいだが、両親は今までと変わらず優雅に暮らしているので、料理長が変わったのかなと思っている程度。
王宮を歩いていると時々聞こえてくる『失業者・スラム・増税・属国』などは、心配性の使用人達が勝手に不安がっているだけ⋯⋯だと思い込んでいる。
『あんなに心配しなくても、僕がいるんだから大丈夫だって言って安心させてあげるべきか⋯⋯うーん、悩むところだな』
祖母のエロイーズと両親に『エドワード最高!』と持ち上げられ続け、政務など下々のやる事だと洗脳され、王家は存在そのものが国の宝だと聞き続けているエドワードは、非常に能天気に暮らしていた。
大臣達が、何故ここまでランドルフ達全員を放置しているのか⋯⋯。
『ランドルフ王もエドワード王太子も、帝国の血を持っておられる。もう少し待てば、帝国が助けてくれる⋯⋯』
『クレベルン王国はランドルフ王と共に王位簒奪までされた仲。じきに支援をはじめてくださるはず⋯⋯』
『帝国かクレベルン王国が助けてくれるまで、王家の機嫌を損ねるわけにはいかん!』
王宮内⋯⋯アルムヘイル王国内に蔓延るのは、働くより口を大きく開けて、棚ぼたを待つことを選んだ輩たちの妄想。
そうとは知らず、勝手放題を許されているのは『俺達、王家⋯⋯史上最強』だからだと信じ続けているお花畑ファミリー。
「わたくし達が婚約したり結婚した頃はね、それはそれは強力な後ろ盾があったの。でも今はそれがなくなってしまったから、仕方ないの⋯⋯」
「ビルワーツ侯爵家の資金力があれば国を建て直すなど容易い。詳しく調べたのだが、余の治世だけでなくエドワードの治世を支えるにも十分だと報告が上がっておる。
このままでは日々の生活でさえ儘ならぬ。ほんのちょっとした買い物でさえも文句を言われ、予算を減らされてばかりで⋯⋯。
エドワードは愛する母に我慢を強いてまで、我儘を貫きたいと申すのか?」
話を聞けば聞くほどエドワードの中に不信感が募っていく。
(もしかして自分達が自由に買い物したいから、僕に金持ちの娘を妃にしろって言ってる? いやいやいや、まさかそんな⋯⋯。
僕の両親は愛を貫き続ける、素晴らしい方達なんだ。優秀な家臣を率いて国を守りつつ愛を貫く理想の⋯⋯えーっと、なんだっけ。とにかく、父上達がいつも言ってるアレだよアレ)
エドワードが脳内会議をし続けている合間に、ヒソヒソと話しをしていたランドルフ達の声が聞こえてきた。
「エドワードくらい説得してよ⋯⋯ツケを精算しないと、次の注文は受けられないって言われたのに!」
(え? 何それ)
「わ、わ、分かってるって。もう少し、もう少し粘ればエドワードは諦めるはずだから」
「ビルワーツ侯爵家のエメラルド、絶対手に入れてくれるって約束したわよね!」
「勿論だよ! 僕は今まで何があろうとも、ジュリエッタとの約束だけは全部全部全部守ってきたよね? それにさ、僕だってエドワードを説き伏せないと、カタルーサに建設する予定の別荘が⋯⋯」
(エメラルドに別荘って⋯⋯国を建て直す為に政略結婚しろって言ってなかったっけ? ええっ、僕を騙そうとしてるって事?)
騙そうとしているのも気に入らないし、既に金の使い道を決めているのも気に入らない。
(どうしようかなぁ⋯⋯会ってみたら可愛いとかなら⋯⋯でもでも、肉食系のガツガツくる子は苦手なんだよなー。母上みたいに上品で優しい子じゃなきゃやだし。
それにしてもさあ⋯⋯僕の予定を変更してその子を妃にするんだよね?⋯⋯そうか! それなら、相手の持ってる金は全部僕のものだよね! 僕が我慢するんだから贅沢するのは僕だけでいいじゃん)
脳内お花畑のマザコンは、宇宙に届くほど高い自己肯定感を持ち、自分勝手な妄想を真実だと言い切れる自己中に育った。
「⋯⋯僕に我慢させるなら、相手の持参金とかは僕のものだから、自分でなんとかしようとしない父上達が使えなくてもいいよね?」
「な、何だと!? そんな我儘が許されると思ってるのか! 巫山戯るな!! 王太子としての責務を果たさんと言うなら、王命を出してやる!!」
ガツン⋯⋯ガチャン!
怒りで顔を真っ赤にしたランドルフ王が立ち上がり、目の前のコーヒーテーブルを蹴り上げたせいで、カップが床に飛び散った。
「きゃあ! お気に入りのカップがぁぁ!!」
「王命なんて冗談じゃない! 何故、そこまでしてこの僕が、この僕が知らない女と婚約しなきゃならないんだよ!?」
「ビルワーツ侯爵家の後ろ盾がなければ其方は王になれん。いや、王にはなれるやもしれんが、其方の治世は早々に破綻する。帝国の属国になるならまだしも、歴史ある国を滅亡に導いた愚王として名を残すことになる。貴様はそうなりたいのか!」
「国庫が空なら父上達が何とかすれば良いじゃないか! 僕が王になるまでに、なんとかしろよぉ!!」
「えーっと、エドワード落ち着いて⋯⋯ね? 大した事ない話なのよ。お飾りの妃にした後で、好きなだけ公妾や愛妾を選べばいいんだもの。
お父様にも昔、政略で結婚させられた相手がいたけど、死ぬまで無視して政務だけやらせたの。それと同じように扱えば、すっごく便利だと思わない?
それにね、ビルワーツの娘はすごく残念な娘だって話だから、文句なんて言わないと思うの。王太子妃にしてあげさえすれば、無視していても感謝してせっせと働くわ。
持参金の一部にエメラルド鉱山とかダイヤモンド鉱山を持って来させて、毎年の化粧料も増額させるとか。エロイーズ様だってそう仰るはず」
あ! エロイーズ生きてた!?
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