3 / 14
2.売り込み先は
しおりを挟む
「どうやって売るの? キャンベル伯爵に見つかったらヤバくない?」
「アーリントン公爵夫人に売り込みに行くわ」
「マジ? 確かにあの方は社交界でもファッションリーダーとして有名だけど、失敗したらそれで終わりよ。
誰も見向きしてくれなくなるわ」
「その代わり、売り込みに成功したらその後確実にやっていける。
他の人に気に入られても、アーリントン公爵夫人に駄目出しされたら終わりだもの。それなら初めから公爵夫人にアタックするわ」
クロエがスケッチブックをパラパラと捲りながら、感心したように溜め息をついた。
「シエナってさ、見た目と違って勝負師よね」
「?」
「キャンベル伯爵達も騙されてるんじゃないかしら。あの女なら大人しいから、放っておいても大丈夫って」
「うーん、そうかも。定期的に弁護士と会計士がやって来て監査するだけだもの。言われてみれば、舐められてるわね」
クロエは布とスケッチブックを持ち、仕立て屋の元へ向かった。
シエナが商会に戻り、ダートマス侯爵のウエストコートのデザインをしていると、営業担当のルカ・ワトソンが帰ってきた。
「えーっと、クロエは?」
「外出してる。商会の仕事じゃないんだけど、ちょっと用事を頼んだの」
ルカがシエナの顔を覗き込んできた。
「⋯⋯何か俺に隠してることない? ここんとこ二人とも妙にコソコソしてる」
「クロエが帰ってきたら話すわ。とっても大事な話だから、ルカには聞いてもらわなくちゃと思ってたの」
「今まで仲間外れにしてた癖に」
「そんなんじゃないの。ある程度形になってから話したいと思っただけ。
ルカは客先でキャンベル伯爵に遭遇する事があるって言ってたから、知らせるのは出来る限りギリギリにしたかったの」
「つまり、それ関係なんだ」
「ええ、そういう事」
「俺がチクるとか?」
「違うわ、隠し事があると余計な神経を使わせるかもって思っただけ。ねえ、ダートマス侯爵のウエストコートだけど、こんな感じで良いかしら?」
話を終わらせようとしたシエナは、ルカにスケッチブックを押し付けた。
「良いんじゃない? ダートマス侯爵はシエナのデザインなら何でもOKするからね」
「ルカ、それ良い加減すぎるんじゃない?
営業として、侯爵と打ち合わせしてきたんでしょ? その時の希望が、ちゃんと反映されてるか確認してくれなくちゃ」
「いつも通り、グリーンを基調にしてくれるかな? 妻の目の色と同じで」
ルカが手を擦り合わせながら、ダートマス侯爵の物真似をした。
「ぷっ、ねぇダートマス侯爵ってほんとにそんな話し方なの? 揶揄ってるの?」
「マジだって、今度一緒に行ってみる? 侯爵は会いたがってるから喜ぶと思うよ」
「私がデザインしてるってバレるのは困るの。それも後で一緒に説明するわ」
二時間後クロエが帰ってきた。
「アーリントン公爵夫人に売り込みに行くわ」
「マジ? 確かにあの方は社交界でもファッションリーダーとして有名だけど、失敗したらそれで終わりよ。
誰も見向きしてくれなくなるわ」
「その代わり、売り込みに成功したらその後確実にやっていける。
他の人に気に入られても、アーリントン公爵夫人に駄目出しされたら終わりだもの。それなら初めから公爵夫人にアタックするわ」
クロエがスケッチブックをパラパラと捲りながら、感心したように溜め息をついた。
「シエナってさ、見た目と違って勝負師よね」
「?」
「キャンベル伯爵達も騙されてるんじゃないかしら。あの女なら大人しいから、放っておいても大丈夫って」
「うーん、そうかも。定期的に弁護士と会計士がやって来て監査するだけだもの。言われてみれば、舐められてるわね」
クロエは布とスケッチブックを持ち、仕立て屋の元へ向かった。
シエナが商会に戻り、ダートマス侯爵のウエストコートのデザインをしていると、営業担当のルカ・ワトソンが帰ってきた。
「えーっと、クロエは?」
「外出してる。商会の仕事じゃないんだけど、ちょっと用事を頼んだの」
ルカがシエナの顔を覗き込んできた。
「⋯⋯何か俺に隠してることない? ここんとこ二人とも妙にコソコソしてる」
「クロエが帰ってきたら話すわ。とっても大事な話だから、ルカには聞いてもらわなくちゃと思ってたの」
「今まで仲間外れにしてた癖に」
「そんなんじゃないの。ある程度形になってから話したいと思っただけ。
ルカは客先でキャンベル伯爵に遭遇する事があるって言ってたから、知らせるのは出来る限りギリギリにしたかったの」
「つまり、それ関係なんだ」
「ええ、そういう事」
「俺がチクるとか?」
「違うわ、隠し事があると余計な神経を使わせるかもって思っただけ。ねえ、ダートマス侯爵のウエストコートだけど、こんな感じで良いかしら?」
話を終わらせようとしたシエナは、ルカにスケッチブックを押し付けた。
「良いんじゃない? ダートマス侯爵はシエナのデザインなら何でもOKするからね」
「ルカ、それ良い加減すぎるんじゃない?
営業として、侯爵と打ち合わせしてきたんでしょ? その時の希望が、ちゃんと反映されてるか確認してくれなくちゃ」
「いつも通り、グリーンを基調にしてくれるかな? 妻の目の色と同じで」
ルカが手を擦り合わせながら、ダートマス侯爵の物真似をした。
「ぷっ、ねぇダートマス侯爵ってほんとにそんな話し方なの? 揶揄ってるの?」
「マジだって、今度一緒に行ってみる? 侯爵は会いたがってるから喜ぶと思うよ」
「私がデザインしてるってバレるのは困るの。それも後で一緒に説明するわ」
二時間後クロエが帰ってきた。
171
お気に入りに追加
3,173
あなたにおすすめの小説

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?
藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。
目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。
前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。
前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない!
そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。
朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」
テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。
「誰と誰の婚約ですって?」
「俺と!お前のだよ!!」
怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。
「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

【完結済】結婚式の翌日、私はこの結婚が白い結婚であることを知りました。
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
共に伯爵家の令嬢と令息であるアミカとミッチェルは幸せな結婚式を挙げた。ところがその夜ミッチェルの体調が悪くなり、二人は別々の寝室で休むことに。
その翌日、アミカは偶然街でミッチェルと自分の友人であるポーラの不貞の事実を知ってしまう。激しく落胆するアミカだったが、侯爵令息のマキシミリアーノの助けを借りながら二人の不貞の証拠を押さえ、こちらの有責にされないように離婚にこぎつけようとする。
ところが、これは白い結婚だと不貞の相手であるポーラに言っていたはずなのに、日が経つごとにミッチェルの様子が徐々におかしくなってきて───

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる