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9.猫をかぶってる

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 リーガン公爵とエリンは、向かい合わせのソファに座り紅茶を飲んでいる。

「スールベリー公爵令嬢が何を考えているのかは知らないが、王宮錬金術師には関わらない事だ」


 エリンは溜息をついた。

「お父様もきっと同じ事を仰ると思いますわ」

「では、独断で来たと言うのか?」

「はい、錬金術の勉強も内緒でやりましたの」

「とんだ跳ねっ返りだな」


「とんでもありませんわ、私は大人しくて影が薄いので有名ですもの」

「そう言うのを“猫をかぶってる” って言うんだ」


「それよりも、王宮錬金術師の事を教えて頂けませんか?」

「何のために?」

「それはプライベートな事ですから、人様にお話しするようなことではございませんの」


「スールベリー侯爵家の借金問題が絡んでいるのだろう?」

「だったらどうだと言うんですか? それはとても個人的な話ですから、放っておいて下さいまし」


「スールベリー侯爵令嬢は何をどうしたいと思っているんだ? ここに来た理由が全くわからん」


「錬金術師として仕事をはじめたいのです。その為には、お母様を殺した犯人を捕まえなくてはいけませんの」

「王宮錬金術師が殺したと言う証拠でも?」

「それがあればとうに訴えています。ないから探そうと思って。

まずは敵を知らなくては先に進めませんでしょう? 教えて頂けませんか?」


「無茶苦茶な理論だ。小さな子供の関わっていい問題じゃない。そう言うのは大人に任せてうちに帰りなさい」


「・・分かりました。他を当たります」


 エリンは立ち上がり、バスケットを持ち上げた。


「錬金術師として仕事をするって、具体的にはどうするつもりなんだ?」

「リーガン公爵様には関係ありませんので失礼致します」


「全く困ったお嬢さんだ」


「困ってるのはこっちだわ、ガチガチの頑固で弱い者いじめで・・あとは」

「悪口のネタが尽きたならそこに座りなさい。あちこちで聞いて回ったら危険だと分からないのか?」


「出来る限り用心します。でもじっとしているわけにはいきませんの」

 リーガン公爵は目を瞑って腕を組み、じっと考え込んだ。いつまで経っても様子が変わらないので、

「瞑想のお邪魔にならないよう失礼させて頂きます」


「待つんだ。全く気の短いお嬢様だな。ほら、座って」


 しぶしぶ座ったエリンは、膝の上にバスケットを置き横を向いている。

「王宮錬金術師達は国に現れた錬金術師を消していってる。
どうやって錬金術師を見つけ出しているのか、皆目見当がつかないんだが間違いないと思う」

「教会です」

「教会がどうした?」

「8歳で教会の洗礼を受ける時に、右腕を調べるんです。
袖を捲って水盤に手を浸す時、印があるかどうか確認するんです」


「そうか、その手があったか」

「リーガン公爵様はやりませんでした?」

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