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ハヤブサ
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十一月 結婚八ヶ月後
ーーーーーー
「アイラ、駄目だ。戻って来い」
ウィルソンが屋敷から駆け出してきた。
「少しくらい良いでしょう」
アイラが態とらしく、大きなため息をつく。
「ジファール侯爵に叩き返してやる」
「何で? こんなに可愛いのよ」
エジャートン伯爵領。領主館の左手にはまだ新しい、大きな小屋が二つ建てられている。小屋の前には、少し大きくなったお腹を抱えたアイラが、グローブを嵌めた右手にコチョウゲンボウを乗せている。
「この子なら、小柄だからいいでしょう? シロハヤブサは重いから我慢してるのよ」
結婚の祝いの一つに、ジファール侯爵から二羽のハヤブサが贈られてきた。専属の鷹匠まで用意されており、アイラは大喜びだった。
「さっきこの子が、ホバリングを披露してくれたの」
「アイラ、頼むから無茶はしないでくれ」
「無茶なんてしてないわ。ずっと暖炉の前にいたら、焦げて灰になりそうなんだもの」
「そうなる前に助け出すから、一人で出歩くのはやめてくれ」
小屋の中からギータと鷹匠が、シロハヤブサを伴って出てきた。ギータは鷹に夢中で、暇を見つけては鷹匠と何か話している。
「ギータ、アイラを唆すのはやめてくれ。小屋に近付いたら駄目だって、全然聞かないんだから」
「ウィルソン、過保護すぎないか? こいつなら図書室の本一冊位だぞ」
「そうそう、お医者様も運動するべきだって仰ってたわ」
「だったら一緒に散歩しよう。ほんの2ヶ月前までつわりで動けなかったんだ。あまり心配かけないでくれ」
「旦那様のご希望なら、勿論ご一緒するわ」
コチョウゲンボウを鷹匠に預け、ウィルソンと腕を組んで温室へと向かう。
「お仕事は大丈夫なの?」
「ああ、我が家には優秀な領主様がいるからね」
「頑固で心配性の執事殿もね。最近は、帳簿もつけさせて貰えないのよね」
「チェックはしてるんだろう? まさか手を抜いてるとか?」
「とんでもない。あんまり必要じゃない気がするけど、よく読んでからサインしてるわ。そろそろ領主を交代しても良いかしらって思う位の出来だわ」
「甘いな。逃げ出せると思ったら大間違いだ」
「酷い人ね。これからどんどん忙しくなるのに」
「お互い様だよ。それにアイラは暇を見つけると、とんでもない事を思いつくから、忙しくしておかないとね」
「では、明日はピクニックに行きましょう。メープルがとっても綺麗なの」
「暖かくして行かないとね。妊婦に冷えは危険だそうだ」
「お母様?」
「うん、今月の初めごろかな? じきに寒くなるから、気をつけるようにって言ってた」
「明日、お母様もお誘いしたら?」
「やめてくれ、どんどん人が増えそうで怖い。二人だけのデートはお嫌ですか?」
「とんでもないわ、二人だけなんて久しぶりだわ」
「ギータとリリアが付き合ってるって知ってた?」
「ああ、そろそろ婚約かも」
「私、気が付いたばかりなのに」
「奥方様は、相変わらず鈍くていらっしゃる」
ウィルソンが笑う。
「ウィルソンの笑い顔、好きだわ」
アイラが真顔で言うと、ウィルソンが少し赤くなる。
「今年の初めの頃、仮面執事って呼んでたのよ。こーんな顔してるから」
アイラは目の横を引っ張って、口をへの字にする。
「そんなに酷かったかな?」
「とっても。お尻をぶってあげようかって思ってたわ」
「もう、そんな風にはならないから」
温室に着き、ウィルソンがドアを開けてくれた。
「アルフレッド様がね、ウィルソンは駄々をこねてるんだって」
苦笑いするウィルソン。
「ジファール侯爵が、来週遊びに来るそうだ。何と、ソフィアに会いに来る」
「嘘! 凄いわ。二人ならとってもお似合いだわ」
「もしそうなったら、ソフィアと離れ離れになるけど、大丈夫?」
「そうか、そうよね。そうしたら毎年王都に遊びに行かなくちゃね」
「毎年、ジファール侯爵の餌食か・・」
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「アイラ、駄目だ。戻って来い」
ウィルソンが屋敷から駆け出してきた。
「少しくらい良いでしょう」
アイラが態とらしく、大きなため息をつく。
「ジファール侯爵に叩き返してやる」
「何で? こんなに可愛いのよ」
エジャートン伯爵領。領主館の左手にはまだ新しい、大きな小屋が二つ建てられている。小屋の前には、少し大きくなったお腹を抱えたアイラが、グローブを嵌めた右手にコチョウゲンボウを乗せている。
「この子なら、小柄だからいいでしょう? シロハヤブサは重いから我慢してるのよ」
結婚の祝いの一つに、ジファール侯爵から二羽のハヤブサが贈られてきた。専属の鷹匠まで用意されており、アイラは大喜びだった。
「さっきこの子が、ホバリングを披露してくれたの」
「アイラ、頼むから無茶はしないでくれ」
「無茶なんてしてないわ。ずっと暖炉の前にいたら、焦げて灰になりそうなんだもの」
「そうなる前に助け出すから、一人で出歩くのはやめてくれ」
小屋の中からギータと鷹匠が、シロハヤブサを伴って出てきた。ギータは鷹に夢中で、暇を見つけては鷹匠と何か話している。
「ギータ、アイラを唆すのはやめてくれ。小屋に近付いたら駄目だって、全然聞かないんだから」
「ウィルソン、過保護すぎないか? こいつなら図書室の本一冊位だぞ」
「そうそう、お医者様も運動するべきだって仰ってたわ」
「だったら一緒に散歩しよう。ほんの2ヶ月前までつわりで動けなかったんだ。あまり心配かけないでくれ」
「旦那様のご希望なら、勿論ご一緒するわ」
コチョウゲンボウを鷹匠に預け、ウィルソンと腕を組んで温室へと向かう。
「お仕事は大丈夫なの?」
「ああ、我が家には優秀な領主様がいるからね」
「頑固で心配性の執事殿もね。最近は、帳簿もつけさせて貰えないのよね」
「チェックはしてるんだろう? まさか手を抜いてるとか?」
「とんでもない。あんまり必要じゃない気がするけど、よく読んでからサインしてるわ。そろそろ領主を交代しても良いかしらって思う位の出来だわ」
「甘いな。逃げ出せると思ったら大間違いだ」
「酷い人ね。これからどんどん忙しくなるのに」
「お互い様だよ。それにアイラは暇を見つけると、とんでもない事を思いつくから、忙しくしておかないとね」
「では、明日はピクニックに行きましょう。メープルがとっても綺麗なの」
「暖かくして行かないとね。妊婦に冷えは危険だそうだ」
「お母様?」
「うん、今月の初めごろかな? じきに寒くなるから、気をつけるようにって言ってた」
「明日、お母様もお誘いしたら?」
「やめてくれ、どんどん人が増えそうで怖い。二人だけのデートはお嫌ですか?」
「とんでもないわ、二人だけなんて久しぶりだわ」
「ギータとリリアが付き合ってるって知ってた?」
「ああ、そろそろ婚約かも」
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ウィルソンが笑う。
「ウィルソンの笑い顔、好きだわ」
アイラが真顔で言うと、ウィルソンが少し赤くなる。
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アイラは目の横を引っ張って、口をへの字にする。
「そんなに酷かったかな?」
「とっても。お尻をぶってあげようかって思ってたわ」
「もう、そんな風にはならないから」
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苦笑いするウィルソン。
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「嘘! 凄いわ。二人ならとってもお似合いだわ」
「もしそうなったら、ソフィアと離れ離れになるけど、大丈夫?」
「そうか、そうよね。そうしたら毎年王都に遊びに行かなくちゃね」
「毎年、ジファール侯爵の餌食か・・」
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