【完結】真実の行方 悠々自適なマイライフを掴むまで

との

文字の大きさ
上 下
89 / 89

ハヤブサ

しおりを挟む
十一月 結婚八ヶ月後

ーーーーーー

「アイラ、駄目だ。戻って来い」
 ウィルソンが屋敷から駆け出してきた。

「少しくらい良いでしょう」
 アイラが態とらしく、大きなため息をつく。

「ジファール侯爵に叩き返してやる」
「何で? こんなに可愛いのよ」

 エジャートン伯爵領。領主館の左手にはまだ新しい、大きな小屋が二つ建てられている。小屋の前には、少し大きくなったお腹を抱えたアイラが、グローブを嵌めた右手にコチョウゲンボウを乗せている。

「この子なら、小柄だからいいでしょう? シロハヤブサは重いから我慢してるのよ」

 結婚の祝いの一つに、ジファール侯爵から二羽のハヤブサが贈られてきた。専属の鷹匠まで用意されており、アイラは大喜びだった。

「さっきこの子が、ホバリングを披露してくれたの」

「アイラ、頼むから無茶はしないでくれ」
「無茶なんてしてないわ。ずっと暖炉の前にいたら、焦げて灰になりそうなんだもの」
「そうなる前に助け出すから、一人で出歩くのはやめてくれ」

 小屋の中からギータと鷹匠が、シロハヤブサを伴って出てきた。ギータは鷹に夢中で、暇を見つけては鷹匠と何か話している。

「ギータ、アイラを唆すのはやめてくれ。小屋に近付いたら駄目だって、全然聞かないんだから」

「ウィルソン、過保護すぎないか? こいつなら図書室の本一冊位だぞ」
「そうそう、お医者様も運動するべきだって仰ってたわ」
「だったら一緒に散歩しよう。ほんの2ヶ月前までつわりで動けなかったんだ。あまり心配かけないでくれ」

「旦那様のご希望なら、勿論ご一緒するわ」

 コチョウゲンボウを鷹匠に預け、ウィルソンと腕を組んで温室へと向かう。


「お仕事は大丈夫なの?」
「ああ、我が家には優秀な領主様がいるからね」
「頑固で心配性の執事殿もね。最近は、帳簿もつけさせて貰えないのよね」

「チェックはしてるんだろう? まさか手を抜いてるとか?」
「とんでもない。あんまり必要じゃない気がするけど、よく読んでからサインしてるわ。そろそろ領主を交代しても良いかしらって思う位の出来だわ」

「甘いな。逃げ出せると思ったら大間違いだ」
「酷い人ね。これからどんどん忙しくなるのに」
「お互い様だよ。それにアイラは暇を見つけると、とんでもない事を思いつくから、忙しくしておかないとね」

「では、明日はピクニックに行きましょう。メープルがとっても綺麗なの」
「暖かくして行かないとね。妊婦に冷えは危険だそうだ」
「お母様?」
「うん、今月の初めごろかな? じきに寒くなるから、気をつけるようにって言ってた」
「明日、お母様もお誘いしたら?」
「やめてくれ、どんどん人が増えそうで怖い。二人だけのデートはお嫌ですか?」
「とんでもないわ、二人だけなんて久しぶりだわ」


「ギータとリリアが付き合ってるって知ってた?」
「ああ、そろそろ婚約かも」
「私、気が付いたばかりなのに」
「奥方様は、相変わらず鈍くていらっしゃる」
 ウィルソンが笑う。

「ウィルソンの笑い顔、好きだわ」
 アイラが真顔で言うと、ウィルソンが少し赤くなる。

「今年の初めの頃、仮面執事って呼んでたのよ。こーんな顔してるから」
 アイラは目の横を引っ張って、口をへの字にする。

「そんなに酷かったかな?」
「とっても。お尻をぶってあげようかって思ってたわ」

「もう、そんな風にはならないから」

 温室に着き、ウィルソンがドアを開けてくれた。

「アルフレッド様がね、ウィルソンは駄々をこねてるんだって」

 苦笑いするウィルソン。

「ジファール侯爵が、来週遊びに来るそうだ。何と、ソフィアに会いに来る」
「嘘! 凄いわ。二人ならとってもお似合いだわ」

「もしそうなったら、ソフィアと離れ離れになるけど、大丈夫?」
「そうか、そうよね。そうしたら毎年王都に遊びに行かなくちゃね」

「毎年、ジファール侯爵の餌食か・・」
しおりを挟む
感想 10

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(10件)

来
2022.01.09

非常に楽しかったです
アイラがキチンと 最初から最後まで書かれていたと思います
完結話を探して読んでいるのですが いつも思うのは もう少しもう少し書いてくだされ〜と 思いながら読んでます 矛盾ですが笑笑
子供の話や 王族 公爵トマスさん の話も読みたいです〜番外編お願いします!お疲れ様でした!

との
2022.01.09 との

ありがとうございます。
楽しんで頂けたならとても嬉しいです😊😊

解除
しろちょこ
2021.08.14 しろちょこ

アイラに全く魅力を感じないのは私だけ??
美少女となってるけど、それだけで、頑固でやる事なす事空回り。信念あるわけでもなさそうで市井の民を思い遣る感じもない。皆の足を引っ張って反省もせずまた空回り。可愛くてもイライラしますわ。
彼女に惹かれてるおっさん共も、なんで?理由が分からないので、見た目にだけに惹かれてるように見えるし、それならただのロリコン。
彼女のご両親と仲が良かったという割には亡くなったことに対する哀しみが伝わってこないから、夜会に出てこない美少女な妖精姫に興味あるだけにしか見えない。
色んな問題をすぐ解決できないのはリアルもあるけど、それにしても悪手が多いし下手くそ。
証言者をお金を使ってやたらめったら匿うのも、??って感じ。
結果を知りたくて全部読んだけど登場人物に共感も応援もあまりできませんでした。ごめんなさい。

との
2021.08.15 との

ありがとうございました。
楽しんで頂けず申し訳ありません🙇‍♀️

解除
ちょこ
2021.07.05 ちょこ

途中で辞めれずに一気でした!
鈍感ちゃんにも程がある、、、
リアリティーがあって違和感なく読めました!

との
2021.07.05 との

ありがとうございます。
作品書くときも一気でした(〃ω〃)

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。