【完結】真実の行方 悠々自適なマイライフを掴むまで

との

文字の大きさ
上 下
88 / 89

哲学者のゲーム

しおりを挟む
三月

ーーーーーー

 公園のアーモンドの木が、薄いピンクの花を咲かせ始めた。ミモザが鮮やかな黄色い花をつけ、足元には可憐な白い花をつけたイングリッシュ・プリムローズが、所狭しと咲き誇っている。

 婚約掲示期間の間に、ウィルソンはアルフレッドと養子縁組を行った。ウィルソンはかなり難色を示したが、

「では昔ウィルソンが酔っ払って、色々話してくれた面白い話を披露しよう」
の一言で、
「ジファール侯爵と養子縁組します」
となった。

 ポーレット公爵とトマスは結婚の証人に立候補してくれた。陛下から、ストックトン侯爵領の一部が贈与され、ウィルソンはかなりの資産家になった。

 女伯爵と元平民の結婚は、貴族社会の関心を集めた。その上噂を聞きつけた民衆も大勢集まり、グランディ教会の近くでは、馬車が一時動けなくなった。


 ウィルソンは燕尾服、アイラは金糸で縫い取りされた赤いドレス。ストレートにおろした髪に、煌めくティアラをつけている。

 教会の戸口に、証人2人とともに立つ。司祭の質問に答えた後、指輪の交換が行われ教会の中に入った。教会の中は、蝋燭が煌々と灯り、祭壇が陽の光に照らされている。

 一枚のポワルを2人で被り、ミサを行う。一欠片の聖餅を分け合い、祝別されたワインを飲む。蝋燭を聖母マリアの祭壇に捧げた後教会の外へ出ると、参加者達からのライスシャワーが降り注いだ。

 屋敷に戻り、祝いの宴が始まった。招待客以外にも多くの人が訪れて、結婚を祝福してくれた。


 招待客が帰り、屋敷は静けさに包まれている。使用人の手を借りて支度を済ませ、主寝室のベッドの端に腰掛けた。

「ソフィア、何だかこのシチュエーション好きじゃないわ」
「ウィルソンが逃げ出すとか?」
「やめて、ありそうで怖いわ」

 ソフィアはくすくすと笑い、
「大丈夫ですよ。ウィルソンはお屋敷に上がったその日から、アイラ様に夢中ですから」
「そんな前から?」
「もう、笑える程。毎日アイラ様の事ばかり夢中で話して。ギータは良く逃げ出してました」

「それではアイラ様、良い夜を」


 ドアが小さくノックされ、ガウン姿のウィルソンが入ってきた。
「ホットワインをお持ちしました」
「ありがとう」

 2人は並んで座ったが、会話が続かない。持っているグラスを見つめたまま、

「ウィルソン?「アイラ様?」」
 くすくすと笑い、少し緊張が解れる。

「お先にどうぞ」

「どうして、トマス様のところに行ったの?」
「今それを?」
「何だか聞きそびれて」

「正々堂々としたかったんです」
「?」
「ずっと誤魔化してましたから」
「でもね。トマス様は」
「トマス様はアイラ様の事がお好きでしたよ。状況が許せば、とっくに私の物にしていたと仰いました」
「・・そうなんだ。私全然」

「アイラ様は、そう言う事に疎くていらっしゃる。哲学者のゲームの後、この人こそと思ったそうです」
「・・」

「ウィルソンは何が聞きたいの?」
「ヘンリーの事」

「ウィルソンが羨ましかったって」
「やっぱり。彼には酷い事をしました。彼の気持ちには気づいていたのに、見ないふりしていました。ジファール侯爵の元に行く時、ヘンリーがひどく怒っていたのを覚えています」

「騎士になりたかったって」
「アイラ様の騎士です。気付きませんでしたか?」
「・・最後まで言い訳しなかったの。だから、もしかしたらとは思ったけど」

「ジファール侯爵も多分」
「お優しい方だからだわ」
「ジファール侯爵は優しくないですよ。と言うか、余程の思い入れがない限り優しくはなりません。アイラ様は特別です」
「ウィルソンが特別なんだと思うわ」

「それもないとは言いませんが、本気だったと思います」


「もう一つ聞いていいかしら?」
「はい、何でも」
「いつまで、アイラ様って呼ぶの?」
「それは・・かなりハードルが高いです」

「一回試してみる?」
「・・アイラ?」

 くすくすと笑うアイラ。
「疑問系なのね」
「・・努力します」

 グラスが二つ、サイドテーブルに並んで置かれた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

処理中です...