【完結】真実の行方 悠々自適なマイライフを掴むまで

との

文字の大きさ
上 下
76 / 89

侯爵邸

しおりを挟む
十二月

ーーーーーー

 19時過ぎ。ストックトン侯爵の屋敷前に馬車を停めた。馬車の中にソフィアを残して、アイラは1人で玄関に向かう。ウィルソンは毛布を被って、ソフィアの足元に蹲っている。
 ドアのノッカーを力強く叩くと、暫くしてドアが開き男が出てきた。二言三言話した後、アイラは屋敷に入って行った。

「あんたがアイラ様に、こんなこと許したのが信じらんないわ」
「仕方ないだろう? いくら言っても聞きゃしない。1人でこっそり、抜け出しそうだったんだ」
「だったら縄でぐるぐる巻にして、クローゼットにでも閉じ込めれば良かったんだわ」
「覚えとくよ」
「アイラ様に何かあったら、タダじゃ置かないからね」


 アイラは応接室に案内された。暖炉に火が入っていて暖かいが、照明が抑えられていて少し薄暗い。

「エジャートン伯爵様、マントをお預かりします」
「いえ、すぐお暇するからこのままで」

 ガウン姿の、ストックトン侯爵が入ってきた。

「アイラ、こんな時間にどうしたんだい?」
「お加減が悪いと聞いて、心配しておりましたの。色々あって、中々お伺いできなかったものですから」
「ああ、まぁ大したことはないんだが、大事をとって休む事にしたんだ」

 侯爵は、今回の訪問を訝しんでいるようで、表情が硬く歯切れが悪い。

「アルフレッド様のお屋敷では、ウィルソンがご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いや、彼の怪我は大丈夫だったかな?」
「はい、お義父様にご迷惑をおかけした事、きつく注意しておきました」
「・・迷惑と言うと?」

「あの時の男、ビクターと言うそうです。デイビッドと共謀して、お父様達の事故を起こした犯人だったんです」
「そうだったのか」
「はい、ずっと探していて。それでウィルソンは勇足をしてしまったんです。でも、お義父様もお気付きだったとは思いませんでした」
「・・?」
「お義父様が、あの男を誘き出してくださったのでしょう?」
「あ、ああ」

「ビクターはとうとう捕まったんです。まだ何も話してない様ですが、じきに全てが明らかになると思います。その事をお伝えして、お礼を申し上げようと」
「そうか、お父上達の」

「こんな時間に、申し訳ありませんでした。少し急ぎますのでお暇致しますね」

 アイラは立ち上がり、礼をした後ドアに向かう。
「玄関まで送ろう」
 執事がドアを開け、侯爵と2人並んで玄関へ向かう。従僕が玄関のドアを開き、アイラは一歩外へ踏み出した。

「お義父様、色々ありがとうございます。この後、グランディ教会とアルフレッド様の所へ行くので、失礼します」

 ストックトン侯爵は、歩き出そうとするアイラの腕を掴み、
「今なんと?」
「教会で、離婚の手続きを済ませてから、アルフレッド様に後見人になって頂くようお願いに参りますの。
デイビッドはあの通りですし、やはり女1人では色々心許ないので」

「待ってくれ、それなら私が」
「離婚したら、あれこれ噂されたりしますでしょう。これ以上ご迷惑はおかけ出来ませんわ。もう委任状にサインも済ませたので、後はアルフレッド様のサインを頂くだけですの」

「今、持っているのかい?」
「はい、これです」

 マントをから手を出して、書類を見せる。暗くて内容はよく見えないが、確かにアイラのサインがされている。
「弁護士にも確認してもらったので、問題ないと思います。お義父様、手を離して頂けませんか? 馬車で侍女が1人で待っていますの」
「ウィルソンや護衛は?」

「犯人は捕まったと言うのに、あれこれ煩くて。みんな置いてきました」
 アイラは、悪戯に成功した子供の様な笑顔を浮かべた。

「とにかく中へ」
 侯爵は強い力で、アイラを屋敷の中に引き込もうとした。

「アイラ様!」
 馬車の窓からソフィアが顔を出し、大声で叫ぶ。近くを歩いていた紳士が何事かと振り返り、アイラ達を凝視している。

「もう、ソフィアったら」
 小声で呟き、
「お義父様、人が見ています。手を離して下さい」
 紳士は心配したのか、アイラ達の元へ歩きかけた。ストックトン侯爵が手を離した。アイラは紳士に会釈をして、馬車に乗り込んだ。



 馬車が走り出した。ソフィアの顔は引き攣り、手が震えている。
「全く、生きた心地がしませんでした。二度とこんな事はごめんですよ」
 
「ありがとう、ソフィア。凄く良いタイミングだったわ。紳士役の方も」

 ウィルソンが毛布から顔を出した。
「ソフィア、ったく。俺をサンドバッグ代わりにするのはやめてくれ。それでどうなりましたか?」

「多分上手く言ったと思う。屋敷の中では、当たり障りのない話だけして、肝心の話は玄関を出てからしたから。今回は危険も何もなかったわ」
 アイラが得意満面でウィルソンを見る。

「お一人で侯爵に対峙するだけで、十分危険ですけど」
 ソフィアが小言を言う。

「侯爵に何を見せていたんですか?」
「委任状よ」

 ソフィアが内容を読み、呆然とした。
「アイラ様、これって・・」

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

処理中です...