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対戦
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十一月
ーーーーーー
「アイラはコルフをした事は?」
「多分目の前のゲーム全て、初めて見たんじゃないでしょうか」
「そうか、では一つずつ試してみよう。気に入ったのがあれば、もう一度参加してみよう」
トマスが連れていってくれた場所には、女性2人と男性が1人いた。
「初心者なんだが、参加しても?」
「ええ、ぜひ」
参加者の1人がクラブとボールを持ってきてくれた。
「ルールはとても簡単なんだ。あそこにある柱、あれにボールを当てるだけ。次は誰の番かな? お手本をお願い出来る?」
「お手本だなんて、どうしましょう」
「大丈夫、アイラは初めてなんだ。よろしく」
レイチェル嬢は頬を赤く染め、クラブを握る。打ったボールは柱から随分と離れたところに止まってしまった。
「レイチェル様、緊張していらっしゃるのね」
もう1人の女性が揶揄う。
「だって、トマス様が見てらっしゃるのだもの」
「アイラ、やってみるかい? クラブの持ち方は・・」
アイラが振ったクラブは、ボールの上を素通りしていく。何度目かに漸くボールに当たったが、ボールはほんの少し動いただけで止まってしまった。
「思ったより難しいのですね」
「他のゲームも試してみるかい?」
「はい、皆さんありがとうございました。とても楽しかったです」
「良かったらまた後でいらしてね」
その後は、ホースシューズやスキットルズなど幾つかのゲームに参加した。
庭の端にあるテーブルで、休憩を兼ねて紅茶を飲んだ。
「どれが良かったかな?」
「どれも楽しかったです。皆さんとてもお上手で、簡単そうに見えるのですが見た目より難しくて」
アイラは苦笑いをしているが、
「初めてだと仕方ないよ。どれかやってみたいのはあったかな?」
「そうですね、スキットルズをもう一度試してみたいと」
「では後でもう一度行ってみよう」
「向こうで男の方々がやっているのは何ですか?」
「あれはクウォータースタッフだね、あっちでやっているのはストールボール」
「色々なゲームがあるんですね。種類が沢山ありすぎてびっくりしてしまいました」
「明日は室内のゲームが予定されているみたいだから、それも色々試してみよう。多分明後日の鷹狩りの為に、明日は体力を温存して欲しいって事だね」
アイラは、初心者の自分に付き合わせて申し訳なく思っていたが、トマスは終始楽しそうにしている。
「あの、明日もお付き合い頂いても宜しいのでしょうか? 初めての事ばかりで、トマス様はちっとも楽しめないのでは」
「私の方こそ楽しませてもらっているよ。アイラの百面相は一見の価値がある」
トマスが笑い出した。周りにいた人達がトマスの笑い声に驚いている。アイラは真っ赤になり、
「ひゃっ百面相ですか?」
声が裏返ってしまう。
「いつものお淑やかなアイラも素敵だが、ボールを睨んで真剣にクラブを振っているところとか、とても可愛かった。今回招待してくれたアルフレッドには、お礼を言わなくてはね」
トマスに揶揄われ、この後は表情を崩さないように頑張ろうと心に決めた。
翌日もまたトマスが声をかけてくれた。
「この中でやった事のあるゲームは?」
「チェスとバックギャモンはお父様とよく対戦していました」
「それは手強そうだ。それ以外を試してみるかい? それとも慣れたものから?」
「他のゲームを見てみたいです」
「あれはサイコロを使ったハザード、その向こうはディスクを使ったショベルボードだね。あっちはカードゲーム。誰もやっていないのは、哲学者のゲーム。あれは難しいからみんな敬遠してるみたいだね」
「ではハザードからお願いできますか?」
「最初は2人対戦でいこうか。あそこの空いているテーブルを使おう」
側に控えていた使用人がサイコロやコインを持ってきた。
「アルフレッドは自分の屋敷内で大金が動くのは嫌いらしくてね、それぞれに決まった額のコインが渡されるんだ。ハザードはディーラーとサイコロを振るプレーヤーで対戦する。プレーヤーが振ったサイコロの数が、7か11だとプレーヤーの勝ち。2か3か12が出たら・・」
今日も色々なゲームを楽しんだ。慣れていないゲームではコインがどんどんなくなっていく。手持ちが少なくなったら、チェスやバックギャモンでコインを稼ぐ。この繰り返しで、その日の終わり頃には、少しばかりコインの余裕が出来ていた。
「最後に、哲学者のゲームをやりませんか?」
哲学者のゲームはチェスに良く似たゲームだが、ルールがかなり複雑で今日は最後まで誰も手を出していない。
「アイラはやった事があるの?」
「少しだけですけど、ルールは何とか」
「いくら賭ける?」
「このコインを全部」
2人の対戦が始まった。アイラはトマスに善戦している。はじめは余裕があったトマスだが、段々と身を乗り出し眉間に皺を寄せて考え込み始めた。招待客達が興味津々で周りを取り囲んだ。
トマスが勝利し、周りが一斉に拍手する。
「危ないところだった。アイラは最強だね、次に対戦したら勝てるかどうか自信がないよ」
トマスは満面の笑みを浮かべている。暫くして、使用人が夕食の準備が出来たと告げ、全員で食堂に移動した。
アイラはトマスにエスコートされながら話しかけた。
「トマス様の百面相、楽しかったです」
トマスの笑い声が響き渡った。
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「アイラはコルフをした事は?」
「多分目の前のゲーム全て、初めて見たんじゃないでしょうか」
「そうか、では一つずつ試してみよう。気に入ったのがあれば、もう一度参加してみよう」
トマスが連れていってくれた場所には、女性2人と男性が1人いた。
「初心者なんだが、参加しても?」
「ええ、ぜひ」
参加者の1人がクラブとボールを持ってきてくれた。
「ルールはとても簡単なんだ。あそこにある柱、あれにボールを当てるだけ。次は誰の番かな? お手本をお願い出来る?」
「お手本だなんて、どうしましょう」
「大丈夫、アイラは初めてなんだ。よろしく」
レイチェル嬢は頬を赤く染め、クラブを握る。打ったボールは柱から随分と離れたところに止まってしまった。
「レイチェル様、緊張していらっしゃるのね」
もう1人の女性が揶揄う。
「だって、トマス様が見てらっしゃるのだもの」
「アイラ、やってみるかい? クラブの持ち方は・・」
アイラが振ったクラブは、ボールの上を素通りしていく。何度目かに漸くボールに当たったが、ボールはほんの少し動いただけで止まってしまった。
「思ったより難しいのですね」
「他のゲームも試してみるかい?」
「はい、皆さんありがとうございました。とても楽しかったです」
「良かったらまた後でいらしてね」
その後は、ホースシューズやスキットルズなど幾つかのゲームに参加した。
庭の端にあるテーブルで、休憩を兼ねて紅茶を飲んだ。
「どれが良かったかな?」
「どれも楽しかったです。皆さんとてもお上手で、簡単そうに見えるのですが見た目より難しくて」
アイラは苦笑いをしているが、
「初めてだと仕方ないよ。どれかやってみたいのはあったかな?」
「そうですね、スキットルズをもう一度試してみたいと」
「では後でもう一度行ってみよう」
「向こうで男の方々がやっているのは何ですか?」
「あれはクウォータースタッフだね、あっちでやっているのはストールボール」
「色々なゲームがあるんですね。種類が沢山ありすぎてびっくりしてしまいました」
「明日は室内のゲームが予定されているみたいだから、それも色々試してみよう。多分明後日の鷹狩りの為に、明日は体力を温存して欲しいって事だね」
アイラは、初心者の自分に付き合わせて申し訳なく思っていたが、トマスは終始楽しそうにしている。
「あの、明日もお付き合い頂いても宜しいのでしょうか? 初めての事ばかりで、トマス様はちっとも楽しめないのでは」
「私の方こそ楽しませてもらっているよ。アイラの百面相は一見の価値がある」
トマスが笑い出した。周りにいた人達がトマスの笑い声に驚いている。アイラは真っ赤になり、
「ひゃっ百面相ですか?」
声が裏返ってしまう。
「いつものお淑やかなアイラも素敵だが、ボールを睨んで真剣にクラブを振っているところとか、とても可愛かった。今回招待してくれたアルフレッドには、お礼を言わなくてはね」
トマスに揶揄われ、この後は表情を崩さないように頑張ろうと心に決めた。
翌日もまたトマスが声をかけてくれた。
「この中でやった事のあるゲームは?」
「チェスとバックギャモンはお父様とよく対戦していました」
「それは手強そうだ。それ以外を試してみるかい? それとも慣れたものから?」
「他のゲームを見てみたいです」
「あれはサイコロを使ったハザード、その向こうはディスクを使ったショベルボードだね。あっちはカードゲーム。誰もやっていないのは、哲学者のゲーム。あれは難しいからみんな敬遠してるみたいだね」
「ではハザードからお願いできますか?」
「最初は2人対戦でいこうか。あそこの空いているテーブルを使おう」
側に控えていた使用人がサイコロやコインを持ってきた。
「アルフレッドは自分の屋敷内で大金が動くのは嫌いらしくてね、それぞれに決まった額のコインが渡されるんだ。ハザードはディーラーとサイコロを振るプレーヤーで対戦する。プレーヤーが振ったサイコロの数が、7か11だとプレーヤーの勝ち。2か3か12が出たら・・」
今日も色々なゲームを楽しんだ。慣れていないゲームではコインがどんどんなくなっていく。手持ちが少なくなったら、チェスやバックギャモンでコインを稼ぐ。この繰り返しで、その日の終わり頃には、少しばかりコインの余裕が出来ていた。
「最後に、哲学者のゲームをやりませんか?」
哲学者のゲームはチェスに良く似たゲームだが、ルールがかなり複雑で今日は最後まで誰も手を出していない。
「アイラはやった事があるの?」
「少しだけですけど、ルールは何とか」
「いくら賭ける?」
「このコインを全部」
2人の対戦が始まった。アイラはトマスに善戦している。はじめは余裕があったトマスだが、段々と身を乗り出し眉間に皺を寄せて考え込み始めた。招待客達が興味津々で周りを取り囲んだ。
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「危ないところだった。アイラは最強だね、次に対戦したら勝てるかどうか自信がないよ」
トマスは満面の笑みを浮かべている。暫くして、使用人が夕食の準備が出来たと告げ、全員で食堂に移動した。
アイラはトマスにエスコートされながら話しかけた。
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トマスの笑い声が響き渡った。
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