【完結】真実の行方 悠々自適なマイライフを掴むまで

との

文字の大きさ
上 下
56 / 89

ジファール侯爵

しおりを挟む
十一月

ーーーーーー

 アルフレッドの別荘には午後少し遅い時間に着いた。侯爵の別荘は白と茶色を基調とした三階建て。鮮やかな芝生が敷き詰められた前庭と、秋の日差しにキラキラと輝く噴水が優雅さを醸し出している。

 アルフレッドは他の招待客と出かけており、屋敷はひっそりと静まりかえっている。部屋に案内されてほっと一息着いた頃、アルフレッド達が帰ってきた。

 この日の夜の参加者は8人程。まだ到着していない人、着いたばかりなので部屋で夕食を摂る人など様々だった。
 ストックトン侯爵はまだ到着していない。今朝ウィルソンから話を聞いたばかりなので、顔を合わせず済んでほっとした。夕食の後は直ぐに部屋に戻ったが、疲れが出てしまったようで、朝まで夢も見ず眠ってしまった。


 翌日、さっそくジファール侯爵の案内で、鷹を見に行く事になった。

「鷹を近くで見るのは初めてかな?」
「はい、とても楽しみです」
「鷹狩に使う鷹といっても種類は色々でね。今うちにいるのはオスとメスが一羽ずつ。メスはシロハヤブサと言って、ハヤブサの中でも最も大きな種類なんだ。頭もいいし猟欲も強い、しかもメスはオスより狩りが上手だから自慢の娘なんだ。
オスの方はイヌワシで、シロハヤブサよりもっと大きい。羽を広げると最大で7フィート以上になる者もいる。“風の精” と言われていて、翼の形を変えながら空を飛ぶんだが、飛翔能力はイヌワシが一番だね。嘴と爪を武器にして、狐や鹿などの大型の獣も襲う。そのくせ性格は結構穏やかで、シロハヤブサより扱いやすいんだ」

 母家から少し離れたところに、4つの小屋が並んでいた。アルフレッドはその中で、一番手前にある小屋の入り口にアイラを連れて行った。

「とても大きな小屋なんですね」

「鷹は大きいだけでなく羽がとても弱いんだ。だからこの位はないと、はばたいた時に羽を痛めてしまう。いいかね、彼らを驚かせないように。入ったら暫くの間じっとしているんだ。鷹は他の動物と違って、人に慣れるということがない。だから先ず私達は敵ではないんだと、分かってもらわないといけないんだ」

 明るい日差しの中から、少し薄暗い小屋の中に入った。突然の侵入者に驚いたのか、バサバサと羽音が聞こえて来る。そのまま暫くじっとしていると、目が慣れてきて僅かにグレーがかったハヤブサが見えてきた。初めて見る侵入者を許してくれたのか、小屋の中が静かになった。

「彼女の足は、皮の紐で止まり木に結んであるから心配はいらない」
 ジファール侯爵が小声で教えてくれた。

「ハヤブサの狩りのスタイルは、上空で待ち構えて獲物に向けて急降下していく。そして強い足で獲物を蹴り落とす。力強くて実に美しい。多分一度見たら病みつきになる」

「とても優しい顔立ちに見えます。そんな凄腕の狩人には見えませんね」
「確かにシロハヤブサは可愛い顔をしている。違う種類にはとても男らしい顔をしているのもいるがね」

 ジファール侯爵はかなりの鷹好きのようで、まるで子供のように目を輝かせている。

「これほど可愛がっているのに、ほんの数年で手放さなければならないなんて。寂しくはありませんか?」
「彼らは元々、自由に生きるのが自然なんだ。成熟したら野生に戻り子孫を残す。とても理にかなっているだろう? 私達の様に影に隠れて暗躍したり、人を蹴落とそうと策を巡らしたりはしない。どれほど時間をかけても、決して媚び諂う事もない。そこが気に入ってるんだ」

 いつものアルフレッドは優雅で少し怠惰な雰囲気だが、鷹を見つめる様子は生き生きとしていて力強く、まるで愛しい誰かを見つめている様な優しさも感じられる。

(本当に鷹がお好きなのね)

「さあ、隣の小屋に寄って屋敷に戻ろう。じきに鷹匠がこの子達の訓練に戻って来る。邪魔をしたら叱られるからね」

 隣の小屋のイヌワシは、茶色の身体で鋭い目付き、アイラの中の鷹のイメージそのものだった。


 屋敷に戻ると、トマスが到着していた。

「やあ、早速鷹を見に行ったんだって? 後で私も、アルフレッドのお気に入りの子供達に会わせてもらえるかな?」
「勿論ですとも、そろそろ鷹匠が彼らの訓練を始めるので、それをご覧になられますか?」

 トマスとアルフレッドは二人揃って出て行った。アイラは一旦部屋に戻る事にした。

「鷹狩りは明後日の予定で、ストックトン侯爵は、明日いらっしゃるそうです。今日と明日は色々なイベントが予定されています。アイラ様がご存じないゲームが、多分沢山あると思います」

 ストックトン侯爵がまだ来ていないと聞いて、アイラは落胆した。

「鷹は凄くかっこよかったわ。アルフレッド様は本当に鷹がお好きなのね」
「ジファール侯爵の鷹好きは、社交界でも有名ですね。多分あの方が本当にすきなのは鷹狩りだけかもしれません」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...