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ジファール侯爵
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十一月
ーーーーーー
アルフレッドの別荘には午後少し遅い時間に着いた。侯爵の別荘は白と茶色を基調とした三階建て。鮮やかな芝生が敷き詰められた前庭と、秋の日差しにキラキラと輝く噴水が優雅さを醸し出している。
アルフレッドは他の招待客と出かけており、屋敷はひっそりと静まりかえっている。部屋に案内されてほっと一息着いた頃、アルフレッド達が帰ってきた。
この日の夜の参加者は8人程。まだ到着していない人、着いたばかりなので部屋で夕食を摂る人など様々だった。
ストックトン侯爵はまだ到着していない。今朝ウィルソンから話を聞いたばかりなので、顔を合わせず済んでほっとした。夕食の後は直ぐに部屋に戻ったが、疲れが出てしまったようで、朝まで夢も見ず眠ってしまった。
翌日、さっそくジファール侯爵の案内で、鷹を見に行く事になった。
「鷹を近くで見るのは初めてかな?」
「はい、とても楽しみです」
「鷹狩に使う鷹といっても種類は色々でね。今うちにいるのはオスとメスが一羽ずつ。メスはシロハヤブサと言って、ハヤブサの中でも最も大きな種類なんだ。頭もいいし猟欲も強い、しかもメスはオスより狩りが上手だから自慢の娘なんだ。
オスの方はイヌワシで、シロハヤブサよりもっと大きい。羽を広げると最大で7フィート以上になる者もいる。“風の精” と言われていて、翼の形を変えながら空を飛ぶんだが、飛翔能力はイヌワシが一番だね。嘴と爪を武器にして、狐や鹿などの大型の獣も襲う。そのくせ性格は結構穏やかで、シロハヤブサより扱いやすいんだ」
母家から少し離れたところに、4つの小屋が並んでいた。アルフレッドはその中で、一番手前にある小屋の入り口にアイラを連れて行った。
「とても大きな小屋なんですね」
「鷹は大きいだけでなく羽がとても弱いんだ。だからこの位はないと、はばたいた時に羽を痛めてしまう。いいかね、彼らを驚かせないように。入ったら暫くの間じっとしているんだ。鷹は他の動物と違って、人に慣れるということがない。だから先ず私達は敵ではないんだと、分かってもらわないといけないんだ」
明るい日差しの中から、少し薄暗い小屋の中に入った。突然の侵入者に驚いたのか、バサバサと羽音が聞こえて来る。そのまま暫くじっとしていると、目が慣れてきて僅かにグレーがかったハヤブサが見えてきた。初めて見る侵入者を許してくれたのか、小屋の中が静かになった。
「彼女の足は、皮の紐で止まり木に結んであるから心配はいらない」
ジファール侯爵が小声で教えてくれた。
「ハヤブサの狩りのスタイルは、上空で待ち構えて獲物に向けて急降下していく。そして強い足で獲物を蹴り落とす。力強くて実に美しい。多分一度見たら病みつきになる」
「とても優しい顔立ちに見えます。そんな凄腕の狩人には見えませんね」
「確かにシロハヤブサは可愛い顔をしている。違う種類にはとても男らしい顔をしているのもいるがね」
ジファール侯爵はかなりの鷹好きのようで、まるで子供のように目を輝かせている。
「これほど可愛がっているのに、ほんの数年で手放さなければならないなんて。寂しくはありませんか?」
「彼らは元々、自由に生きるのが自然なんだ。成熟したら野生に戻り子孫を残す。とても理にかなっているだろう? 私達の様に影に隠れて暗躍したり、人を蹴落とそうと策を巡らしたりはしない。どれほど時間をかけても、決して媚び諂う事もない。そこが気に入ってるんだ」
いつものアルフレッドは優雅で少し怠惰な雰囲気だが、鷹を見つめる様子は生き生きとしていて力強く、まるで愛しい誰かを見つめている様な優しさも感じられる。
(本当に鷹がお好きなのね)
「さあ、隣の小屋に寄って屋敷に戻ろう。じきに鷹匠がこの子達の訓練に戻って来る。邪魔をしたら叱られるからね」
隣の小屋のイヌワシは、茶色の身体で鋭い目付き、アイラの中の鷹のイメージそのものだった。
屋敷に戻ると、トマスが到着していた。
「やあ、早速鷹を見に行ったんだって? 後で私も、アルフレッドのお気に入りの子供達に会わせてもらえるかな?」
「勿論ですとも、そろそろ鷹匠が彼らの訓練を始めるので、それをご覧になられますか?」
トマスとアルフレッドは二人揃って出て行った。アイラは一旦部屋に戻る事にした。
「鷹狩りは明後日の予定で、ストックトン侯爵は、明日いらっしゃるそうです。今日と明日は色々なイベントが予定されています。アイラ様がご存じないゲームが、多分沢山あると思います」
ストックトン侯爵がまだ来ていないと聞いて、アイラは落胆した。
「鷹は凄くかっこよかったわ。アルフレッド様は本当に鷹がお好きなのね」
「ジファール侯爵の鷹好きは、社交界でも有名ですね。多分あの方が本当にすきなのは鷹狩りだけかもしれません」
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アルフレッドの別荘には午後少し遅い時間に着いた。侯爵の別荘は白と茶色を基調とした三階建て。鮮やかな芝生が敷き詰められた前庭と、秋の日差しにキラキラと輝く噴水が優雅さを醸し出している。
アルフレッドは他の招待客と出かけており、屋敷はひっそりと静まりかえっている。部屋に案内されてほっと一息着いた頃、アルフレッド達が帰ってきた。
この日の夜の参加者は8人程。まだ到着していない人、着いたばかりなので部屋で夕食を摂る人など様々だった。
ストックトン侯爵はまだ到着していない。今朝ウィルソンから話を聞いたばかりなので、顔を合わせず済んでほっとした。夕食の後は直ぐに部屋に戻ったが、疲れが出てしまったようで、朝まで夢も見ず眠ってしまった。
翌日、さっそくジファール侯爵の案内で、鷹を見に行く事になった。
「鷹を近くで見るのは初めてかな?」
「はい、とても楽しみです」
「鷹狩に使う鷹といっても種類は色々でね。今うちにいるのはオスとメスが一羽ずつ。メスはシロハヤブサと言って、ハヤブサの中でも最も大きな種類なんだ。頭もいいし猟欲も強い、しかもメスはオスより狩りが上手だから自慢の娘なんだ。
オスの方はイヌワシで、シロハヤブサよりもっと大きい。羽を広げると最大で7フィート以上になる者もいる。“風の精” と言われていて、翼の形を変えながら空を飛ぶんだが、飛翔能力はイヌワシが一番だね。嘴と爪を武器にして、狐や鹿などの大型の獣も襲う。そのくせ性格は結構穏やかで、シロハヤブサより扱いやすいんだ」
母家から少し離れたところに、4つの小屋が並んでいた。アルフレッドはその中で、一番手前にある小屋の入り口にアイラを連れて行った。
「とても大きな小屋なんですね」
「鷹は大きいだけでなく羽がとても弱いんだ。だからこの位はないと、はばたいた時に羽を痛めてしまう。いいかね、彼らを驚かせないように。入ったら暫くの間じっとしているんだ。鷹は他の動物と違って、人に慣れるということがない。だから先ず私達は敵ではないんだと、分かってもらわないといけないんだ」
明るい日差しの中から、少し薄暗い小屋の中に入った。突然の侵入者に驚いたのか、バサバサと羽音が聞こえて来る。そのまま暫くじっとしていると、目が慣れてきて僅かにグレーがかったハヤブサが見えてきた。初めて見る侵入者を許してくれたのか、小屋の中が静かになった。
「彼女の足は、皮の紐で止まり木に結んであるから心配はいらない」
ジファール侯爵が小声で教えてくれた。
「ハヤブサの狩りのスタイルは、上空で待ち構えて獲物に向けて急降下していく。そして強い足で獲物を蹴り落とす。力強くて実に美しい。多分一度見たら病みつきになる」
「とても優しい顔立ちに見えます。そんな凄腕の狩人には見えませんね」
「確かにシロハヤブサは可愛い顔をしている。違う種類にはとても男らしい顔をしているのもいるがね」
ジファール侯爵はかなりの鷹好きのようで、まるで子供のように目を輝かせている。
「これほど可愛がっているのに、ほんの数年で手放さなければならないなんて。寂しくはありませんか?」
「彼らは元々、自由に生きるのが自然なんだ。成熟したら野生に戻り子孫を残す。とても理にかなっているだろう? 私達の様に影に隠れて暗躍したり、人を蹴落とそうと策を巡らしたりはしない。どれほど時間をかけても、決して媚び諂う事もない。そこが気に入ってるんだ」
いつものアルフレッドは優雅で少し怠惰な雰囲気だが、鷹を見つめる様子は生き生きとしていて力強く、まるで愛しい誰かを見つめている様な優しさも感じられる。
(本当に鷹がお好きなのね)
「さあ、隣の小屋に寄って屋敷に戻ろう。じきに鷹匠がこの子達の訓練に戻って来る。邪魔をしたら叱られるからね」
隣の小屋のイヌワシは、茶色の身体で鋭い目付き、アイラの中の鷹のイメージそのものだった。
屋敷に戻ると、トマスが到着していた。
「やあ、早速鷹を見に行ったんだって? 後で私も、アルフレッドのお気に入りの子供達に会わせてもらえるかな?」
「勿論ですとも、そろそろ鷹匠が彼らの訓練を始めるので、それをご覧になられますか?」
トマスとアルフレッドは二人揃って出て行った。アイラは一旦部屋に戻る事にした。
「鷹狩りは明後日の予定で、ストックトン侯爵は、明日いらっしゃるそうです。今日と明日は色々なイベントが予定されています。アイラ様がご存じないゲームが、多分沢山あると思います」
ストックトン侯爵がまだ来ていないと聞いて、アイラは落胆した。
「鷹は凄くかっこよかったわ。アルフレッド様は本当に鷹がお好きなのね」
「ジファール侯爵の鷹好きは、社交界でも有名ですね。多分あの方が本当にすきなのは鷹狩りだけかもしれません」
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