52 / 89
暴言
しおりを挟む
十月
ーーーーーー
「またエジャートン伯爵とだわ」
「もしかしたら今日は他の方とも踊られるかもしれなくてよ」
「後でお声をかけてみようかしら」
トマスがダンスを終えて、ポーレット公爵夫人の下へ歩いて行く。
「やぁ、ミリアム」
「お久しぶりですトマス様。トマス様が踊られるのは久しぶりでは?」
「そんな事はないよ。先日の夜会でも踊ったしね」
「あの・・」
シンディが紹介して欲しそうにポーレット公爵夫人に声をかける。ブリジットも早足でやってきた。
「トマス様、こちらはストックトン侯爵夫人のシンディ様とブリジットさんですの。グラフトン公爵のトマス・グラフトン様です」
「お目にかかれて光栄です。どうかブリジットとお呼び下さい」
先程までとはうって変わり、柔かな笑みを浮かべカーテシーするブリジット。デイビッドは緊張から少し青褪めているようだ。
「今日、王立美術館に行ってきたんだ。ミリアムがパトロンになっている画家がいただろう? とても良い風景画だった。今度うちの別荘の絵を描いてもらえないかと思ってね」
「それは喜ぶ事でしょう。今展示している風景画ならハリーですわね」
「そう、色使いがとても繊細だし絵の中に風を感じたんだ。彼は将来が楽しみだね」
「トマス様、私も先程からミリアム様に同じ事を申し上げておりましたの」
「あの、トマス様は絵画がお好きなのですか? 是非お話をお聞かせいただけませんか?」
シンディとブリジットがトマスに声をかける。トマスは笑顔を見せて、
「絵画も好きだけど、私はどちらかと言えば彫刻の方が最近は気になっているかな」
ミリアムとトマスは、絵画と彫刻のどちらが素晴らしいか議論をはじめてしまった。他の者達は間に割り込む事ができず、黙って話を聞いていた。
「すっかり長話をしてしまった。ジョージに挨拶をしたら失礼させて頂こうかな」
来たばかりでもう帰ると言うトマスに、ミリアムが苦笑いを浮かべた。
「今日の目的は達成されたと言う事ですの?」
「そう言うことかな」
「でも、一度しか踊ってらっしゃいませんわ」
「うーん、二度目となると色々問題が出そうだからね」
「あの、トマス様私とダンスを踊って頂けませんか? もっとお話を聞かせて下さいませ」
「悪いが遠慮しておくよ。デイビッド、君はそちらの方と仲が良さそうだ。ダンスにお誘いしてはどうかな?」
「アイラとは踊ったのに!」
ブリジットの癇癪に、近くにいた人達が静まりかえった。癇癪を起こしてしまったブリジットは周りの様子が見えていない。
騒ぎを聞きつけて、ポーレット公爵がやってきた。
「どうしたのかね? 大きな声が聞こえたようだが」
「大したことではありませんの」
「ポーレット公爵様、皆さんが意地悪するんです」
「ブリジット! やめないか」
デイビッドが慌てている。ここで騒ぎを起こせば、二度と社交界には出入りできなくなる。ブリジットをポーレット公爵から引き離そうと腕を引っ張るが、ブリジットはポーレット公爵の手を掴んで胸に押し当て、
「皆さん、アイラとはダンスするのに私とは踊ってくださらないんです」
と、目を潤ませながら抗議した。
「それは仕方のないことだと思うが? アイラのご両親は私の友人だった。今はアイラが私の大切な友人だからね」
アイラを連れたアルフレッドがやってきて冷たく言う。
「私もですね。アイラは私の大切な友人だし、ダンスは大切だと思える相手としかしない」
トマスもアルフレッドに続ける。
「私達は友人を大切にしている。その人が傷つけられたりしたら、それなりの行動を取るのもやぶさかではない。その意味は分かっていただけるかな?」
「アイラが友達なら、私とも友達になっ「ブリジット、いい加減にしろ」」
「煩いわね、黙っててよ。この役立たず! 何よアイラなんてただの田舎者のアバズレじゃない」
ブリジットの叫び声は広間全体に響き渡り、全ての人が黙り込んだ。
「デイビッド、この方達は君がエスコートしてきたのだったね。お二方と一緒にお帰り願おうか」
「ポーレット公爵・・申し訳ありません。あの、この事は」
「ストックトン侯爵には、後程抗議を入れさせて頂こう。私の夜会に無理矢理乗り込んだ挙句、私達家族の大切な友人に暴言を吐いたこと。しっかりと責任をとっていただこう」
ポーレット公爵が合図をすると、護衛達が現れてデイビッド達を連れて行った。
ーーーーーー
「またエジャートン伯爵とだわ」
「もしかしたら今日は他の方とも踊られるかもしれなくてよ」
「後でお声をかけてみようかしら」
トマスがダンスを終えて、ポーレット公爵夫人の下へ歩いて行く。
「やぁ、ミリアム」
「お久しぶりですトマス様。トマス様が踊られるのは久しぶりでは?」
「そんな事はないよ。先日の夜会でも踊ったしね」
「あの・・」
シンディが紹介して欲しそうにポーレット公爵夫人に声をかける。ブリジットも早足でやってきた。
「トマス様、こちらはストックトン侯爵夫人のシンディ様とブリジットさんですの。グラフトン公爵のトマス・グラフトン様です」
「お目にかかれて光栄です。どうかブリジットとお呼び下さい」
先程までとはうって変わり、柔かな笑みを浮かべカーテシーするブリジット。デイビッドは緊張から少し青褪めているようだ。
「今日、王立美術館に行ってきたんだ。ミリアムがパトロンになっている画家がいただろう? とても良い風景画だった。今度うちの別荘の絵を描いてもらえないかと思ってね」
「それは喜ぶ事でしょう。今展示している風景画ならハリーですわね」
「そう、色使いがとても繊細だし絵の中に風を感じたんだ。彼は将来が楽しみだね」
「トマス様、私も先程からミリアム様に同じ事を申し上げておりましたの」
「あの、トマス様は絵画がお好きなのですか? 是非お話をお聞かせいただけませんか?」
シンディとブリジットがトマスに声をかける。トマスは笑顔を見せて、
「絵画も好きだけど、私はどちらかと言えば彫刻の方が最近は気になっているかな」
ミリアムとトマスは、絵画と彫刻のどちらが素晴らしいか議論をはじめてしまった。他の者達は間に割り込む事ができず、黙って話を聞いていた。
「すっかり長話をしてしまった。ジョージに挨拶をしたら失礼させて頂こうかな」
来たばかりでもう帰ると言うトマスに、ミリアムが苦笑いを浮かべた。
「今日の目的は達成されたと言う事ですの?」
「そう言うことかな」
「でも、一度しか踊ってらっしゃいませんわ」
「うーん、二度目となると色々問題が出そうだからね」
「あの、トマス様私とダンスを踊って頂けませんか? もっとお話を聞かせて下さいませ」
「悪いが遠慮しておくよ。デイビッド、君はそちらの方と仲が良さそうだ。ダンスにお誘いしてはどうかな?」
「アイラとは踊ったのに!」
ブリジットの癇癪に、近くにいた人達が静まりかえった。癇癪を起こしてしまったブリジットは周りの様子が見えていない。
騒ぎを聞きつけて、ポーレット公爵がやってきた。
「どうしたのかね? 大きな声が聞こえたようだが」
「大したことではありませんの」
「ポーレット公爵様、皆さんが意地悪するんです」
「ブリジット! やめないか」
デイビッドが慌てている。ここで騒ぎを起こせば、二度と社交界には出入りできなくなる。ブリジットをポーレット公爵から引き離そうと腕を引っ張るが、ブリジットはポーレット公爵の手を掴んで胸に押し当て、
「皆さん、アイラとはダンスするのに私とは踊ってくださらないんです」
と、目を潤ませながら抗議した。
「それは仕方のないことだと思うが? アイラのご両親は私の友人だった。今はアイラが私の大切な友人だからね」
アイラを連れたアルフレッドがやってきて冷たく言う。
「私もですね。アイラは私の大切な友人だし、ダンスは大切だと思える相手としかしない」
トマスもアルフレッドに続ける。
「私達は友人を大切にしている。その人が傷つけられたりしたら、それなりの行動を取るのもやぶさかではない。その意味は分かっていただけるかな?」
「アイラが友達なら、私とも友達になっ「ブリジット、いい加減にしろ」」
「煩いわね、黙っててよ。この役立たず! 何よアイラなんてただの田舎者のアバズレじゃない」
ブリジットの叫び声は広間全体に響き渡り、全ての人が黙り込んだ。
「デイビッド、この方達は君がエスコートしてきたのだったね。お二方と一緒にお帰り願おうか」
「ポーレット公爵・・申し訳ありません。あの、この事は」
「ストックトン侯爵には、後程抗議を入れさせて頂こう。私の夜会に無理矢理乗り込んだ挙句、私達家族の大切な友人に暴言を吐いたこと。しっかりと責任をとっていただこう」
ポーレット公爵が合図をすると、護衛達が現れてデイビッド達を連れて行った。
28
お気に入りに追加
1,944
あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。
なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。
追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。
優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。
誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、
リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。
全てを知り、死を考えた彼女であったが、
とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。
後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

元カレの今カノは聖女様
abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」
公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。
婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。
極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。
社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。
けれども当の本人は…
「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」
と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。
それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。
そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で…
更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。
「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる