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十月
ーーーーーー
ストックトン侯爵家の夜会から一週間が経った。今日は久しぶりにお茶会や夜会の予定がないので、アイラは庭師と一緒に花壇の手入れをしていた。
ウィルソンが来客を告げた。無表情だが、機嫌が悪そうだとアイラは気付いた。
「どなたがいらっしゃったの?」
「ストックトン侯爵夫人とブリジット様です」
「やっぱり」
アイラは溜息をついた。
「お約束でも?」
「まさか、でもいらっしゃるかもしれないと思ってたから。着替えてくるので、紅茶をお出ししておいてくれるかしら」
「かしこまりました」
アイラは自室に戻り手と顔を洗う。ドレスを着替え鏡の前に座ると、ソフィアが髪を梳かしながら声をかけてきた。
「アイラ様、お顔の色が優れませんが大丈夫ですか?」
「ありがとう。気の重いお客様だから」
「ブリジット様達ですね。ご用件をご存知なのですか?」
「ええ、グラフトン公爵様とジファール侯爵様よ」
「まさか?」
「そう、そのまさかなの。先日はっきりとお断りしたんだけど」
応接室に行くと、機嫌の悪そうなシンディとは対照的に、たいそう機嫌の良いブリジットが座っている。2人の様子を見たアイラは、思った以上に面倒な事になりそうだと内心溜息をついた。
「お久しぶりですシンディ様、ブリジットさん。今日はどうされましたか?」
「随分と待たせるのね」
「今日は来客の予定も外出の予定もありませんでしたので、お二方の前に出られるような服装ではありませんでしたの」
少しばかり嫌味を込めて言ってみる。
「そんな事はどうでも良いわ。で? いつになったのかしら。連絡が来ないから、態々出向いてあげたのよ」
ブリジットが前のめりになって聞いてくる。予想通り、先日アイラが断った事などすっかり頭から抜け落ちているようだ。
「連絡と言いますと?」
「もう忘れたの? 全く、ジファール侯爵様とお会いする日よ。予定を組むよう言っておいたでしょう?」
「その件でしたら、今の所予定はないとお答えしたと思いますが」
「だからぁ、さっさと予定を組めって言ったじゃない」
「申し訳ありませんが、アルフレッド様はお忙しい方ですし、用事もないのにお声をおかけする訳にはいかな「デイビッドにあんたが意地悪するって言いつけるわよ」」
ブリジットは癇癪を起こし、アイラを睨みつけてきた。まるで子供が駄々を捏ねているような台詞に、アイラは必死で笑いを堪えた。
「・・どうぞ、お好きになさって下さい。こちらの勝手で、侯爵様にご迷惑をおかけする訳には参りません」
「随分と大きな態度ですこと。可哀想に、デイビッドが家が居心地が悪いと言うわけですね」
「私より、ストックトン侯爵様にお願いされては如何ですか?」
「ジファール侯爵に手紙を書きなさい。今後のご予定をお聞きして、お会いする日程を決めるの。後はこちらでやりますからね」
シンディとブリジットは諦めるつもりがないようで、アイラがいくら断っても頑として譲らない。
「次の夜会の予定はいつなの?」
「明日のラトランド侯爵様の夜会に伺う予定です」
「では、その夜会にジファール侯爵様が行かれるのかをお聞きするの。もしいらっしゃるなら、ブリジットのエスコートをお願いしなさい。別の夜会でも構わないから、侯爵様の都合に合わせるわ。いつもジファール侯爵は、お一人で夜会に参加されるから問題ないはずよ」
あまりの無茶振りにアイラは呆れ果てた。
「申し訳ありませんが、私からそのようなお願いをするわけには参りません」
「貴方は私の義娘でしょう? この程度のお願いも聞けないのかしら?」
来た時から機嫌が悪そうだったシンディは、益々険悪な表情になっていった。その隣でブリジットは、持っているカップを今にも投げつけてきそうな様子だ。
(領主館のカップ、ブリジットがメイドにしょっちゅう投げつけるから、足りなくなりそうって冗談を言ってたんだけど)
ドアをノックし、ウィルソンが入ってきた。
「アイラ様、ご歓談中失礼いたします。ジファール侯爵様から急ぎの使者が参りました」
「ウィルソン「「まぁ、ジファール侯爵様から?」」」
このタイミングで、ウィルソンは一体何を言い出したのだろう。使者が来たというのは間違いなく嘘だ。アイラが絶句していると、ブリジットが勝手に話を進めていく。
「ご使者の要向きは何?」
「ウィルソン、その話は後で聞きま「アイラは黙ってなさい!」」
ブリジットだけでなく、シンディまで身を乗り出している。
「ジファール侯爵様は、来週ある夜会のいずれかに、アイラ様とご一緒したいと仰っておいでです。どの夜会にするかはアイラ様にお任せするとのことです」
そんな都合の良い話があるわけがない。アイラはウィルソンの真意が分からず、ただ呆然とウィルソンを見つめていた。
「一番格式の高い夜会を選ばなくては。ジファール侯爵様との顔合わせですからね」
「お母様、新しいドレスを準備しなくては」
「ええ、勿論ですとも。ジファール侯爵様にエスコートして頂くのですから最新のドレスでなくては」
「申し訳ありませんが、ジファール侯爵がエスコートされるのはアイラ様です。このお誘いはアイラ様にきたものですから」
「・・仕方ないわね、夜会でお会いすれば良いのだから。アイラ、向こうできちんとブリジットをジファール侯爵様に紹介するのよ」
「お母様、急ぎましょう。時間がもったいないわ」
「それでは今日中に、どの夜会にするか決めて連絡しますからね。アイラはそれをちゃんとジファール侯爵様に伝えるのよ」
シンディとブリジットはそそくさと帰って行った。
「ウィルソン、どういうつもりなの?」
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ストックトン侯爵家の夜会から一週間が経った。今日は久しぶりにお茶会や夜会の予定がないので、アイラは庭師と一緒に花壇の手入れをしていた。
ウィルソンが来客を告げた。無表情だが、機嫌が悪そうだとアイラは気付いた。
「どなたがいらっしゃったの?」
「ストックトン侯爵夫人とブリジット様です」
「やっぱり」
アイラは溜息をついた。
「お約束でも?」
「まさか、でもいらっしゃるかもしれないと思ってたから。着替えてくるので、紅茶をお出ししておいてくれるかしら」
「かしこまりました」
アイラは自室に戻り手と顔を洗う。ドレスを着替え鏡の前に座ると、ソフィアが髪を梳かしながら声をかけてきた。
「アイラ様、お顔の色が優れませんが大丈夫ですか?」
「ありがとう。気の重いお客様だから」
「ブリジット様達ですね。ご用件をご存知なのですか?」
「ええ、グラフトン公爵様とジファール侯爵様よ」
「まさか?」
「そう、そのまさかなの。先日はっきりとお断りしたんだけど」
応接室に行くと、機嫌の悪そうなシンディとは対照的に、たいそう機嫌の良いブリジットが座っている。2人の様子を見たアイラは、思った以上に面倒な事になりそうだと内心溜息をついた。
「お久しぶりですシンディ様、ブリジットさん。今日はどうされましたか?」
「随分と待たせるのね」
「今日は来客の予定も外出の予定もありませんでしたので、お二方の前に出られるような服装ではありませんでしたの」
少しばかり嫌味を込めて言ってみる。
「そんな事はどうでも良いわ。で? いつになったのかしら。連絡が来ないから、態々出向いてあげたのよ」
ブリジットが前のめりになって聞いてくる。予想通り、先日アイラが断った事などすっかり頭から抜け落ちているようだ。
「連絡と言いますと?」
「もう忘れたの? 全く、ジファール侯爵様とお会いする日よ。予定を組むよう言っておいたでしょう?」
「その件でしたら、今の所予定はないとお答えしたと思いますが」
「だからぁ、さっさと予定を組めって言ったじゃない」
「申し訳ありませんが、アルフレッド様はお忙しい方ですし、用事もないのにお声をおかけする訳にはいかな「デイビッドにあんたが意地悪するって言いつけるわよ」」
ブリジットは癇癪を起こし、アイラを睨みつけてきた。まるで子供が駄々を捏ねているような台詞に、アイラは必死で笑いを堪えた。
「・・どうぞ、お好きになさって下さい。こちらの勝手で、侯爵様にご迷惑をおかけする訳には参りません」
「随分と大きな態度ですこと。可哀想に、デイビッドが家が居心地が悪いと言うわけですね」
「私より、ストックトン侯爵様にお願いされては如何ですか?」
「ジファール侯爵に手紙を書きなさい。今後のご予定をお聞きして、お会いする日程を決めるの。後はこちらでやりますからね」
シンディとブリジットは諦めるつもりがないようで、アイラがいくら断っても頑として譲らない。
「次の夜会の予定はいつなの?」
「明日のラトランド侯爵様の夜会に伺う予定です」
「では、その夜会にジファール侯爵様が行かれるのかをお聞きするの。もしいらっしゃるなら、ブリジットのエスコートをお願いしなさい。別の夜会でも構わないから、侯爵様の都合に合わせるわ。いつもジファール侯爵は、お一人で夜会に参加されるから問題ないはずよ」
あまりの無茶振りにアイラは呆れ果てた。
「申し訳ありませんが、私からそのようなお願いをするわけには参りません」
「貴方は私の義娘でしょう? この程度のお願いも聞けないのかしら?」
来た時から機嫌が悪そうだったシンディは、益々険悪な表情になっていった。その隣でブリジットは、持っているカップを今にも投げつけてきそうな様子だ。
(領主館のカップ、ブリジットがメイドにしょっちゅう投げつけるから、足りなくなりそうって冗談を言ってたんだけど)
ドアをノックし、ウィルソンが入ってきた。
「アイラ様、ご歓談中失礼いたします。ジファール侯爵様から急ぎの使者が参りました」
「ウィルソン「「まぁ、ジファール侯爵様から?」」」
このタイミングで、ウィルソンは一体何を言い出したのだろう。使者が来たというのは間違いなく嘘だ。アイラが絶句していると、ブリジットが勝手に話を進めていく。
「ご使者の要向きは何?」
「ウィルソン、その話は後で聞きま「アイラは黙ってなさい!」」
ブリジットだけでなく、シンディまで身を乗り出している。
「ジファール侯爵様は、来週ある夜会のいずれかに、アイラ様とご一緒したいと仰っておいでです。どの夜会にするかはアイラ様にお任せするとのことです」
そんな都合の良い話があるわけがない。アイラはウィルソンの真意が分からず、ただ呆然とウィルソンを見つめていた。
「一番格式の高い夜会を選ばなくては。ジファール侯爵様との顔合わせですからね」
「お母様、新しいドレスを準備しなくては」
「ええ、勿論ですとも。ジファール侯爵様にエスコートして頂くのですから最新のドレスでなくては」
「申し訳ありませんが、ジファール侯爵がエスコートされるのはアイラ様です。このお誘いはアイラ様にきたものですから」
「・・仕方ないわね、夜会でお会いすれば良いのだから。アイラ、向こうできちんとブリジットをジファール侯爵様に紹介するのよ」
「お母様、急ぎましょう。時間がもったいないわ」
「それでは今日中に、どの夜会にするか決めて連絡しますからね。アイラはそれをちゃんとジファール侯爵様に伝えるのよ」
シンディとブリジットはそそくさと帰って行った。
「ウィルソン、どういうつもりなの?」
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