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工房
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九月
ーーーーーー
「あの、もし差し支えなければ教えて頂きたいのですが」
「良いとも、何でも聞いてくれ。私達は義理とは言っても親子なんだからね。私の事はチャールズと呼んでほしい」
「侯爵家で事業を先送りにされている理由は何なのでしょうか? 実は去年の被害の事もあって、継続するか先延ばしにするか私自身悩んでいて」
「情けない話だが、うちは腕のいい染物師を揃えられなくてね。奴らはギルドに守られているせいで、気が強くて自信家で話にならない。やってきた染物師も織工や皮なめし工と揉めてばかりで、どいつもこいつも使い物にならなかった。伯爵家では職人は集まっているのかね?」
「確かに職人集めは一番の問題ですね。技術が高ければ高いほどプライドも高いですし。かと言って技術力の低い職人を雇うわけにもいきませんから。うちでも頭を抱えています」
「だが工房の計画は進めているんだろう?」
「はい。お父様の遺志を継ぎたいと思って、試行錯誤を重ねていますの」
「伯爵領では水の問題はなさそうだしね」
「水ですか」
「オレルアンの北の山脈は豊富な雪解け水で、大小様々な川があるだろう? あそこなら皮なめし工との棲み分けも簡単だし、良い選択だと感心しているんだ」
やっぱりメモはストックトン侯爵に渡っているんだ。デイビッドが盗んだメモには、工房の建設予定地が書かれていた。
「お義父様はオレルアンの事、良くご存知なのですね」
「あ? ああ、デイビッドが色々話をするからね」
「チャールズ、探しておりましたのよ。お客様を放り出して、こんな所にいらっしゃるなんて」
「シンディ、漸く来たのか。我が義娘のアイラだ。アイラ、妻のシンディだ。ブリジットはもう知っているね」
「はじめまして、アイラと申します。お久しぶりです、ブリジットさん」
「ようこそと言うべきかしら?」
「こんな所でホストを独占しているなんて、田舎暮らしが長すぎると礼儀も忘れてしまうのね」
「皆様お待ちかねですのよ、早く広間に参りましょう。デイビッドも来ていますからね、旦那様を無視して別の殿方と話し込むなどとても恥ずかしい事ですよ」
「アイラ、長話をして申し訳なかったね。この続きはまた今度ゆっくりと話そう」
シンディはアイラを睨みつけた後、ジファール侯爵にエスコートされ広間に戻っていった。
漸く手掛かりが掴めそうだと思ったのに・・。アイラは歯痒い思いで、2人の後ろ姿を見つめていた。
ブリジットがアイラの前に立ち塞がり、腕を組んで睨みつけた。
「グラフトン公爵様の夜会に出席したんですって?」
「はい、アルフレッド様からお声がけ頂きましたので」
「ジファール侯爵と知り合いだって事よね?」
「ええ、お父様が親しくしておられたので」
「次は何時お会いするの?」
「アルフレッド様とですか?」
「そうよ、次にお会いする時は私もご一緒するから」
「今のところお会いする予定は入ってないと思いますわ」
「だったら予定を作るのね。なるべく早く」
「そう言われても、アルフレッド様は忙しい方ですし」
「グラフトン公爵とダンスしたんでしょう?」
「ええ」
「なんで私に声をかけなかったの? 信じらんないわ。グラフトン公爵は奥様が亡くなられてから、どなたとも親しくしてなかったのよ。あんたがグラフトン公爵を誑かしてるってみんな大騒ぎしてるわ」
「久しぶりの夜会で緊張していたので、親切にして頂いただけですのに」
「そうよ、公爵様があんたなんかを気にかけるわけないじゃない」
「やあ、ここにいたのか。2人とも探したよ」
「デイビッド! アイラったら酷いのよ。ジファール侯爵様やグラフトン公爵様の事をちょっとお聞きしたら、私なんかには話せないって」
「やれやれ、ちょっと親切にされただけで勘違いするとは。お前は田舎暮らしが長過ぎたようだね。自惚れていると恥をかくことになるよ。私達にまで迷惑をかけないでくれよ」
「気をつけます」
「さあ、ブリジット向こうでみんなダンスを楽しんでいるよ。君が居なくて寂しがっている殿方達を待たせないでやってくれ」
デイビッドはブリジットの腰に手を回し、広間へエスコートして行く。ブリジットはデイビッドにしなだれかかり、上目遣いで見つめている。
「お兄様は私が居なくても、寂しがっておられませんの?」
「そんな事はないさ、だからこうやって探しに来ただろう? 最初のダンスは是非私と踊って頂けますか?」
「勿論ですわ。お兄様以外にはあり得ませんもの」
2人の後に続いて、アイラも広間に戻った。その後は幸いなことに、チャールズ達の誰も近くに寄ってこなかった。アイラは緊張を解き、公爵邸の夜会で知り合った知人と会話やダンスを楽しんだ。
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「あの、もし差し支えなければ教えて頂きたいのですが」
「良いとも、何でも聞いてくれ。私達は義理とは言っても親子なんだからね。私の事はチャールズと呼んでほしい」
「侯爵家で事業を先送りにされている理由は何なのでしょうか? 実は去年の被害の事もあって、継続するか先延ばしにするか私自身悩んでいて」
「情けない話だが、うちは腕のいい染物師を揃えられなくてね。奴らはギルドに守られているせいで、気が強くて自信家で話にならない。やってきた染物師も織工や皮なめし工と揉めてばかりで、どいつもこいつも使い物にならなかった。伯爵家では職人は集まっているのかね?」
「確かに職人集めは一番の問題ですね。技術が高ければ高いほどプライドも高いですし。かと言って技術力の低い職人を雇うわけにもいきませんから。うちでも頭を抱えています」
「だが工房の計画は進めているんだろう?」
「はい。お父様の遺志を継ぎたいと思って、試行錯誤を重ねていますの」
「伯爵領では水の問題はなさそうだしね」
「水ですか」
「オレルアンの北の山脈は豊富な雪解け水で、大小様々な川があるだろう? あそこなら皮なめし工との棲み分けも簡単だし、良い選択だと感心しているんだ」
やっぱりメモはストックトン侯爵に渡っているんだ。デイビッドが盗んだメモには、工房の建設予定地が書かれていた。
「お義父様はオレルアンの事、良くご存知なのですね」
「あ? ああ、デイビッドが色々話をするからね」
「チャールズ、探しておりましたのよ。お客様を放り出して、こんな所にいらっしゃるなんて」
「シンディ、漸く来たのか。我が義娘のアイラだ。アイラ、妻のシンディだ。ブリジットはもう知っているね」
「はじめまして、アイラと申します。お久しぶりです、ブリジットさん」
「ようこそと言うべきかしら?」
「こんな所でホストを独占しているなんて、田舎暮らしが長すぎると礼儀も忘れてしまうのね」
「皆様お待ちかねですのよ、早く広間に参りましょう。デイビッドも来ていますからね、旦那様を無視して別の殿方と話し込むなどとても恥ずかしい事ですよ」
「アイラ、長話をして申し訳なかったね。この続きはまた今度ゆっくりと話そう」
シンディはアイラを睨みつけた後、ジファール侯爵にエスコートされ広間に戻っていった。
漸く手掛かりが掴めそうだと思ったのに・・。アイラは歯痒い思いで、2人の後ろ姿を見つめていた。
ブリジットがアイラの前に立ち塞がり、腕を組んで睨みつけた。
「グラフトン公爵様の夜会に出席したんですって?」
「はい、アルフレッド様からお声がけ頂きましたので」
「ジファール侯爵と知り合いだって事よね?」
「ええ、お父様が親しくしておられたので」
「次は何時お会いするの?」
「アルフレッド様とですか?」
「そうよ、次にお会いする時は私もご一緒するから」
「今のところお会いする予定は入ってないと思いますわ」
「だったら予定を作るのね。なるべく早く」
「そう言われても、アルフレッド様は忙しい方ですし」
「グラフトン公爵とダンスしたんでしょう?」
「ええ」
「なんで私に声をかけなかったの? 信じらんないわ。グラフトン公爵は奥様が亡くなられてから、どなたとも親しくしてなかったのよ。あんたがグラフトン公爵を誑かしてるってみんな大騒ぎしてるわ」
「久しぶりの夜会で緊張していたので、親切にして頂いただけですのに」
「そうよ、公爵様があんたなんかを気にかけるわけないじゃない」
「やあ、ここにいたのか。2人とも探したよ」
「デイビッド! アイラったら酷いのよ。ジファール侯爵様やグラフトン公爵様の事をちょっとお聞きしたら、私なんかには話せないって」
「やれやれ、ちょっと親切にされただけで勘違いするとは。お前は田舎暮らしが長過ぎたようだね。自惚れていると恥をかくことになるよ。私達にまで迷惑をかけないでくれよ」
「気をつけます」
「さあ、ブリジット向こうでみんなダンスを楽しんでいるよ。君が居なくて寂しがっている殿方達を待たせないでやってくれ」
デイビッドはブリジットの腰に手を回し、広間へエスコートして行く。ブリジットはデイビッドにしなだれかかり、上目遣いで見つめている。
「お兄様は私が居なくても、寂しがっておられませんの?」
「そんな事はないさ、だからこうやって探しに来ただろう? 最初のダンスは是非私と踊って頂けますか?」
「勿論ですわ。お兄様以外にはあり得ませんもの」
2人の後に続いて、アイラも広間に戻った。その後は幸いなことに、チャールズ達の誰も近くに寄ってこなかった。アイラは緊張を解き、公爵邸の夜会で知り合った知人と会話やダンスを楽しんだ。
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