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義父
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九月
ーーーーーー
「やあ、よく来てくれた。お父上の葬儀には参列できず、申し訳なかったね。とても素晴らしい方達だったのに、馬車の事故で亡くなられるとは」
「ありがとうございます。生前からの両親の希望で、遠方の方々にはご連絡のみにさせて頂きましたので、どうかお気遣いなく」
ストックトン侯爵はアイラの腰に手を置き、大広間の中を抜けていく。夜会の参加者達の中には、前回の公爵邸で見かけた人もおり、アイラは小さく会釈をしながらついていった。
大広間の隣の部屋には、白いテーブルクロスを掛けた机の上に様々な料理が並んでいた。夜会は始まったばかりで、ほとんどの人は大広間にいる。
アイラはソファを勧められて腰掛けたが、隣に座ったストックトン侯爵の距離の近さに戸惑っていた。
「デイビッドは葬儀に間に合わなかったのだろう? 全く何をやっているんだか」
「デイビッドは葬儀の直ぐ後に駆けつけてくれましたから」
「結婚して2年以上経つというのに、いつまで経ってもふらふらとして。今日もまだ来ていないのだよ、全く何処で道草を食っているのやら」
「去年ご結婚されたとか、おめでとうございます。お祝いを申し上げるのが遅くなり申し訳ありません。今日は奥方様は?」
「ああ、あれは少し遅れているのでね。後で挨拶できるだろう」
「先日知って慌てたんだが、ブリジットがアイラの屋敷に長逗留していたんだね。母親に似てブリジットは酷い癇癪持ちだから、さぞかし迷惑をかけたのではないかと心配していたんだ」
「領地は田舎なので王都のような娯楽もなくて、ご不便をおかけしていたと思います」
「結婚前は2人ともしおらしくしていたんだが、日を追うごとに本性をあらわしてね。うちでも揉め事が絶えなくて、使用人達からの苦情で頭が痛いよ」
「不躾な質問なのですが、ブリジットさんには専属の侍女やメイドはおられないのでしょうか? うちの使用人では行き届かないことも多くて、ご不便をおかけしているようなので」
「あの2人に付けた者達は長続きしない、と言うかあいつらが直ぐクビにしてしまうんだ」
案の定ブリジットは、侯爵家でも何人もの使用人にクビを言い渡しているようだ。次にブリジットが領地にやってきたら、また今までと同じことが繰り返されるのは確実だろう。
「デイビッドがブリジットさんのメイドを、王都で手配すると言っていましたが?」
ストックトン侯爵は鼻で笑い、
「デイビッドに役に立つ仕事が出来るとは思えんよ。メイド探しなんていう簡単なことでもね。今までエジャートン伯爵家の仕事だって、アイラ一人でこなしているんだろう?」
アイラは思わず目を伏せたが、ブリジットの事はなんとかしなければと口を開いた。
「エジャートンの領地は本当に何もない所なので、ブリジットさんがまたお越しくださるかは分かりませんが、次の機会には侍女かメイドをお連れいただけたら」
「ブリジットには私から話しておくよ。アイラにこれ以上迷惑をかけたら、小遣いを減額すると。あれは贅沢な奴だからね、それが一番効果があるんだ」
取り敢えず、ブリジットの事はなんとかなりそうだとほっとした。
「去年は冷害でうちの領地も大変だったが、伯爵領はどうかな?」
「夏だけでなく、冬には大雪に見舞われましたし、少しずつ復興に向けて進んでいるところです」
「領地経営を始めたばかりだというのに、伯爵領の経営はとても順調だそうだね」
(デイビッドに見せた帳簿では、経営が上手くいっていないように見せかけていたのだけど? デイビッドは帳簿は読めないのかも)
「今年は畑も羊の育成も順調なので、少しずつでも回復していければと思っています」
「そう、デイビッドから聞いたが染織工房の新設計画があるとか」
やはり染織工房の事を聞いてきた。
「はい、生前お父様が始めた計画です。採算が取れるまでにはまだ時間がかかりそうですが、少しずつでも進めていければと」
「工房の成功は職人の腕次第だからね」
ストックトン侯爵がどこまで内情を知っているのか、出来るだけ話を聞き出したいアイラは、
「私はまだ勉強不足で、頼りにしていたお父様は亡くなってしまいましたし・・。お義父様は染織工房についてお詳しいのですか?」
と、聞いてみた。
「うちの領地でも工房を持とうと思った事があってね。その時色々調べたんだ。結局今のところ先送りにしているんだが。
何か困った事があれば、何時でも相談して欲しい。デイビッドが役に立たない代わりと言ってはなんだが、私で良ければ相談に乗りたいと思っている」
やはりストックトン侯爵が怪しいのかもしれない。侯爵家が染織工房の事業を先送りにしている理由はなんなのだろう。
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「やあ、よく来てくれた。お父上の葬儀には参列できず、申し訳なかったね。とても素晴らしい方達だったのに、馬車の事故で亡くなられるとは」
「ありがとうございます。生前からの両親の希望で、遠方の方々にはご連絡のみにさせて頂きましたので、どうかお気遣いなく」
ストックトン侯爵はアイラの腰に手を置き、大広間の中を抜けていく。夜会の参加者達の中には、前回の公爵邸で見かけた人もおり、アイラは小さく会釈をしながらついていった。
大広間の隣の部屋には、白いテーブルクロスを掛けた机の上に様々な料理が並んでいた。夜会は始まったばかりで、ほとんどの人は大広間にいる。
アイラはソファを勧められて腰掛けたが、隣に座ったストックトン侯爵の距離の近さに戸惑っていた。
「デイビッドは葬儀に間に合わなかったのだろう? 全く何をやっているんだか」
「デイビッドは葬儀の直ぐ後に駆けつけてくれましたから」
「結婚して2年以上経つというのに、いつまで経ってもふらふらとして。今日もまだ来ていないのだよ、全く何処で道草を食っているのやら」
「去年ご結婚されたとか、おめでとうございます。お祝いを申し上げるのが遅くなり申し訳ありません。今日は奥方様は?」
「ああ、あれは少し遅れているのでね。後で挨拶できるだろう」
「先日知って慌てたんだが、ブリジットがアイラの屋敷に長逗留していたんだね。母親に似てブリジットは酷い癇癪持ちだから、さぞかし迷惑をかけたのではないかと心配していたんだ」
「領地は田舎なので王都のような娯楽もなくて、ご不便をおかけしていたと思います」
「結婚前は2人ともしおらしくしていたんだが、日を追うごとに本性をあらわしてね。うちでも揉め事が絶えなくて、使用人達からの苦情で頭が痛いよ」
「不躾な質問なのですが、ブリジットさんには専属の侍女やメイドはおられないのでしょうか? うちの使用人では行き届かないことも多くて、ご不便をおかけしているようなので」
「あの2人に付けた者達は長続きしない、と言うかあいつらが直ぐクビにしてしまうんだ」
案の定ブリジットは、侯爵家でも何人もの使用人にクビを言い渡しているようだ。次にブリジットが領地にやってきたら、また今までと同じことが繰り返されるのは確実だろう。
「デイビッドがブリジットさんのメイドを、王都で手配すると言っていましたが?」
ストックトン侯爵は鼻で笑い、
「デイビッドに役に立つ仕事が出来るとは思えんよ。メイド探しなんていう簡単なことでもね。今までエジャートン伯爵家の仕事だって、アイラ一人でこなしているんだろう?」
アイラは思わず目を伏せたが、ブリジットの事はなんとかしなければと口を開いた。
「エジャートンの領地は本当に何もない所なので、ブリジットさんがまたお越しくださるかは分かりませんが、次の機会には侍女かメイドをお連れいただけたら」
「ブリジットには私から話しておくよ。アイラにこれ以上迷惑をかけたら、小遣いを減額すると。あれは贅沢な奴だからね、それが一番効果があるんだ」
取り敢えず、ブリジットの事はなんとかなりそうだとほっとした。
「去年は冷害でうちの領地も大変だったが、伯爵領はどうかな?」
「夏だけでなく、冬には大雪に見舞われましたし、少しずつ復興に向けて進んでいるところです」
「領地経営を始めたばかりだというのに、伯爵領の経営はとても順調だそうだね」
(デイビッドに見せた帳簿では、経営が上手くいっていないように見せかけていたのだけど? デイビッドは帳簿は読めないのかも)
「今年は畑も羊の育成も順調なので、少しずつでも回復していければと思っています」
「そう、デイビッドから聞いたが染織工房の新設計画があるとか」
やはり染織工房の事を聞いてきた。
「はい、生前お父様が始めた計画です。採算が取れるまでにはまだ時間がかかりそうですが、少しずつでも進めていければと」
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ストックトン侯爵がどこまで内情を知っているのか、出来るだけ話を聞き出したいアイラは、
「私はまだ勉強不足で、頼りにしていたお父様は亡くなってしまいましたし・・。お義父様は染織工房についてお詳しいのですか?」
と、聞いてみた。
「うちの領地でも工房を持とうと思った事があってね。その時色々調べたんだ。結局今のところ先送りにしているんだが。
何か困った事があれば、何時でも相談して欲しい。デイビッドが役に立たない代わりと言ってはなんだが、私で良ければ相談に乗りたいと思っている」
やはりストックトン侯爵が怪しいのかもしれない。侯爵家が染織工房の事業を先送りにしている理由はなんなのだろう。
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