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夜会
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九月
ーーーーーー
「ジファール侯爵アルフレッド・ジファール様並びに、エジャートン伯爵アイラ・ランズダウン様」
両開きのドアが開かれた。名前が呼び上げられると同時に広間の中が静まり返り、全員の視線が向けられた。
アルフレッドは安心させるように、アイラの手を軽く叩き室内へと進んで行った。
「エジャートン伯爵って妖精姫?」
「ジファール侯爵と一緒?」
周りから好奇の目に晒されて、アイラは怖気付いていた。アルフレッドは周りの様子を気にする事なく、主催者であるトマス・グラフトン公爵の元へと進んでいく。
「久しぶりですね、アルフレッド」
「お久しぶりですトマス様。今宵はお招き頂きありがとうございます」
「そちらの方は?」
「エジャートン伯爵アイラ・ランズダウン様です」
「お初にお目にかかります。アイラ・ランズダウンと申します。以後お見知り置きを」
「今日の夜会に妖精姫をお連れくださるとは、流石ジファール侯爵ですね。社交シーズンには少し早いので、参加者が少なかったらどうしようかと不安だったのですが、嬉しい誤算でした。アイラとお呼びしても良いでしょうか? 私の事はトマスと呼んでください」
「ありがとうございます、トマス様。田舎者ゆえ不調法が御座いましたら、どうかご容赦いただけますよう」
「そんなに硬くならずとも大丈夫です。今日は気楽な内輪の集まりのようなものですから、ぜひ楽しんでいって下さい。後でダンスのお相手をお願い出来ますでしょうか?」
「はい、喜んで」
アルフレッドはその後アイラの側を片時も離れる事なく、主だった貴族達に紹介していった。はじめは遠くから様子を窺っていた者達も、次第にアイラに声をかけはじめた。
「エジャートン伯爵が夜会に参加されるのは珍しいのでは?」
「グラフトン公爵様とは、以前からお知り合いでしたの?」
「この後ぜひ、ダンスのお相手を」
「お父上様が亡くなられて、伯爵位をお継ぎになったのでしょう?」
「ジファール侯爵様とは、以前からお知り合いでしたの?」
「グラフトン公爵様がダンスを踊られたのは、奥方様が亡くなられて初めての事だってご存知です?」
「普段は領地におられるとか。暫くは王都におられるのですか?」
「今度ぜひ、我が家の夜会にもいらして頂けませんか?」
誰もがアイラに興味津々のようで、周りには大勢の人だかりができている。
暫くするとアルフレッドが小声で、
「お疲れのようだ、少し休憩しましょう」
と言い、人だかりの中から救い出してくれた。
思った以上に緊張していたようで、テラスに出た途端思わず溜息をもらしてしまった。
「予想はしていましたが、物凄い人気ですね。流石にあれでは疲れてしまう」
「私のような者に声をかけてくださる方が、あんなに沢山おられるとは思わなくて。びっくりしてしまいました」
「明日から招待状が山のように届きますよ。どの夜会に参加するのか、ウィルソンとよく相談して決めた方が良いでしょう。貴族の中には、見た目通りとは言えない輩が大勢いますからね」
アルフレッドとウィルソンは、やはり親しい間柄のようだ。アルフレッドの言葉の端々からは、ウィルソンへの信頼のような感情がみてとれる。
「ウィルソンはその、貴族の方々について詳しいのでしょうか?」
「彼の事だ。私の元を離れた後も抜かりなく、情報収集していると思いますよ。何かあれば私に声をかけてくるでしょう」
「アルフレッド様に?」
「ウィルソンはアイラの為なら、なんでも利用すると思いますよ」
「まさか、そんな事は」
「ないと思いますか?」
確かにウィルソンなら、そんな事はないとは言い切れないだろう。彼は、不甲斐ない主人にいつも献身的に仕えてくれている。
「ウィルソンが何故私の従者をしていたか、知っていますか?」
「実は、ウィルソンがアルフレッド様の元で、従者をしていた事自体知らなかったのです。何故なのか、聞いても答えてくれませんでしたの」
アルフレッドがとても楽しそうに笑いながら言った。
「確かに言いにくいかもしれないな。ウィルソンを預かる事自体はアイラのお父上から頼まれたのですが、その理由はいつかウィルソンの口から白状させるといいでしょう。私が楽しみにしていると伝えて頂けますか?」
「ウィルソンは頑固ですから、残念ですけれどきっと教えてくれないと思います」
「では、今でも臆病者には負けないが、私がもう少し若ければぜひ・・と言ったと伝えてください。」
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「ジファール侯爵アルフレッド・ジファール様並びに、エジャートン伯爵アイラ・ランズダウン様」
両開きのドアが開かれた。名前が呼び上げられると同時に広間の中が静まり返り、全員の視線が向けられた。
アルフレッドは安心させるように、アイラの手を軽く叩き室内へと進んで行った。
「エジャートン伯爵って妖精姫?」
「ジファール侯爵と一緒?」
周りから好奇の目に晒されて、アイラは怖気付いていた。アルフレッドは周りの様子を気にする事なく、主催者であるトマス・グラフトン公爵の元へと進んでいく。
「久しぶりですね、アルフレッド」
「お久しぶりですトマス様。今宵はお招き頂きありがとうございます」
「そちらの方は?」
「エジャートン伯爵アイラ・ランズダウン様です」
「お初にお目にかかります。アイラ・ランズダウンと申します。以後お見知り置きを」
「今日の夜会に妖精姫をお連れくださるとは、流石ジファール侯爵ですね。社交シーズンには少し早いので、参加者が少なかったらどうしようかと不安だったのですが、嬉しい誤算でした。アイラとお呼びしても良いでしょうか? 私の事はトマスと呼んでください」
「ありがとうございます、トマス様。田舎者ゆえ不調法が御座いましたら、どうかご容赦いただけますよう」
「そんなに硬くならずとも大丈夫です。今日は気楽な内輪の集まりのようなものですから、ぜひ楽しんでいって下さい。後でダンスのお相手をお願い出来ますでしょうか?」
「はい、喜んで」
アルフレッドはその後アイラの側を片時も離れる事なく、主だった貴族達に紹介していった。はじめは遠くから様子を窺っていた者達も、次第にアイラに声をかけはじめた。
「エジャートン伯爵が夜会に参加されるのは珍しいのでは?」
「グラフトン公爵様とは、以前からお知り合いでしたの?」
「この後ぜひ、ダンスのお相手を」
「お父上様が亡くなられて、伯爵位をお継ぎになったのでしょう?」
「ジファール侯爵様とは、以前からお知り合いでしたの?」
「グラフトン公爵様がダンスを踊られたのは、奥方様が亡くなられて初めての事だってご存知です?」
「普段は領地におられるとか。暫くは王都におられるのですか?」
「今度ぜひ、我が家の夜会にもいらして頂けませんか?」
誰もがアイラに興味津々のようで、周りには大勢の人だかりができている。
暫くするとアルフレッドが小声で、
「お疲れのようだ、少し休憩しましょう」
と言い、人だかりの中から救い出してくれた。
思った以上に緊張していたようで、テラスに出た途端思わず溜息をもらしてしまった。
「予想はしていましたが、物凄い人気ですね。流石にあれでは疲れてしまう」
「私のような者に声をかけてくださる方が、あんなに沢山おられるとは思わなくて。びっくりしてしまいました」
「明日から招待状が山のように届きますよ。どの夜会に参加するのか、ウィルソンとよく相談して決めた方が良いでしょう。貴族の中には、見た目通りとは言えない輩が大勢いますからね」
アルフレッドとウィルソンは、やはり親しい間柄のようだ。アルフレッドの言葉の端々からは、ウィルソンへの信頼のような感情がみてとれる。
「ウィルソンはその、貴族の方々について詳しいのでしょうか?」
「彼の事だ。私の元を離れた後も抜かりなく、情報収集していると思いますよ。何かあれば私に声をかけてくるでしょう」
「アルフレッド様に?」
「ウィルソンはアイラの為なら、なんでも利用すると思いますよ」
「まさか、そんな事は」
「ないと思いますか?」
確かにウィルソンなら、そんな事はないとは言い切れないだろう。彼は、不甲斐ない主人にいつも献身的に仕えてくれている。
「ウィルソンが何故私の従者をしていたか、知っていますか?」
「実は、ウィルソンがアルフレッド様の元で、従者をしていた事自体知らなかったのです。何故なのか、聞いても答えてくれませんでしたの」
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