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王都
しおりを挟む九月
ーーーーーー
「はじめまして、ジファール侯爵のアルフレッド・ジファールです。私の事はアルフレッドとお呼びください」
「はじめまして、エジャートン伯爵アイラ・ランズダウンと申します。突然の無理なお願いをお聞き入れ下さり、ありがとうございます。私の事はどうかアイラとお呼び下さい」
ジファール侯爵は、アイラより20近く年上だろう。クセのある金髪を後ろで緩く結び、夜会服を少しばかり着崩している。
ウィルソンの話ではかなりの遊び人で、殆どの貴族と顔見知りだと言う。今回の目的を考えると、これほど頼りになる人はいないだろう。
「貴方がかの有名な妖精姫ですね。噂以上の美しさだ、今夜の夜会では大騒ぎになりそうだ」
「?」
「ご存知なかったのですね。アイラは学生の頃から有名だったのですよ」
「ジファール様」
ウィルソンが睨んでいる。
「ウィルソン、久しぶりに会ったと言うのに、そんな怖い顔をするものではない」
ジファール侯爵はウィルソンに笑いかけた。ウィルソンは詳しい話をしたがらなかったが、2人の関係はかなり親密なのかも知れない。
「今日はウィルソンのお陰で妖精姫をエスコート出来るのだから、亡くなられた前伯爵にはお礼を言わなくてはならんな」
「お父様をご存知だったのですか?」
「ああ、とても親しくさせていただいていた。お父上からの頼みで、ウィルソンを3年預かったんだ。ちょうど貴方が学院に通われていた時期だったね」
「アイラ様、どうかジファール様にはお気をつけください。ジファール様はかなり手癖が悪いので、馬車の中でも気を緩めないように。ソフィア、アイラ様をしっかりお守りしてくれ」
「ウィルソン、出掛ける前からアイラを怖がらせてどうする。さて、話の続きは馬車で」
ジファール侯爵家の馬車にソフィアと共に乗り、はじめての夜会に向かう。目の前のジファール侯爵は穏やかな表情で、ウィルソンが心配しているような人には見えなかった。
「今日の主催者はグラフトン公爵と聞いておりますが?」
「トマス・グラフトン公爵は王弟にあたられる。年はアイラ嬢より7歳上かな。とても穏和な方だから安心していい。アイラが急に夜会に出席したくなった理由は知らないが、恐らく貴方にとってとても強い味方になってくださると思うよ」
ジファール侯爵は、まるで何もかも知っているかのような、鋭い目つきでアイラを見つめた。
「アルフレッド様は、ウィルソンから何か聞いておられるのですか?」
アルフレッドは苦笑いを浮かべ、
「いや、ウィルソンは口が固くてね。色々カマをかけてみたんだが、アイラを夜会にエスコートして欲しいとしか言わんのだよ。まあ、妖精姫をエスコート出来るチャンスだからね、喜んで了承したが」
「・・あの、妖精姫と言うのは」
「ああ、貴方の美しさは学生時代から有名だったんだが、デビュタント以外お茶会にも夜会にも参加しないだろう? 現実に居るのかどうか分からない、妖精のようだから妖精姫と皆が呼んでいる。こうしてお会いしてみると、お父上が外に出したがらなかったのも納得できる」
アルフレッドはアイラが困惑しているのを楽しんでいるようだった。アイラは今まで、貴族同士の会話について学んでこなかった事を後悔した。
「あの、私は領地経営の勉強が忙しくて。ただそれだけなので」
「取り敢えず、初めての夜会を思う存分楽しもうか。私としては、今頃ウィルソンが屋敷でどんな顔をしているか、想像しただけで楽しくなるがな」
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