39 / 89
手紙
しおりを挟む
九月 一部不快な表現と暴力表現があります
ーーーーーー
デイビッド達が出掛けて5日後、ストックトン侯爵家から手紙が届いた。中には侯爵家主催の夜会の招待状が入っていた。
手紙には、ブリジットが長逗留していた事へのお詫びをしたいと書かれていた。
「ウィルソン、このタイミングって何かあると思う?」
「そうですね、何かあると疑ってかかった方が良いかと」
「今まではずっとお断りしていたけど、今回は行ってみようかしら。侯爵家が関わっているか分かるかもしれないし、少なくともブリジットの事は何とか出来るかも」
「もし侯爵家が関わっていたとしたら、危険が大きすぎます。私は反対です」
「でもねこの間の報告でも何も分からなかったし、リューベックの下働きの男も行方が分からない。何か手を打たなくちゃ」
3日後、アイラ達は留守をギータに任せて王都へと出発した。王都へ行くには途中一泊する必要がある為、ヘンリーに先行させ宿の確保をさせた。
「いつもご贔屓頂きましてありがとうございます」
と言った亭主が、アイラを見て青ざめた。
不審に思ったウィルソンが声をかけた。
「もしかして当家の主人がよく此処を利用しているのでしょうか?」
「あっはい、あの申し訳ありません。その」
「構いませんよ。どうぞお気になさらず」
「どうもありがとうございます」
ウィルソンが小声で、
「後でお話を聞かせて頂いても宜しいでしょうか?」
と聞くと亭主はアイラを気にしながら、
「はい、暫くは忙しくしてますが大丈夫だと思います」
と渋々答えた。
アイラとソフィアが部屋に落ち着いたのを確認した後、ウィルソンは亭主の所に戻った。
「主人の此処での様子を教えて欲しいんだが」
「いや、それはあの本当すみません。余計なことを言っちまって」
ウィルソンが金貨を1枚手渡した。亭主は金貨を見つめながら、暫く考え込んでいた。
「ここだけの話ですよ、奥方様には秘密でお願いします」
「勿論です、誰にも話しません。デイビッド様は何時もお一人でこちらに?」
「はい、お一人です。入ってきて直ぐ酒とその、あれです」
「女?」
「まぁそのお気に入りというか」
「後で会えるかな? その子からも話を聞きたいんだけど」
「メリッサにですか? 今その仕事中なんで、その後だったら」
「デイビッド様は何時もどんな様子かな?」
「あんまりご機嫌のいい時はありませんねぇ。大概何かしらに怒ってる感じですね」
「どんな話を?」
「酔っ払ってくると色々、イカサマされたとか騙されたとか。後は奥方様の文句とか」
「メリッサ以外に誰かと会ったり話したりは?」
「いや、ないっすね。そういやぁ一度気味の悪い奴と話してた事が」
「どんな奴だった?」
「フード被っててよく見えなかったんすけど、旦那はそいつに気がついた途端すっごい慌てて。けっこう長く話してたっすね。後、旦那に会う前メリッサがそいつの相手したんですけどね、暫く使いもんにならなくなって大変だったんで」
暫くしてメリッサがやってきた。
「メリッサ、こちらの方がお前に聞きたい事があるって」
「へぇ、いい男じゃん。はじめまして、聞きたいことって?」
隣に座ったメリッサは、ウィルソンにしなだれかかり上目遣いで見つめてきた。
「デイビッドって言ったらわかる?」
「あぁ、伯爵様ね。なんだあの人の知り合い?」
「彼のお気に入りだって聞いたから、話を聞かせて欲しいんだけど」
「何が聞きたいのぉ? 上で2人っきりでさ、ゆっくり話す?」
「彼はいつもどんな話をしてるのかなって」
ウィルソンはメリッサに金貨を1枚握らせた。
「うーん、ぶつぶつ文句ばっか言ってるよ。口煩い奥さんのこととか、頭の悪い友達の事とか?」
「一度彼の友達がここに来たって聞いたんだけど?」
「あいつ! 最低のクソ野郎」
「どんな奴だったとか教えてくれるかな?」
「すっごい気持ち悪い奴だった。無茶苦茶されてさ、あん時はまじで死ぬかと思った。アイツにだけは二度と会いたくない」
「見た目とか覚えてる?」
「忘れるもんか、茶髪で薄いグレーの目。ずーっとニヤニヤ笑っててさ、アレの最中首締めながら笑ってやんの。苦しくって暴れたら殴ってくるし」
「何か他に覚えてることないかな?」
「・・指? 顔に手を当てた時、薬指だけ曲げてた。その後ニヤニヤ笑ってさ、楽しいだろ? とか言って殴ってきた。あのクソ野郎、思い出したらまた腹が立ってきた」
ウィルソンはメリッサに、こっそりと金貨を握らせて小声で言った。
「後でまた、もう少し・・時間? もらえるかな? 誰にも内緒で」
「へぇ・・いいよ。あんたって、そういう事には興味ないのかと思ってた」
「ここってうちの旦那様の定宿みたいだし、秘密に出来る?」
「私の部屋は2階の一番右の奥。たっぷりサービスしたげるよ」
(大切な目撃者だ、どこか安全なところに)
ーーーーーー
デイビッド達が出掛けて5日後、ストックトン侯爵家から手紙が届いた。中には侯爵家主催の夜会の招待状が入っていた。
手紙には、ブリジットが長逗留していた事へのお詫びをしたいと書かれていた。
「ウィルソン、このタイミングって何かあると思う?」
「そうですね、何かあると疑ってかかった方が良いかと」
「今まではずっとお断りしていたけど、今回は行ってみようかしら。侯爵家が関わっているか分かるかもしれないし、少なくともブリジットの事は何とか出来るかも」
「もし侯爵家が関わっていたとしたら、危険が大きすぎます。私は反対です」
「でもねこの間の報告でも何も分からなかったし、リューベックの下働きの男も行方が分からない。何か手を打たなくちゃ」
3日後、アイラ達は留守をギータに任せて王都へと出発した。王都へ行くには途中一泊する必要がある為、ヘンリーに先行させ宿の確保をさせた。
「いつもご贔屓頂きましてありがとうございます」
と言った亭主が、アイラを見て青ざめた。
不審に思ったウィルソンが声をかけた。
「もしかして当家の主人がよく此処を利用しているのでしょうか?」
「あっはい、あの申し訳ありません。その」
「構いませんよ。どうぞお気になさらず」
「どうもありがとうございます」
ウィルソンが小声で、
「後でお話を聞かせて頂いても宜しいでしょうか?」
と聞くと亭主はアイラを気にしながら、
「はい、暫くは忙しくしてますが大丈夫だと思います」
と渋々答えた。
アイラとソフィアが部屋に落ち着いたのを確認した後、ウィルソンは亭主の所に戻った。
「主人の此処での様子を教えて欲しいんだが」
「いや、それはあの本当すみません。余計なことを言っちまって」
ウィルソンが金貨を1枚手渡した。亭主は金貨を見つめながら、暫く考え込んでいた。
「ここだけの話ですよ、奥方様には秘密でお願いします」
「勿論です、誰にも話しません。デイビッド様は何時もお一人でこちらに?」
「はい、お一人です。入ってきて直ぐ酒とその、あれです」
「女?」
「まぁそのお気に入りというか」
「後で会えるかな? その子からも話を聞きたいんだけど」
「メリッサにですか? 今その仕事中なんで、その後だったら」
「デイビッド様は何時もどんな様子かな?」
「あんまりご機嫌のいい時はありませんねぇ。大概何かしらに怒ってる感じですね」
「どんな話を?」
「酔っ払ってくると色々、イカサマされたとか騙されたとか。後は奥方様の文句とか」
「メリッサ以外に誰かと会ったり話したりは?」
「いや、ないっすね。そういやぁ一度気味の悪い奴と話してた事が」
「どんな奴だった?」
「フード被っててよく見えなかったんすけど、旦那はそいつに気がついた途端すっごい慌てて。けっこう長く話してたっすね。後、旦那に会う前メリッサがそいつの相手したんですけどね、暫く使いもんにならなくなって大変だったんで」
暫くしてメリッサがやってきた。
「メリッサ、こちらの方がお前に聞きたい事があるって」
「へぇ、いい男じゃん。はじめまして、聞きたいことって?」
隣に座ったメリッサは、ウィルソンにしなだれかかり上目遣いで見つめてきた。
「デイビッドって言ったらわかる?」
「あぁ、伯爵様ね。なんだあの人の知り合い?」
「彼のお気に入りだって聞いたから、話を聞かせて欲しいんだけど」
「何が聞きたいのぉ? 上で2人っきりでさ、ゆっくり話す?」
「彼はいつもどんな話をしてるのかなって」
ウィルソンはメリッサに金貨を1枚握らせた。
「うーん、ぶつぶつ文句ばっか言ってるよ。口煩い奥さんのこととか、頭の悪い友達の事とか?」
「一度彼の友達がここに来たって聞いたんだけど?」
「あいつ! 最低のクソ野郎」
「どんな奴だったとか教えてくれるかな?」
「すっごい気持ち悪い奴だった。無茶苦茶されてさ、あん時はまじで死ぬかと思った。アイツにだけは二度と会いたくない」
「見た目とか覚えてる?」
「忘れるもんか、茶髪で薄いグレーの目。ずーっとニヤニヤ笑っててさ、アレの最中首締めながら笑ってやんの。苦しくって暴れたら殴ってくるし」
「何か他に覚えてることないかな?」
「・・指? 顔に手を当てた時、薬指だけ曲げてた。その後ニヤニヤ笑ってさ、楽しいだろ? とか言って殴ってきた。あのクソ野郎、思い出したらまた腹が立ってきた」
ウィルソンはメリッサに、こっそりと金貨を握らせて小声で言った。
「後でまた、もう少し・・時間? もらえるかな? 誰にも内緒で」
「へぇ・・いいよ。あんたって、そういう事には興味ないのかと思ってた」
「ここってうちの旦那様の定宿みたいだし、秘密に出来る?」
「私の部屋は2階の一番右の奥。たっぷりサービスしたげるよ」
(大切な目撃者だ、どこか安全なところに)
27
お気に入りに追加
1,944
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

元カレの今カノは聖女様
abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」
公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。
婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。
極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。
社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。
けれども当の本人は…
「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」
と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。
それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。
そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で…
更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。
「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました
As-me.com
恋愛
完結しました。
とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。
なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる