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六月
ーーーーーー
ホットスパーの調査に行っていたヘンリーが戻ってきた。ウィルソンとギータそしてヘンリーの3人は休憩室に入ってドアを閉めた。
「戻って来て早々悪いな」ウィルソンがヘンリーに話かけた。
「ホットスパーでは、大したことは分かりませんでした。あそこは田舎なので、偶に行商人がやって来る位しか余所者はやって来ないみたいです。宿屋を兼ねた酒場が一軒あるっきりで、そこで話を聞いてみましたが特別な事は何も。村の男たちはちょっと気分を変えたくなったら、リューベックへ遊びに行くようです。リューベックはホットスパーに比べると、店の数も多いし娼館も幾つかあるので」
「行商人について何か聞かなかったか? 変わった奴がいたとか」
「殆どが昔から来ている行商人ばかりでした。ただ今年の初め頃、大雪の中やって来た行商人がいたのを、酒場の亭主が覚えていました」
「どんな奴だった?」
「ボロボロの荷車でやって来て、道に迷ったと言っていたそうです。毎日窓の外ばかり見ていたので、雪が止むのを待っているんだろうと、気に掛けていなかったそうです。毎年雪の時期にはよくあるそうで、またかと思ったと」
「誰かと話したりしてなかったのか?」
「あまり覚えていませんでした。ずっとフードを被ったままだったから、寒がりなのかと思った位で、ちょっと気持ち悪い奴だったって言ってました。酒場にいた男達にもそいつの事を聞いてみましたが、そう言えばそんな奴がいたな位で、話した覚えはないと」
「確かウォルターはいつも自警団の詰所か酒場にいるって、あの派手な嫁さんが言ってたよな」とギータが言った。
「はい、自警団のメンバーはよく酒を飲みに行くみたいです。今は小麦の刈り入れとかで結構忙しいみたいですが、冬場は仕事が少なくてしょっちゅう入り浸っていると。何人かと話をしてみましたが、誰もそいつと話した覚えがないと言ってました」
「誰も? 酒が入ってて目の前に知らない奴がいたら、声をかける奴の1人ぐらいいそうなもんだが」ウィルソンが当然の疑問を投げかけた。
「話しかけにくい雰囲気だったらしいですよ」
「そいつは何日位そこにいたのか聞いたか?」
「4、5日位だったと思うと言ってました。出ていった時はほっとしたって」
「自警団リーダーのガストンとは話してみたか?」
「はい、彼はウォルターの幼なじみでした。ウォルターの両親は、数年前の流行り病で亡くなり、その後は妹と2人暮らししていました。1年前その妹が結婚して一人暮らしになってから、リューベックに頻繁に行くようになったそうです」
「ウォルターの結婚については何か言ってなかったか?」
「結婚すると聞いた時はびっくりしたそうです。話を聞いた直ぐ後に花嫁を連れてきて、派手な結婚式をしたそうです。雪が降りはじめる前から、毎週のように出かけていたので女でも出来たか? と思っていたそうです」
「幼なじみなら、ウォルターからリューベックでの話を聞いたりは?」
「お気に入りの店があって、そこにいつも行ってるみたいだったとしか。元々無口なほうだったそうですが、妹が結婚してからは殻に閉じこもったようになって、自警団でも殆ど喋らなくなったって言ってました」
「ウォルターの嫁さんとは話したか?」
「あー、話しました」
ヘンリーがニヤニヤと笑いはじめウィルソンを見た。
「ウォルターやリューベックの事を聞こうとしたんですが、ウィルソンの事を聞きたがってばかりで、話が進まなくて苦労しました」
「アイラ様に言いつけようか? ウィルソン?」ギータがからかってくる。
「やめてくれ、アイラ様は直ぐおかしな方に話を捻じ曲げるから」ウィルソンがギータを睨んだ。
「ウォルターは、リューベックの酒場で働いていた時の、常連の1人だそうです。去年の夏頃から通いはじめて、秋になる頃には毎週やってくるようになったとか。しつこく結婚してくれと言ってきたから、仕方なく結婚してやったんだと自慢げに話してました」
「ウォルターの話では他のやつからも結婚を申し込まれてたんだよな?」
「どうもウォルターを煽るための、嘘だったみたいですよ。最初はあれこれ誤魔化してましたが、ウォルターが金ができたら結婚して欲しいって言っていたので嘘をついたんだそうです。その頃店にいた下働きの男の入れ知恵だったと。その後ウォルターが、金ができたから結婚してくれって言ってきたって、ゲラゲラ笑ってました」
「ありがとう、今日はこの後ゆっくり休んでくれ。明日からリューベックに行って欲しいんだが? 特に入れ知恵した下働きについて調べて欲しい、無理なら別の奴に頼むが」ウィルソンが聞くと、
「大丈夫です。俺も気になるんで行かせてください」
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ホットスパーの調査に行っていたヘンリーが戻ってきた。ウィルソンとギータそしてヘンリーの3人は休憩室に入ってドアを閉めた。
「戻って来て早々悪いな」ウィルソンがヘンリーに話かけた。
「ホットスパーでは、大したことは分かりませんでした。あそこは田舎なので、偶に行商人がやって来る位しか余所者はやって来ないみたいです。宿屋を兼ねた酒場が一軒あるっきりで、そこで話を聞いてみましたが特別な事は何も。村の男たちはちょっと気分を変えたくなったら、リューベックへ遊びに行くようです。リューベックはホットスパーに比べると、店の数も多いし娼館も幾つかあるので」
「行商人について何か聞かなかったか? 変わった奴がいたとか」
「殆どが昔から来ている行商人ばかりでした。ただ今年の初め頃、大雪の中やって来た行商人がいたのを、酒場の亭主が覚えていました」
「どんな奴だった?」
「ボロボロの荷車でやって来て、道に迷ったと言っていたそうです。毎日窓の外ばかり見ていたので、雪が止むのを待っているんだろうと、気に掛けていなかったそうです。毎年雪の時期にはよくあるそうで、またかと思ったと」
「誰かと話したりしてなかったのか?」
「あまり覚えていませんでした。ずっとフードを被ったままだったから、寒がりなのかと思った位で、ちょっと気持ち悪い奴だったって言ってました。酒場にいた男達にもそいつの事を聞いてみましたが、そう言えばそんな奴がいたな位で、話した覚えはないと」
「確かウォルターはいつも自警団の詰所か酒場にいるって、あの派手な嫁さんが言ってたよな」とギータが言った。
「はい、自警団のメンバーはよく酒を飲みに行くみたいです。今は小麦の刈り入れとかで結構忙しいみたいですが、冬場は仕事が少なくてしょっちゅう入り浸っていると。何人かと話をしてみましたが、誰もそいつと話した覚えがないと言ってました」
「誰も? 酒が入ってて目の前に知らない奴がいたら、声をかける奴の1人ぐらいいそうなもんだが」ウィルソンが当然の疑問を投げかけた。
「話しかけにくい雰囲気だったらしいですよ」
「そいつは何日位そこにいたのか聞いたか?」
「4、5日位だったと思うと言ってました。出ていった時はほっとしたって」
「自警団リーダーのガストンとは話してみたか?」
「はい、彼はウォルターの幼なじみでした。ウォルターの両親は、数年前の流行り病で亡くなり、その後は妹と2人暮らししていました。1年前その妹が結婚して一人暮らしになってから、リューベックに頻繁に行くようになったそうです」
「ウォルターの結婚については何か言ってなかったか?」
「結婚すると聞いた時はびっくりしたそうです。話を聞いた直ぐ後に花嫁を連れてきて、派手な結婚式をしたそうです。雪が降りはじめる前から、毎週のように出かけていたので女でも出来たか? と思っていたそうです」
「幼なじみなら、ウォルターからリューベックでの話を聞いたりは?」
「お気に入りの店があって、そこにいつも行ってるみたいだったとしか。元々無口なほうだったそうですが、妹が結婚してからは殻に閉じこもったようになって、自警団でも殆ど喋らなくなったって言ってました」
「ウォルターの嫁さんとは話したか?」
「あー、話しました」
ヘンリーがニヤニヤと笑いはじめウィルソンを見た。
「ウォルターやリューベックの事を聞こうとしたんですが、ウィルソンの事を聞きたがってばかりで、話が進まなくて苦労しました」
「アイラ様に言いつけようか? ウィルソン?」ギータがからかってくる。
「やめてくれ、アイラ様は直ぐおかしな方に話を捻じ曲げるから」ウィルソンがギータを睨んだ。
「ウォルターは、リューベックの酒場で働いていた時の、常連の1人だそうです。去年の夏頃から通いはじめて、秋になる頃には毎週やってくるようになったとか。しつこく結婚してくれと言ってきたから、仕方なく結婚してやったんだと自慢げに話してました」
「ウォルターの話では他のやつからも結婚を申し込まれてたんだよな?」
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「ありがとう、今日はこの後ゆっくり休んでくれ。明日からリューベックに行って欲しいんだが? 特に入れ知恵した下働きについて調べて欲しい、無理なら別の奴に頼むが」ウィルソンが聞くと、
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