【完結】真実の行方 悠々自適なマイライフを掴むまで

との

文字の大きさ
上 下
29 / 89

中弛み

しおりを挟む
七月

ーーーーーー

 7月に入り陽射しも強くなってきた。テラスから見える庭には、今日も色鮮やかな薔薇が咲き乱れており、庭の奥ではムクゲの木が、毎日新しい花を咲かせている。

 庭に出られないアイラの為にと、3日に一度庭師が花を摘んできてくれる為、アイラの部屋も執務室も薔薇の香りで満たされている。

 ホットスパーでの一件以来、アイラは領主館から出ることを禁止されている。領地の見回りは勿論禁止、代官や銀行家との話し合いは領主館の中、庭に出る事さえ出来ない。
 アイラに出来るのは、ほんの短い時間テラスから庭を眺める事だけ。

「アイラ様、そろそろお部屋にお戻りください」
 案の定ソフィアが声をかけてきた。素直に部屋に戻るがつい愚痴が出てしまった。

「一体いつまでこうしていなければならないのかしら。遠乗りに行きたいとは言わないけど、お庭を散歩するくらい」
「ウィルソンに聞いてみましょう。もう1か月近く経ちますし、屋敷の中ばかりでは息が詰まってしまいますね」

「みんなに心配をかけたのだから、我慢しなくちゃとは思うんだけど。報告は相変わらずで何も出てこないし」
「随分と狡猾な奴ですね。これだけ調べて何も出てこないなんて」

「リリアもごめんなさいね。長い間ご両親に会えてないでしょう?」
「全然問題ないです。それよりも、トスティさんにずっと護衛してもらってるのが申し訳なくて。うちに護衛って本当に必要なのかなって」
「刈り入れは終わったし、ご両親にこちらにきて貰っても良いのだけど、畑を放り出して来てくださいとは言えないし。リリアは気にしなくて大丈夫、トスティはご両親と楽しくやってるみたいだしね。さぁ、真面目にお仕事してきましょう。執務室で帳簿が待ってるわ。ずっと執務室にいるから、あなた達は自分の仕事をしてからで良いわよ」
 アイラはにっこりと笑って部屋を出ていった。


 帳簿の記帳をしていると、ペン先が折れてしまった。引き出しを開け、新しいペン先を探したが見つからない。ソフィアとリリアはまだ来ていなかったので、自分で備品室へ取りに行く事にした。

(備品室なら屋敷内だから良いわよね。すぐに戻るし)

 廊下を抜け裏の階段を降りていく。
 そう言えばこの階段は地下牢に続いているんだわ、ちょっと覗いてみようかしら。ウォルターは移送されてもういないのだしと、こっそりと階段を降りていく。
 ひっそりと静まりかえった地下は、薄暗く不気味な雰囲気で、淀んだかび臭い匂いがした。

 こんなところに閉じ込められたら怖そうだと思った時、後ろから頭に強い衝撃を受け、アイラは床に倒れ込んだ。薄らと男の靴が見えた直後に気を失った。


 ウィルソンはアイラの自室にやってきて部屋を見回したが、ソフィアとリリアしかいない。
「アイラ様は?」
「執務室にいかれました」
「いや、執務室にはおられなかったのでこっちに来たんだが」
「アイラ様は30分くらい前に、ずっと執務室にいるからねっておっしゃってましたけど」
「屋敷内を探してくれ、俺は一度執務室に戻る」
 ウィルソンは飛び出していった。

「ウィルソン、アイラ様がいない」

「俺は備品室を見てくる。机の上にあったペン先が折れてた。もしかしたらペン先の予備を、自分で取りにいかれたのかも」
 そう言って走り出したウィルソンの後ろ姿を見ながら、
「私達ももう一度アイラ様を探しましょう。リリア、ギータに声を掛けて誰かに庭を探させて」
 ソフィアが指示を出し一階へ降りていった。


「いない」
 ウィルソンが真っ青な顔をしている。隣にいたギータが、
「ソフィア、リリア思い出してくれ。アイラ様は部屋を出る前に、何かおっしゃっていなかったか?」
「テラスから外を眺められて、その後遠乗りは無理だけど、たまには庭に出てみたいと」
「庭にはおられなかった」
 ギータが首を振る。

「テラスにいる時、何処かから見られていたとしたら?」
「いや、テラスは庭に面していて、その向こうは高い壁だ。外から覗く事は出来ない。それにもし見張っていたとしても、アイラ様がいなくなった事とは関係ないと思う。アイラ様が屋敷の外に出たとは考えられない」
「だが屋敷の中にはおられないんだ」
 ウィルソンは頭を掻きむしって部屋を彷徨いている。

「もう一度一から探し直してみよう。見落としがあるかも知れん。ソフィアは屋根裏から3階を頼む。リリアは2階を、ウィルソンお前は1階だ。俺は外を見てくる、そこら辺にいる奴全員に声をかけて、隅から隅まで調べるんだ」

 全員が駆け出した。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

処理中です...