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ギャレット
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四月
ーーーーーー
「お久しぶりですお嬢様。いえご領主様」
「やめてちょうだいギャレット。もうお嬢様ではないし、みんなには名前で呼んでもらってるの」
「ではアイラ様、本当に申し訳ありませんでした。俺のせいで大旦那様と大奥様があんな事に」
「謝ってもらう為に来てもらったわけじゃないのよ。何度も言うけど、ギャレットのせいだなんて誰も思ってないから。今日来てもらったのはね、馬車の事を教えて欲しかったからなの。早速だけどいろ聞いていいかしら」
「はい、何でも聞いて下さい」
「最後に馬車を使ったのは、いつだったか覚えてる?」
「はい、この冬は雪が多くて、大旦那様達はあまり外出されませんでした。最後に馬車を使ったのは、確か一月の初めだったと思います。近所のブランドンさんのお宅で、新年の集まりがありまして、それに行かれました」
「その時はお二人で行かれたの?」
「いえ、御者のビリーがご一緒しました」
「何か馬車の不具合があったとか言ってたかしら?」
「特に何もありませんでした。手入れをした時にも、何も問題ありませんでした」
「馬車の手入れって、どんな事をするの?」
「端から端までです。馬車と馬を繋ぐハーネスからはじめて、御者台や大旦那様達が乗られるキャリッジをチェックします。その次に車輪周りをやります。車輪や軸、軸受なんかは消耗が激しいので、特に注意して調べます」
「あの時も問題はなかったのね」
「はい、車軸が破損したって聞いた時は、あり得ないと思いました。雪がちらつきはじめた頃に大旦那様から、この冬はあまり外出できそうにないけど、何時でも使えるように念入りに手入れしておいてくれと、言われてたんです。雪道は危険が多いですし、普段なら問題ないようなことでも、壊れたり事故の原因になったりするんで。下に潜り込んでしっかり調べました」
「その時手入れしてから、次に手入れしたのはいつ頃?」
「毎週月曜にやってました」
「毎週やるの?」
「はい、使った後と月曜は必ず、点検と手入れをしてました」
「では、最後に使ってから事故までの間に、少なくとも3回くらい点検してるのね」
アイラは、ウィルソンの質問の仕方を真似てみたが、この他に何を聞けばいいのか分からなくなった。
「ウィルソンどう思う?」
「馬車の保管などは、どうなっているのでしょうか?最後に点検したのが月曜で、大旦那様が馬車を使われたのは、木曜の明け方です。その間馬車はどこに保管されていたのですか?」
「厩です」
「外に置いたまま、目を離したことはありませんか?」
「ないです。大旦那様が別宅に移られる前に、馬車の修理を室内で出来る様にしてくださったんです。私もお前もどんどん年寄りになっていくから、少しは楽をしようじゃないかって笑っておられました」
「厩は屋敷の左側でしたよね。外から厩の様子は見えますか?出入り口の場所とか人の出入りとか」
「見えます。あの屋敷は表通りからちょっと引っ込んでいますが、道を少し入ったら正面玄関も厩も全部見えます。引っ越したばかりの頃、ちょっと不用心だと思いましたから」
「だとすると、人の出入りをバレないように見張る事とか出来たりも?」
「うーん、どうでしょう。あー出来なくもないですね。人が通ると丸見えになりますが、家の中から見られないように、見張る事はできると思います」
「どんな風に?」
「表通りと玄関の間は木が植わってて。雑木林って言うほどじゃないんですが、そいつが目隠しみたいになってるんです。だからそこに上手く隠れれば」
「人が通らなければ見つからない?」
「はい、多分」
「厩の出入り口はいつも施錠してあったのですか?」
「いえ、日中は馬の世話とかで出たり入ったりするんで、鍵は夜だけです」
「かけ忘れたり壊れてたことは?」
「ないです。馬も馬車も結構立派なやつなんで、絶対に忘れないようにしてました。鍵に異常があったこともないです」
「ありがとう、質問はこれくらいかな。色々聞けて助かった」
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「お久しぶりですお嬢様。いえご領主様」
「やめてちょうだいギャレット。もうお嬢様ではないし、みんなには名前で呼んでもらってるの」
「ではアイラ様、本当に申し訳ありませんでした。俺のせいで大旦那様と大奥様があんな事に」
「謝ってもらう為に来てもらったわけじゃないのよ。何度も言うけど、ギャレットのせいだなんて誰も思ってないから。今日来てもらったのはね、馬車の事を教えて欲しかったからなの。早速だけどいろ聞いていいかしら」
「はい、何でも聞いて下さい」
「最後に馬車を使ったのは、いつだったか覚えてる?」
「はい、この冬は雪が多くて、大旦那様達はあまり外出されませんでした。最後に馬車を使ったのは、確か一月の初めだったと思います。近所のブランドンさんのお宅で、新年の集まりがありまして、それに行かれました」
「その時はお二人で行かれたの?」
「いえ、御者のビリーがご一緒しました」
「何か馬車の不具合があったとか言ってたかしら?」
「特に何もありませんでした。手入れをした時にも、何も問題ありませんでした」
「馬車の手入れって、どんな事をするの?」
「端から端までです。馬車と馬を繋ぐハーネスからはじめて、御者台や大旦那様達が乗られるキャリッジをチェックします。その次に車輪周りをやります。車輪や軸、軸受なんかは消耗が激しいので、特に注意して調べます」
「あの時も問題はなかったのね」
「はい、車軸が破損したって聞いた時は、あり得ないと思いました。雪がちらつきはじめた頃に大旦那様から、この冬はあまり外出できそうにないけど、何時でも使えるように念入りに手入れしておいてくれと、言われてたんです。雪道は危険が多いですし、普段なら問題ないようなことでも、壊れたり事故の原因になったりするんで。下に潜り込んでしっかり調べました」
「その時手入れしてから、次に手入れしたのはいつ頃?」
「毎週月曜にやってました」
「毎週やるの?」
「はい、使った後と月曜は必ず、点検と手入れをしてました」
「では、最後に使ってから事故までの間に、少なくとも3回くらい点検してるのね」
アイラは、ウィルソンの質問の仕方を真似てみたが、この他に何を聞けばいいのか分からなくなった。
「ウィルソンどう思う?」
「馬車の保管などは、どうなっているのでしょうか?最後に点検したのが月曜で、大旦那様が馬車を使われたのは、木曜の明け方です。その間馬車はどこに保管されていたのですか?」
「厩です」
「外に置いたまま、目を離したことはありませんか?」
「ないです。大旦那様が別宅に移られる前に、馬車の修理を室内で出来る様にしてくださったんです。私もお前もどんどん年寄りになっていくから、少しは楽をしようじゃないかって笑っておられました」
「厩は屋敷の左側でしたよね。外から厩の様子は見えますか?出入り口の場所とか人の出入りとか」
「見えます。あの屋敷は表通りからちょっと引っ込んでいますが、道を少し入ったら正面玄関も厩も全部見えます。引っ越したばかりの頃、ちょっと不用心だと思いましたから」
「だとすると、人の出入りをバレないように見張る事とか出来たりも?」
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「どんな風に?」
「表通りと玄関の間は木が植わってて。雑木林って言うほどじゃないんですが、そいつが目隠しみたいになってるんです。だからそこに上手く隠れれば」
「人が通らなければ見つからない?」
「はい、多分」
「厩の出入り口はいつも施錠してあったのですか?」
「いえ、日中は馬の世話とかで出たり入ったりするんで、鍵は夜だけです」
「かけ忘れたり壊れてたことは?」
「ないです。馬も馬車も結構立派なやつなんで、絶対に忘れないようにしてました。鍵に異常があったこともないです」
「ありがとう、質問はこれくらいかな。色々聞けて助かった」
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