19 / 89
ギャレット
しおりを挟む
四月
ーーーーーー
「お久しぶりですお嬢様。いえご領主様」
「やめてちょうだいギャレット。もうお嬢様ではないし、みんなには名前で呼んでもらってるの」
「ではアイラ様、本当に申し訳ありませんでした。俺のせいで大旦那様と大奥様があんな事に」
「謝ってもらう為に来てもらったわけじゃないのよ。何度も言うけど、ギャレットのせいだなんて誰も思ってないから。今日来てもらったのはね、馬車の事を教えて欲しかったからなの。早速だけどいろ聞いていいかしら」
「はい、何でも聞いて下さい」
「最後に馬車を使ったのは、いつだったか覚えてる?」
「はい、この冬は雪が多くて、大旦那様達はあまり外出されませんでした。最後に馬車を使ったのは、確か一月の初めだったと思います。近所のブランドンさんのお宅で、新年の集まりがありまして、それに行かれました」
「その時はお二人で行かれたの?」
「いえ、御者のビリーがご一緒しました」
「何か馬車の不具合があったとか言ってたかしら?」
「特に何もありませんでした。手入れをした時にも、何も問題ありませんでした」
「馬車の手入れって、どんな事をするの?」
「端から端までです。馬車と馬を繋ぐハーネスからはじめて、御者台や大旦那様達が乗られるキャリッジをチェックします。その次に車輪周りをやります。車輪や軸、軸受なんかは消耗が激しいので、特に注意して調べます」
「あの時も問題はなかったのね」
「はい、車軸が破損したって聞いた時は、あり得ないと思いました。雪がちらつきはじめた頃に大旦那様から、この冬はあまり外出できそうにないけど、何時でも使えるように念入りに手入れしておいてくれと、言われてたんです。雪道は危険が多いですし、普段なら問題ないようなことでも、壊れたり事故の原因になったりするんで。下に潜り込んでしっかり調べました」
「その時手入れしてから、次に手入れしたのはいつ頃?」
「毎週月曜にやってました」
「毎週やるの?」
「はい、使った後と月曜は必ず、点検と手入れをしてました」
「では、最後に使ってから事故までの間に、少なくとも3回くらい点検してるのね」
アイラは、ウィルソンの質問の仕方を真似てみたが、この他に何を聞けばいいのか分からなくなった。
「ウィルソンどう思う?」
「馬車の保管などは、どうなっているのでしょうか?最後に点検したのが月曜で、大旦那様が馬車を使われたのは、木曜の明け方です。その間馬車はどこに保管されていたのですか?」
「厩です」
「外に置いたまま、目を離したことはありませんか?」
「ないです。大旦那様が別宅に移られる前に、馬車の修理を室内で出来る様にしてくださったんです。私もお前もどんどん年寄りになっていくから、少しは楽をしようじゃないかって笑っておられました」
「厩は屋敷の左側でしたよね。外から厩の様子は見えますか?出入り口の場所とか人の出入りとか」
「見えます。あの屋敷は表通りからちょっと引っ込んでいますが、道を少し入ったら正面玄関も厩も全部見えます。引っ越したばかりの頃、ちょっと不用心だと思いましたから」
「だとすると、人の出入りをバレないように見張る事とか出来たりも?」
「うーん、どうでしょう。あー出来なくもないですね。人が通ると丸見えになりますが、家の中から見られないように、見張る事はできると思います」
「どんな風に?」
「表通りと玄関の間は木が植わってて。雑木林って言うほどじゃないんですが、そいつが目隠しみたいになってるんです。だからそこに上手く隠れれば」
「人が通らなければ見つからない?」
「はい、多分」
「厩の出入り口はいつも施錠してあったのですか?」
「いえ、日中は馬の世話とかで出たり入ったりするんで、鍵は夜だけです」
「かけ忘れたり壊れてたことは?」
「ないです。馬も馬車も結構立派なやつなんで、絶対に忘れないようにしてました。鍵に異常があったこともないです」
「ありがとう、質問はこれくらいかな。色々聞けて助かった」
ーーーーーー
「お久しぶりですお嬢様。いえご領主様」
「やめてちょうだいギャレット。もうお嬢様ではないし、みんなには名前で呼んでもらってるの」
「ではアイラ様、本当に申し訳ありませんでした。俺のせいで大旦那様と大奥様があんな事に」
「謝ってもらう為に来てもらったわけじゃないのよ。何度も言うけど、ギャレットのせいだなんて誰も思ってないから。今日来てもらったのはね、馬車の事を教えて欲しかったからなの。早速だけどいろ聞いていいかしら」
「はい、何でも聞いて下さい」
「最後に馬車を使ったのは、いつだったか覚えてる?」
「はい、この冬は雪が多くて、大旦那様達はあまり外出されませんでした。最後に馬車を使ったのは、確か一月の初めだったと思います。近所のブランドンさんのお宅で、新年の集まりがありまして、それに行かれました」
「その時はお二人で行かれたの?」
「いえ、御者のビリーがご一緒しました」
「何か馬車の不具合があったとか言ってたかしら?」
「特に何もありませんでした。手入れをした時にも、何も問題ありませんでした」
「馬車の手入れって、どんな事をするの?」
「端から端までです。馬車と馬を繋ぐハーネスからはじめて、御者台や大旦那様達が乗られるキャリッジをチェックします。その次に車輪周りをやります。車輪や軸、軸受なんかは消耗が激しいので、特に注意して調べます」
「あの時も問題はなかったのね」
「はい、車軸が破損したって聞いた時は、あり得ないと思いました。雪がちらつきはじめた頃に大旦那様から、この冬はあまり外出できそうにないけど、何時でも使えるように念入りに手入れしておいてくれと、言われてたんです。雪道は危険が多いですし、普段なら問題ないようなことでも、壊れたり事故の原因になったりするんで。下に潜り込んでしっかり調べました」
「その時手入れしてから、次に手入れしたのはいつ頃?」
「毎週月曜にやってました」
「毎週やるの?」
「はい、使った後と月曜は必ず、点検と手入れをしてました」
「では、最後に使ってから事故までの間に、少なくとも3回くらい点検してるのね」
アイラは、ウィルソンの質問の仕方を真似てみたが、この他に何を聞けばいいのか分からなくなった。
「ウィルソンどう思う?」
「馬車の保管などは、どうなっているのでしょうか?最後に点検したのが月曜で、大旦那様が馬車を使われたのは、木曜の明け方です。その間馬車はどこに保管されていたのですか?」
「厩です」
「外に置いたまま、目を離したことはありませんか?」
「ないです。大旦那様が別宅に移られる前に、馬車の修理を室内で出来る様にしてくださったんです。私もお前もどんどん年寄りになっていくから、少しは楽をしようじゃないかって笑っておられました」
「厩は屋敷の左側でしたよね。外から厩の様子は見えますか?出入り口の場所とか人の出入りとか」
「見えます。あの屋敷は表通りからちょっと引っ込んでいますが、道を少し入ったら正面玄関も厩も全部見えます。引っ越したばかりの頃、ちょっと不用心だと思いましたから」
「だとすると、人の出入りをバレないように見張る事とか出来たりも?」
「うーん、どうでしょう。あー出来なくもないですね。人が通ると丸見えになりますが、家の中から見られないように、見張る事はできると思います」
「どんな風に?」
「表通りと玄関の間は木が植わってて。雑木林って言うほどじゃないんですが、そいつが目隠しみたいになってるんです。だからそこに上手く隠れれば」
「人が通らなければ見つからない?」
「はい、多分」
「厩の出入り口はいつも施錠してあったのですか?」
「いえ、日中は馬の世話とかで出たり入ったりするんで、鍵は夜だけです」
「かけ忘れたり壊れてたことは?」
「ないです。馬も馬車も結構立派なやつなんで、絶対に忘れないようにしてました。鍵に異常があったこともないです」
「ありがとう、質問はこれくらいかな。色々聞けて助かった」
27
お気に入りに追加
1,944
あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。
なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。
追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。
優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。
誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、
リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。
全てを知り、死を考えた彼女であったが、
とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。
後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

元カレの今カノは聖女様
abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」
公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。
婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。
極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。
社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。
けれども当の本人は…
「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」
と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。
それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。
そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で…
更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。
「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる