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伯爵位
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十月
ーーーーーー
翌日、すっかり気持ちの落ち着いた様子のデイビッドと朝食を共にした。
「最近は父上と会っていないのか?」
「そうですね、色々忙しくしておりましたので、最後にお会いしたのは六月の終わり頃でしょうか。後は手紙ばかりですわ」
「親不孝な娘だな、歳をとってできた一人娘に無視されるとか可哀想だと思わないか?」
「そう言えば、デイビッドのお父様はお元気ですか? 長い間ご無沙汰しておりますが」
「この間再婚した。男爵の次女で娘を連れてきた」
「全然知りませんでした。急いでお祝いを贈らなくては、何が良いかご存知ありませんか?」
「別に何でもいいだろう。どうせ再婚同士だし、あの様子だといつまで持つやら。
そういえば連れてきた娘は、お前と同じ位の歳だな」
「お一人ですか?」
「ああ、かなりの美人でお前と違って可愛げがある。
父親は平民でかなりの金持ちだったらしい。
とても仲が良かったのに、離れ離れになって寂しいと言ってたな」
何を思い出したのか、デイビッドの顔がにやけている。
流石に義妹に手を出すとは思えないが、随分とお気に入りのようだ。
「そう言えば、お前の父上は死ぬまで爵位にしがみつく気か? 本当に何も聞いてないのか?」
しつこく爵位にこだわるデイビッドに辟易しながら、アイラは話を誤魔化した。
「はい、聞いておりません。
領地経営等に何か不便な点でもあれば別ですが、今のところ特に問題も起こっていないのでそのままになっています」
「だったら今度会いに行って、日程を決めてこい。非常に困っているって言うんだ」
「何かご不便なことでもおありですか?」
「お前は領地から出ないから気にならないのだろうが、貴族のしきたりくらいは知っていると思っていたよ。
そう言えば、領地や財産の名義もお父上のものなんだろう?」
「領地や資産は、伯爵位と共に譲渡されますからお父様のままです。
私が代理人として届けられているので、何も問題はないです」
「お前はまだ分かってないな。いつ迄も爵位を譲られないのはな、信用問題に関わってくるんだ。
つまり相手のことが信用出来ないから爵位を譲れない、そう思われているって勘違いされる。
俺たち貴族にとって、一番大事な評判に影響するんだ」
「今度お会いした時に相談してみます。多分何の問題もないと思います。
良ければ一緒に行かれます?」
「そうだな、それが良いかもな。お前だけだと頼りない。
問題がよく分かっていない節があるから、上手く丸め込まれてしまいそうだ」
アイラの父は、結婚と同時に爵位を譲りたいと言っていたのだが、アイラの希望で先延ばしにしていた。
仕事に対しての問題はないのだが、爵位を継承する事で父との絆が切れてしまうような、漠然とした不安感が拭えないでいた。
あれからもう一年以上になるし、そろそろ良い潮時なのかも知れない。
最近は冷害の対策に追われすっかり忘れていたが、いつまでも不安がっていては、まるで子供のようだと恥ずかしくなってしまう。
この問題が片付けば、デイビッドも少しは穏やかになるのだろうかと考えながら、食事を終わらせて執務室へ入っていった。
結婚してからずっと自分一人で領地を守ってきたので、少し自信も付いたしとアイラは皮肉げに考えた。
義父が伯爵なのと妻が伯爵なのとで、本当に周りの対応が変わるのか、今度ウィルソンに聞いてみよう。
アイラ自身はデビュタント以来、夜会にもお茶会にも出席したことがないので何も分からない。
学生時代の友達に手紙を出す時、聞いてみるのも良いかもと頭の中にメモをする。
その後デイビッドは直ぐに外出してしまった。約束は忘れてしまったらしく、いつもの様にそのまま帰ってこなくなった。
アイラは例年より早く来た冬の対応に追われ、伯爵位の事などすっかり忘れていた。
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翌日、すっかり気持ちの落ち着いた様子のデイビッドと朝食を共にした。
「最近は父上と会っていないのか?」
「そうですね、色々忙しくしておりましたので、最後にお会いしたのは六月の終わり頃でしょうか。後は手紙ばかりですわ」
「親不孝な娘だな、歳をとってできた一人娘に無視されるとか可哀想だと思わないか?」
「そう言えば、デイビッドのお父様はお元気ですか? 長い間ご無沙汰しておりますが」
「この間再婚した。男爵の次女で娘を連れてきた」
「全然知りませんでした。急いでお祝いを贈らなくては、何が良いかご存知ありませんか?」
「別に何でもいいだろう。どうせ再婚同士だし、あの様子だといつまで持つやら。
そういえば連れてきた娘は、お前と同じ位の歳だな」
「お一人ですか?」
「ああ、かなりの美人でお前と違って可愛げがある。
父親は平民でかなりの金持ちだったらしい。
とても仲が良かったのに、離れ離れになって寂しいと言ってたな」
何を思い出したのか、デイビッドの顔がにやけている。
流石に義妹に手を出すとは思えないが、随分とお気に入りのようだ。
「そう言えば、お前の父上は死ぬまで爵位にしがみつく気か? 本当に何も聞いてないのか?」
しつこく爵位にこだわるデイビッドに辟易しながら、アイラは話を誤魔化した。
「はい、聞いておりません。
領地経営等に何か不便な点でもあれば別ですが、今のところ特に問題も起こっていないのでそのままになっています」
「だったら今度会いに行って、日程を決めてこい。非常に困っているって言うんだ」
「何かご不便なことでもおありですか?」
「お前は領地から出ないから気にならないのだろうが、貴族のしきたりくらいは知っていると思っていたよ。
そう言えば、領地や財産の名義もお父上のものなんだろう?」
「領地や資産は、伯爵位と共に譲渡されますからお父様のままです。
私が代理人として届けられているので、何も問題はないです」
「お前はまだ分かってないな。いつ迄も爵位を譲られないのはな、信用問題に関わってくるんだ。
つまり相手のことが信用出来ないから爵位を譲れない、そう思われているって勘違いされる。
俺たち貴族にとって、一番大事な評判に影響するんだ」
「今度お会いした時に相談してみます。多分何の問題もないと思います。
良ければ一緒に行かれます?」
「そうだな、それが良いかもな。お前だけだと頼りない。
問題がよく分かっていない節があるから、上手く丸め込まれてしまいそうだ」
アイラの父は、結婚と同時に爵位を譲りたいと言っていたのだが、アイラの希望で先延ばしにしていた。
仕事に対しての問題はないのだが、爵位を継承する事で父との絆が切れてしまうような、漠然とした不安感が拭えないでいた。
あれからもう一年以上になるし、そろそろ良い潮時なのかも知れない。
最近は冷害の対策に追われすっかり忘れていたが、いつまでも不安がっていては、まるで子供のようだと恥ずかしくなってしまう。
この問題が片付けば、デイビッドも少しは穏やかになるのだろうかと考えながら、食事を終わらせて執務室へ入っていった。
結婚してからずっと自分一人で領地を守ってきたので、少し自信も付いたしとアイラは皮肉げに考えた。
義父が伯爵なのと妻が伯爵なのとで、本当に周りの対応が変わるのか、今度ウィルソンに聞いてみよう。
アイラ自身はデビュタント以来、夜会にもお茶会にも出席したことがないので何も分からない。
学生時代の友達に手紙を出す時、聞いてみるのも良いかもと頭の中にメモをする。
その後デイビッドは直ぐに外出してしまった。約束は忘れてしまったらしく、いつもの様にそのまま帰ってこなくなった。
アイラは例年より早く来た冬の対応に追われ、伯爵位の事などすっかり忘れていた。
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