【完結】真実の行方 悠々自適なマイライフを掴むまで

との

文字の大きさ
上 下
7 / 89

伯爵位

しおりを挟む
十月

ーーーーーー

 翌日、すっかり気持ちの落ち着いた様子のデイビッドと朝食を共にした。

「最近は父上と会っていないのか?」

「そうですね、色々忙しくしておりましたので、最後にお会いしたのは六月の終わり頃でしょうか。後は手紙ばかりですわ」

「親不孝な娘だな、歳をとってできた一人娘に無視されるとか可哀想だと思わないか?」

「そう言えば、デイビッドのお父様はお元気ですか? 長い間ご無沙汰しておりますが」

「この間再婚した。男爵の次女で娘を連れてきた」

「全然知りませんでした。急いでお祝いを贈らなくては、何が良いかご存知ありませんか?」

「別に何でもいいだろう。どうせ再婚同士だし、あの様子だといつまで持つやら。
そういえば連れてきた娘は、お前と同じ位の歳だな」

「お一人ですか?」

「ああ、かなりの美人でお前と違って可愛げがある。
父親は平民でかなりの金持ちだったらしい。
とても仲が良かったのに、離れ離れになって寂しいと言ってたな」


 何を思い出したのか、デイビッドの顔がにやけている。
 流石に義妹に手を出すとは思えないが、随分とお気に入りのようだ。


「そう言えば、お前の父上は死ぬまで爵位にしがみつく気か? 本当に何も聞いてないのか?」

 しつこく爵位にこだわるデイビッドに辟易しながら、アイラは話を誤魔化した。

「はい、聞いておりません。
領地経営等に何か不便な点でもあれば別ですが、今のところ特に問題も起こっていないのでそのままになっています」


「だったら今度会いに行って、日程を決めてこい。非常に困っているって言うんだ」

「何かご不便なことでもおありですか?」

「お前は領地から出ないから気にならないのだろうが、貴族のしきたりくらいは知っていると思っていたよ。
そう言えば、領地や財産の名義もお父上のものなんだろう?」

「領地や資産は、伯爵位と共に譲渡されますからお父様のままです。
私が代理人として届けられているので、何も問題はないです」

「お前はまだ分かってないな。いつ迄も爵位を譲られないのはな、信用問題に関わってくるんだ。
つまり相手のことが信用出来ないから爵位を譲れない、そう思われているって勘違いされる。
俺たち貴族にとって、一番大事な評判に影響するんだ」


「今度お会いした時に相談してみます。多分何の問題もないと思います。
良ければ一緒に行かれます?」

「そうだな、それが良いかもな。お前だけだと頼りない。
問題がよく分かっていない節があるから、上手く丸め込まれてしまいそうだ」


 アイラの父は、結婚と同時に爵位を譲りたいと言っていたのだが、アイラの希望で先延ばしにしていた。
 仕事に対しての問題はないのだが、爵位を継承する事で父との絆が切れてしまうような、漠然とした不安感が拭えないでいた。


 あれからもう一年以上になるし、そろそろ良い潮時なのかも知れない。
 最近は冷害の対策に追われすっかり忘れていたが、いつまでも不安がっていては、まるで子供のようだと恥ずかしくなってしまう。

 この問題が片付けば、デイビッドも少しは穏やかになるのだろうかと考えながら、食事を終わらせて執務室へ入っていった。

 結婚してからずっと自分一人で領地を守ってきたので、少し自信も付いたしとアイラは皮肉げに考えた。


 義父が伯爵なのと妻が伯爵なのとで、本当に周りの対応が変わるのか、今度ウィルソンに聞いてみよう。
 アイラ自身はデビュタント以来、夜会にもお茶会にも出席したことがないので何も分からない。
 学生時代の友達に手紙を出す時、聞いてみるのも良いかもと頭の中にメモをする。


 その後デイビッドは直ぐに外出してしまった。約束は忘れてしまったらしく、いつもの様にそのまま帰ってこなくなった。
 アイラは例年より早く来た冬の対応に追われ、伯爵位の事などすっかり忘れていた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...