【完結】真実の行方 悠々自適なマイライフを掴むまで

との

文字の大きさ
上 下
9 / 89

葬儀  Part 2

しおりを挟む
二月

ーーーーーー

 葬儀が終わった後、デイビッドがやってきた。

「遅くなって申し訳ない。侯爵家に用事で出向いていたから、一昨日はじめて知って慌てて飛び出してきたんだ。
馬車の事故だって聞いたんだけど、何があったんだい?」

「朝、街道で横転した馬車が見つかったんです。車軸が壊れたとか」

「御者はいなかったのかい?」

「はい、お父様がご自分で」
「そんな早い時間に、何故馬車を走らせたんだろう。
しかも御者もつけずに、ご自分で操縦するなんて。
そんな無茶をするからこんな事に」


 その時は何気なく聞き流していたのだが、後から落ち着いて考えると、デイビッドの話の中にいくつか気になることが。



 葬儀の後3週間、アイラは別宅に滞在した。

 直ぐに両親の私物を片付ける気にはなれなかったが、訃報を聞いた近所の知り合いが訪れたり、使用人の今後の事など細々とした決め事もあり、落ち着いて座る事もできずにいた。

 デイビッドはやってきた日に一泊した後、抜けられない用事があるからと帰って行った。
 デイビッドへの愛情などすっかり無くなっていたアイラは、正直なところ帰ってくれてほっとしていた。


 深夜の屋敷の中は静まりかえっていた。

 領主館に帰る前日の夜、アイラは暖炉に火を燃やし、両親の事を一人ぼんやり考えていた。
 その時ふとデイビッドの言葉を思い出した。
 
「一昨日侯爵家で?」
「そんな早い時間?」

 侯爵家からここまで来るには、どんなに急いでも2日はかかるだろう。

 確かに一昨日訃報を受け取り、馬を変えながら休みなく走り続ければ間に合う。
 だがあの時のデイビッドは、二晩も徹夜で馬を走らせた人のようには見えなかった。

 それに両親の訃報を侯爵家に出したのは、事故の連絡を受けた次の日。
 アイラは紙を探し出し、日付け順に書いていった。

4日未明、事故
4日昼前、領主館に連絡が届く
4日夕方、別宅到着
5日、  侯爵家へ早馬
6日
7日午後、葬儀とデイビッド到着

 侯爵家に出した早馬が、一番早いタイミングで着いたとしても、葬儀の日当日が限界だろう。

 アイラは元々、デイビッドがどこにいるのか知らないので、彼に連絡出来るとは考えていなかった。
 デイビッドが言うように、偶々侯爵家に居たのだとしたら、葬儀のあった7日に訃報を受け取ったはずなのだ。


 それにデイビッドは両親の事故が、朝の早い時間だという事を知っていた。
 アイラは〝朝″ としか言わなかったはずだと思い不信に思ったが、うろ覚えのことなので自信がない。

 多分私には言いにくい場所にいたので、咄嗟に侯爵家に居たと嘘をついたのだろうと結論付けて、考えるのをやめた。


 それよりもいったい、誰が両親を呼び出したのだろう。
 メイドが聞いた話が聞き間違いでないなら、アイラが病気だと嘘をついたのは間違いないだろう。
 両親が親しくしている親戚は、隣国に嫁いだ叔母だけ。
 その他に近しい親戚はいない。

 叔母や友人の病気であれば、夜中に慌てて飛び出すとは思えない。


 自警団とももう一度話してみたけれど、車軸が折れた事故だからと相手にされなかった。
 壊れた馬車を見せて欲しいと頼んだが、手違いで既に廃棄してしまったとのこと。

 結局何もわからないままで終わってしまった。


 夜遅く呼び出された時に、偶々馬車が壊れる? そんな偶然があるのだろうか。
 それに両親を呼び出したのは、いったい誰だったのだろう。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

処理中です...