【完結】真実の行方 悠々自適なマイライフを掴むまで

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執務室

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九月

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 エジャートン伯爵家の主要な産業は小麦を主とした農産物と羊。王都へ2日程度で輸送出来るという利便性から、他の領地より品質の良い小麦や肉を卸すことができるため、安定した収入を得ている。
 羊毛の加工工場も稼働しており、そちらからの収入もかなりの額になる。
 新たにアーヘンへの染織工房の新築計画も進んでいる。当分の間は赤字覚悟だが、いずれはアーヘンの復興に繋がっていくだろう。


「帳簿を調べたのね。挟んでおいたメモが一つなくなってる」


 デイビッドが帰って来て3日目、執務室の棚や机の引き出しの中を誰かが調べた様子があった。
 それ以来アイラは、大事な資料は鍵の掛かる棚に全て片付け、鍵は常に身につけるようにしている。アイラの部屋も探ったようだが、目的のものは見つけられないでいるのだろう。時々執務室の中を探っている。

 執務室を探った次の日は、デイビッドの機嫌がとても悪いので直ぐに分かる。
 朝、デイビッドの機嫌が良い日は前の晩ブリジットの部屋を訪れた日で、単純過ぎるデイビッドに笑いがこぼれるアイラだった。


 2日前にアイラは、偽の帳簿を机の引き出しに入れておいた。これを見ると、去年の冷害の被害から立ち直れておらず、領地の経営はあまりうまくいっていないように見えたはず。そこにメモ書きに見せかけた紙をいくつか挟んでおいた。


「お呼びでしょうか」
「昨夜デイビッドがここに忍び込んだみたい。アーヘンに新設予定の工房についてのメモだけがなくなってるの」
「染織工房ですか。だとすると旦那様だけのお考えとは思えませんね」
「私もそう思うわ。多分何処かの貴族が関わっている。以前ストックトン侯爵が来られた時、新規事業の事を聞いておられたでしょう? どこで聞きつけたのかしらって不審に思ったのだけど、もしかしたらデイビッドが知っていて何か話したのかも」

「侯爵家も調査に含めましょう。今回ブリジットが一緒に来たのには理由があるのかも。デイビッドの後はつけてる?」
「はい、デイビッド様達が出かけられて直ぐに、後を追わせました」
「調査する人数を増やす事は出来る?」
「はい、王都での連絡先に早馬を飛ばしましょう」

「追加の資金も持たせて頂戴。来週末の夜会に出席すると言っていたから、今からでも潜り込めるかしら。デイビッドが出席する予定のない夜会だと思うの。ブリジットが招待されているみたいだから、あまり爵位の高くない方が主催する夜会の可能性があるわ」
「そうなりますと、捜索する範囲がかなり広まりますね」

「王都について直ぐ、ブリジットのドレスを仕立てるつもりらしいから、その店で情報を引き出せるかも知れないわ。ブリジットがいつもどこでドレスを仕立てているのか、無理をきかせられるお店が何処なのかわかれば良いのだけど」
 アイラの眉間に皺が寄っている。
「念の為前回の連絡時に、ブリジット様の事も調べるよう指示してあります。その中にあるかも知れません」
「良かった。デイビッドの友人関係の調査はどうなっているのかしら。まだ時間がかかりそうなら、取り敢えず今ある物だけでも送って欲しいのだけど」

「王都への早馬にその旨を伝えさせましょう。前回から一ヶ月以上経っているので、かなり集まっているのではないでしょうか」
「デイビッドが帰ってきてから、こちらへは来ないように言ってあったから、随分時間があいたものね。今度こそ何か有益な情報があると良いのだけど」


 デイビッドの調査をはじめたのは今年の4月。集まった資料は膨大な量になったが、そのどれもが今の所何の役にも立たず、まだこれといった怪しい人物は見つかっていない。

 気が滅入っていたアイラだったが、これで漸く進展が見られるかも知れない。
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