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使用人
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九月
ーーーーーー
「旦那様、今よろしいでしょうか」
朝の遅いデイビッドとブリジットは、今頃漸く朝食を取っている。
「ブリジットさん担当のメイドの事なのですが」
「ああ、ブリジットから聞いたよ。わざとブリジットを傷つけようとしたんだって? そんな奴は鞭打ちの上叩き出せ。ウィルソンに指示したら、詳しく調べてみますと言っていたぞ。奴は少しは仕事が出来るかと思っていたが話にならんな。メイドと一緒にウィルソンもクビにして、新しい執事を雇え」
なんて勝手な事をと、思わず言い返しそうになったアイラだが、深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「ブリジットさん担当のメイドは、侯爵家から連れてきて頂けませんでしょうか? メイドが到着するまでは、我が家の者で今まで通りお世話させて頂きますので」
「わざわざ侯爵家から? いったい何日かかると思っているんだ」
鼻で笑うデイビッド。
「我が家の使用人ではお気に召さないようなので、侯爵家の方で手配していただきたいと思いますの。ブリジットさんは侯爵家のご令嬢ですから、専属の侍女やメイドがいたのではありませんか」
本来なら貴族令嬢が、侍女やメイドを連れず出かけるなどありえない。デイビッドも以前から侍従なしで行動しているが、普段の身の回りの世話などはどうしているのか。
「あいつらは役に立たないから、連れてこなかったんだ。ここにいる奴らはもっと無能だがな」
「お兄様、王都でまともなメイドを探して頂けませんかしら? 私、今朝のような酷い扱いをされるなんて耐えられませんわ。アイラさんが私の事を嫌っているから、わざと意地悪をしたんだと思いますの」
「可哀想に、俺の目の届かないところで虐めるなんて。辛い思いをさせたお詫びに、今日は何でも好きな物を買ってやるよ」
「本当? 嬉しいですわ。でもこんな田舎では大したものはありませんもの。来週末の夜会もありますし、王都で素敵なドレスを作ってくださいな」
「それなら急がないとな。来週末だと特注と言うわけにはいかないが、ブリジットに似合う最高のドレスを準備しよう。勿論アクセサリーもな」
「素敵、田舎にずっといたから退屈だったの。お兄様、うんと派手に遊びましょうね」
「勿論だとも、可愛いブリジットには王都がお似合いだ」
取り敢えず暫くは出掛けるのね、アイラは内心安堵のため息をつきながら、今後の予定を組み直す事にする。
今回の外出で届く請求書の山は気が重いが、ここにいられるよりはマシだと思うことにした。離婚が確定したら侯爵家に請求すれば良いのだからと、食堂を出て自室に戻った。
「ソフィア、ハーブティーを入れてくれる? それからウィルソンに来てもらって」
「はい」
(ブリジットのメイドが決まらなかったらソフィアに頼むしかないのかも)
「アイラ様、お呼びでしょうか」
ウィルソンがソフィアと一緒にやって来た。
「旦那様達はこの後出掛けられて、暫くお戻りにならないそうなの。取り敢えずは大丈夫だけど、お戻りになられたら又人手が足りなくなるでしょう? 臨時の人を雇う事は出来るかしら」
「そうですね、少し時間を頂けるようなら何とかなると思います。何人くらい必要でしょうか」
「人数は家政婦長と相談してくれるかしら。メイド長はメイドが足りなくて困っているみたいだし。ブリジットさん担当のメイドは、旦那様が雇って連れてくると言っておられたけど、念の為増やしておいた方が良いと思うの」
デイビッドは当てにはならないものねと思いつつ話すと、
「畏まりました。私の方は二人ほどで足りるかと。後はアニーに確認いたします」
「宜しくね。料理長にも確認しておいてくれるかしら。普段よりかなり忙しくなっているから」
「今日はこの後出掛けられますか?」
「いいえ、疲れてしまったから少し休みます。その後は執務室で調べ物をするので、何かあればそちらに」
「畏まりました。あまりご無理なさいませんように」
「ありがとう。取り敢えず暫くはゆっくり出来そうだから」
デイビッド達が出掛けた後の屋敷は、普段通りの落ち着きを取り戻した。二人が来てから既に三週間以上経っているが、ブリジットが言っていたようにここは田舎で、特に目新しいものもない。
夜中、執務室を探っているデイビッドの行動が、長逗留の理由だろうと思うアイラだった。
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「旦那様、今よろしいでしょうか」
朝の遅いデイビッドとブリジットは、今頃漸く朝食を取っている。
「ブリジットさん担当のメイドの事なのですが」
「ああ、ブリジットから聞いたよ。わざとブリジットを傷つけようとしたんだって? そんな奴は鞭打ちの上叩き出せ。ウィルソンに指示したら、詳しく調べてみますと言っていたぞ。奴は少しは仕事が出来るかと思っていたが話にならんな。メイドと一緒にウィルソンもクビにして、新しい執事を雇え」
なんて勝手な事をと、思わず言い返しそうになったアイラだが、深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「ブリジットさん担当のメイドは、侯爵家から連れてきて頂けませんでしょうか? メイドが到着するまでは、我が家の者で今まで通りお世話させて頂きますので」
「わざわざ侯爵家から? いったい何日かかると思っているんだ」
鼻で笑うデイビッド。
「我が家の使用人ではお気に召さないようなので、侯爵家の方で手配していただきたいと思いますの。ブリジットさんは侯爵家のご令嬢ですから、専属の侍女やメイドがいたのではありませんか」
本来なら貴族令嬢が、侍女やメイドを連れず出かけるなどありえない。デイビッドも以前から侍従なしで行動しているが、普段の身の回りの世話などはどうしているのか。
「あいつらは役に立たないから、連れてこなかったんだ。ここにいる奴らはもっと無能だがな」
「お兄様、王都でまともなメイドを探して頂けませんかしら? 私、今朝のような酷い扱いをされるなんて耐えられませんわ。アイラさんが私の事を嫌っているから、わざと意地悪をしたんだと思いますの」
「可哀想に、俺の目の届かないところで虐めるなんて。辛い思いをさせたお詫びに、今日は何でも好きな物を買ってやるよ」
「本当? 嬉しいですわ。でもこんな田舎では大したものはありませんもの。来週末の夜会もありますし、王都で素敵なドレスを作ってくださいな」
「それなら急がないとな。来週末だと特注と言うわけにはいかないが、ブリジットに似合う最高のドレスを準備しよう。勿論アクセサリーもな」
「素敵、田舎にずっといたから退屈だったの。お兄様、うんと派手に遊びましょうね」
「勿論だとも、可愛いブリジットには王都がお似合いだ」
取り敢えず暫くは出掛けるのね、アイラは内心安堵のため息をつきながら、今後の予定を組み直す事にする。
今回の外出で届く請求書の山は気が重いが、ここにいられるよりはマシだと思うことにした。離婚が確定したら侯爵家に請求すれば良いのだからと、食堂を出て自室に戻った。
「ソフィア、ハーブティーを入れてくれる? それからウィルソンに来てもらって」
「はい」
(ブリジットのメイドが決まらなかったらソフィアに頼むしかないのかも)
「アイラ様、お呼びでしょうか」
ウィルソンがソフィアと一緒にやって来た。
「旦那様達はこの後出掛けられて、暫くお戻りにならないそうなの。取り敢えずは大丈夫だけど、お戻りになられたら又人手が足りなくなるでしょう? 臨時の人を雇う事は出来るかしら」
「そうですね、少し時間を頂けるようなら何とかなると思います。何人くらい必要でしょうか」
「人数は家政婦長と相談してくれるかしら。メイド長はメイドが足りなくて困っているみたいだし。ブリジットさん担当のメイドは、旦那様が雇って連れてくると言っておられたけど、念の為増やしておいた方が良いと思うの」
デイビッドは当てにはならないものねと思いつつ話すと、
「畏まりました。私の方は二人ほどで足りるかと。後はアニーに確認いたします」
「宜しくね。料理長にも確認しておいてくれるかしら。普段よりかなり忙しくなっているから」
「今日はこの後出掛けられますか?」
「いいえ、疲れてしまったから少し休みます。その後は執務室で調べ物をするので、何かあればそちらに」
「畏まりました。あまりご無理なさいませんように」
「ありがとう。取り敢えず暫くはゆっくり出来そうだから」
デイビッド達が出掛けた後の屋敷は、普段通りの落ち着きを取り戻した。二人が来てから既に三週間以上経っているが、ブリジットが言っていたようにここは田舎で、特に目新しいものもない。
夜中、執務室を探っているデイビッドの行動が、長逗留の理由だろうと思うアイラだった。
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