【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました

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87.突撃してきた唐変木

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 仕方なく準備をしたジェロームが応接室に向かうと当然のような顔をしたリチャード王太子が片眉を上げた。

「リチャード王太子にはご機嫌麗しく恐悦至極でございます。突然のお越しで準備も整っておらずお待たせ致し申し訳ありません」

「シャーロット殿にお会いしたいと思い参ったのだが?」

「残念ながらは本日は出かけております」

 王太子が急遽王都見物に出かけることになったと朝一番に連絡が届き、シャーロットはデュークと共に昔のテレサの家に避難した。

(公爵になった貴族がスラム街の近くにいるとは思わないはずです。もしもの時は私が責任を持ってシャーロット様を別の場所にお連れいたします)

「ちっ!」

 ジェロームの嫌味を気にする様子もないばかりか不満を露わにしたリチャード王太子が舌打ちした。

(一国の王太子が人前で舌打ちって、流石はチャールズ王子の兄弟だな。いや、血は繋がってないんだった)

「宰相のブリストに何度も連絡したが埒が明かないのでね。このままでは謝罪できないまま帰国しなくてはならなくなりそうだ」

「僭越ながら今回の件は既に一個人の手は離れているように思われます。お心配りいただきました事は感謝の念に堪えませんが、これ以上のお気遣いは不要でございます」

 ジェロームの返事が気に入らなかったリチャード王太子が立ち上がり部屋を出る直前に振り返った。

「明日の午後王宮で待っていると伝えてくれたまえ」

(はあ、しつこいのはお家芸か?)



 テレサの家からシャーロット達が帰ってくる前にモルガリウス邸から怒髪天を衝く勢いのエカテリーナがやって来た。

「小利口なトンチキが我が家の鎧鼠を差し出せと言いに来たのですって?」

 マリアンヌ情報なのか語彙が増え続けているエカテリーナが笑いを堪えるジェロームを睨みつけた。

(こんな怒った母上なんて、社交界の方々には想像もつかないだろうな)

「はい、明日の午後王宮に来るように言ってお帰りになられました」

「全く、しつこさはチャールズ王子と似たり寄ったりね。ソルダートのお国柄かしら」

 アルフォンス公爵家の執事として雇ったアルフレッドが運んできたハーブティーをサーブしていると、小さなノックの音が聞こえデュークを伴ったシャーロットが入ってきた。

「お帰り、疲れただろう? こっちに来て座るといい」

 相変わらず甘々のジェロームが満面の笑みを浮かべて立ち上がり、シャーロットをソファまでエスコートした。

「お帰りなさい。お邪魔していますよ」

「ただいま帰りました。お忙しいところお騒がせして申し訳ありません」

「わたくしが勝手にやって来たのだから気にしないでちょうだい。それにしても抜け作に会わずに済んで良かったわ」

「帰りに、お義母様とジェロームにお土産を買って来ましたの」

(お義母様がいらっしゃってるはずだって、デュークの言った通りね)


「まあ、『マリー・アントワネットのピストル』とプラリネだわ」

 薬が苦くて飲めないと文句を言うマリーアントワネットの為に考案されたうすいパレ型のショコラはエカテリーナのお気に入りの一つ。

 プラリネは焙煎したヘーゼルナッツやアーモンドをキャラメリゼしたもので、ローストされたナッツの味と香りがジェロームのお気に入り。甘さを控えめにしたプラリネを常備するようにしてからというもの、執務室から『うーん』と唸る声が聞こえた後にカリカリといい音が聞こえてくる事がある。


「デュークが明日王宮へ来いって言ってくるだろうと教えてくれたので、念の為明日の手土産も買ってきました」

「あら、タルト・オ・ショコラじゃない。流石デュークだわ、いいセンスしてる」

「先触れもなしにやって来た上に断る隙も与えず帰って行った王太子にこの土産は最高のチョイスだね」

 タルト・オ・ショコラは焼き上げたタルト生地にガナッシュを流し入れたもの。
 溶けたチョコレートが入ったボールにミルクを誤ってひっくり返してしまった見習いに、上司のシェフが『ガナッシュ役立たず!』と叫んだ事から命名されたのは有名な話で、ガナッシュと言う言葉には役立たず以外にも間抜けや薄鈍と言う意味もある。

「名前の由来を知っていたら大変なことになりそうですけど、このお店のガナッシュ自体はとても美味しいのでいいかなと」

 仕返しにはガナッシュが丁度いいなあとシャーロットが考えていると、デュークからも賛同され即決してしまったのは秘密にしておきたい。

(調停の場にも立ち会わず宰相を困られてばかりだと言うし、手紙も迷惑だもの)

「断られても意味がわかっていないお馬鹿さんだもの、丁度いいわ」




 翌日、エカテリーナ監修の元、朝からピカピカに磨き上げられフル装備を身に纏ったシャーロットとジェロームが王宮に向かう馬車に乗り込んだ。

 淡い翠を使ったドレスの上半身にはリバーレースが重ねられ裾の刺繍の合間には小粒のダイヤが散りばめられている。ラルフから結婚祝いに贈られたファンシービビッドオレンジダイヤモンドは胸元で金色に輝き、傷を隠しているフィシューを華やかに飾っていた。

 オフホワイトのウエストコートには伝説のドラゴンが様々な色を使って刺繍されコートの端から見え隠れしている。クラバット・ピンには希少価値の高いパープルダイヤモンドが使われているが、これ程純粋な色味を持つのは珍しい。

(ダイヤモンド鉱山の利権を狙って呼び出したなら最高の戦闘服だよな)

「本当に面倒な方だわ。あちこちにご迷惑をおかけしてまで我儘を言い続けられるなんて」

「チャールズ王子にしろ王太子にしろ、まるでソルダートの風習みたいだよなぁ」

 馬車の窓から外を眺めていたシャーロットから『本当だわ』と言う声と大きな溜め息が聞こえてきた。



 馬車を降りると申し訳なさそうな顔をした法務部の事務次官が立っていた。

「この度は大変申し訳ありません」

「どうか頭をお上げください。こちらこそお忙しい中態々お出迎えをいただき恐縮致しております」

「部下には十分注意するよう言ってあったのですが、見事にしてやられました」

「相手が相手ですから仕方ありませんわ。一度お話しすれば気が済むでしょう」

「そう言っていただけると助かります。場所はご指示いただきましたように中庭にさせていただきました」

 貴族の中には今でもソルダート王国に阿る者もいる為、密室での対面は危険と判断したシャーロット達は王宮の中庭を利用したいと願い出ていた。

「どのような事態にでも対応できるよう、至る所に近衛兵を配置致しております」

 事務次官の様子から調停の場が荒れていると予想できた。思ったよりソルダート寄りの者が多いのかもしれない。

 花が咲き乱れる景色を横目に回廊を進みながらすれ違う人達と挨拶を交わしていった。案内された中庭のテーブルの近くには春の花が可憐な姿を見せており、気の重いお茶会に向かう勇気を分け与えてくれる。

 中心が黄色で花弁は茶色、白っぽい縁が特徴的なゴールドレースド・ポリアンサスは『無言の愛』の花言葉を持っている。

 陽気で明るい雰囲気をもつガーベラは花茎だけが長く伸びて咲くすっきりした姿が特徴的。赤・オレンジ・黄色・白・ピンク・紫などがバランスよく配置されていた。花言葉は「希望」

 ジェロームが初めてシャーロットに贈ったのは黄色のガーベラで、エカテリーナから重すぎて怖いと言われ凹んでいた。

 花言葉は『究極愛』



「やあ、漸くお会いできましたね」

 シャーロット達が到着した時には既にのんびりとお茶を楽しんでいたリチャード王太子が嬉しそうに立ち上がった。

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