【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました

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86.ハードルが高すぎて無理!

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 旧フォルスト領から久しぶりに帰ってきたエカテリーナとアンドリュー達が生暖かい目で見ている前をドレスの裾を掴んだシャーロットが血相を変えて走り抜け、スカーフを手にしたジェロームが追いかけて行った。

「ジェローム達は何をしてるんだ?」

 初めて見た光景にアンドリューが首を傾げると笑いを堪えきれず噴出したエカテリーナが答えた。

「ふふっ、恐らく目隠し遊びに誘って逃げられたのね」

「……はあ!? 幼児の遊びじゃないですか!」

 絶句し顎が外れそうになっているアンドリューの間抜け顔に大笑いしたマリアンヌが夫の頭を撫でた。

「羨ましがっても、私は絶対にやらないわよ」


 そんな周りの様子など目に入らないジェロームに捕まったシャーロットが渋々スカーフで目隠しをしたが、逃げた罰だと言っておでこにキスされた。

「ぐぇっ!」

 シャーロットの掌底が見事に決まりジェロームが崩れ落ちた。

「顎を狙ったわけではないのによく効いてますね」

「二人の身長差のお陰で丁度よい当たりどころを狙えておるのう」



 未だにベッドでの添い寝までも行き着いていないジェロームの野望は遠い。

(構わないさ、時間はたっぷりあるから)



 シャーロットとジェロームが領地経営の引き継ぎや勉強の傍ら可愛らしい交流をラルフ達に披露していた頃、ソルダート王国の使節団がやって来た。

(全くあの親子はとんでもないことをしてくれたものだ。何故大国である我が国が、ましてや王太子である私が謝罪をせねばならんのだ。信じられん!
私が態々来てやったのだから、謝罪だけで帰ると思うなよ!!)

 憤懣やるかたない思いを隠した王太子は謁見室に通された後、冷ややかな態度で玉座に座る国王と王妃の態度に益々腹を立てた。王太子の後ろに控えた法務大臣も覚悟を決めてやってきたとは言え大国としての矜持を傷つけられ眉間にしわを寄せた。

(側妃様の行いは確かに問題ではありましたが、王子殿下の件に関して言うならばたった一人の小娘のことではないか。しかもこの国の司法が機能してさえいればあのような騒ぎにならずに済んだのだ。たかが不貞を大袈裟に騒ぎ立てるエルバルド王国の法律は噴飯物じゃわい)

 王太子達の本音は兎も角、王・王妃・王太子・宰相・大臣や高位貴族が並び立つ謁見室は一触即発の緊張感に包まれ、下手な言葉を発しようものならば何が起こってもおかしくないと思わせる異様な雰囲気に包まれている。

(チャールズ王子と側妃のしでかしたことの大きさに気付いてはおらんようじゃな。小国だと軽んじ表敬訪問しさえすれば矛を収めるとでも思うて来たのであろう)


 型通りのあいさつの後、使節団の代表にされて腹を立てている王太子の代わりに法務大臣が謝罪の言葉を述べはじめた。

「この度、我がソルダート王国第二王子の暴挙及び側妃の暴走による無謀な計略により多大なご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。
我が国といたしましては今後さらなる関係強化に向けて邁進するべくまいりました次第です」

「次期国王となられるリチャード・ルイス・ソルダート王太子自らお越しになられたのはソルダート王国が非をお認めになり、誠実なる謝罪の為に参られたと理解しております。この度の不幸な出来事を乗り越えた後、今まで以上に友好な関係を築けることを願っております」

 宰相の上から目線の言葉にひくりと顔をひきつらせたリチャード王太子だったが『今はまだ正論を説くときではない』と歯を食いしばった。

(小賢しい! 何が非を認めただ!! モルガリウス侯爵が無理やり言わせただけではないか)

 その様子を大臣たちの後ろから眺めながら『こいつはひと悶着ありそうだ』とアーサーが思ったのは言うまでもない。



 リチャード王太子達の滞在予定は10日間。約束した関税の引き下げや賠償金などを話し合い、捕縛されているチャールズ王子達の引き渡し後に帰国する予定になっている。

 チャールズ王子の行いはパーティー会場での愚かな行動だけでなくシャーロット誘拐未遂の件もある。国境近くでアーサーが討伐・捕縛した兵に関しては国の関与を認めず全て側妃の独断とする事にしたらしい。


「可能であれば我が弟が名誉を傷つけたシャーロット・アルフォンス女公爵にこの度のお詫びをお伝えする場を設けていただきたいと思っております。
シャーロット殿はかの有名なキングストン氏の遺産を相続されたと聞き及んでおりますし、偉大なる錬金術師殿のお話を聞かせていただく機会になれば」

「それについては明言は致しかねます。後ほどご連絡をさせて頂くことでご容赦いただきますよう」

「冤罪を晴らしエルバルド王国初の女性公爵になられたシャーロット殿は非常に見目麗しい方だと聞き及んでおりますので楽しみにしております」



 王宮を出たアーサーはその足でラルフ邸にやって来た。

「と言う話があったんだが、シャーロットはどうしたい?」

「わたくしが使節団の方とお会いする必要があるようには思えませんし、恐らくはお会いしない方が問題が少なく終わる気がいたします」

「まあ、それが正解だろうな。だが、あの王太子の様子からするとかなり強引にねだってくる可能性がある」

「ソルダート王国では女性の地位がとても低いと聞き及んでおりますし、女一人の為にこのようなことになったと今でもご不興を買っている気がいたします。
可能であればこれ以上の騒ぎは回避する方向でお願いしたいと思います。
それにしても、お祖父様の遺産について言及されたのであればそれが一番の狙いなのでしょうか?」

 キングストンの遺産には既に他国の者達が群がりはじめている。ソルダート王国は他国より一歩も二歩も出遅れている状態なので、謝罪にかこつけて縁を結び益を得ようとしていると考えるのが妥当だろう。

「話を聞きたいだけであれば狙いは恐らくアレじゃろうな」

 ラルフが呟いた言葉にデュークが小さく頷くと不満そうに腕を組んでソファにもたれていたジェロームが背を伸ばした。

「アレと言いますと?」

「遺産とは別でソルダート王国の秘密をちいとばかり知っておるんじゃが、まあ、狙いがそれなら知らんと言っておけば問題ない」

「⋯⋯詳しくお聞きすることはできますでしょうか?」

「うーん、今の王太子の名はリチャードじゃったかのぉ。あ奴は王家の血を引いておらんのじゃが、それを証明できる者が今現在一人残っておる。そやつが持っておる証拠を取り戻したいのかもしれんなぁ」

 大したことではないんじゃがと言いながらラルフが言った爆弾発言に全員が口をぽかんと開けて固まった。

「たい、大した事だと思いますが?」

「同じようなことなど別の国でも起きておる。腹から出た赤子の種など魔術でも使わんと証明はできんからな。
まあ、今回の賠償金分を取り戻すためにソルダートのダイヤモンド鉱山の利権を欲しがっておるだけの可能性の方が高いが、あんまり煩いようなら次期国王の本当の父親が誰か各国に知らせて、赤っ恥をかかせれば面白そうじゃのお。
シャーロットを傷つけたあの国にはびた一文渡す気も手助けする気もないわい。
それどころか⋯⋯××の毛までむしり取ってやるわ。はっはっは」

 ソルダートはその後で潰すと言ったように聞こえたのは気のせいだと思いたい。



 アーサー達の予想通りすべての調整を法務大臣に丸投げしたリチャード王太子はシャーロットとの面会を何度も宰相に申し込み、ラルフ邸へは毎日のように手紙を送ってくる。

 帰国日まで残り三日になり焦ったのか、王都見学を望んだリチャード王太子が先触れもなく強引にラルフ邸に現れた。

(常識はずれだが追い返すわけにもいかないし、参ったな)

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