【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました

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85..凡庸な者の勝利か

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 ジェロームもモルガリウス侯爵家の次男として何もしないわけにはいかないと声を上げた。

「それは助かる。アルフォンス公爵領を拝領したばかりで忙しいだろうが、旧フォルスト領は全く伝手がないからな」



「帝国を早めに押さえておけば公爵領に集中できるようになるでしょうから」

「あら、そうはいかないわ。モルガリウス侯爵家は新しい領地なんていらないから、さっさとアルフォンス公爵領を纏めて領地を継いでもらわなくては困るの。三年は待ちましょう、その後はどんな状況でもジェロームに引き渡すつもりだから予定に入れておいてね」

「多分ですけど、母上は旧フォルスト領の鉱山経営と港の運営が面倒なんですよね。⋯⋯あー、いえ、なんでもないです」

 片眉を上げたエカテリーナに反論できる人はいなかった。




「鉱山があることは知らなかったのだと思うけれど、フォルスト侯爵は仕事を放棄していたから夫人だけでは手が回らないことが多かったらしいの。
しばらくはわたくしも手がかけられないから鉱山はジェロームが領地経営しはじめてから手を付けてもらいましょう。港は現状維持で帝国だけ排除しておく、キングストンの船団専用にするなり貿易の中継地として開発するなり好きにしたらいいわ。
いずれ爵位を継ぐ子供が領地なしの法衣貴族では可哀想ですからね」

 旧フォルスト領が下賜されると決まってから機嫌がよくなかったエカテリーナだったが、手放す予定を組みはじめた途端目が輝きはじめた。

「船団か? あれは香辛料の貿易で忙しくしておるから当面は放置しておいて問題はないはずじゃ。元々デュークがガレオン船に乗りたいと言い出したから手に入れたんじゃし、何かあればデュークに話を持ってくるはず。詳しい話もデュークに聞けば良かろう」


「まさかガレオン船の船団を趣味で手に入れたとか仰いませんよね?」

 ジェロームの顔が青ざめシャーロットのため息が聞こえた。


「お恥ずかしい話ですが、あの当時バッカニア時代の海賊の歴史に嵌まっておりまして。船団を手に入れた責任がございますから如何様にもお使いください」

 苦笑いを浮かべている様子からすると船団を欲しがったのは本当にデュークだったのだろう。

(それならデュークに贈与したらどうかしら? 船団なんて持っていても困るばかりだもの)

「いえ、私はラルフ様の執事でございますから」

 シャーロットの心の声にデュークがきっぱりと返事を返した。



 今回の事件の発覚は一個人の問題には収まりきらず惰性に流されていた司法への批判から専門の調査会社との癒着が発覚した。収容所の立ち入り調査が行われると大量の暴力被害報告や物品の横流しなどが判明。

 芋蔓式に見つかる不正に頭を抱えた大臣や法務部は人手不足を埋める為他の部署からクマ男テレンスやそれ以外にも少しでも知識のある者全員を招集した。

 ジェロームにも出仕の指示が下ったが『身贔屓と言われない為』と断ると法務大臣とクマ男が仲良く卒倒したらしい。議会では議員が招集され連日会議が行われているが、保身を図るものとこれを足掛かりに昇進を狙うものが喧々囂々戦いを繰り広げている。

 ソルダート王国の王太子と法務大臣の受け入れ準備や賠償請求についても調整が必要で、国王以下末端の使用人まで不眠不休の日が続いている。議会など無視し旧フォルスト領に向かうつもりだったアーサーは議会に参加せざるを得なくなり代わりにエカテリーナがフォルスト領に向かうことになった。

『烏合の衆が騒ぎ立てるだけの議会より領地の問題のほうが大事ですのに! 火事場泥棒などさっさと首にして牢に入れてしまえば、国の風通しが良くなって少しは真面な国になりますし椅子を温めるだけの無益な時間も減りますわ!!』

 アーサー達は憤懣やるかたないエカテリーナの反撃がはじまる前に議員たちが大人しくなることを祈らずにはいられなかった。




「お祖父様がお名前を変えるだけにして下されば良かった」

 キングストンの遺産の記載された膨大な資料を膝に置いたシャーロットが愚痴をこぼした。

 どこの国のものなのかいつの時代のものかわからない美術品や絵画が各地に保管され、遺跡が発掘され現在考古学者が調査している島の所有権もある。点在する土地と屋敷は定期的に手入れはしているが無人のものと賃貸しているもの。

 勿論、錬金術師と言われたキングストンらしく鉱山も所有しており、それらの山から産出された宝石や鉱石の一部もコレクションしていた。

「今回、シャーロット様に贈与するにあたり名義をすべて統一いたしました。その作業で予定よりお時間をいただきましたが、無事にお渡しすることができて安心いたしました」

「名義の変更とかって費用も手間も膨大だと聞いたことがあるのだけど?」

「そのあたりは『蛇の道は蛇』と申しますか、方法さえ知っていれば手助けしてくださる方は大勢いらっしゃいますので滞りなく。資金につきましては複数の銀行や商人ギルドに別名で点在していたものを一本化しておりますので、いつでも引き出していただくことが可能です」

 シャーロットとジェロームがいの一番に街道の整備に着手したいと思っていることを知っているデュークの提案だった。他領と王都の間にあるアルフォンス公爵領の街道は長い間手つかずでいた為重い荷を積んだ馬車が事故を起こすことも多く、山道に至っては山賊のいい猟場になっていた。

(それでも別の道を進むより効率的だなんて)



「ふと気付いたら面倒くさいもの資産がえらい増えておってのう、邪魔で邪魔でしかたなかったんじゃが、捨ててしまうわけにはいかんものもあったし……シャーロットが成人したら助けてくれるじゃろうと思うて待っておったのよ。はっはっは」

 自由気ままに国を渡り歩き不要な資金ができる度にアレコレと購入した結果だと豪快に笑うラルフ。

「そのツケを私に押し付けるなんて酷くない?」

「アルフォンス公爵家の領地のついでに管理すればよかろう。公爵領には可能性が山盛りじゃから愚か者が継げば国が乱れるじゃろうしな」

 ラルフの一言でシャーロットとジェロームが青褪めたのは言うまでもない。

「これ以上、どうしろと……。何も聞かなかったことにしましょう」

「うん、それが一番だな」




 平民街の家は貴族や商人達が押しかけてきて危険になったため、アルフォンス公爵邸を全面改築する間はラルフの屋敷で過ごしながら領地の勉強などに没頭した。

 ジェロームは以前申し込みたいと言っていた仕事につけたと喜びながら、シャーロットと共に領地経営の勉強をやり直ししている。

『俺の仕事も人生もシャーロットの隣にあるんだ』

 ジェロームの教育担当のジェファーソンとデュークは今まで以上に張り切っていて、夜ジェロームの部屋から魘されている声が聞こえてきた次の日はシャーロットが少し優しくなる。それに気付いたジェファーソン達が益々張り切るというジェロームにとっての最悪の無限ループが続いている。

『シャーロット様の為ですと一言言いさえすれば、ジェローム様はとても頑張られるので教えがいがあります』

 黒い笑みをたたえたジェファーソンとデュークはとても仲が良くなった。



 漸く婚姻届けにシャーロットのサインを獲得したジェロームは離婚届の受理と同時に婚姻届を出したが、それからというもの午後の休憩の度にシャーロットに賭けを挑んでくるようになった。俺が勝ったら……。

「これを食べさせて欲しい」

「二人きりで星を見に行きたい」


 他愛もない願いに思えるがシャーロットにはハードルの高いものばかり。

「あーんって……そんなの恥ずかしすぎます! 無理無理無理!!」

「どどど、どうして毛布が……い、一枚なのですか!? さっ、寒いじゃないですか!」



 赤い顔をして逃げ回るシャーロットを嬉々として追いかけるジェロームはラルフ邸の風物詩のようになっていた。

「相変わらずと言うか、人の目があるのを忘れておるのう」

「男としてはなんとかしてやりたい気も……あれでは生殺しというやつでしょう」

「拝見したご様子から致しますとそこまでも行っておられませんね。エカテリーナ様がいらっしゃれば『アーサー様とは違います』と仰られるのではないかと」

「ワシはシャーロットの子供を抱いてみたかったんじゃが先が長そうじゃなあ」

 珍しいジェファーソンの突っ込みにラルフとアーサーのため息がシンクロした。

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