【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました

との

文字の大きさ
上 下
79 / 102

78.あの人が癇癪を起こした!!

しおりを挟む
「ジェローム、次はわたくしと踊ってもらえる?」

 ダンスが終わりかけた時マリアンヌが声をかけてきた。

「では、わたくしはそこで少し休ませていただきますわ」

 ダンスしている間も見えるところにいると言うシャーロットに安心してマリアンヌと踊りはじめたジェロームだったが、その後も次から次へとマリアンヌの友人がダンスを強請ってきた。



 ジェロームはチラチラと何度も確認しながら踊っていたはずだったが、シャーロットがいなくなっていることに気付いて足を止め辺りを見渡した。

「いない⋯⋯母上もだ! くそっ、やられた!!」

 ダンスのパートナーを放り出して部屋の端にいたマリアンヌの元に駆け寄った。

「マリアンヌ、シャーロットはどこだ!? どこにやった!!」



「落ち着いて⋯⋯こっちよ」

 目を吊り上げてマリアンヌの後をついて行くジェロームは周りから怪訝な目で見られているが気にしている余裕がない。心配そうな顔で声をかけて来た友人もいたが、ジェロームから無言で睨みつけられて肩をすくめて背を向けた。



 大広間を出て長い廊下を歩いた先の部屋に着くと王妃とエカテリーナが楽しそうに談笑していた。

「母上、シャーロットをどこへやったんですか!?」

「まるでわたくしがシャーロットを拉致したか生贄にしたような物言いね」

「近いものがあるでしょう。シャーロットはパーティーの間中母上を気にしていた」


「ならわかるでしょう? シャーロットは自ら囮になりたいと言ってきたの」

「冗談じゃない! まさかそれを許したとか言いませんよね」

「許しましたとも。ここには陛下も王妃殿下もおられ、それ以外にも高位貴族の方が大勢おられるわ。その方々に何かあった後では遅いのですからね」

「だからと言ってシャーロットを囮にするなど!」

「子供のように喚くなら何故シャーロットが言い出す前にジェロームが言い出さなかったのかしら!?
妻だと言うなら本気で守りなさい。守りたいならばチャラチャラと付き纏ってヘラヘラしているだけでなくその無駄についている頭をフル回転なさい!!
シャーロットなら自分がここにいてはダメだと思うとなぜ気付かなかったの!?
あの娘ならば周りにかける迷惑を真っ先に考えるはずだと⋯⋯その程度の事もわからない男ではシャーロットには相応しくないわ!
精神年齢5歳のシャーロットは老成した学者のように知恵が回るの。それを先回りもできず、読み取る事もできず!
お前のそれはオヤツを独り占めできなかった子供の駄々と一緒だわ!!」

 人前で感情を爆発させたエカテリーナに驚いたジェロームは口をぽかんと開けて、隣に立っていたマリアンヌに顔を向けた。

「母上が⋯⋯癇癪を⋯⋯嘘だろ?」


 ツンと横を向いたエカテリーナの正面で王妃がくすくすと笑いはじめた。

「長い付き合いだけどエカテリーナがこんな風になったのを見たのは初めてだわ」

「申し訳ございません。この間抜けと鎧鼠の二人組があまりにも焦ったくて」

「その気持ちすごく分かるわ。シャーロットは心を抱え込んで隠すのが得意、ほんの少しでも人に気を許すのが怖すぎて自分の気持ちまでわからなくなってる本当に複雑な子だもの⋯⋯あら、褒めてるのよ。難解の方が合うかしら?」

「ジェロームは正反対で能天気すぎて深く考える前に突進しますから。良いところと言えば壁にぶつかって鼻の骨を折ってもまた突進できるところくらいですわ」

「そのくらいでないとシャーロットの心には辿り着けないんじゃないかしら」



 じろっと睨んだジェロームにまた一頻り笑った王妃が話を続けた。

「シャーロットはコテージにいるわ。護衛が見張っているしコテージの中では一番安全なところ。それにあそこは⋯⋯」





 ジェロームがエカテリーナの癇癪に驚いている頃、シャーロットはコテージで呑気に暖炉に薪をくべていた。

 パーティー会場を抜け出し着替えを済ませて馬車に乗り込んだシャーロットの周りには、態とらしく周りを警戒する護衛が立ちいかにもピリピリした様子を演出している。

 宮殿から一番離れたコテージの前で馬車を降り、玄関前でバスケットを受け取った。

『では、明日の朝お迎えに参ります』

『宜しくお願いします』


 虫の鳴き声がしない暗闇にシャーロット達の話し声が響いた。

 一人でコテージに入った後ランプを灯し、バスケットの中身をテーブルの上に並べた。食料の横に入れられていた白く細長い箱を開けたシャーロットは思わず笑みをこぼした。

(まあ、これは⋯⋯エカテリーナ様からの差し入れね)


 真っ暗な木立の中でコテージが存在を誇示するようにボンヤリと輝き、カーテンを窓からシャーロットの動き回る姿がはっきりと見えていた。

 特徴のある銀髪が輝きくすんだ翠のドレスが明るい窓からチラついている。せっせと巣作りするかのように右に左にと歩き回るシャーロット。

(これで釣れるかしら?)




 暖炉の中で爆ぜる薪に癒されながらボンヤリとこれからのことを考えた。

(侯爵家を出て何がしたいのかしら?)

 冤罪をはらし貯金も少しできた。キングストンの遺産に手を出すつもりはないが放っておくわけにいかないものもあった。

(それについてはデュークに相談するしかなさそう)

 祖父がシャーロットに最後に残したものはまだ。



(私がしたい事かぁ⋯⋯選択肢が多すぎると決められないものなのね)

 シャーロットが今までに暮らしたのは、公爵家・収容所・コーネリア伯爵家・銀の仔馬亭・モルガリウス侯爵家。

 どこにいても『ここは自分の居場所じゃない』と感じていた。

 いないもの扱いされていた公爵家では部屋から出ると邪魔者扱い、学園では誰とも上手に話せずひとりぼっちで、地獄のような収容所では嫌われ者で⋯⋯多分誰よりも酷く虐められていた気がする。伯爵家で嫌がられていたのは仕方ないと思っている。

 銀の仔馬亭は居心地が良かったけれど元犯罪者だとバレたら出ていかなければいけないと怯えていたし、侯爵家には迷惑ばかりかけているのが申し訳なくていつも身体がチリチリする。

(お祖父様の狩猟小屋で暮らすのはどうかしら? 森に囲まれてて誰もいない。少し離れたところに大きな池があるって聞いた事が)

 天気のいい日にはお昼ご飯を持って散歩すれば池には魚がいるかもしれないと、シャーロットはまだ見たことのない景色を空想して微笑んだ。

(おやつに林檎か角砂糖⋯⋯違う⋯⋯ソックスともお別れ。ジェロームとブラシの取り合いをする事も、ソックスに押し倒されたジェロームの靴を持って逃げるのもお終いだから⋯⋯)



『いつでも帰っておいでよ。実家に遊びに来るつもりで良いんだからね』

(結婚式⋯⋯結局行けなかったのよね。いつかちゃんと挨拶に行きたいなぁ。あ、赤ちゃんとかいたりして?)


『貴女は今日玄関先でわたくしに挨拶した時点で『わたくしの娘』と言う役割を果たしました。わたくしから⋯⋯』

(初めてお会いした日からエカテリーナ様はずっと変わらず家族として扱ってくださってる。どんな私でもどんな時でもずっと同じお義母様でいてくださる)


 エカテリーナの言葉に吹き出すアーサー、クルクルと表情の変わるマリアンヌ、直ぐにマリアンヌと手を繋ぎたがるアンドリュー、穏やかな笑顔が危険なジェファーソン、新作のドレスに目を輝かせるロージー、穏やかな声で話しかけてくるモーリー、料理長のフィックスは自信作を出す時はほんの少し多めに盛り付ける癖がある。

 馬番のチャーリーはいつもソックスに振り回されては溜息をついて、ソックスはいつでも心の中を読み取っているみたいに助けてくれる。

 仕事で知り合ったテレサや商業ギルドの会長や職人達ともまあまあ上手く付き合えている気もする。


(ご子息様⋯⋯ジェロームは真っ直ぐで怒りん坊で、すぐ勘違いするし驚くようなことばかり言うし、いたずら好きで⋯⋯すごく優しい)

 隣に座って静かに本を読むジェローム。コチコチと時計の音がして、時折薪が爆ぜて⋯⋯。ソックスに揶揄われて涎まみれにされたり池に落とされたりしても、いつでも笑っている。

 冷たい言葉を吐いても無視しても絶対に逃げ出さない呆れないジェロームが不思議でならない。

 こんな自分を好きになってくれる人がいるはずはないと思っていたが、もしかしたらジェロームは本当に?⋯⋯と思う時もあって。




 何もすることがなくただ待つだけの時間。暖炉の前に敷かれた毛足の長いラグに座り込んでこれからのことを考えていて気がついた。

(もしかして⋯⋯ジェロームから離れたいのは怖いからかな? いつか冷たい目で見られるかもしれないって⋯⋯怖いのはもう一度収容所に入れられる事。二度と出られない事だけじゃないのかも。
それ以外は何も。そう、何も怖くないはずなのに⋯⋯ジェロームの背中を見るのだけは嫌だなんて)



 カタンガタガタ⋯⋯


 コテージの裏手から小さくて不穏な音が聞こえてきた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。

新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。 そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。 しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。 ※カクヨムにも投稿しています!

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。

夢草 蝶
恋愛
 シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。  どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。  すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──  本編とおまけの二話構成の予定です。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...