【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました

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65.盛大な温度差

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「初めてお義母様達にお会いする日だったの。アンドリューがドレスやアクセサリーをプレゼントしてくれて馬車でお迎えに来てくれたんだけど、侯爵家の豪華な馬車を見ただけでガチガチになってしまったの。右足と右手が一緒に出るくらい緊張してて、アンドリューが何度も息をしてるか確認してきたのを覚えてる」

「侯爵家の馬車ってすごく豪華ですもの」

「そうなの! そうしたらアンドリューが私を膝に乗せて緊張し過ぎだよって言いながらキスしはじめたの」

(やっぱり膝に乗せてキスなのね)

 マリアンヌの話を聞いてシャーロットは少し安心した。初めてエカテリーナに会う日なら婚約前だったはずで、所謂恋人同士であればな行為なんだとホッとした。

(でも、私達は恋人どころか離婚したての他人だと思ってたのよね。それってやっぱりいけない事だったかも)

「アンドリューの勢いが止まらなくなったと言うか⋯⋯侯爵家に着いた時は髪も乱れてるしドレスも着崩れてて、ご挨拶どころか人前に出られる状態じゃなくなってたのよね」

「えーっと、はい」

「馬車から降りたくないって泣きべそをかいていたらお義母様がツカツカってやってこられて⋯⋯私をメイドに渡した後すごい怖い顔でアンドリューを連れて行ってしまったの」

 メイドに髪とドレスを直してもらったマリアンヌはエカテリーナの顔を思い出して震え上がったが、応接室に連れて行かれてしまい『これだから平民は!』と罵倒される覚悟を決めた。

『マ、マリアンヌと申します。先程は大変お見苦しいところをお見せして申し訳ありません』

『顔を上げてソファにお座りなさい』

『はい』

 マリアンヌが恐る恐る顔を上げると床に正座したアンドリューが土下座していた。

『ひっ!』

『このおバカのことは気にしなくていいわ。躾のできていない野獣にソファは勿体無いから』



「頭が真っ白になってお義母様と何を話したのかも全然覚えてないんだけど、叱られはしなかったと思う。後からアンドリューに聞いた話からすると多分ごく普通にお茶とお菓子が出てお喋りをしたみたい。
私が覚えてるのは、アンドリューが最後まで床に座らされてたのだけ」

「それはその⋯⋯すごい経験でしたね」

「帰る時にね、必ず持っていなさいって言いながらお義母様が扇子を下さったの。
今後『それは困る』と思うような事態が起きそうになったらそれを使いなさい。身体の大きな野獣相手アンドリューでもそれを使って顔面を叩けば少しは理性が戻ってくるはず。
自分が納得しているのなら構わないけれど、後で困るとか今は嫌だと思った時は躊躇わず本気で鼻面を狙って渾身の力で振り抜きなさいって。
うちに帰って広げてみたら凄く綺麗な⋯⋯鉄扇だった」

 鉄扇は骨が鉄製の扇子でかなり強力な武器の一つ。それで『躊躇わず本気で鼻面を』狙ったら弱い力でも鼻血では済まない惨劇になるだろう。まして渾身の力で振り抜いたら⋯⋯。

「アンドリューが真っ青になってたけど、それ以降は学園に行く時もデートの時も必ず持って行くようにしたわ」


 予想以上に血生臭い話だったので驚いたが、使ったことがあるのかどうかは怖すぎて聞く勇気が出なかった。

「で、次はシャーロット様の番よ!」



「私もマリアンヌ様のお話と同じで膝に乗せられて⋯⋯キ、キスされました。でも、髪やドレスが乱れるほど馬車は揺れませんでしたから」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい?」

「テレサのところへ行くので一番小さい馬車をお借りしましたから少しは揺れてましたけど、お腹のところを支えていただいていたので転げ落ちることもなく帰りつきました」

「⋯⋯初めのとこからゆーっくり話してくれるかな?」

 目を眇めたマリアンヌに催促されしどろもどろになりながらシャーロットが話し終えるとマリアンヌが口をあんぐりと開けたまま固まった。

「かなり本気で蹴りましたから、今頃は脛の手当てをされてると思いますわ」

 ふふっと笑ったシャーロットの顔はとても満足げだった。



「えーっと、大量のお菓子の山で座席が狭くなったのを口実に無理矢理膝に乗せられた」

「はい」

「髪の匂いをクンクンされて揶揄われて口を手で覆ったら掌にキスされて蹴りを入れた」

「はい。掌底打ちもしましたわ」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯シャーロットって恋愛小説とか読んだことは?」

「うーん⋯⋯ありませんね」


「学園とか収容所で周りの人からお付き合いの内容とか聞いたことは?」

「お恥ずかしい話なのですが、人見知りが酷くて友達がいたことがありませんの。収容所では⋯⋯貴族は嫌われて仲間外れにされてしまうので」

「し、収容所の中の貴族同士とかは?」

「ヒエラルキーの最底辺におりましたからどなたとも真面にお話ししたことはありません」

「本⋯⋯恋愛小説ではなくても物語とか、娯楽の為の本とかは?」

「娯楽と言えば旅行記ばかり読んでおりました。後は語学の本や神話とか、いつかお祖父様と一緒に旅がしたくて、それに必要な本が多かったですわ」



「それってジェロームは⋯⋯知らなそうね?」

「はい、ご存知のようにわたくし達は形だけの関係ですからプライベートな事はお話ししたことはありません」

「⋯⋯お義母様に相談案件かしら。それともジェロームに直接?」

 マリアンヌがブツブツと呟きはじめた。

「そうだわ! お茶会とかではどうだった?」

「ほとんど参加したことがありませんの。人の多い場所は苦手でしたし、テレーザが同じ顔がいるのを嫌がったので。たまに参加させられた時も挨拶が終われば部屋に戻るよう言われてホッとしたのを覚えております」


 楽しみにしていたはずのケーキを残したままマリアンヌが立ち上がった。

(シャーロットの知識レベルは五歳児くらいだわ。ジェロームが想定してるのは⋯⋯良くて年齢相応、運が悪ければ一般女性より知識だけは豊富だと思ってるかも)



「よ、用事を思い出しましたの。今日は失礼しますね」

 青い顔で慌てて出ていくマリアンヌの後ろ姿を見ながら不安に駆られたシャーロットは溜息をついた。

(どうしよう、何か間違いをしでかしてしまったのかも。人付き合いを避けていたから、こういう時どうすればいいのかわからないわ。
もしかして、お互いが離婚届にサインした後なのにあんなことをしてしまったから顰蹙を買ってしまったのかしら)

 壮大な勘違いをしたシャーロットはジェロームがキスした掌を見つめながら溜息をついた。

(恥ずかしくて反撃してしまったけど、ここを出て行く前に思い出が一つ増えたって思ったりもしたんだけど⋯⋯)



 驚いて呆然とするメイド達の横を走り抜けエカテリーナの部屋のドアをノックしたマリアンヌは勢いのまま部屋に飛び込んだ。

「まあ、マリアンヌじゃない。そんなに慌てて一体どうしたの?」

「一大事です! 今世紀最大の危機かもです。お義母様にしか相談できない案件が!!」

 先触れを出さなかった事もノックの後に返事を待たずドアを開けたことにも気付かないままマリアンヌは叫んだ。

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