【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました

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60.便利な隠れ家と法務大臣からの感謝

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「おはよう、シャーロット。因みに俺もお腹が空いたんだけどなあ」

「⋯⋯なんでご当主様がここにいるのかしら?」

 ソックスの陰からシャーロットのくぐもった声が聞こえてくる。

「シャーロットが部屋にいないってメイドが探してたから」

「それは⋯⋯悪いことをしてしまったわ。もう少ししたら帰るので心配はいらないって伝えていただけるかしら?」

 ジェロームが覗き込んできた気配を察知したシャーロットは藁まみれでソックスの臭いを身体中に付けているはず。

「申し訳ないけれど先に帰っていただけないかしら?」

「姫君の身支度なら手伝うよ。ソックスの臭いに包まれてるのは風呂に入るまでどうしようもないが、髪に刺さった藁を抜くのは得意技の一つなんだ」

 笑いを堪えたジェロームの声にムッとしたシャーロットだが今は身動きが取れない。寝起きで着ているチュニックは皺だらけ、しかもジェロームが言う通り藁とソックスの臭いに塗れている。

「特に困ってはおりませんの。こんな時間にいるべきではない方がいて邪魔なだけですわ」

(まさかジェロームが探しにくるなんて最悪だわ)

 いつも朝の身支度を手伝いに来るメイドのモーリーやシリルにはシャーロットが部屋にいない時はソックスの所にいると伝えてある。

 夜、ベッドにもテラスにもいられなくない程気持ちが追い詰められた時はソックスの所で過ごして朝食の時間までに身支度を整えていた。

(最初の頃は手紙を書いてベッドの上に置いていたけどもう必要なくなっていたのに)


 悶々と悩んだシャーロットは藁の奥に逃げ込もうとするが、ソックスに涎まみれにされながらも藁に手を突っ込んだジェロームがシャーロットの足首を捕まえた。

「ちょ! やだ、変なとこ触らないで!!」

「だったら出ておいで。どんな臭いでも気にしないから」

「エカテリーナ様から紳士としてのマナーを教えていただいた方がいいようですわね!」

 口で抗議しながら足を掴むジェロームの手を押し除けようとしていたら、逆に反対の足まで掴まれてしまった。

「このまま引っ張り出してもいいんだが、どんな服を着てるのか分からないからなあ⋯⋯ああ、すごく魅惑的な姿になるかも」

 ジェロームがとんでもなく楽しそうな声で足を少しずつ引っ張るたびにシャーロットの着ているチュニックが捲れていく。

「出る! 出るから手を離して!!」

「本当に? シャーロットは逃げ足が速いからなあ。馬房の奥に穴が空いてないか調べてからでないと危険かも」

 揶揄われているのは分かっているがぐいっと引っ張られたせいで、チュニックはもうお腹の辺りまで脱げているし足も膝の辺りまで見えているはず。これ以上足を引っ張られるととんでもない事になる。

 ガバッと起き上がって藁を振り払いながら睨みつけるとジェロームがシャーロットをぎゅっと抱きしめた。

「無事で良かった」

 ジェロームの力強い腕の中がとても居心地が良くて本当に心配していたんだと分かる少し掠れ気味の声が気恥ずかしい。

 臭くて藁まみれだと揶揄われるか部屋にいなかったと文句を言われると思っていたがまさかこんなに心配されるとは思っていなかった。

「⋯⋯モ、モーリー達なら部屋にいない時はここにいるって知ってるの」

 離婚届は提出するだけになっているし、改めて結婚したいと言っていたのは冤罪で使用人達に虐められた事への罪滅ぼしか同情だろう。

(使用人達ほどではなくても非難してたから罪悪感で混乱してるだけ、変な責任感なんて感じなくてもいいのに⋯⋯。こんな態度を取られたら勘違いしてしまいそう)

「あの、離していただけます?」

「うん、もう少ししたらね」


 フンスと鼻を鳴らしたソックスが『いい加減にしろ』と言わんばかりにジェロームを押し除けた。

「ソックス、ナイス!」



 出来る限り藁をはたき落として屋敷に向かうシャーロットの腰にはジェロームの手。

「離していただけますかしら。腰縄をつけられてるみたいで歩きにくいんですけど?」

 だったらと強引に手を繋いできたジェロームは今までに見たことがないほどご機嫌な顔をしていた。

(これ、なんだかすごく恥ずかしいんだけど。指が⋯⋯絡まってて。
すごい臭いと塵だらけで手を繋いで歩くなんて、変人カップルみたい)

「こういう事はクマ男さんとすれば良いのに」

 思わず呟いたシャーロットの囁き声にジェロームが吹き出した。

「あれは吃驚だったよ。まさか【自分に靡かないイコール男色】だと思ったなんて。あの後法務部で散々揶揄われて、クマ男は別の場所に移動願いを出したんだ。アイツはああ見えて小心者だから」

 クマ男改めテレンスはアーサーやアンドリューのように背が高く熊のように大柄な体型をしているが、性格は正反対でどちらかと言えば神経質な方だと言う。

「冤罪を起こすなんてもっとちゃんと仕事をしろってシャーロットに言われても当然なんだけど、法務部の仕事は間違いの許されない仕事だからって思ってて細心の注意をしてたつもりだったんだ。
だから、クマ男の重箱の隅をつつくような性格はピッタリだったんだけど、今は財務部の補佐官に移動して生き生きしてる」

 父親が法務大臣だったせいで法務部に配属されてしまったが、人と関わるより数字を睨んでいる方が楽しいと笑顔で話した。

「犯罪者は罪を軽くしようとして色々策を練るだろう? そう言う心理作戦を見極めたり人の心の機微を慮るのは苦手だったからと言ってたけど、法務大臣から感謝された時は返事に困ったよ」

 苦笑いしているジェロームは法務大臣から『男色疑惑のお陰で息子の笑顔が増えた』と訳の分からないお礼を言われたそう。



 部屋に戻ると朝食を食べ損ねたジェロームがワゴンに乗せた大量の料理を運んできたり、伝達不足で申し訳なかったとモーリーがやってきたりしたが、それ以外はまるで昨夜の件がなかったかのように過ぎて行った。

「午後は何か予定がある?」

「ええ、昨日エカテリーナ様から仕立て屋のテレサの安全確保した方が良いって教えていただいたので会いに行くつもり」

「じゃあ、俺も一緒に行くよ。その後王都見物に行こう」

「高位貴族の方が一緒だとテレサが嫌がると思いますわ」

「俺は無職のシャーロットの婚約者候補だから、護衛がわりだと思って連れて行って欲しいかな。テレサの様子次第では家の外で待つから大丈夫」

(ここ最近は横に座っていてもろくに口も利かなかったくせに、一体どうしたのかしら)

 昨日から突然強引になったジェロームに困惑気味のシャーロットの眉間に皺が寄った。

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