【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました

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57.目の前に置かれた離婚届

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(離婚しようって言い続けてて、白い結婚の為に逃げ続けてたのに⋯⋯結構堪えるのね。ずっとジェロームはこんな気持ちだったのかしら。私にはショックを受ける資格なんてないのに⋯⋯)

 ライティングデスクから羽根ペンとインクを運んでサインを済ませた。

「今までありがとうございました。散々ご迷惑ばかりおかけして⋯⋯これからどうかお幸せに」

「ありがとう。この後でプロポーズしようと思ってるんだ。一緒に幸せになりた⋯⋯」

(メソメソなんてしない、する資格もないんだもの。離婚一択でずっと話をしていた私が今更手のひらを返すとか絶対にあり得ないわ。背筋を伸ばして胸を張るのよ)

「それは素晴らしいお話しですわ! おめでとうございます。ご当主様なら間違いなく素敵な旦那様になられますわ」

「ん? えーっと、ありがとう? じゃあ次の話なんだけど⋯⋯離婚に際して財産分与を⋯⋯」

「おいくらになりますでしょうか? 我儘ばかりで恐縮ですが、即金でのお支払いは無理なので分割で支払わせていただきとうございます。最低でも支度金・結納金・慰謝料がありますでしょう?」

「いや、俺の方から財産分与と慰謝料を払おうかと⋯⋯」

「とんでもございません。形式だけの結婚で、しかも何ヶ月も家出までしておりましたもの。払うべき責任はわたくしの方にございます」

「そうか⋯⋯じゃあ、それは後にしよう。次の書類はアルフォンス公爵家の問題なんだ。既に陛下から下知されていて近々王命も下される事になったんだが、シャーロットがこの国初の女公爵になる」

「は?」

「現状わかっている範囲で言うと、公爵領はここ数年納税できるギリギリの状態をキープしている。公共事⋯⋯」

「待って、女公爵って?」

「突然王命が下されると慌てるだろうからと知らせてくれたんだ。で、公共事業その他どれもこれも停滞しているから領地経営はかなり大変だろうと思う。ただ、公爵夫妻が作った借財なんかは王家が完済してくれたからそこは問題ない。
で、これにサインをしてくれ。狐狩りで盛り上がってるから、正式な任命式はもうしばらく後になる」

 頭を抱えるシャーロットを無視したままジェロームがどんどん話を進めて行った。

「王都の公爵邸には使用人は残っていないから雇う必要があるんだ。以前勤めていた人の現住所は確認済みだから戻ってきて欲しい人がいれば連絡が取れるようになってる」

「無理に決まってるでしょう? 私が公爵だなんて!」

「それは陛下に陳情するしかないな。辞退すると言ってみれば少しは変化があるかも」

「わかりました。それについてはこの後直ぐに陳情書を認めます」

「次にディーン・ボルトレーン卿の遺産の整理が終わったそうだ。デューク・サーマル氏とノア・ウルグス弁護士はもう少し仕事が残っているのでそれが終わったら来られるそうだ。これが遺言書の写しと遺言書に基づいて相続する為の書類一式だ」

 シャーロットが遺言書を読んでいる間に積み上げられた書類の束はボルトレーン卿の財産目録だった。詳細は現預金・不動産・美術品など多岐に渡り、大型のガレオン船の船団があったのを見た時は流石のジェロームも度肝を抜かれた。


 遺言は簡潔で個人の思いや望みは何も書かれていなかった。唯一彼らしいとか思えたのはサインの上に、《稀に見る放蕩者、希代の詐欺師》と書かれていたことくらい。

(お祖父様のお気に入りの台詞だわ)


『ワシは家を捨てて自由になった。何度も名前を変えてその度に別の人間になったんじゃ。いくつくらいか? さてなあ、知っておるのはデュークだけじゃろうて。ワシも覚えておらん名があるくらいじゃからな』

『ほんの少しばかり何かを手にしただけで有象無象が近寄ってきおる。普段は鼻も引っ掛けん癖に別人のようになって媚びてくるのが腹立たしくての。そんな時は名を捨てて一からやり直せばいいんじゃよ』


「遺産の一部だけを相続することはできるのでしょうか?」

「と言うと?」

「財産は⋯⋯多分わたくしなどの手には余ると思うのです。一つだけお祖父様がわたくしに残してくださったものがあるとデュークが言っていたんです。それだけをいただくことができれば」

(女公爵などとんでもない。それに、これほどの財産を贈与されても平民として働く自分には不要な物ばかりだわ。船団には働いている人達もいるだろうから放置しておくこともできないし)

「そこに書いてある通りで一部というのは無理みたいだね」

「法務部のホープなら抜け道くらいはご存じありませんの?」

「ない。サーマル氏もウルグス弁護士も優秀な方でね、メモ書きがついていたよ。我々に漏れや抜けはないと伝えて欲しいって」

 思わず舌打ちしたシャーロットの『チッ!』という音が聞こえたジェロームは笑いを堪えた。

(絶対に断れない方法を整えておくなんてお祖父様の意地悪! それなら出所した直後にコーネリア伯爵家に連絡をくだされば良かったのに)

 ディーンならシャーロットが出所後にコーネリア伯爵家にドナドナされたことくらい知っていただろう。ディーンが身動きできないほど体調を崩していたならデュークが連絡をくれれば良かったのにと何度か思ったことがある。

(あの二人は神出鬼没でいつだってどんな情報だっておさえていたんだもの⋯⋯そう思って甘えてたから会えなかったんだけど)


 シャーロットがディーンと連絡を取り合うのを嫌がっていた公爵夫妻の隙を狙い手紙を送ってくれていたディーン。

 滅多に外出をしないシャーロットが珍しく出かけた先でニコニコしながら待っていたり、たまたま屋敷にシャーロットが一人でいる時に訪ねてきたり。

『ワシは特別な目と耳を持っておるのでな。シャーロットがこっそり泣きべそをかいていたのも知っておるし、図書室の裏の木に登ろうとして落っこちたのも知っておるぞ』

 泣きべそ⋯⋯誕生日のプレゼントをテレーザに取り上げられ、両親に言い付けたら逆にシャーロットが叱られた時の事。

 図書室の裏の木⋯⋯シャーロットの聖地であったはずの図書室で、取り巻きに囲まれたテレーザからこれからはエドワードと落ち合う場所をここにすると宣言された。何も口答えできない自分が情けなくて『この木に登れたら私だって変われる』と言いつつチャレンジした時の事。



 自分の判断ミスで祖父の最後を看取れなかったのだからディーン達に文句を言うのは間違っていると分かってはいるが⋯⋯。

「でしたら、この遺産からコーネリア伯爵に支払いをさせていただきますわ」

 ムッとしたままのシャーロットがサインを終えるとジェロームが急に立ち上がってシャーロットの横に跪いた。


「次のサインは結婚証明書なんだ。婚約からはじめたいなら我慢できる。多分、できると思う。男色家ではないし貞操帯は嫌だ⋯⋯だから、俺としては婚約はすっ飛ばして結婚して欲しい」

「は? す、好きな人がいるんでしょう」

「この後プロポーズするって宣言したろ? お幸せにって言われた時、順番を間違った気はしたんだ。でも、事務処理とかの面倒事は終わらせて落ち着いてプロポーズしたかったんだ」

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