【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました

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36.クズ達の幻想

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《 side チャールズ第二王子 》

「この国はマジで楽しいよなぁ。不倫と不貞が法律違反だとか超笑える」

 王宮の客室でだらしなくソファに寝そべったチャールズ王子がゲラゲラと笑いながら従者に向けて呟いた。

「普通に付き合うだけって何が楽しいのかわかんなくね? 人の女だからこそ綺麗に見えるし、それを寝取るのが楽しいんじゃん。しかもあのテレーザだよ! あれほど楽しめる女は他にいねえって」

 ソファに座り直したチャールズ王子は行儀悪くワインを並々と注いだグラスを掲げて調子に乗った下品な声を上げた。

「場末の娼婦より淫乱で名うての詐欺師より巧妙な悪事を思いつく! しか~も、俺の一番嫌いなタイプの男の妻⋯⋯社交シーズンは終わっても暫くはこの国に滞在してやるとするか」


《 side テレーザ 》

「このあたしと同じ顔がこの世界に存在するなんて許せないの! 親でさえいつまで経っても見分けられない一卵性双生児だなんて冗談じゃないわ!!」

 化粧することを覚え似てないと言われはじめてからはシャーロットの事など気にもしていなかった。

(部屋に篭って刺繍だの本だの、ばっかじゃないの!?)


 家庭教師からテレーザだけ『マナーやお勉強が進まない』と言われた時はクビにすれば済んだけれど、学園でシャーロットが首席をキープし続けるのが気に入らない。

(友達もいないくて、勉強するしか能がないだけじゃない)


 華やかに着飾ってお茶会や学園でチヤホヤされて喜んでいたがあっという間に飽きた。豪奢なドレスもアクセサリーも手に入れてしまえば次が欲しくなるけれど、周りの反応が雑魚すぎる。

(もっと刺激的な事がしてみたい⋯⋯この国はほんとーに最悪だわ)


 不倫・不貞が禁忌のこの国では誰もが優等生な遊びしかしない。枠から外れて遊んで有罪にでもなれば人生が終わるからと、適切な距離を保ち節度ある関係だけを望む者ばかり。



 いつもと変わらない退屈なお茶会でふと聞こえてきた妙齢の夫人達の話にテレーザの耳が引き寄せられた。

「お聞きになった?」

「仮面舞踏会でしょう? あんなものに参加して誤解でもされたら大変ですわ」

「でも、ちょっと気になりますわね」

 ふふっと笑いながら扇子で口元を隠した夫人達の顔を見て『これだ!』と確信した。

 お茶会のたびに神妙そうな顔で聞き耳を立てて⋯⋯。



 話に聞いた仮面舞踏会やカジノ⋯⋯法律違反を楽しむ男や女が媚を売りシナを作り個室に消えていく。見目麗しく年若いテレーザに恋人ができるのはあっという間だった。金と暇を持て余し、退屈で生真面目な社交にうんざりした男達が群がってくる。

(これよ、これ! 危険で背徳的なこの関係が堪らないの。しかも、ここでの私は私じゃないんだから後腐れもないわ)


 名前を聞かれたら『シャーロット』と答える。

 だって学園や家で大人しくしているのがつまらないんですもの⋯⋯と上目遣いで見ればなんでもいうことを聞く馬鹿な男達は、テレーザが望めば宝石やドレスに限らず酒でも違法な薬でもなんでも手に入れてきた。

(薬でおかしくなってる時に複数の男とやるのが一番刺激的!)



 女としての腕が上がってくればそれを試したくなる。テレーザがターゲットに選んだのは勿論、シャーロットの婚約者だった。

(シャーロットに会いにきてるくせに私がニッコリしてあげると顔を赤らめて嬉しそうにしてるもの。
法律に縛られた男を陥落させられたら面白そう。それが最高に嫌いなシャーロットの婚約者ならこれ以上面白いことはないわ⋯⋯。
今まではバレても大丈夫なくらいでセーブしてたけど、そろそろ次のステージね!)



 シャーロットに召喚状が届いた時テレーザから真相を聞いた公爵夫妻は、未成年の娘が夜な夜な出かけていたことも気付いていなかった。

「エドワード様はテレーザと婚約したかったって仰っておられるし。このままシャーロットがやりましたって言えば済むんじゃないかしら?」

「シャーロットのような地味な奴はどうせ我が家の役には立たんからな。テレーザの代わりが出来れば育ててやった意味もあったというものよ」


 裁判所でもテレーザは堂々と全てを話した。

「はい、その通りです。結婚しておられる事もお子様の事も知っていました。
友達もいなくて勉強する以外やることがなくて⋯⋯退屈だったんです。
いつもお友達に囲まれてる妹が羨ましくて」

(だって、ここにいるのはシャーロットだもの。いくらでもお話ししてあげるわよ)



 エドワードは退屈な男だと気付いたがフォルスト侯爵家の資産と名前には魅力がある。侯爵は広大な領地から上がる税収で優雅に暮らしながら、エドワードを将来の宰相にするための根回しをしているのも知っている。

(捨てるのは勿体無いわね)

 シャーロットが女子収容所にいる間は身代わりがいないので、細心の注意を払って相手を選んだ。バレれば再犯者として2度と真面な暮らしが望めない男ならテレーザの思いのままになったが⋯⋯。

(あの時の方がよっぽど刺激的だった⋯⋯なんだかつまんない)

 テレーザの遊びの根幹を成していた『何をしてもシャーロットのせいにできる』という刺激が足りない。

(あの頃は、いけないことや危ないことをすればするほどシャーロットの顔が思い浮かんでいたのに。薬で醜態を晒して男の前で娼婦も嫌がる行為に耽れば『ざまぁ』って、超楽しかったのよね。
今はただの秘密のお遊び⋯⋯ほんとつまんない)



 シャーロットがいた頃は男に全て払わせていたのだが、お互いが秘密を共有するようになるとテレーザに金を出させようとする男やテレーザを脅す男が出始めた。

『バレたら侯爵家との縁談どころじゃねえよなあ』

『はぁ? こっちは人生かけてアンタを満足させてやってんだぜ、少しくらい融通しろよ』


(今更貞淑な令嬢だけなんてやってられないわ。退屈で死んじゃうもの⋯⋯エドワードは遊び心のカケラもないくせに偉そうだし)



 少しずつ借金が嵩み首が回らなくなっていくのに結婚式は近付いてくる。

「なんだと!? そんな金があるか!!」

「テレーザの作った借金でしょう。わたくし達をあてにしないで!」


 借金の相談をした両親から見捨てられて青ざめていたテレーザの元に満面の笑みを浮かべた公爵夫妻がやって来た。

「シャーロットを妻にしたいという愚か者を見つけた。しがない伯爵だが父親の侯爵から資産を贈与されておってな。支度金と結納金を弾むと言っておる」

「但しこのお金はわたくし達の物なのよ。それをテレーザにあげるだけだから、結婚したら必ず返してちょうだいね」

「フォルスト侯爵家の資産があればこんなの端金だもの。すぐに返せるわ!」



 今回もまたシャーロットを踏み台にできたことでテレーザの気分は最高潮に達した。

(ああ、やっぱりこれよ! アイツが私の為に踏みつけられていなきゃ楽しみが半減しちゃうのよ!)

 シャーロットが出所するならテレーザの遊び方もまた変わってくる。フォルスト侯爵家の目を盗んで遊び、シャーロットの振りをする想像をしただけでテレーザは気を失うほどの絶頂を迎えた。

(そうだわ! シャーロットの夫とやらも貰ってあげる。寝取り女で有罪になった女が今度は寝取られ女になるの⋯⋯)

 複数の男とベッドで絡み合いながらまだ見ぬシャーロットの夫との夜を妄想して最高の夜を過ごしたテレーザだった。





「すごく面白い遊びにご興味はありませんかしら?」

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