【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました

との

文字の大きさ
上 下
29 / 102

28.獲物を見つけたロージー

しおりを挟む
「確かに貴女の言う通り、厄介な子だわねえ。わたくしからドレスやアクセサリーをあげると言われて断る令嬢など見たことも聞いたこともないわ」

「大変申し訳ございません」

 価値観の違いや生活環境の違いだと抗議しても話はまとまらないだろう。シャーロットは素直に頭を下げて話を終わらせることにした。



「あら、素直に謝ったわね。では、わたくしのやりたいようにさせて頂きましょう。先ほどシャーロットが選んだグレーのドレスを持ってきて⋯⋯ええ、そっちを。ガウンを二枚重ねにしてペチコートとガウンの間に翠のラインが入るようにしましょう。ええ、少し濃い⋯⋯その色で。後は金糸を織り込んだレースでペチコートとストマッカーを派手に飾れば良いかしら」

 呆れ返るシャーロットを放置したままエカテリーナとマリアンヌの間で話が進んでいく。

「派手な装飾よりその方がシャーロットには似合うはず⋯⋯ウエストにワンポイント欲しいわ」


 ドレスのイメージが出来上がる頃、仕立て屋とお針子がやって来てエカテリーナの指示が加速していく。シャーロットは隅から隅まで採寸されて口を開く暇もない着せ替え人形になっていた。

「これを一番に仕上げて、出来次第ここに持って来てちょうだい。ああ、そちらのドレスは共布で扇子も作りましょう。開いた時にこの模様が⋯⋯」

「あの」

「その柄はダメね。シャーロットには派手すぎるわ。そっちの小花模様の方が⋯⋯」

「エカテリーナ様⋯⋯」

(本気でさっき言った枚数注文する気かしら⋯⋯)

 何度もエカテリーナに声をかけようとしては上手にはぐらかされて声をかけられずにいるシャーロットの肩をマリアンヌが優しく叩いた。

「あんなに楽しそうなお義母様は久しぶりだわ。楽しませてあげてね」

「でも、あんなに沢山いただいても使い道がありません」

「ないなら作れば良いの。わたくしで良ければお茶会でもパーティーでもご一緒させていただきますわ」



「シャーロット、レディのこれは戦闘服なのですよ」

 マリアンヌ達二人の話など聞いてないと思っていたエカテリーナが急に顔を上げてシャーロットを見据えた。

「殿方達が武器を集めるのと同じこと。彼等は何種類も武器を集めておきながら、戦う時はいつも同じ物を使うの。とても無駄に思えるでしょう?
手元のそれが折れたとしても自分の背後にはたくさんの武器がある⋯⋯その安心感を買うのよ」

「ドレスも同じだと言うことですか? それであれば予備が1枚か2枚あれば十分ではないでしょうか?」


「様々な種類を集めてあればどんな状況にも対応できるとは思わない?
戦う相手や場所によって戦況は刻一刻と変わっていくの。どんな状況でも対応できる準備が出来ていればいつでも堂々としていられるわ。
社交界なんて貴族達の戦場ですからね。足の引っ張りあいや粗探しをするために集まっている人がほとんどなの。
その中で自分の立ち位置を確立しつつ有益な情報を仕入れたり契約を結ばせたり⋯⋯。
武器はいくらあっても多すぎると言う事はないわ」

 貴族社会とはなんて面倒で恐ろしいところなのだろうと、シャーロットは怖気を震った。



「わたくし達が着なくなったドレスの行き先は知っているかしら?」

「いえ、存じません」

(そう言えば⋯⋯こんなに沢山のドレスの行方って考えたこともなかったわ。貴族女性って一度着たものは二度と着ない人もいるって言うし)

「お気に入りの侍女達にあげるの。彼女達はそれを仕立て直しして着たり売ったりするの。何かのお祝いとかご褒美とかでプレゼントするのだけど、殆どの侍女達は下位貴族の娘達だからとても喜んでくれるのよ」

 高位貴族の作ったドレスならば着ていれば雇い主に気に入られている証として箔がつくし、最上級の生地や仕立てなので良い値で売れる。

「わたくし達がドレスやアクセサリーを作るのを見て使用人達は『頑張ろう』って思うの。だって、目の前のドレスが自分のものになるかも知れないんですもの。鼻の先に人参をぶら下げられたら張り切るでしょう?」

 近くで片付けをしていた侍女達が苦笑いしている。『それだけではないですからね』とエカテリーナに釘を刺した侍女もいた。



「経済の循環?」

 裕福な貴族が高価な買い物をし、それが下位貴族に回ったり商品となる。ドレスをそのまま売り買いする場合もあるだろうし、パーツを利用したりシャーロットがやったように別のものに作り替えることもできる。


「貴族の散財にも意味があると理解できたかしら?」

「はい。とても勉強になりました」

「さあ、少し疲れてしまったから残りは午後にしましょう」

 エカテリーナの声かけに侍女がすかさずテーブル周りを片付けてお茶の準備をはじめた。

(午後⋯⋯まだ続くんだ。はぁ、経済を回すのは他の方達にお任せでいいわ)



 お茶で一休憩した後、エカテリーナが突然微かに口角を上げ楽しそうな顔をした途端シャーロットの背中に震えが走った。

「シャーロットは昼食の準備していらっしゃいな。マリアンヌ、頼みましたよ」

 立ち上がったマリアンヌに大人しくドナドナされていくシャーロットは既に諦めかけていた。

(エカテリーナ様は一度言い出したら絶対に思い通りにする方ね。それにしても、お茶の直後に昼食の準備なんておかしくないかしら?)



 危険予測が的中したらしく2階にある客室に案内されたシャーロットを数人の侍女とメイドが取り囲んだ。

「1時間くらいで出来るかしら?」

「はい、久々に腕が鳴ります」

 本当に指をパキパキ鳴らした侍女の目が輝いている。思わず後退りしたシャーロットの肩を捕まえたマリアンヌがクスッと笑った。

「ロージーを本気にさせたなら諦めた方がいいわよ。わたくしも慣れるまで何度も洗礼を受けたから」

 ロージーはエカテリーナの専属侍女の一人でエカテリーナを美しく装わせる事に並々ならぬ熱意を持っている。
 モルガリウス侯爵家嫡男のアンドリューと婚約したばかりの頃から、マリアンヌもロージーの餌食になり鍛えられた。


「お、お手柔らかにお願いします」

 シャーロットが座らされたドレッサーには僅かな隙もないほど化粧品が並べられ、ロージーの背後に立つメイドの手には見慣れない豪奢なドレスがかけられていた。

「今日はお時間がありませんので、残念ですがお風呂やマッサージは省かせていただきます」

 三つ編みを頭に巻きつけただけの髪を解きながらとても残念そうに溜め息をついたロージーがにんまりと笑った。

「ですが、髪質は素晴らしいですわ。もっとコシのない柔らかい髪を想像しておりました。これならどんな髪型でも思うままですわ!!」




 ロージーのお楽しみ⋯⋯努力の結果、シャーロットはまさに高位貴族の夫人に相応しい装いになった。目はいつもの倍もあるのではないかと思うほど大きく見え、肌は透き通り思わず触りたくなるほど。落ち着いたピンク色の唇に目が釘付けになり、優雅なドレスは細い首と華奢な肩を強調していた。

「凄いわ! たった1時間でこの仕上がりなんて、流石ロージーね」

「お褒めに預かり光栄です。次回は半日ほどお時間をいただいてマッサージからネイルまで終わらせたいと存じます」

(本当に凄い、どこから見ても⋯⋯テレーザだわ)



(この顔を見たご当主様がどんな顔をするか考えただけで胃が痛くなりそうだわ)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。

新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。 そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。 しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。 ※カクヨムにも投稿しています!

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。

夢草 蝶
恋愛
 シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。  どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。  すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──  本編とおまけの二話構成の予定です。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

処理中です...