【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました

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25.前にはもう進めない

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 デュークの気迫に恐れをなした従者に案内されシャーロットの部屋に着いたが、ドアをノックしても返事が聞こえない。不安になったデュークが『失礼します』と声をかけてドアを開けるとシャーロットは部屋の窓から外を眺めていた。

「シャーロット様、デュークです。お待たせ致しました」

 今まで見たことがないほど打ちひしがれた様子のシャーロットの様子を見たデュークはジェロームと二人で馬車に乗せたことを後悔した。

(あのクソガキ! シャーロット様に一体何を!!)

「お疲れでしょう、少し横になられては如何ですか?」

「デューク⋯⋯お祖父様に謝っておいてくれるかしら。あの時お祖父様の手を取るべきだったし、手紙の返事が来ない事をもっと早く問いただすべきだったの。
私にとってたった一人の家族だったのに最後に側にいなかったのは私が愚かで思い上がっていたから」

 女子収容所で会った時裁判のやり直しをしよう、助けると言ってくれたのを断らなければ数年の間だけでも一緒に暮らせたかもしれない。

 一通目の手紙に返事が来なかった時に直ぐ行動を起こしていれば最後の時には会えたのに⋯⋯。

「浅はかな考えで結局は全てを失っちゃうの。もう、お祖父様のところに行きたい」



(あそこにだけは二度と戻りたくないのに。そんな事になるくらいならお祖父様のとこに⋯⋯私、何もしてないのに⋯⋯ほんとバカみたい。好き放題するテレーザとお金が欲しい公爵夫妻のせいで収容所に閉じ込められて、今度はそのまま死んじゃうんだわ)

 収容所での二年間を思い出し恐怖に駆られたシャーロットは冷静な判断が出来なくなっていた。

「色々考えたんだけど、多分もう無理だと思うの。テレーザはまた私の名前で愛人を作って不貞行為してるかもしれないし、公爵夫妻はお祖父様の遺産を手に入れられるならなんでもやる人達だわ」

 今にも消えそうなシャーロットの背中を見ながらデュークはディーンの言葉を思い出していた。

『シャーロットはあんな家族と育ったせいで誰の事も信用できんようになってしもうた。わしにさえ頼る勇気が持てんで一人で抱え込む。頼ったら嫌われるとでも思っておるのかのう。
誰にも頼れないままでは必ず行き詰まる時が来る事を教えてやらねばと思うが⋯⋯。
人を見極めて助けを求める事を覚えさせたいんじゃが、人を頼る強さがないのがシャーロットの最大の欠点じゃな』



「旦那様からシャーロット様に必ずお渡しするようにと頼まれた物があります。残念ながら領地の金庫にしまったままでして⋯⋯。
それをお渡しする前に旦那様のところへ逝かれてはつぎにわたくしが旦那様の所へ逝った時叱られてしまいます」

「お祖父様から?」

「はい、療養中からずっと大切にしておられた品で遺産の一部となっております」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯わざと持ってこなかったのね、意地が悪すぎだわ。それかお祖父様の作戦ね」

 窓から外を見ているシャーロットは今まで見たことがないほど窶れていた。

(たった数時間でここまでシャーロット様を追い詰めるなんて、うっすら繋がってる首の皮を切り落としてやる!!)



「旦那様からのご指示でした。シャーロット様が自由にお屋敷を訪れることができるまで金庫から出すなと」

「お祖父様は⋯⋯まだこっちに来るなって仰ってるのかしら」

「旦那様は諦める事がお嫌いでしたから。シャーロット様がお幸せになるのだけを楽しみにしておられました」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。少し⋯⋯少しだけ一人になりたいからお茶を頼んでもらえるかしら? それを飲みながら何か作戦を立てれば。
このまま逃げたらきっとお祖父様とデュークに嫌われちゃうもの」

「少ししたらまた参ります」

 伯爵家の客間にしてかなり狭く感じる部屋にはシーツのかかっていないベッドと一人がけのソファがあるのみ。

 この館の夫人の部屋としてはあり得ないほど貧相な部屋を一瞥したデュークが内心苛立ちを強めながら静かに部屋を出るとシャーロットは窓を大きく開いた。

 冷たい風が少し古びたカーテンを揺らすと、火のついていない暖炉の中で古い灰が舞い上がった。

(せめてバルコニーがあれば良かった)






 デュークから4人の名前を聞くと現在は1人が結婚し3人には婚約者がいると言う。

 テレーザの現在の愛人は2人。ジェロームの元へもまめに通っては誘いをかけている。

「エドワード様とは上手くいっていないって事?」

「いえ、エドワード様からするとそれなりに順調にいっているつもりですが、テレーザ様は婚約した時から常に新しい恋人がいらっしゃいます。恐らくシャーロット様から奪ったので関心はなくなったけれど、フォルスト侯爵家の財産と名前は魅力があると言うところでしょう。エドワード様も浮気三昧ですし」

「公爵夫妻は?」

「最近はまた金欠です。フォルスト侯爵家からの支援をあてにしていたようですが断られ、今は旦那様の遺産を狙って法廷闘争の準備をしておられます」

「お祖父様の遺産を欲しがってるのは知っているけど、公爵夫妻がそこまでするほどなの?」

「旦那様はかなりの資産家でいらっしゃいましたから」

「え? そう言えばお祖父様が何をしておられる方なのかとか何も聞いたことがなかったわ。本当は大叔父様になるんだったかしら。
待って! お祖父様は全てを私に残したと言ってなかった?」

「はい、申し上げました」

「それがかなりの資産って事⋯⋯で、公爵夫妻が狙ってる」

 シャーロットは祖父の小さな狩猟小屋しか行ったことがなかったので、それを遺産として贈られたのだと思っていた。それがかなりの資産となると⋯⋯。

「公爵夫妻に命を狙われて、妹からは名誉と命を狙われてるって事ね。聞けば聞くほど状況が悪すぎるわ」

「どうされますか?」



「最後まで足掻くしかないでしょう? お祖父様がデュークに預けた物だけは見ないと死ねないもの」

「コーネリア卿のお知恵を拝借してはいかがですか?」

「相手はテレーザよ、ご当主様まで巻き込んでしまうのはダメ。早急に離婚しなくては」






「どうしてシャーロットだけ食事がないんだ?」

「コーネリア伯爵家のお食事はお口に合わず召し上がられないと少し前に領地より連絡が来ておりましたので準備致しませんでした。
ご希望があればパンとスープの残り物くらいでしたらご準備できると思います」

「くそ!」

「ありがとう、仰る通りよ。コーネリア伯爵家ではとても素晴らしいお料理を準備しておられるでしょう? わたくしの口には合わなくて、こちらにはほんの少し滞在させていただくだけだからわたくしの食事は気になさらなくて結構よ」

「シャーロット、ほんの少しの滞在とか言うんじゃない!」

「お気遣いはありがたいのだけど、本当に短い滞在の予定なの」


「もういい、ホテルに部屋をとる」

「では、ご当主様。ここで失礼させて頂きますわ。ホテルの予約などはデュークに任せてウルグス弁護士と3人で参ります。短い間でし⋯⋯」


 バン!!


 シャーロットの話の途中でジェロームがテーブルを叩いた。

「俺も行くに決まっているだろう! 荷物は後で届けさせる。お前達は勝手にすればいい!!」

 溜め息をついたシャーロットが渋々後に続いた。降りてからそれほど経っていない馬車に再び乗り込んだシャーロットとジェロームはそれぞれの思いに耽り黙り込んでいた。

「一度も文句を言わないんだな」

「必要に迫られない限り無駄な努力はしない主義ですの。文句を言って変わるものなら言っているかもしれませんけど⋯⋯人生ってそう思い通りにはいかないものですから」

「人生経験から培った教訓かな?」

「そうですね。人って生まれた時から違いますでしょう? 強制的に与えられるものでも良いものと悪いものがありますし、それとは別に自ら手に入れるものがあってどれもこれも厄介ですわ」

「シャーロットに信頼されるにはどうしたらいいんだろう」

 疲れたように顔を擦りながらジェロームが呟いた。

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