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24.現状把握してみたら
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「あの、つかぬ事を伺うんですが私のかつての不倫相手って今どうしているんでしょうか?」
「は?」
王都に戻ってきた途端かつての恋人に会いたくなったのかと思ったジェロームは眉間に皺を寄せた。
「それを聞いてどうするんだ? まさか会いに行ったり」
「いえいえ、とんでもない。結構な醜聞になったと思うのでその後どうなったのかなぁと」
「現在のカンバード侯爵は当時17歳だった長男で、元カンバード侯爵はまだ男子収容所に収監されている。カンバード侯爵夫人は生家に帰られて再婚され、現在はドナウモア伯爵夫人だ」
「カン⋯⋯バード侯爵ですか。自分より下の年齢の娘と不倫した父親⋯⋯お可哀想に」
思わず他人事のように呟いてしまいシャーロットは慌てて口を閉じたがジェロームに聞かれてしまった。
ムッとした顔のジェロームが睨んでいるが、無神経な言葉に聞こえて当然だと思ったシャーロットは大人しく俯いた。
「シャーロットにとっては何人もいる恋人の一人だったのは知ってるが、もっと相手のことを考えるべきだと⋯⋯シャーロット、そんな顔をしてどうした?」
ジェロームの言葉の途中でガバッと顔を上げたシャーロットが目を見開き大きな口を開けたまま固まった。
「はぁ、知らないと思ってたのか。かなり噂になっていたし、今回調べ直したんだ。カンバード侯爵以外に4人もいたって言うのは流石に驚いたよ」
「よ、4人⋯⋯」
態とらしく腕を組んで溜息をついたジェロームの反応を気にしている余裕など無くなったシャーロットはデュークなら名前を知っているはずだと考えた。
(侯爵と違って罪に問われていないなら結婚していなかったか婚約者もいなかった可能性が高いわね。社交界で4人も危険人物がウロウロしてるって事? その人達って今何を考えてる? 出所したシャーロットに会ったら近寄ってくるかしら)
無事に離籍できるまではテレーザや公爵夫妻の機嫌を損ねたくないシャーロットはその4人をどうするか頭を悩ませはじめた。
「過去は過去として堂々としているしかないんじゃないか? お互い終わった事だと気持ちを切り⋯⋯」
「それだわ! そう、そうよね。その作戦が一番無難かもだわ」
(でも、大人になって過去は忘れましたと言う顔をしておけば誤魔化せるもの?⋯⋯念の為名前は調べておいて、関わって来たら『過去の事』ってサラッとなんて私にできるかしら。どんな付き合いをしていたのか知らないのにヘタを打ったら仕返しとかあるもの?)
男女の付き合いがイマイチわからないシャーロットは無意識に窓の横に束ねられたカーテンを握りしめていた。
シャーロットが恐れているのは両親よりもテレーザだった。公爵夫妻は自分達の立場が守られさえすれば他の事はどうでもいいはずだが、テレーザがまたシャーロットのフリをして醜聞を撒き散らしはじめたらとんでもない事になる。
(いえ、公爵夫妻も気をつけなくちゃ⋯⋯あの三人は一蓮托生、悪質なのはおんなじくらいだもの)
前回は未成年だったことなどが加味されて2年で済んだと女領主から聞かされた。今同じことが起きれば成人で再犯⋯⋯一生収容所に閉じ込められるのは間違いない。
心を病んで首を絞めてきた女性の顔が思い浮かんだ。
(あんなふうになるのは嫌! でも、仕返しとか虐めのつもりでテレーザが仕掛けるならきっと派手に仕掛けてくるはず⋯⋯今、派手な醜聞になる人で簡単に落ちてくるゲス野郎と言ったら誰だろう。それもデュークに聞いてみなくちゃ。
あとは、あとは⋯⋯他に私にできることって何?)
「シャーロット、落ち着いて。大丈夫だから」
仕事柄ジェロームはシャーロットと同じ罪を犯した女達を多く見てきた。彼女達に共通するのは計算された嘘くさい笑み、ねっとりと絡みつくような媚びと仕草、化粧の下に隠した隙を狙う下品な下心。
そのどれもシャーロットからは感じられない。
(かつての恋人に会うのを怖がってる? いや、うーん。なんだろう⋯⋯五人の男を手玉に取ってた女性にしては凄い違和感が)
純粋な子供のようにキラキラした目で窓から景色を眺めていたシャーロットはかつての恋人達の話になった時驚いていたが、直ぐに顎をあげ一見すると冷ややかに見える無表情になり横を向いた。
(でも、目は恐怖に震え上がっているように見えたんだよな。普段の取り付く島のない様子とは真逆の)
「心配?」
「え? まさか、社交界に出ないとか方法は色々ありますもの」
横を向いたまま取り敢えずのように返事をするシャーロットはジェロームの言葉を真面に聞いているようには見えなかった。
「それは無理だけど、タチの悪い噂からは必ず守ると約束するよ」
(噂⋯⋯噂からは守れてもテレーザからは守れないわ。コーネリア伯爵やモルガリウス侯爵家が私を守ろうとした時点でテレーザは不満に思うはずだもの。それがどのくらいの大きさの不満になるのか⋯⋯化粧をしないって言うのはどうかしら。どうしても社交界に出なくちゃいけなくなっても全然似てなければ⋯⋯眼鏡って有効?)
テレーザがエドワードとの結婚生活に満足していてシャーロットの事など気にしないと言うのが一番助かるのだが、16歳で5人を手玉に取っていたのならそれはあり得ないだろう。
今でも秘密の愛人がいて満足しているならいいのだが、そうでないなら不満が溜まっているかもしれない。
(今も愛人がいて常に新しい愛人を探しているって言うのが一番信憑性があるけど、どっちの名前を使ってるのかしら)
「つかぬ事を伺うんですが⋯⋯」
シャーロットが恐る恐る切り出した。この答えでかなりの推測が立つ。
「テレーザはご当主様に声をかけてきたりしてます?」
ジェロームの嫌そうな顔に返事が書いてあった。
(ギルティ! ああ、もう確定だわ)
「⋯⋯多分シャーロットのことが気になってるんだろう。その、仕事場に押しか⋯⋯やって来る」
テレーザが普通に声をかけてきただけならジェロームはあそこまで嫌そうな顔はしないはずなので、迫られて不快に感じている可能性が高い。シャーロットの事を気にしているのはテレーザの口実なのか探りを入れてきているのか⋯⋯。
考えれば考えるほど悪い予感しかしないが、これ以上考えても今は堂々巡りにしかならない。デュークと話して現状をもう少し詳しく把握するまではこの件は保留にするしかないだろう。
・不倫相手以外の4人の交際相手は?
・父親が収容所送りになった新カンバート侯爵の動向
・今でもテレーザは男漁りしているのか?
・祖父の遺産を狙う公爵夫妻の状況
・フォルスト侯爵家が恨んでいる可能性はあるのか。テレーザとの仲はどうなっているのか
(逃げ出しても無理かも。もう既にシャーロットが何人かの愛人と不貞してる方に全財産を賭けるわ。お祖父様の遺産まで欲しがっているなら公爵夫妻は私を収容所に送り返す計画をしてるはずね)
少し前までは初めて見る景色を楽しむ余裕があったシャーロットだが、ドナドナされる家畜よりも悲壮な顔になっていた。
(出所した時にはもう負けが決まってたのかな)
王都の屋敷の対応も領地とは大差なかったが心ここに在らずのシャーロットは気付いてもいなかった。
「デューク、後で聞きたいことがあるの」
「荷物を置いたらすぐに伺います」
馬車を降りた時からシャーロットの異変に気付いていたデュークの行動は素早かった。部屋に案内された後のんびりと説明をはじめた従者の言葉を遮ったデュークはシャーロットの部屋に案内するように言った。
「いや、荷物はそのままで構わないからシャーロット様のお部屋に案内して下さい」
「そちらはメイドが担当しておりますのでご心配なさいませんように」
「案内ができないなら自力で探すしかありませんね」
「畏まりました、ご案内致します」
「は?」
王都に戻ってきた途端かつての恋人に会いたくなったのかと思ったジェロームは眉間に皺を寄せた。
「それを聞いてどうするんだ? まさか会いに行ったり」
「いえいえ、とんでもない。結構な醜聞になったと思うのでその後どうなったのかなぁと」
「現在のカンバード侯爵は当時17歳だった長男で、元カンバード侯爵はまだ男子収容所に収監されている。カンバード侯爵夫人は生家に帰られて再婚され、現在はドナウモア伯爵夫人だ」
「カン⋯⋯バード侯爵ですか。自分より下の年齢の娘と不倫した父親⋯⋯お可哀想に」
思わず他人事のように呟いてしまいシャーロットは慌てて口を閉じたがジェロームに聞かれてしまった。
ムッとした顔のジェロームが睨んでいるが、無神経な言葉に聞こえて当然だと思ったシャーロットは大人しく俯いた。
「シャーロットにとっては何人もいる恋人の一人だったのは知ってるが、もっと相手のことを考えるべきだと⋯⋯シャーロット、そんな顔をしてどうした?」
ジェロームの言葉の途中でガバッと顔を上げたシャーロットが目を見開き大きな口を開けたまま固まった。
「はぁ、知らないと思ってたのか。かなり噂になっていたし、今回調べ直したんだ。カンバード侯爵以外に4人もいたって言うのは流石に驚いたよ」
「よ、4人⋯⋯」
態とらしく腕を組んで溜息をついたジェロームの反応を気にしている余裕など無くなったシャーロットはデュークなら名前を知っているはずだと考えた。
(侯爵と違って罪に問われていないなら結婚していなかったか婚約者もいなかった可能性が高いわね。社交界で4人も危険人物がウロウロしてるって事? その人達って今何を考えてる? 出所したシャーロットに会ったら近寄ってくるかしら)
無事に離籍できるまではテレーザや公爵夫妻の機嫌を損ねたくないシャーロットはその4人をどうするか頭を悩ませはじめた。
「過去は過去として堂々としているしかないんじゃないか? お互い終わった事だと気持ちを切り⋯⋯」
「それだわ! そう、そうよね。その作戦が一番無難かもだわ」
(でも、大人になって過去は忘れましたと言う顔をしておけば誤魔化せるもの?⋯⋯念の為名前は調べておいて、関わって来たら『過去の事』ってサラッとなんて私にできるかしら。どんな付き合いをしていたのか知らないのにヘタを打ったら仕返しとかあるもの?)
男女の付き合いがイマイチわからないシャーロットは無意識に窓の横に束ねられたカーテンを握りしめていた。
シャーロットが恐れているのは両親よりもテレーザだった。公爵夫妻は自分達の立場が守られさえすれば他の事はどうでもいいはずだが、テレーザがまたシャーロットのフリをして醜聞を撒き散らしはじめたらとんでもない事になる。
(いえ、公爵夫妻も気をつけなくちゃ⋯⋯あの三人は一蓮托生、悪質なのはおんなじくらいだもの)
前回は未成年だったことなどが加味されて2年で済んだと女領主から聞かされた。今同じことが起きれば成人で再犯⋯⋯一生収容所に閉じ込められるのは間違いない。
心を病んで首を絞めてきた女性の顔が思い浮かんだ。
(あんなふうになるのは嫌! でも、仕返しとか虐めのつもりでテレーザが仕掛けるならきっと派手に仕掛けてくるはず⋯⋯今、派手な醜聞になる人で簡単に落ちてくるゲス野郎と言ったら誰だろう。それもデュークに聞いてみなくちゃ。
あとは、あとは⋯⋯他に私にできることって何?)
「シャーロット、落ち着いて。大丈夫だから」
仕事柄ジェロームはシャーロットと同じ罪を犯した女達を多く見てきた。彼女達に共通するのは計算された嘘くさい笑み、ねっとりと絡みつくような媚びと仕草、化粧の下に隠した隙を狙う下品な下心。
そのどれもシャーロットからは感じられない。
(かつての恋人に会うのを怖がってる? いや、うーん。なんだろう⋯⋯五人の男を手玉に取ってた女性にしては凄い違和感が)
純粋な子供のようにキラキラした目で窓から景色を眺めていたシャーロットはかつての恋人達の話になった時驚いていたが、直ぐに顎をあげ一見すると冷ややかに見える無表情になり横を向いた。
(でも、目は恐怖に震え上がっているように見えたんだよな。普段の取り付く島のない様子とは真逆の)
「心配?」
「え? まさか、社交界に出ないとか方法は色々ありますもの」
横を向いたまま取り敢えずのように返事をするシャーロットはジェロームの言葉を真面に聞いているようには見えなかった。
「それは無理だけど、タチの悪い噂からは必ず守ると約束するよ」
(噂⋯⋯噂からは守れてもテレーザからは守れないわ。コーネリア伯爵やモルガリウス侯爵家が私を守ろうとした時点でテレーザは不満に思うはずだもの。それがどのくらいの大きさの不満になるのか⋯⋯化粧をしないって言うのはどうかしら。どうしても社交界に出なくちゃいけなくなっても全然似てなければ⋯⋯眼鏡って有効?)
テレーザがエドワードとの結婚生活に満足していてシャーロットの事など気にしないと言うのが一番助かるのだが、16歳で5人を手玉に取っていたのならそれはあり得ないだろう。
今でも秘密の愛人がいて満足しているならいいのだが、そうでないなら不満が溜まっているかもしれない。
(今も愛人がいて常に新しい愛人を探しているって言うのが一番信憑性があるけど、どっちの名前を使ってるのかしら)
「つかぬ事を伺うんですが⋯⋯」
シャーロットが恐る恐る切り出した。この答えでかなりの推測が立つ。
「テレーザはご当主様に声をかけてきたりしてます?」
ジェロームの嫌そうな顔に返事が書いてあった。
(ギルティ! ああ、もう確定だわ)
「⋯⋯多分シャーロットのことが気になってるんだろう。その、仕事場に押しか⋯⋯やって来る」
テレーザが普通に声をかけてきただけならジェロームはあそこまで嫌そうな顔はしないはずなので、迫られて不快に感じている可能性が高い。シャーロットの事を気にしているのはテレーザの口実なのか探りを入れてきているのか⋯⋯。
考えれば考えるほど悪い予感しかしないが、これ以上考えても今は堂々巡りにしかならない。デュークと話して現状をもう少し詳しく把握するまではこの件は保留にするしかないだろう。
・不倫相手以外の4人の交際相手は?
・父親が収容所送りになった新カンバート侯爵の動向
・今でもテレーザは男漁りしているのか?
・祖父の遺産を狙う公爵夫妻の状況
・フォルスト侯爵家が恨んでいる可能性はあるのか。テレーザとの仲はどうなっているのか
(逃げ出しても無理かも。もう既にシャーロットが何人かの愛人と不貞してる方に全財産を賭けるわ。お祖父様の遺産まで欲しがっているなら公爵夫妻は私を収容所に送り返す計画をしてるはずね)
少し前までは初めて見る景色を楽しむ余裕があったシャーロットだが、ドナドナされる家畜よりも悲壮な顔になっていた。
(出所した時にはもう負けが決まってたのかな)
王都の屋敷の対応も領地とは大差なかったが心ここに在らずのシャーロットは気付いてもいなかった。
「デューク、後で聞きたいことがあるの」
「荷物を置いたらすぐに伺います」
馬車を降りた時からシャーロットの異変に気付いていたデュークの行動は素早かった。部屋に案内された後のんびりと説明をはじめた従者の言葉を遮ったデュークはシャーロットの部屋に案内するように言った。
「いや、荷物はそのままで構わないからシャーロット様のお部屋に案内して下さい」
「そちらはメイドが担当しておりますのでご心配なさいませんように」
「案内ができないなら自力で探すしかありませんね」
「畏まりました、ご案内致します」
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